すもも…いちご…おまえらってやつは…
「あーいって…」
あの後すぐに処置室へと赴き傷の手当を受けた黒崎一護。結局なんやかんやでかなり重症だったらしく大袈裟に頭に包帯を巻かれた。
(大袈裟にならねぇように隠して行ったのによ…、これじゃ結局隠せねぇじゃねぇか畜生…)
覚醒とやらをした東城と相対するのは二度とごめんだなと思いつつ基地内をほっつき歩く。
(にしても早く部屋にもどんねぇと、ここお節介なやつが多すぎんだよ…)
31Eにも31Bにも31Cにも、一護に限らず怪我があれば、少なからず声をかけてくる奴が多い。
こんな大切な時期に余計なことを考えさせたくは無いし、ひとまずは面倒事に巻き込まれる前にその場を去って――――
「あ、一護さん…!?その傷…!!」
ほらな、こうやって突っ込んでくるやつが多い。一護は大人しくその場に立ち止まり声をかけられた方面を向く。
「蒼井じゃねぇか…」
何となく予想は着いていたが声の主は蒼井だった。少し距離があったのか早足でこちらへと歩み寄る蒼井。
こっちの傷を心配そうに見ている蒼井だが、一護は自身のことよりも聞きたいことがあった。
「お前…今まで何して――」
「これです!」
そう言いながら蒼井がグーにした両手をずいっと一護に差し伸べる。華奢な指はあっちこっちに絆創膏が貼ってあり少し痛々しい。
「お前その手…」
そのグーに包まれている何かを受け取る前に、一護は蒼井の手に触れた。
「恥ずかしい話ですけど…蒼井は不器用ですので…」
絆創膏まみれの手を見られる恥ずかしさと――もうひとつの恥ずかしさ。顔を赤くする蒼井を他所に一護が今度は手の中のものを受け取る。
「これ…!」
「はい!コンさんをイメージして作ったストラップの御守りを作りました。もちろん一護さんと…コンさんの二人の分です…!」
後半は周りに聞かれるとマズいと分かっているのか、声を小さくした蒼井が小さくガッツポーズをする。
渡されたものは羊毛フェルトのようなもので作られたコンっぽい生き物の頭だった。
「これ…お前が?」
「はい、31Cのマリーさんと一緒に――キャンサーの皮で作りました!」
「そうか…作ったのか――キャンサーの皮でっ!?!?」
後半……キャンサーの皮で作ったということを聞き逃さなかった一護が大きめの声を出す。
「じゃあ最近姿を見せなかったのって…」
「黙っててごめんなさい、リハビリも兼ねてマリーさんの素材収集に赴いてたんです。その時にキャンサーの皮で色々作れることを知って」
「そうか、なるほどな…それで作ってくれたんだな――こんな手になってまで」
「はい、一護さんの他にも茅森さん、それに31Bの皆さんに作りました。途中色々とドジしちゃって…」
えへへ…自分の頭をさする蒼井。一護は手の中にあるストラップを見ながら(ん…?)となった。
「もう31Bのメンバーには渡したのか?」
「いえ、これから部屋に戻って皆さんに渡そうかと…?」
そう言う蒼井の前に立つ一護は目を抑えながら天を仰ぐ。何事かとあたふたする蒼井を他所に
(やらかした…まさか被るとは思ってなかったぜ――あいつももうストラップ用意してやがるだろ…)
少し前に蒼井に御守りを渡したいと言っていたいちごへのアドバイスに、一護はストラップをおすすめしていたのだ。
「一護さん…?」
蒼井が片手に持つ紙袋には恐らく作ったであろうストラップがまだ入っている――となれば必然的に被る…
恐ろしや蒼井えりか
(ま、それでも大丈夫だろ。アイツらなら)
渡された時の反応を心の中で勝手に予想した一護が内心微笑みつつ、ひとまず蒼井を見る。
「あんがとな、アイツも喜ぶよ」
「はい、コンさんにはお世話になったので…ビャッコとの遊びにも付き合ってくれましたし!」
「あー…」
どうりで最近ボロボロになって帰ってくることが多いのかと再び頭を抱える。
『まったくよー、こんなに頼られるなんて俺も苦労人だぜー!そう思うだろ一護!』
『何ニヤニヤしながら修復してんだキモチワリィな…、てかなんでそんなボロボロなんだよ』
『教えませーん!!』
ボロボロになった自分の腕や足などをニマニマ笑いながら修復するコンを一護は気味悪がって見ていたが――納得がいった。
コンには不本意ながらも様々なことに、気付かぬうちに世話になっているなと――苦笑する。
「でもなんで――」
どうして俺達にこういうものを作る気になったのかと――聞く前に蒼井が答えた。
「オペレーションプレアデスの前に、いちごさんから貰った花冠の御守り。あれは蒼井にとって宝物になりました」
そう言って微笑む蒼井の顔は、天使にも負けないほど輝いていた。
「だからそのお返しがしたかったんです、皆さんに」
「そうか、それなら俺は別に――」
「それに一護さんは蒼井の生命を救ってくれました、それのお礼です」
それなら俺は別に貰うには当てはまらなくないか?――――と言う前に、まるでその言葉を見透かしていたように蒼井が言葉を被せる。その顔は先程の輝いていた表情とは違ったものを見せていた。
「……有難く受け取っとくとするぜ」
その顔を見た一護は引き下がり、大人しく蒼井からのプレゼントを受け取る。
「それでですね…あの」
「なんだよ、そんなに畏まって」
表情をコロコロと変える蒼井、先程とは打って変わってもじもじとする彼女に一護が困惑する。
「折角の御守りなので、一護さんが普段から身につけてる物につけといてくれたら…蒼井は嬉しいなって…」
「あー、そういうことかよ。なら別に普通に言ってくれりゃいいのに」
とは言いつつも、何処に付けようかと内心模索する一護。出来れば蒼井がいる目の前で付けてやった方が本人も落ち着くだろうと思ってはいるのだが…
「一護さんの刀…とかどうですか?」
頭を抱える一護の考えを見透かしたかのように蒼井が言葉をかける。一瞬呆気に取られる一護だが――
「お前、リハビリのついでにエスパーの修行でもしたのかよ…」
苦笑いしながら頭を搔く。蒼井はくすくすと微笑みながら
「一護さんはわかりやすい人ですから」
と言った。
「よし…これで大丈夫だな」
「……」
大通りで死神の姿へと変わるのは流石に――と思い蒼井と2人きりになれそうな場所へ移動する。
そこで死神になった一護は自らの斬魄刀――斬月の柄へとストラップを括り付けようとしていた。
「にしてもキャンサーの素材で作ってるから丈夫って…佐月の奴もマジで言ってんのかよ」
装着に少しばかり悪戦苦闘しながら呟いた一護。蒼井にも聞こえていたようで――
「ちょっとやそっとじゃ壊れないぞこの野郎、って言ってましたよ?」
「お、おう…」
最初の場所だけ佐月そっくりの声真似をする蒼井に一護がギョッとする。普段からそんな態度でいれば恐らく水無瀬姉妹に弄られることも無かっただろうなと不意に思った。
「これでよし、と…」
少しの苦戦の後、付け終わり斬魄刀を構える一護。思っていたより邪魔にはならず違和感にもならないことに少々驚く。
「樋口さんが持っていた一護さんのデータ、チラッと見えただけですがそこに斬月さんのサイズが書いてあったので…始解と、卍解。両方邪魔にならないだろうサイズ感で作りました!」
親指を立てて自らの記憶力を自慢する蒼井。
かつてはまるで自分の悪いところのように卑下していたが今ではこのように良いように捉えている。それは一護自身嬉しいことだ。
だが一護はそんな蒼井にうげ…と言わんばかりの顔をしていた
「げっ…、お前用意周到すぎんだろ…」
「げっ…ってなんですかー!もう!そんな言い方するなら蒼井怒りますよ!」
引き気味の顔の一護にぐいぐいと、頬を膨らませながら近づく蒼井。 一護は手で制止しながら蒼井へと謝る。
「悪かった悪かった…!そんな怒んなって…!」
頬を膨らませていた蒼井だが、少しして息を吐き――肩を落とした。
「――今度のオペレーション・ベガ、前回も言ったように蒼井達31Bも出ます…でも31Aや30Gのように最前線で戦うという訳にもいかず、どちらかといえば後方支援になるんです」
どこか悔しさを感じるその言葉。蒼井は握った拳に力を入れていた
「蒼井達も茅森さん達と一緒に戦いたい、オペレーションプレアデスのように皆さんの隣で……」
「ああ、一緒に戦いたいな。俺もそう思う」
悔しさに任せるかのように早口になる蒼井を、途中で一護が言葉で制止した。
「でもお前もまだ本調子じゃねぇんだ。手塚の気持ち…俺は痛いほどわかる」
例え何を考えていようが、部隊のメンバーを死なせたくないというのは手塚やほかの司令官メンバーから伝わっている
「一護さん…」
「今は無理でも、別にこれで最後って訳じゃねぇんだ」
「でも…!」
「焦るな蒼井、お前もセラフ部隊じゃ古株なんだろ?なら分かってるはずだ」
優しく促す一護、だが蒼井も自分の気持ちを譲ろうとはしない。一護自身その気持ちは痛い程伝わっている。
一緒に戦おうと言いたい
一緒に、あのキャンサーを倒そうと口に出したい
だがそれをして――もし31Bの誰かが欠けてしまえばどうする。
柊もビャッコも、樋口も水無瀬の2人も蒼井も――死なせるわけにはいかない。
今度のオペレーションベガも、絶対誰も死なせない。
全て一護1人で背負うつもりはない、31Aも30Gも31Bや31Eもいる。
目の前には今にも泣きそうになりながら、自分達に着いていこうとする蒼井がいる。
世界は茅森達が背負い、護って戦う。
なら黒崎一護は――最前線に立ち闘う茅森達全員を護って闘う。いつしか来る別れの日まで
「俺は俺のやることをやる。お前も、与えられた使命を全力でこなせ」
「一護さん…」
「それに茅森、アイツもうオペレーションベガが終わってからの打ち上げの話してやがるからな…」
「ふふっ…茅森さんらしいですね」
「ああ、そん時には俺も自分の話をお前らに聞かせようと思う――言っとくが俺の話はなげぇぞ」
「眠れない覚悟で挑みます…!!」
目付きを悪くして微笑む一護に、両腕でガッツポーズをした蒼井がグイッとくる。2人はしばらく見つめあい――再び笑った。
「――って訳だよ、ぜってぇ生きて帰らねぇといけねぇ理由出来ただろ?」
「…そうですね」
そう言った蒼井の顔は先程とは違い、いつもの優しさを感じた。だがそれと同時に――少し寂しそうに……一護にはそう見えた
「そろそろ蒼井もいかないと…!」
ふと、電子軍事手帳をみた蒼井があたふたし始める。恐らく紙袋の中身を31Bのメンバーに渡す約束でもしているのだろう
「おう、行ってこい」
「はい!一護さん!」
察しが着いていた一護が、手を振りながら蒼井を見送る。彼女も少し手を振りそのまま一護に背を向けて走り出した。
その背を見送り、一護は少しばかり蒼井に申し訳なさを感じた。
数日前に白哉に言われた言葉がずっと胸につっかえているからだ。
もしかすると元の世界に戻れるかもしれないという言葉。
(悪ぃな蒼井…もしかするとその約束――破っちまうかもしれねぇ)
もう見えなくなってしまった蒼井の方向を未だ見つめつつ、一護もどこかへ歩き出そうと――した時だった
「…?」
電子軍事手帳が鳴り、RINNEが来たことを知らせる。
こんな時に誰だよと思いつつも開くと、相手はまさかの人物だった。
「…和泉?」
相手は和泉ユキだった。いつもなら連絡もあまり取らない相手のため一瞬呆気にとられる
『私と黒崎、2人だけで話がしたい。もし気付いてるなら今すぐ来てくれ――時計塔の上で待ってる』
要件は至ってシンプル、2人きりで話がしたいということだった。
(茅森達はなんかするとか言ってたけど…、和泉が今もいるってことはイージスタワー関連か…)
なんとなく要件に察しが着いた一護は、ひとまず時計塔へ向かおうと歩き始めた。