僕とさよならを教えて   作:folland

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高田のぞみ

時々雷の音がとどろく中、延々と階段を上っている。

延々と、繰り返し。

そこに意味などあるのだろうか。

いや、意味はあるのだ。

なぜなら僕は先生で、屋上に生徒の女の子がいるのだ。

間違いなく、意味はあるのだ。

そう歌いながら階段を中途まで登っていたが、ふと歌う必要はないということに気付いた。

気づいたからやめた。無意味だからだ。

階段の踊り場に座り込み一服する。

煙草にも意味はある。

『緩慢な自殺』。

簡易な自傷行為による安直な快感。

有意義な時間を過ごしている。

 

「先生……」

 

ふと、上の方から声が聞こえてくる。

屋上の少女だろうか。高田望美(たかだのぞみ)だろうか。

確かめるため、煙草を携帯灰皿に入れ、階段を上がる。

屋上近くの空間は外が悪天候のために薄暗くなっている。

僕が階段を上るたび、その薄暗い空間の中で上気した肌が微かに見えてくる。

 

「先生……」

 

肩口に短く切られた髪は雨のためかぬれぼそり、艶がある。

不安と安心をないまぜにした揺れる瞳をこちらに向け、ある一言を呼び掛けてくる。

 

「先生……」

 

全身が濡れ、寒いのか細い肩にか細い両腕をまわしている。

肩も胸も体も足も、全て、濡れている。

 

水滴の滴る音がする。

屋上のドア越しに雷鳴のとどろく音がする。

誰かの唾を飲み込む音がする。

 

僕は一歩踏み出した。

 

「……どうしたんだい?」

 

彼女はいったいどうしていたのだったか。

彼女の父に凌辱され後ろの穴で気をやらせていたのは本当だったか?

彼女の否定する声と肯定する体とを僕がすべて屈服させていたことはあったか?

今から行うことはいつしていたのだったか。

 

「ちょっと……飛べなかっただけ…」

 

その一言で意外にも、すとんと、彼女は舞台から降りた。

予定されていたものは行われないのだ。きっとそうなのだ。

 

「そうか……羽やすめだね」

 

「うん。先生も羽やすめ?」

 

ポケットのふくらみを指さし望美は言う。

煙草を取り出し、火をつけて答える。

 

「そう、羽やすめ」

 

笑いかける。望美も笑う。

ライターをしまいながら望美の横に座る。

 

「寒くないか?タオルとかは?」

 

「大丈夫。先生もいるから。ほら」

 

そういいながらぴったりと寄り添ってくる。

ひやりと冷たい肌。肩の柔らかな感触。

触れ合っている部分が少しずつ熱くなる。

 

「こんな……いいのかい?僕みたいなのに……」

 

「あたしがいいからいいの。それに、先生はいい先生だから」

 

柔らかい。温かい。

段々とお互いの体温が均衡を保っていく。

僕の体は熱くなり、望美の体も熱を持っていく。

彼女の体を触ったのはいつだったか。

人見広介は触ったのか。僕は彼女に気をやらせたことはなかったか。

フラッシュバックする妖艶の記憶。僕じゃない。でも今は僕だ。

 

 

僕の左手はいつのまにか望美の右手に絡まっている。

僕の右手は望美の耳朶を優しく撫で上げながら頬を抑え、望美の顔をこちらに向けさせている。

僕の舌は望の口腔内を舐るように犯し、それと共に血液が下半身へと巡っていく。

 

「んっ……ふぁ……んん……」

 

未だ未成熟な肢体の奥にある高ぶりを探すように口内のあらゆるところを蹂躙し、支配する。

互いの体は絡み合い、求め合い、一つのうねりへと変換される。

 

「んぁ……先生……もっと……」

 

先生とはなんだ?

先生とは『僕』だ。

僕は人見広介で教育実習生だから間違いなく先生なのだ。

 

望美の声にこたえるように、右手と左手を顔に添える。

そこから少しずつ下へと下がっていく。

 

「あ……先生……」

 

ふと、鎖骨の上あたりで両手が止まる。

この触れれば柔らかな弾力を持つ首筋と喉とコリコリとした頸椎。

 

まるで折れてしまいそうではないか?

 

「先生……?」

 

この折れてしまいそうな細い首元で右手と左手で何かを求めるように揉みしだく。

首筋の筋肉がある。コリコリとした頸椎がある。筋張った鎖骨がある。

 

命が巡っている。

 

そこはかとなく不思議な面持ちを抱いたので、何か苦しそうな声を上げている望美を無視し、ひとつ締め上げてみる。

 

「かぁ……ぁ……かはっ……」

 

折れてしまいそうな華奢な首筋。

コリコリとした頸椎。

命が巡っているその支柱。

 

羽ばたくためには失われるものも多い。

大地に立つものと飛ぶための隔たりを捨てたものと。

 

 

隔たりを捨てる。

空に飛ぶ。

 

 

今まさに望美は空を望んで僕はそれを見つめているだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

下半身も沈黙を守るようになった頃、僕は屋上を後にした。

 

 

 

 

 

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