これからも頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします!!
74.
〜セラフ部隊基地・アリーナ〜
「戦闘結果に改善が見られました、フェーズ1訓練は全て消化したと思われます」
「悪くないわね、合格よ」
エミュレート空間が消え、七海と手塚が立っている元のアリーナへ戻ってきた月歌達。合格だと告げる司令官だが――それに喜びの声をあげる人間は誰もいなかった。
事は1時間前に遡る…
――――――――――――――
1度目の訓練で指摘されたのは無駄な戦闘と後半の行軍速度の低下だった、それを改善するべく茅森月歌や逢川めぐみ――そして黒崎一護まで15km走といい400m15本とかいう常人ならぶっ倒れてる課題を渡されていた。
「なんで俺まで…はぁっ…」
いくら様々な戦場をくぐりぬけ、常人とはかけ離れている身体能力を持った一護でも案外最後はキツかった。逢川や茅森ももはや意識が飛んでいるのではないかと言わんばかりに倒れている。
『ならそのままフェーズ1をやり直してもらうわ、さっきよりタイムが縮めばいいわね』
淡々とエミュレート越しに話す手塚に、一護は半ば殺意を抱きかけていた。
(あんの野郎…、逢川と茅森なんて死にかけてるってのによ…)
『そうかもしれないけど時間が足りないのよ。黒崎さん』
『っ!?』
今思ったことの返答を手塚からされて固まる一護。まさか心まで読まれているとは思っておらず…
『一護がなんで分かるのって感じの顔してる…!!』
『茅森、なんでテメェも分かんだよ…!!』
『なんだこの空間…』
『ゆるゆるですね!!』
『お前最近それ…ハマってるのか?』
茅森と一護の会話、そして國見のゆるゆる発言に和泉が困惑する。
そして体力が少し回復したあたりで容赦なく再びフェーズ1へとぶち込まれたのだった。
――――――――――――
〜セラフ部隊基地・アリーナ付近〜
「はぁ…つっかれたなぁ」
ひとまずフェーズ1訓練を終え、それぞれがアリーナを出ていく。いつもなら東城と朝倉、國見と逢川、そして茅森と和泉なのだが茅森と和泉はそれぞれ別々に出ていき別々の方向へと向かっていった
(…アイツら)
「なぁ、黒崎…」
「久しぶりだにゃ」
31Aの今後に頭を抱えていた時、ふと背後から声をかけられ振り返る。そこには水瀬姉妹が立っておりなぜかいちごの方は気まずそうにしていた
「お前ら…、ってんでそんな気まずそうなんだよ」
「いや、だって茅森と和泉が喧嘩してるってのが今この基地内でそれなりに噂になっててよ」
「あの二人はほぼ夫婦みたいなもんだって皆思ってたから、なんだか今の31Aはギスギスしてるにゃって」
「まぁアイツらも年頃だろうしな、そういう時はお互い話したくなるまで待ってやるんだよ。その間の周りの気苦労は果てしねぇだろうがな」
「でもよ、オペレーションベガがあるだろ?大丈夫なのかよお前ら…」
やはり懸念すべき所は同じのようで一護も頷いていた。
「今回のキャンサーはレベル4相当だって聞いてるにゃ、それの囮を務めるには今の31Aじゃ心配だって声もあがってるにゃよ」
「うちの所も蒼井が頑張ってるんだけれどよ、まだ前みたいなパフォーマンスは発揮できないんだよ」
悔しさからか――両手を握るいちご、横にいたすももも珍しく下を向いて俯いていた。
出会った頃の2人は不器用で、蒼井にわざと反抗することで自信を持たせようとしていた。
「お前らはお前らのペースで頑張っていきゃ良いじゃねぇか、それに前のレッドクリムゾンの時に蒼井の状態は危なかったんだろ?本来なら戦うことも怖くなるはずだぜ…なのにアイツは今も戦おうと頑張ってやがる」
「黒崎…」
「それに、今のお前らなら出来んだろ?蒼井を支えてやる事くれぇよ。同じ部隊の1人間としてあいつを支えてやってくれ」
今となれば心からお互いを理解し合い、不器用ながらも蒼井へ歩み寄っていく2人を一護も陰ながら応援している。
「ああ、分かった…お前の方こそ頑張れよ。今回の作戦の要になるはずだからな…」
「ああ…」
――――――――――
〜数時間後〜
「これからフェーズ2の訓練に入るわよ」
嘘だろ…と呆然とする31Aを他所に手塚がそのまま話を進めようとするが――一護がそれを止める。
「ちょっと待ってくれよ、フェーズ1でコイツらも消耗してんだぞ。なのにそのまま続けるつもりかよ…!」
前に出る一護に対し手塚は臆することなく正面に立つ。
「ええ、分かってるわ。だけれど私達には時間が無いの。フラットハンドは現在も停止してるけどいつどこで動き出すか分からない…あんなものが本気で来ればドームも壊滅するわよ」
「っ…」
「話は終わりね、続けるわよ――――」
確かにその通りだ、あの巨大なキャンサーが動き出せば防衛戦は崩れドームは壊滅。セラフ部隊も勝てるかどうかすら怪しまれている。
ポイントベータである蓼科山山頂付近からポイントオメガの美濃戸中山付近へ、フラットハンドに対し攻撃を行い注意を引きつけるという作戦。
遠距離からの攻撃になる為31Aでは和泉と一護の2人だけが可能な為、攻撃は和泉と一護に、そして防御と周辺の敵の対応をその他メンバーが行うという結論に至った。そして今回は距離がかなりあるためフェーズ2、そしてフェーズ3と前半と後半に分けることとなった。
『もちろん振り切ってはダメよ、31Aに攻勢を向けさせたまま誘導しなさい』
難しいなと考える31A、月歌はバカ正直に…
『なんだか難しそう!』
と声を上げた、そこにすかさず手塚司令官の
『難しいわよ』
というツッコミ。攻撃を受けた際には距離を取りつつおびき寄せ…進路を切りかえそうになれば遠距離攻撃を行いつつ反応があるまで近づく。
「うーん…イメージが掴みにくい」
「近距離の攻撃が31Aの強みやのに、これじゃあ大半のメンバーが無駄遣いやないんか?」
聞いてるだけでも頭が痛くなりそうな説明がようやく終わり、月歌達が唸る。一護自身もセラフ部隊に入ってから過去一難しいのではないかと頭を捻る。
「遠距離攻撃が出来るのは和泉と…、一護さんだけ」
「そういえば遠距離攻撃は一護さんも出来ますよね!射程距離とかはあるのですか!」
タマからの問いに、一護は顔を逸らした。
「…あんまり試したことねぇからわかんねぇよ」
実際これまでの戦いでは一戦一戦がいっぱいいっぱいな為そんな射程距離など気にしたことも無く尚且つ大体近接戦闘だらけなのでゼロ距離で放つことが多かった。霊圧を刀に込め斬撃を放つとしても距離があれば威力には期待できない
(完現術の時にも射程距離で痛い目見たからな…)
「私も射程距離は和泉さんには負けるわ…」
「そりゃそうだろ…第一東城の武器はそんな遠距離撃てそうに見えねぇし…」
東城がセラフを見ながら唸る。
「司令部も可能な限りエミュレートさせてるわ、どんな状況でも困らないようにしなさい」
「では、行ってらっしゃいませ」
七瀬の声でアリーナからエミュレータ空間へと変わっていく。
『目標地点に到着、各自準備してください』
「攻撃準備何時でもヨシです!」
セラフを高く掲げ声を出すタマ、だが直ぐに和泉にツッコまれる。
「いや、攻撃すんのはあたしと一護だけだよ」
「…ぐぬ」
「攻撃後、全力で目標地点に…」
「んで、ウチらは進行方向のキャンサーの排除やな」
朝倉や逢川、東城もセラフを構えて待機する。
「一護、お前はどうする?」
31Aに囲まれるように立っていた一護と和泉、セラフを持った和泉に問われる。恐らくこれはこのまま戦うか…卍解して攻撃を始めるか…
「お前ら、ちょっと離れててくれ」
その一言に全員が頷いて数歩ほど下がる。一護は背中の斬月を抜き放ち構える。
「卍解ッ!!」
一護自身の凄まじい霊圧が突風となり他の31Aのメンバーを吹き抜ける。
「久しぶりに見たけど、やっぱり凄い…」
「そうね…、でも最初よりは慣れたわ」
『フラットハンドが移動を開始しました、各自作戦行動を開始してください』
卍解を確認した次の瞬間、フェーズ2が始まった。直後フラットハンドとおもしき巨体が凄まじい音を立てて移動を開始する。
今回のキャンサー、フラットハンドは全てが未知数であり攻撃パターンも回避パターンも全てが分からずじまいな為ひとまずは行動アルゴリズムを移動のみに設定してある。そうとは分かっていてもあの巨体が動き始めると緊張が走る
「月歌!どうする!?」
「全速移動!5時半の方向!」
月歌の指示通り全員が走り出す、だが走り始めてすぐ和泉が止まり叫んだ。
「ダメだ月歌!移動が早すぎる!振り切っちまうぞ!」
「なんだよ…、くっそ!!」
――――――――――
「このフェーズ、手強い…」
「むずいな…、下手に速度出すと振り切ってまう…」
全員が苦戦する中、荷物のように一護に抱えられたタマが声を出す。
「あのー、一護さん…そろそろ降ろしてもらっても?」
「あ?あぁ…すまねぇ」
「周辺の敵に絡まれると追いつかれて、そう出ない時は振り切りそうになって…でもフラットハンド自体の攻撃は恐らく一撃全てが即死の度合いだと想像して…くそ…!」
「それにフラットハンドの行動に集中しすぎてるせいで他のことに集中が抜けてやがるな…月歌」
「…うん、一護の言う通り集中出来てない…」
「一旦移動の指示はあたしに任せて、月歌は攻撃に回ってくれ、距離を図るならあたしがやる」
一護の横に立った和泉が月歌へと提案する、月歌は少しだけ考えて
「それしかないなら、そーする」
「…じゃやるぞ」
会話が終わり再び作戦行動が始まる、また何か一悶着あるのではとヒヤヒヤしたが何も起こらなかったことに一護自身少し安堵する。
――――――――――――――――――
「正面に敵や!」
「正面突破で行くぞ!一護は纏めてトドメを刺してくれ!」
「分かった!」
目の前に2体ほどのキャンサーが立ち塞がる、本来なら回避したいところだが後にトランスポートを使うため温存し正面突破を図る。
「はぁっ!」「たぁ!!」
タマと逢川がデフレクタをかち割りそのままキャンサーの合間を縫って行く、キャンサーがタマ達の方を見るが…
「月牙天衝!!」
スキを突かれた月牙天衝がキャンサーを飲み込みそのまま討伐。そのまま全員が走り去る。
「一瞬でも遅れればそれが死に繋がる…、中々シビアですね!!」
「言ってる場合か…うおっ!?」
一護の横を走りながら喋るタマ、一護が軽口を飛ばそうとするがフラットハンドの移動のせいであろう揺れが襲う。
「ああ…!でもさっきより全員距離感が掴めてる気がする」
「せやな…!でもちょうどええ距離ってこんな狭いもんなんかいな!」
「まだまだ実践で成功させるには訓練不足だ…!」
それぞれが走りながら言葉を発する。一護自身も後ろを振り返り隙があれば誘導の為に攻撃。前にキャンサーがおり頼まれたら掃討する…まだいけると分かっていても相当しんどいものがある。
「ひとまずあと少しだ!お前ら、もうちょいだけ頑張れ!!」
――――――――――
〜数時間後〜
「お疲れ様です、フラットハンドを目標地点まで誘導することが出来ました、フェーズ2訓練は完了です」
「お疲れ様、以上よ」
淡々と訓練成功を告げる2人だが、31Aはもはや聞いているかすら怪しいところだった。
「はぁ…はぁ…、疲れた〜!」
「セラフ部隊入ってから鍛えとるけど、それでもこんなキツイもんなんか…!」
「お前ら…大丈夫か?」
「く、黒崎さん凄い…。あれだけ走ってバテてないなんて…」
「ぐぬぬ…!海の上なら私が勝てるのに…!!」
「変な所で…張り合うなよ…!」
膝を着いたり地に伏したり座ったりと、休憩の取り方は様々だったがその中でも一護だけは普通に立ち上がっていた。
「…」
代行証を懐から取りだし死神の姿から人間の姿へと戻る。そこでふと…一護が疑問に思ったことがあった
(俺が死神の時は浮竹さん達みてぇに霊体…、即ち”ただの人間”には見えないはずだ。なのにセラフ部隊に入ってから一度も俺の姿が見えねぇヤツなんて居なかった)
今思い返せば全員が最初から死神の姿をする一護をしっかりと目で見ており、なんなら霊圧すら知覚する者もいた。そんなことが出来るのは一度死んだ魂か…イレギュラーな人でいえば井上やチャドと言ったくらいだった。
(チャドや井上は俺が巻き込む形で虚とかが見えるようになったはずだ…ならコイツらが見えるのは…)
だがそれもおかしい点がある、月歌達とは一切関わりがないのだ。それなのに死神が見える程になる訳が無い…
(俺の…考えすぎならいいんだけれどな)
これ以上考えても埒が明かない為、一度その話は頭の隅へと追いやる一護。それと同時に一護に渡されている電子軍事手帳が唸った。
(誰からだ……月城最中…?)
いつ連絡先を交換したかは分からないが、確かに連絡が来ていた相手は月城最中と書いてあった。気になり即座に中身を確認する。
『30分後、屋上で待つ。この件は他言無用だ』
簡潔に、潔く書かれていた文章に一護は少しばかり寒気を覚える。もはや決闘しに行くようなものだったからだ。
「じゃ俺、先戻ってるわ」
未だ倒れている月歌達に一声だけかけ、一護はアリーナを後にした。