「おい一護、この部屋どうすんだよ」
「元々どっかの空き部屋だったからな、それに今じゃただの荷物置きみてぇになってるから一先ずそのままになんじゃねえの?」
様々なものが置いてある部屋を一瞥しながら一護が言う。
「オメェこの部屋にあんまり自分の物置かなかったよな、家とは大違いだぜ」
「元々何時までいるかも分からねぇ身だからな、それに……」
ここから更に自分のものを増やそうとなると明らかにスペース不足だった。何故なら――
31Aで行われた大会などに使われたであろう景品や等身大のキャンサーぬいぐるみ。棺桶に謎の花火。今の黒崎一護の部屋は混沌と化していた
「すっかりアイツらの物の隠れ蓑になっちまってるしよ」
「それもそうだな」
2人だけの静かな空間、それが数秒続いたあと先に口を開いたのはコンだった。
「……それで、テメェらが作戦ってやつを明日にやるんだよな」
「ああ、オメーは俺の中にでも入ってろよ。もちろん変なことすんじゃねぇぞ……?」
「わーってるよ!このコン様テメェに放置されて虎に舐め回されてから色々と特訓したんだぜ!」
「あ、そう」
「ちょっとは興味もてよ!!」
「じゃ、休養日だし俺は行くわ」
「あっ……テメェ!!」
無視に無視を決められ御立腹な人形を置いて、一護は部屋を出て鍵を閉める。
「ったくよォ、律儀に手紙なんて1晩かけて書きやがって……女々しいんだよテメーは」
一護が居なくなった部屋で、机の上に乗ったコンがその机に置いてある何通かの封筒を見渡して呟いた。
――――――――
「……」
朽木白哉もまた、明日の作戦へ向けて動いている1人だった。
ただやはり大掛かりになるのか、休養日はセラフ部隊のみらしく他の場所は慌ただしく動いていた。
それを横目に、白哉は木刀を振り精神を統一させようとする。だが――
(何故だ、黒崎一護も漸く腹を括った。だが私は何故心に迷いがあるのだ……)
黒崎一護とは違い、朽木白哉自身はある程度の線引きをしていると考えていた。元々長居する気などハナから無く……まさか自分がここまで乱されるとは思ってもいなかった
(否……私は気付いてい無いわけでは無い。これは迷い等ではない、30Gと関わり私にも何か別の心が芽生えている)
一段と強い振りが風を斬った次の瞬間だった。
「今のは力みすぎですよ、朽木さん」
「……小笠原か」
「こんな朝早くから何してるんです?折角の休みなんですから寝てればいいのに」
はぁーと溜息をつきながらこちらへと歩み寄る小笠原。それを見ながらも尚白哉は木刀を握ったまま立っていた。
「そんな事を言いながら、兄の後ろに隠しているそれはなんだ」
「えっ…!?」
指をさしながら白哉が小笠原に言う。何故見抜かれたと驚愕する小笠原、そう……その背後には白哉と同じ木刀が隠されていた
「兄の身長ではその木刀を完全に隠しきれないようだな」
「なっ……失礼ですよ!!!」
一気に現れた時のような飄々とした態度が崩れ、周章狼狽して顔を赤くしわなわなとたじろぐ。
「まったく……私のお弟子さん達はなんでこう失礼な事を」
「……待て」
「はい?」
「私がいつ兄の弟子になった」
まるで当たり前か必然のように言われた言葉に危うく気付かず聴き逃しそうになった。だが何とか違和感に気づきすぐさま背中から木刀を取り出している小笠原へと声を掛ける白哉。
「え?だって私天才剣士ですし?朽木さんも強いですけど、私の敵じゃあありませんね!どや!」
「……いいだろう」
自らを天才剣士と呼称し、朽木白哉は自らより下だと言う小笠原に白哉の眉が少しばかり動いた。
(朽木さんの雰囲気がいきなり変わった……もしや全力で相手してくれる?)
久しぶりに自らの刀を発揮させてくれそうな相手に内心ワクワクしながら小笠原が構える。それを見た白哉は一瞬だけ目を伏せた
「参る」
次の瞬間、目にも止まらぬ速度……否、瞬歩を使い小笠原の背後を取る白哉。
「この私がそれを読めないとでも?」
「っ……!?」
だが瞬き1回にも満たない速度で飛び上がりかわされ、逆に今度は白哉の脳天を叩き割るかのように上から木刀が放たれる。
「やりますね……!」
「……っ」
しかしその一撃は白哉の木刀により防がれる。身体が軽いこその滞空時間、だがそれも終わりを告げ白哉から弾き出される勢いを使って後ろへと着地する小笠原。
(私の太刀筋が読まれている……?)
「そんなに不思議ですか?私に太刀筋が読まれているのが」
「……何だと?」
思考を読まれ、更なる不意を突かれる白哉。
「腕の筋肉、足の使い方、息の吸い方、吐き方、全てを感じ取って立ち回る。それが私です」
「ほう……」
「セラフは銃なので本来のパフォーマンスが発揮できないだけですよッ!!!」
そう言うと地面を蹴り一瞬で白哉の懐へと潜り込む小笠原。一瞬だけ驚愕に包まれた白哉だが、小笠原の間合いということは
――――白哉の間合いでもある
上からの白哉の一撃を小笠原の下からの一撃が受け止め、拮抗する。
(この小さな身体にこんな力が……)
「さっきからそうですが……雑念が多すぎますよ朽木さん」
「……」
「バレてないとでも思ってましたか?ココ最近の一護さんといい貴方といい……雑念まみれで見てるこっちが嫌になりますよまったく」
「兄はどこまで……」
「貴方の考えてる事なんてさっぱり分かりませんよ、ただでさえ表情が読みづらい月城さんのような人なのに……」
「……」
「でも私達は仲間なんですよ朽木さん、誰かが困ってたら他の誰かが手を差し伸べる。それに難しい理由なんていりますか?」
「……っ!」
「その為に今こうやって振るってるんです、どうです?少しは気分が晴れましたか?」
ふふっと笑いながら話す目の前の少女に白哉の心が揺さぶられる。
「…………感謝する」
「え……?」
不意に、白哉の口から感謝の言葉が漏れ出る。それに気を取られた瞬間――拮抗していた状態が崩れた。
「っ…!?」
(やはり直ぐに反応するか、体勢も既に立て直している…………)
「ならもう少しだけ付き合ってあげましょう!この私、小笠原緋雨が相手致します!!」
「――六番隊隊長、朽木白哉……参る」
お互いに名乗りを上げ木刀を振るう、だがしかし……小笠原も朽木白哉も、口元には笑みが浮かべられていた。
――――――――――
「……」
別に何をしにここに来たとか、そんな大層な理由は無かった。だが何故か……この場所に辿り着いてしまった
その場所はセラフ部隊の葬儀場。普段はあまり人が近寄らない場所ではあるが死が漂う場所特有の薄気味悪い場所ではなく寧ろ丁寧に扱われている為神聖な場所――――教会に見えるような場所だった。
(当たり前だが虚も霊体も居ねぇ……本当にこの世界にそういう概念はねぇんだな)
改めて確認して、少しばかり安堵する。もしここに虚などが現れてしまえば一刻も早く一護たちは消えてしまわねばならなくなる。
「あれ、一護さん……」
ナービィの跳ねる音だけが聞こえる空間に、1人の足音が近付いてくる。一護がその気配に気づくと同時に相手も気が付いたようでこちらへと歩み寄ってくる。
「……なんだ、蒼井じゃねぇか」
「なんだ……ってなんですか、まったく」
31Bの部隊長である蒼井えりかだった。その手に持つ花束を見て一護は何となくここに来た用事を察していた
「俺、離れた方がいいか?」
「別に大丈夫ですよ、ただ今回の作戦を見守ってて欲しい……蒼井達に力を貸して欲しいってお願いをしに来たんです」
「そうか……」
そう言いながら葬儀場の真ん中に花を置き、手を合わせる蒼井。一護も折角だからと手を合わせる。
きっとこの葬儀場で、かつての蒼井の仲間も見送られたのだろうと考えて少しばかり胸が苦しくなる。
「少し前まで、蒼井はこの場所が苦手で……昔の仲間にさえ手を合わせることが出来なかったんです。この場所に立つだけで……最期を思い出してしまうから」
少しして手を合わせ終えた蒼井が、不意にそんな言葉を一護へと話す。
彼女が持つ異能のようなもの……それは1度見たものを一生忘れる事がないという物だ。高校生の一護からすれば羨ましいとも言えるその力だが……戦場に立つ蒼井にとっては地獄そのものでありかつてはそれを呪いと言い、自らの自信を無くしてしまった程だった
「……蒼井」
「でも、茅森さんや一護さんに出会ってまたこうやって自信を持って立ち上がれてるんです。あの時一護さんが助けてくれたから……今日もこうやって手を合わせられる」
「……」
「――――だから、死なないでくださいね。一護さん、茅森さんも」
振り返った蒼井の目は、今までとは違い……歴戦の勇士のような情熱を宿していた。
「蒼井も、31Bの全員も全力で戦って勝ちます。他の部隊だって皆……だから」
「――安心し」
「……っ」
蒼井の言葉を、一護のその一言が遮る。だがその言葉を聞いた途端、蒼井が笑みを浮かべた。その瞳には涙まで浮かんでいた
「俺も、茅森も、お前も、他の奴らも全員死なせねぇ。俺達が護る……全員で生きて帰るんだろ。蒼井」
「はい……!はい!」
微笑む一護に、蒼井が何度も頷く。
――――だからだ、だからこそ蒼井にだけは絶対に言えるわけが無い。これを言ってしまえば彼女は必ず心を痛めてしまう
(悪ぃな蒼井、お前にだけは……話せねぇよ)
一護の目の前を歩く少女は、彼の宿している気持ちに気付くことは――――無いだろう