〜セラフ部隊基地・31Bの部屋〜
「……蒼井」
セラフ部隊の基地、31Bの部屋で部隊長である蒼井えりかは自身のベットに座り込んでいた。その顔には何時もの気迫は1ミリも纏っておらず、耐え難い悲しみが隠すことなく浮かんでいた。
「いちごさん、今はそっとしておいた方が……」
いちごが声を掛けようと踏み出した瞬間、柊木が手を引いて止める。空を切った手をぎゅっと握り締めていちごが呟いた。
「でもよ、見てらんねぇよ……今のアイツ」
「それは私だって同じです、でも大切な人を失った苦しみは本人にしか分からないものです。私達が兎や角言える問題じゃないですよ」
そう言って、未だ未練が残っているであろういちごを引きずり出す。ビャッコだけは残ったが誰も何も言わなかった。
「”あんなこと”をさせられた挙句、一護さんや白哉さんが行方不明になるなんて、特に一護さんとは仲が良かった様ですし……」
外に出て、柊木が室内に居る蒼井に聞こえないように言葉に出す。
「なんで蒼井があんなことしなくちゃなんねぇんだよ、それにアイツらは何処に行きやがったんだ……!!」
「司令官に聞いても、蒼井さんは軍人としての務めを果たしたと……それ以外は誰も話してくれませんし」
「茅森達も帰ってきてからアタシらに何も教えてくれねぇしよ……畜生」
自分達の知らない事で何かが起こったのはいちごも柊木も理解していた。だが関わった人間は全員口を開きたがらなかった。蒼井も茅森も、手塚司令官でさえ同じ言葉を繰り返すだけだった。
「どうして……」
取り残された部屋で一人、蒼井が呟いた。手には、彼女が作ったコンのストラップが握られている。
「どうして居なくなってしまったんですか、一護さん……」
黒崎一護と、朽木白哉はこの作戦でMIA__そう判断された。
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「これが……これが蔵だと言うのか」
目の前に居るナービィを見ながら、月城が掠れ声を漏らす。
「わかるか、我だ!月城最中だ!」
散らかった服からナービィを拾い上げ、その瞳を真っ直ぐに見つめて月城が声を出す。だがその瞳から、口から、蔵を見つけ出すことは出来なかった。
「基地にいるナービィに知性があると思う?反応しないのが自然よ」
「それじゃそのナービィに蔵里見は残ってねぇって言うのかよ……」
天鎖斬月を握る手に力が入る。だが何とか怒りを堪えて一護が声を出した
「人間でいう致命傷を負うと、ヒトの姿を保っていられず、ナービィに戻ってしまうというのが正しいわ。基地にいるナービィは全てセラフ部隊の末路。だから大事にされている」
「あたしにはちゃんと家族が居て、その子供として生まれてきた。それがいつの間にかナービィに入れ替わっていたというの?」
震える手を握り、可憐がつかさに聞く。つかさはそれに短く「ええ」と答えた。
「死んだ覚えなんてねぇ!!」
耐え切れず月歌が叫ぶ。当然だ、気が付いたら自分が死んでて、自分がナービィだと言われれば誰だってそうなる。
「いや……生物は死の瞬間を記憶できないから気がついていないだけの可能性がある。充分有り得る話だ」
「ユッキー……!」
何故そんなに冷静でいられるのかと、ユキへかかろうとする月歌を白哉が手で制する。
「東城つかさ、何故そこまで冷静に居られる」
「……お母さんの死の真相を追っている中で見つけたのよ、ヒト・ナービィ計画をね」
「なんだよそれ……」
ヒト・ナービィ計画、それは東城つかさが記憶を取り戻す中で得た物の1つだった。
ナービィには他の種と共存していく本能として相手の姿をコピーする能力があるということ。
それに目をつけた軍はナービィをヒトの姿にして、そこに様々な理由で死んだ彼女達のDNAを入れ、人格や記憶までもをコピーさせた。
そして己を人間と思わせたままキャンサーと戦わせる。
「そんな計画がまかり通るのかよ……」
一護が声を漏らすが、目もくれずに東城は続きを述べていく。
今まで死体がひとつも出なかったことなどを述べられ、月城や和泉までもが黙り込んだ。
「ほら、全て繋がっちゃったじゃない??」
不敵な笑みを浮かべて、そういう東城に誰もが返事を返せなかった。
反論の余地がそこにはなかったのだ、反論しようと考えれば考えるほど嫌という程当てはまっていく。
自分達が人間じゃないという事実に目を向けさせられる。
「……あ?」
その瞬間だった、彼女達がいるイージスタワーにヘリコプターが数台飛来していた。
その音が、彼女達の耳を打つ。
「こんな場所に誰が来るんや……」
その問の答え、和泉が目を伏せてため息をついた。
「とっくにタイムオーバーだったからな……」
そう言った瞬間、ヘリコプターから1人がワープを使用し彼女たちの目の前に立った。
「……」
「司令官……!!」
手塚咲、彼女達の司令官だった。彼女は月歌たちを一瞥し——蔵だったナービィに視線を落とす。
「ふぅん……」
「——んだよその言い方……っ!!」
その一言がやけに大きく聞こえ、苛立つ気持ちを抑えきれずに一護が歩み寄ろうとする。反応を見るに彼女もまたこの事実を知っている1人だろう、最初に出てくるのが隠していたことの謝罪や後悔ならまだ飲み込めた。
開口一番発したその一言が、様々な感情を巡らせている一護に対しての起爆剤のようなものの役割を果たした。
「■—■■■■■■■——■■■■—■■—■—■」
だがそれよりも先に、手塚は何かを発した。その場にいた全員は聞き取ることができずただただ己の警戒心を高める。
「ワームホールが開いた!」
そして次の瞬間、手塚の背後に少し大きめのワームホールが開く。それは月歌達もよく知っている形でありセラフを呼び出した時に見るものと酷似していた。
「セラフを呼び出すんか!?」
めぐみのその言葉に全員が身構える。一護は先頭に立ち天鎖斬月を構えた。
「違う……ナービィが吸い込まれていく、連れ去る気だ……!!」
だが異変に気がついたのはユキが最初だった、蔵のナービィが徐々にそのワームホールに引っ張られていく。
「む……蔵が……っ!!」
「やめろっ!!」
とうとう宙に浮き、飲まれていくようにワームホールへと蔵のナービィが吸い込まれる。月歌と月城のふたりが一斉に駆け出した。
「ッッ……!!!」
だがそれよりも更に早く、一護が瞬歩を使い蔵のナービィを抱き抱えて司令官の横に立つ。
「……貴方、自分が一体何をしているのか分かっているの?」
「テメェこそ、蔵を何処にやるつもりだ」
片手でナービィを抱え、もう片方の手で天鎖斬月を握り、目前にいる司令官目掛けて構える一護。滲み出た霊圧がプレッシャーとなり月歌達を飲み込む中、一護を見る手塚咲の目は何時もと何ら変わりなかった。
何処までも何を考えているのか、心の奥底が見えない目。
「大丈夫、基地よ」
「なんだと?」
「……なるほど、そうやってナービィを戦場から基地に運んでいたのね。なんの形跡も見つからないはずだわ。ワームホールを介していたなんて」
「なんでそんなもん使えるんだ、意味がわからねーぞ」
つかさが何か繋がったと言わんばかりに言葉を発する横でさすがのユキもついては行けなかった。
「アンタは何処まで知ってるんだ……?」
一護は天鎖斬月を構えたまま、手塚咲へと疑問を投げかける。彼女は軍の司令官であり先程も月歌達の知らない技術を使い蔵のナービィを連れ去ろうとした。月歌達も聞きたいことは山程あるはずだ。それをここで聞きたい。
一護の中での、軍の信頼を戻す為にも、答えてもらわねばなるまい。
「そのナービィは私が回収するわ、此方に渡して頂戴」
「それを言って俺が渡すと思ってんのか?コイツはナービィだとしても蔵として生きてたんだ、月城に連れて帰らせるべきだろうが」
「そんな事をしてしまえば軍の中で混乱を起こすだけよ」
「なら答えろ、アンタは何処まで知ってんだ……!」
それ相応の理由があるなら、訳があるなら……死んだ彼女達を蘇らせ、人間を守るために自分を人間だと思い込ませて何も伝えず、半ば騙すような形で戦わせていることに、それ相応の理由があって、大義があるのなら——納得できるはずだ。
(……)
天鎖斬月を握る手が震える、幾らかの疲労と……心の内から湧き出る怒りが手を震えさせていた。
だったら、自分が今迄出会った彼女達のオリジナルは全員死んでて……全員がナービィで、考えるだけで気が狂いそうになる。
(一千子や二以奈、三野里に四ツ葉に五十鈴や六宇亜達も……もう死んでるってことじゃねぇか……!!)
共に過ごした日々の記憶が巡る、彼女達がそれを知ればどうなるかなんて想像が着く。
「……はぁ」
「……?」
ヘリが後ろで待機する中、手塚咲がやれやれと言わんばかりにため息をついた。その反応に眉を顰める
「なるべく手短に済ませたいのだけど、貴方はそういう性格だったわね」
手塚咲が目を閉じ——そして開く。
「ッ!!」
その瞬間、周りの空気が一斉に凍ったような感覚に襲われる。普段のなんの上下もない瞳からは、戦いの戦士としての気構えが現れていた。
「こういうのは趣味じゃないのだけれど——力づくで取り返させてもらうわ。それに彼女達に話す義理はっても……貴方には何も無いもの」
そう言うと彼女は手を広げる。
「夏草や、兵どもが夢の跡」