「そんな…もう誰も戦える奴なんて居ないよ…一護…!」
掠れた声でそう言う月歌の前で、一護は目の前に現れた盾目掛け何度も天鎖斬月を振り下ろしていた。その顔は先程とは違い全て仮面に覆い尽くされ表情は見えない
だが此だけはハッキリと分かった、此は一護では無い…一護の意志で月歌達を攻撃する事なんて有り得無いと
『ウオオオオオオァァァァ!!!!』
「っ…!」
次の瞬間、盾を壊せない事に苛立ったのか右手を盾__その先に居る月歌の方へと向ける。直後その手からは一護が良く纏う見覚えのあるカラーのエネルギーが溜まり始める
「月歌…っ!!」
(月牙…、一護…あたしに攻撃する心算だ__)
ユキが悲痛な声を上げ月歌を呼ぶ。だが今の月歌には、最早動ける気力はもとい…今の一護と戦う気力さえ残っていなかった
「何をボサっとしておるッ!!!」
その瞬間、可憐のもう1つの人格___カレンが飛び出し一護に鎌を振り下ろす。だがその一撃は片手で握った天鎖斬月に防がれ、ギチギチと音を立てて拮抗する
「こっちを向かんか馬鹿者がァ!!」
鎌を拮抗させたまま脇腹へと蹴りを入れるカレン、流石の一護も危機感を感じたのか月歌への月牙を止めカレンの方向を向く
「やっとこっちを見おったわ、お前とは一度本気で殺り合ってみたかったんじゃ!!!____満足させてみろぉ!!」
勇猛果敢に振り回し一護へと突っ込むカレン、再び天鎖斬月とセラフが激突する
「ダメだ、カレンちゃん…!」
目の前で始まった凄まじいスピードで振り下ろされる刀と鎌を見ながら月歌が手を伸ばす。
「しっかりしろ茅森!」
だがその手を何時の間にか横に居たいちごに掴まれ引き戻される
「いちご…」
「立て!お前はそんな奴じゃねーだろ!?」
「でも…」
そうやって月歌を鼓舞するいちごの脚は震えて今にも倒れ込みそうになっていた。当たり前だ…先程までRedCrimsonと互角か其れ以上の戦いをしていた仲間が突然その力をこっちへと向けていく、怖いのは当たり前だった
「私も…まだ行けます…!」
「蒼井…!」
すももに肩を貸されながら、蒼井が月歌の場所へと近付いていた。誰でも見れば分かる…足元はふらつき傷口は応急処置しかしておらず、其れで動けばまた傷口が開いてしまう可能性さえあった
「月歌、あたしらも行くしかねー」
「ユッキー…、でも其れって殺すしかない…」
「いや、そうでも無いみたいだ…顔を見れば分かるがさっきとは違って全部が仮面に覆われてるだろ?__だからあの仮面を壊すか剥がすか…そうすればアイツを元に戻せる。賭けにはなるけどな」
「でも其れに縋るしかウチらが生き残れる術は無いっちゅー訳や。どうや月歌…後はお前だけやぞ」
「…」
周りを見れば、それぞれがセラフを持ち一護を本気で元に戻そうと…覚悟を決めた目をしていた
「…分かった。その賭けに乗る」
「助かる。此だけの数で向かって、数秒でも動きを止められたら良いんだけどな」
「確かに…其れにユッキーが賭けだなんて珍しい」
「もう二度とこんな賭けはやりたくないね…はぁ」
「ははっ…そりゃそうだ______皆、力を貸してくれ」
月歌がセラフを両手に抱え立ち上がった。信頼出来る仲間と…一護を元に戻す為に
「クソッ…流石にこのワシでもキツイか…」
久しぶりに本気で人を殺そうと、其れ程の勢いで行ったにも関わらず攻撃は全て躱され逆にこっちだけが傷を負っていったカレン
華奢な身体にはあっちこっちに切傷が着き、白い肌には血が流れていた
(何とか致命傷だけは避けておったが、よもや此処まで傷を作るとは…殺人鬼の名が泣くわ)
そしてそんなカレンを見る一護は、相変わらず仮面で表情が読み取れない
「どうした?掛かってこんのか?」
明らかに安い挑発をするカレン、そもそも今の一護に人の言葉が通じるかは分からなかったが、其れでもやるしか無かった
「ハッ…また其れか」
再び右手を突き出す、そしてその手先から月牙のエネルギーが溜まり始めていく
「カレンちゃん!!」
だが突如後ろから声が聴こえ振り返る、振り返った先では月歌が無謀にも走って寄って来ていた
「馬鹿者がッ!!」
「其れがそーでも無い!」
一直線に向かう月歌に対しカレンが大声で怒鳴る、だがそんな怒鳴りに笑顔で言葉を返し_________その直後大量のエネルギー弾が一護目掛け発射された
「エネルギー溜めんのも大変なんだけどなぁ…」
ユキがズレた眼鏡を掛け直し撃ち込んだ方を見る
『…』
再びカレン達に向けた攻撃を止め、天鎖斬月を振りユキの攻撃を_____全て月牙で弾き飛ばしそのまま消滅させた
「分かってはいたけどショックだな…」
ユキが溜息を吐く、だが其れでもその出来た一瞬の時間で動いてくれる仲間を……信じて
「そんなお洒落でも無い仮面はとっとと外すべきにゃ…!」
すももが凄まじいフィジカルで一護へと近付きセラフを振るう
「にゃっ…!?」
だが今度はそのセラフを刀ではなく左手で受け止め、そのまま握り締める。力を込めて引き抜こうとするがやはり力量が凄まじい…
「でもすももの武器はこれだけじゃないにゃ!」
セラフから手を離し太ももに有るホルスターに手を伸ばして、その中からずっと前から持っていた拳銃を取り出す。標準を一瞬で合わせ手を目掛け3発撃ち込む。だがその手はビクともせず逆にセラフを投げ飛ばされてしまう
「くっ…!」
「全く、日々調整してやってる私のセラフをこんな無下に扱うとはな…黒崎一護」
セラフが飛ばされた方向から樋口の声が発せられる
「人間相手に実験をする時が来るとは思って無かったよ……さぁ、どんな数値を叩き出してくれる!?」
ランチャーの様な形をしたセラフからビームを放つ。一護は当然のビームを弾き落とそうと刀を振るう_____
『!?』
だがそのビームを斬り落とした瞬間、一瞬眩い光が一護を包み次の瞬間何かしらのネットが一護を包んでいた
「驚いたかい?此はちょっと特殊でね…ビームに錯覚させたカプセルの様な物さ」
「すげー…」
解説している数秒、一護は不思議そうにネットを見ていたが……
『アアアアァァッ!!!』
「なっ…」
次の瞬間には咆哮だけでネットは全て千切られバラバラに飛んで行った
「とでも言うと思ったか…、そのネットにはまだ仕掛けが有るぞ」
その直ぐ後、一護の周りを漂っていたネットが突如繋がり電流を流していった
「いくら貴様が化け物と言えども生物は生物、馬鹿みたいな電流を流せば少しくらいは____」
だが次の瞬間には一護が樋口の視界から消えていた。大抵予想は着いていた為後ろを振り返る樋口
____だが1歩遅く、一護の斬魄刀が樋口を斬り裂いていた
(くそ…しくじった____)
だが間一髪避けたお陰で其れ程の深い傷にはならずにそのままトランスポートを使い後ろへと下がる
「ひぐみん!」
「五月蝿い茅森、この程度でギャーギャーと喚くな」
「とは言えセラフ改造しすぎじゃない?怒られないの?」
「研究してるのは私だ、だが此処迄効かないとなると本格的にあの化け物にはお手上げだな」
そうやって視線を向けた先では、柊木が一護に走って行っていた
「こじゅ!!」
「一護さん…!聞こえますか一護さん!」
水色の鎌のセラフを一護の刀にぶつけて柊木が叫ぶ。だが、その相手に言葉が聞こえているかどうかは分からずに、逆にそのまま刀で薙ぎ払われてしまった
「くっ…!!」
何とか体勢を持ち直し着地する柊木、そして柊木を薙ぎ払った一瞬の隙を着き、ビャッコが鎖型のセラフで一護の腕と足を拘束する
「ヴァウ!!」
猛々しく吠えるビャッコに鼓舞され逢川達が突っ込んでいく。
「ウチのセラフで叩き割ったるわァ!!」
そう叫び飛び上がる逢川、その下を國見が勢い良く走り一護へと近付いて行く
「怖い怖い怖い…!!__けど一護さんには元に戻って欲しい…っ!!」
竦む脚を何とか奮い立たせ國見が一護に駆け寄る
『ヴァァァァッ!!!』
だが叫び声だけで空中に居た逢川を國見が居た場所へと落とす
「いたっ…!」
「あたっ!!」
2人が絡まって倒れる、其れを見下ろす様に見た一護の2本の角からは禍々しいとも言えるエネルギーが放たれようと溜まっていた
(おタマさん!!めぐみん!)
あんな物を至近距離で喰らえば確実に死ぬ、其れ所か遺体すら残るか分からない
「オラッ!!」
だが次の瞬間、銃弾が何発か一護の角へと当たり_____片方の角が砕け散った
「いちご!」
「こんだけ撃って1本かよ…!」
直後、行き場を無くしたエネルギーがその場で暴発し大爆発を起こす
「2人が…!」
あの中には逢川、そして國見が居た。だがその周りには、蒼井のセラフが浮いており2人を守ったのだと一瞬で理解した
「はぁ……はぁ……」
直後、セラフがミシッと音を立ててそのまま崩れていった
「蒼井のセラフが…!」
「茅森さん…!今の内に一護さんを!」
気にするな、と言わんばかりに月歌に言葉を投げ掛ける蒼井、其れに背中を押される様に月歌は走り出した
(そうだ、悩んでる暇は無い。皆が全力で作ったチャンス…!)
煙の中を走り一護の元へ駆け寄る
「っ…!?」
だが煙の中から突如天鎖斬月が視界に映り、何とか二刀を使い防ぐ
(ビャッコの鎖も千切られてる…!)
煙が晴れ姿を現した一護、角は1本折れたままだったが相変わらず意志を感じられず月歌へと刃を向けていた
「一護!良い加減に目を覚ましてくれ!」
耐え切れずに叫ぶ。その間にもギリギリと二刀のセラフは押されていき、最早拮抗状態を保てなくなっていた
(クソ…このままじゃ斬られる…っ!)
その瞬間、膝を着いた月歌の真上を盾型のセラフが通過し一護の顔面へとクリーンヒットする
「!?」
驚いて後ろを振り返ると、蒼井が肩で息をしながら懸命に立っていた。きっと蒼井が最後の力を振り絞り投げたのだと理解する
直後、一護の顔に付いていた仮面が粉々に砕け散り、同時に蒼井のセラフもガシャンと音を立て砕けた
「…一護」
そのまま倒れた一護、髪の毛が段々と短くなっていき何時もの見慣れた長さへと戻る
「はぁ…はぁ……戻った?」
「一護さん……良かった… 」
立ち上がる月歌の後ろで今度は蒼井が倒れ込んだ、其れに気付いたいちごとすももが駆け寄る
「…気を失ってるだけだ」
「良かった…」
程なくして、ヘリが何台か此方へと向かっていると言う知らせが入り、月歌達はその場所に待機となった
その間…余り口を開く者はいなかった
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「”卍解”___千本桜景厳」
後もう少しで橋頭堡が設立される中、30G及び朽木白哉は残るキャンサーを全て薙ぎ倒していた
オペレーションプレアデスが中止とされた後、工作員と共に作戦を離脱する筈だったが、白河ユイナが其れを止めた
遠方で見えた凄まじい光とエネルギー、そして爆風。其れは茅森月歌達が死力を尽くし新型キャンサーと激闘を繰り広げている証だった
31A達が頑張っている。だから私達もノコノコと帰る訳には行かない、と大胆にも司令部の意向を無視し、橋頭堡を作成する工作員達を死なせまいと戦いに身を投じていた
「ちょっと朽木さん!!私の盾の仕事を奪わないで下さる!?」
大量に舞う億の桜は余りにも季節に似つかわず、だが見とれてしまいそうな程の綺麗さを持っていた。
「綺麗な桜…」
「小笠原隊員、千本桜景厳は億の刃…触れれば忽ち切り裂かれる故…」
「意外と怖いぃ!?」
「私を無視するなぁ!!!!キーッ!!!」