「そういえば、私達が普段使うセラフって、語源はなんなんだろうな?」
ある日のヒユ達、今日は非番だったので全員でのんびりと過ごしていた。そんな中、ツユキがナービィをわしゃわしゃと撫でくりまわしながら口を開いた。
「たしかに……言われてみれば考えたこと無かったかも」
それにハルキが答える。ヒユやミユも考えたことはなかった。
「近い語源は熾天使というものではなくて?」
そんな中、ルリだけは答えた。
「せ、セラフィム?」
ハルキやツユキが頭にハテナを浮かべている、ルリはため息を着きつつも説明を始めた。
「熾天使、セラフィムとも呼びますの。キリスト教の中で最高位の位に存在する天使。神に最も近くて、神の栄光を称えて、玉座を守護する。それが熾天使ですの」
「へー、天使かぁ……」
自分には当てはまらないなぁとツユキがボヤく。如何せん彼女はぶっきらぼうな為、天使とは程遠い。
「そうですね、オークの方が近いのでは?」
「んだとお前……」
「はいはい2人とも」
「……コホン」
オークと呼ばれ顔に筋を浮かべるツユキにくすくすと微笑むルリ、その2人にハルキが入り静止する。
「話を戻しますわよ、その熾天使は6枚の翼を持っていますの、そのうち2枚で顔を、2枚で足を隠して、残りの2枚で空を飛翔する……と言われていますわ」
「飛べるんだ、すっげ……」
「ええ、そして――」
そこまで言うと、ルリが一瞬だけ言葉を止めた。ヒユは彼女を見ると、目が合い、視線が交錯する。
「――身を焦がすような愛と炎を象徴する。と言われていますの」
ルリはヒユを見ながら、微かに微笑んでその言葉を放った。
ヒユは頭に?を浮かべ、周りの仲間も何故ヒユを見て言うんだなどとギャーギャー騒ぎ始める。
――――――
「……そっか」
何故今迄、卍解しても片翼だったのか、セラフ部隊の戦闘服だったのか、かつての会話を頭の中に思い出して、ヒユは目を伏せる。
『昔ルリが言ったように、ヒユの卍解の翼は6枚ある。その内の残りの5枚は、ある意味アタシ達みたいなもんだ』
「ハルキ……」
光を纏ったかつての仲間が、暗い空間に光を灯す。ハルキはヒユに手を差し伸ばす。
『あの時は天使なんて似合わねーって思ってたけど、その一部になっちまうなんてなぁ。ほんと人生何があるかわかんねーよな』
「ツユキ……」
頭を掻きながらも、ハルキの手に重ねるようにツユキも手を差し伸ばしている。
『ヒユさん、ごめんなさい。でもミユさんから聞きましたわ、私も……貴女の力に』
ハルキ、ツユキの上に手を差し伸べ重ねるルリ。ヒユは首を横に振った。
「うん……ルリも謝らなくていいよ。私も頑張るから」
『ヒユちゃん』
最後に出てきたのはミユだった。彼女は先程とは打って変わって、万遍の笑みを浮かべている。
『頑張って!』
「……うん、うん!」
仲間からの激励を受け、ヒユは涙を浮かべながら何度も頷いた。ミユも笑顔の端に涙を浮かべながら、全員が差し伸ばす手に自らの手を重ねる。
一瞬の閃光、気が付けば景色は巡り始めた。
見覚えのある場所や忘れられない場所、まるで生前の自分達の記憶ツアーとでも言うべきその現象の中ですら、ヒユの心には恐怖など無かった。
1つ、また1つと景色が変わる度に、仲間の姿が消えていく。
だがヒユの心には波1つ立たない。
(もう大丈夫、もう……何も怖くはない)
そして崩壊していく世界の中で、ヒユはただ一人目を瞑りその時を待ち続けた。
――最後に見えた景色は、たくさんの仲間に囲まれて微笑む自分の姿だった。
――――――――――
「……」「……」「……」
尸魂界を蹂躙するという命令の元、聖兵達は動いていた。眼前には倒れている死神が二人。
1人は十三番隊の副隊長、もう1人は謎の死神。陛下からの情報にも微かだが載っていたソレを聖兵は見下ろしていた。
もう既に霊圧は消え掛けており、その生命すら息を吹けば消えるロウソクのようにか細いものになっている。
だが次の瞬間、そのボロ雑巾のような身体から――凄まじい霊圧が噴き出す。
「「!?」」
その場にいた全員が、その霊圧を身体に受けていく。そして全員が受けた霊圧によって吹き飛ばされていく。
暴風のように身体を叩きつけるソレは、静血装で防ごうにも身体ごと持っていかれる為に実質防御は不可能となっていた。
「……っ!」
吹き飛ばされる1秒前、聖兵は確かにその瞳に捉えた。
倒れていたハズの死神が、佐原ヒユが立ち上がっているのを。
その瞳は金色に光り、翼は片翼から6枚へと増え、その翼の間を縫うように大量の霊圧が吹き出しているのを。
「……」
立ち上がり、自らの姿を見る。右手は斬魄刀と一体化したようなフォルムになり、背中には大層に6枚もの翼が拡がっていた。だが不思議と片翼の時よりも軽く感じる。
そして一番最初にすべき行動は、目の前の聖兵達を倒すことだ。
「はっ……!」
6枚の翼を大きく羽ばたかせ、ヒユは前を向く。次の瞬間……その翼付近から凄まじい霊圧の炎が噴き出していく。それは直ぐにヒユの身体を覆い、羽と共に神聖な者へと彼女を変えていく。
身に纏う綺麗な、粒子の様な炎。それは佐原ヒユがこの世界に感じていた激しい情熱と愛、そのふたつが具現化したといっても過言ではない。
燃え盛る炎の粒子は、尸魂界の住人達を暖かく包み込み、護廷十三隊をも包む。
「ッ!?」
だが侵略者には神の采配を見せつけるかの如く、吹き飛ばしていく。星十字騎士団は耐え切る者が殆どだったが、聖兵を全て吹き飛ばし、退けていく。
――――――
「――目覚めたか。だが……」
「陛下……?」
吹き飛ばされる聖兵達を見ながら、ユーハバッハはヒユがいる方向へと視線を向ける。莫大な霊圧が彼女の位置を知らせており場所の特定はハッシュヴァルトでも容易だった。だが陛下の側近である彼は、少女を見る陛下の目が、ただ安易に霊圧を辿っているものとは考えてはいなかった。
さらにその先――まるで未来を見ているように、彼の目にはユーハバッハはそう映っていた。
そして暫くの沈黙、雨音がやけに響く尸魂界に、静かに……だが空気を震撼させる一言。
そして呟く。
「目覚めたのは……”何も貴様だけではない”」
――――――――
「なんだ……この光」
隊士のひとりが、自分を包む焔に手を触れながら呟いた。
「元気が出てきた。それに、暖かい……」
焔が現れた瞬間、一瞬だが警戒した彼等は、だが今はその焔に一切の警戒心を宿していなかった。
何故か……それを説明出来る者は誰もいなかった。ただ……確信があった。この暖かな熱は、決して自分達に害があるというものではないと。
「皆……立てるな」
1人がボロボロの身体を起こし、自分の斬魄刀を握る。
「おう……もう休憩は充分だぜ」
「私も、まだ戦える。まだ動ける……っ!」
1人、また1人と己の武器を取り立ち上がる。そこに宿る覇気に聖兵や星十字騎士団は一瞬だが竦む。
「頭だけになっても食らいつくぞ!!」
尸魂界のあちらこちらで、勇ましい咆哮が轟く。
(皆……ありがとう。立ち上がってくれて)
ついさっきまで悲鳴に溢れていたこの場所が、どんどんと活気で溢れていくのを肌で感じるヒユは内心で感謝を告げる。決してこの焔に回復などといった超能力が備わっている訳ではなかった。
傷ついた身体は元に戻らない、欠損した腕が元に戻ることは無い。だが彼等は焔を受け、立ち上がった。
それはまだ、彼等が心の底から、本気で絶望したわけでない。その証明なのだ。
(私も私の役目を果たすから……)
この卍解を受け取った瞬間、己の役目を完璧に理解したヒユ。そしてそれを実行に移すために、まずはルキアの手を取る。
ルキアを抱き抱え、羽で包む。そして彼女の身体からこぼれる霊圧――その欠片をヒユは読み解いていく。
(これは向こうの世界とこの世界、2つの要素を持つ私にしか出来ないこと。こっちの世界、その入口は私とルキアさんで作る……)
ヒユが理解した能力。それは自らと霊圧を使った……架け橋。
(あとは向こうの世界で入口になってくれる要素があれば……っ!!!)
朽木白哉、そして黒崎一護の2人をよく知る朽木ルキアなら
そのルキアの霊圧の残穢を使い2人の痕跡を辿り……ヒユ自身をゲートとして呼び出す。
それが彼女の……架け橋を望んだ彼女が手に入れた新しい力だった。
元来ヒユさんも欠片とはいえ黒崎一護の力を持った人間。この後の展開をご存知の方なら察せますでしょうが滅却師の力を与えてみようかなと思ったんです。
でも中々良いのが思い付かず断念。でもこの新しい卍解、名前は変わらず”熾天使”、見た目は文字にしてみると意外と死神というより滅却師よりなのかなと思っております!
もっとセンスとかっこよさに満ち溢れた進化にしたかったのですが、私ではこれが限界でした……。架け橋と言いましたがどんな力を発揮するのか、どのような結末を迎えるのか!
死神の幻想第3章、クライマックスも近いです。
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