繋がってしまった世界の整合性は取れるのか   作:干山 静玖

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 とうとうレセプションパーティーの当日が来た。綱吉は、朝から起きる頭痛に悩まされていた。最近ちっとも超直感が働かない日がないため、もはやこのくらいの頭痛は日常といっても差し支えないほど慣れてしまっていた。但し、それは痛みに対して慣れただけであり、『嫌な予感』の強弱に対してはますます鋭くなっていく為に気疲れが絶えない。

 

 それでも痛みが殆どない日もあるし、逆に目の前がぐらんんぐらん揺れているような気さえするほど激しく痛む日もある。今日は少しの痛みと何やら少しの面倒事が起きる予感だけで済んでいるので、今のところは大丈夫そうだ。……これがフラグでなければ、の話になってしまうが。

 

 ボンゴレ十代目ファミリー専用ジェットに乗り、母国に辿り着いたのはフライトから僅か6時間。一体どんな技術もといオーバーテクノロジーの類なのか知らないが。とてつもなく快適な空の旅の中で、ひたすら苦行である書類捌きを行い、知識のすり合わせを綿密に行った。

 

 

 

「隼人。それじゃあ今日はCrostacei(クロスターチー)として名を知られている、ボンゴレの表会社の一つのレセプションだけど、日本での新しい表会社の企業概要は『日本文化を守るために積極的に支援を行い、日本独自の技術を海外へ受け入れやすくするために海外技術とのすり合わせをし、世界に日本文化の素晴らしさを拡げるため』ってことでいいのかな」

 

「はい。俺たちボンゴレがマフィアのボンゴレとしてではなく、自警団のボンゴレへ戻ることを目指しているからこそ、十代目が初めて自分から起こす会社では歴史の『保全』と未来への『投資』、そして『改革』の前に歴史との『融合』とを目指していると内外に示すことが重要ですから」

 

「だよね。マフィアとしてのボンゴレは、俺の代で終わらせる。そこから先は、初代が目指した自警団としてのボンゴレを俺も目指す――それが俺の、俺たちの目指す場所だから」

 

 

 そのために親友たちを裏社会に巻き込んでしまったことは、どんな事があっても自分が咎を負うべきだという考えが綱吉にはあった。負い目とも呼ぶべきそれは、自分がマフィアなんかの血縁でさえなければ、只の一般人な日本人として産まれていたら生まれなかった。そして何より途中で自分が死んだとしたら裏社会を覗いてしまった彼等も同時に死なせてしまうと気が付いたときから、幾度となく思いつめて来たことだった。

 

 だがそれは同時に、今の彼等との出会うことも一緒に歩むことも、会話をすることさえもできなくなっていたということになることも綱吉には分かっていた。なぜなら綱吉は『ダメツナ』と呼ばれ、からかわれ、虐められ、そして自分も心のどこかで納得し受け入れて、いつまでもその場に蹲って耳を塞ぎ目を閉じて俯いたままだっただろうから。それを変えてくれたと気が付いたときから、恩師――リボーンには綱吉はいつも感謝を忘れたことはなかった。

 

 だからこそその覚悟の強さを、死ぬ気の炎という形にすることができている。

 

 自分の隣で難しい顔をして書類を捲る、獄寺の顔を見ながら改めて決意を固めた綱吉は、そのまま手元の資料をひたすら読み込みペンを滑らせ判を捺し続けた。

 

 

 

 

 

side:安室透

 

――東都内 Crostacei(クロスターチー)日本支部開設記念式 会場 ―

 

 

 その日集まった人々は、イタリアで一大企業かつ大貴族であるマルコッティ家の人物を一目見ようと、その招待を受けたことを誇りながらこぞって参加を表明していた。

 

 ある者は野心を、ある者は好奇心を、ある者は嫉妬心や不快感をにじませながら、どのような人物が現れるのかと自分の連れや周囲の知り合いと話しながら待っていた。

 

 安室もその内の一人として、なんとか自分が潜入している黒の組織がカモフラージュとしている表企業の代表代理としてその場に立っているジン・ウオッカのツレとして立っていた。もっぱら挨拶をしているのは安室だけで、ジンは我関せず、ウオッカはそんなジンと安室もといバーボンと情報の交換を行っていた。

 

 そして会式時間になった時、ホール中央のスタンドマイクに、今日の司会進行役であろうスーツ姿の女性が、静かながらも力強さのある足取りでヒールの音を鳴らしながら歩いて行った。その女性の美しさに会場中の視線が引き寄せられ、彼女がマイクに向かってその容姿に違わぬ可憐な声で、式の開催を告げた。

 

 

 

「――本日はお集まりいただき、ありがとうございます。これよりCrostacei(クロスターチー)日本支部開設記念式を開催させていただきます。

 

 本日司会進行を務めさせていただきます、クロームと申します。どうぞよろしくお願い致します」

 

 

 

 彼女の声が会場へしんしんと響き、軽く一歩下がった後に目を伏せ、彼女が小さく頭を下げた後には会場中から拍手が起こった。

 

 その拍手がひと段落してから、彼女は再びマイクへ足を動かし、静かな声で主役の登場を告げた。

 

 

 

「それでは、我らがボス、十代目Crostacei(クロスターチー)の代表取締役社長にお越し頂きます」

 

 

 

 その声が終わるなり会場の出入り口の扉が開き、一人の東洋人が五人の人間を連れて会場へ入って来た。

 

 ゆったりとした足取りに、会場中を穏やかな空気に変えていくような笑みを浮かべて、上品にまっすぐステージへと歩いていく。自然と彼の前には道ができ、その後ろに続く者たちは静かに威圧感を放ちながら彼と共に歩いていく。

 

 ステージに上がった彼らは、まるでそれが自身の定位置であると言わんばかりに、金髪混じりの茶髪の青年の後ろに並んだ。そのことを確認することもなく、青年……綱吉は会場中へ穏やかに挨拶を始めた。

 

 

 

「――本日は我が社Crostacei(クロスターチー)の日本支部開設記念式へとお集まり頂き、誠にありがとうございます。私がCrostacei(クロスターチー)、代表取締役社長兼マルコッティ家当主であるツナヨシ・S・マルコッティと申します。以後お見知りおきを。

 

 さて、簡略ではございますが、この日本支部にて我が社が目指していくものについてお伝えします。我が社が目指す運営方針は、『日本文化を守るために積極的に支援を行い、日本独自の技術を海外へ受け入れやすくするために海外技術とのすり合わせをし、世界に日本文化の素晴らしさを拡げる』ことでございます。従って―――」

 

 

 

 すらすらと日本語で喋る青年。その運営方針に関して言えば、全くもって隙が見えないものだった。大企業のトップであり、大貴族の当主ともなればあの若さで舐められる訳にはいかないのだろう。言動に一切の隙もなく、会場中を穏やかに見回しながらも、まさしく『王者の風格』とも言うべき威圧感がにじむ立ち姿だった。

 

 あのジンですら「アイツはまるで大地どころか雄大な空をも支配し、全ての猛獣を従える獅子のようだ」と評するほどだった。しかも彼の後ろに立っている幹部と思われる彼等は、無関心そうにしている者たちもいたが、それでも全員会場中に対して警戒心を持っているように見える。

 

 そんな風に順調に式は進み、簡単ながら私が決めた今代の幹部の紹介をさせて頂きます、と彼等のボスが告げる。海外では社長のことをボスと呼ぶのは知っていたが、日本だと浮きそうだななんて思いながらも話を聞いていた。

 

 

 

「まずは私の右腕、獄寺隼人。主に私の秘書のようなことをしてもらっています。その隣が山本武。彼は主に私の護衛筆頭であり懐刀と思っております。獄寺の隣が笹川了平。スポーツ用品メーカーかつスポンサーとして山本と共に子会社を纏める立場にあります。獄寺の隣が六道骸。その隣がクローム。この二人が主に外資系企業として世界中を巡り、EU諸国をはじめとして様々な国にある我が社の子会社を纏めております。

 

 そして笹川了平の隣におりますのが、雲雀恭弥。我が社と同盟を組む日本の財団法人として、風紀財団の総帥を務めております。さらにもう一人幹部がいるのですが、そちらは本日欠席させていただいております」

 

 

 

 筆頭の護衛と名乗るからには、彼には常に身の危険があるのだろう。山本と紹介された彼が、その腰に刷いている刀を見て銃刀法違反にならないような許可、とはそういう事だったかと嫌でも納得した。しかし降谷はものの見事に日本人や日系人しかいないなとも思ってしまった。

 

 あれだけの大企業を纏め、さらには子会社をも纏めていける優秀な日本人が、外国に籍を置いて日本から離れてしまうのだろうかと降谷としての思考が思わず漏れてしまいついつい嘆きたくなった。それでも表面上は探り屋であるバーボンとしての好奇心に、心躍らせている様子に見えるようにうっすらと笑みを深めてみせることは忘れなかった。

 

 もう一人の幹部とやらがどんな人物であるかは分からないが、あのホームページに顔写真を載せないといった徹底した情報統制を、今この場に記者などはいないとはいえ一切行わない今日は特別なのだと改めて示された。ここに招待された者たちは、いずれにしても日本の裏表で名の知れた者たちしかいない。特定は容易い、とまではいかないが誰かが漏らせば、芋ずる式に日本中いや世界中から信用を失い、商売もできなければ地位や名声も失ってしまう羽目になることは明らかだろう。

 

 あの柔らかい物腰とは別に、強かで絶対なる王者としての風格さえ見える年下の青年たちに、安室は終始畏怖を覚えずにはいられなかった――。

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