僕とさよならを教えて   作:folland

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終わり

僕は天使と添い遂げる。

真っ赤に。真っ白に。真っ黒に。

何もない光に。闇に。染まる。

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です」

 

柔らかな女の声が聞こえる。意識がゆっくりと覚醒していく。

 

「お楽しみいただけたでしょうか」

 

まだ霞がかった意識で僕は周囲の状況を確認しようとする。

が、周囲を見渡しても視界は黒で埋められている。

 

「今、取り外します」

 

声をかけられた後に、カチリ、というう音と共に視界が急激に開ける。

そこの光景から僕はようやく全てを思い出した。

 

「思い出しましたか、お客様」

 

「うん、きれいに思い出せたよ。よかった」

 

僕はフルフェイスヘルメットのようなヘッドセットを取り外し、

手足に接続された筒状のデバイスコントローラのロックを外しながら答える。

 

「ゲーム終了直後はゲーム世界の感覚をしばらく引きずるお客様もいらっしゃいますが、じきに治まりますので」

 

「いや、もう特に違和感はないよ」

 

柔らかい革張りの背もたれから体を起こし、見慣れた自室を見回す。特に変わりはないようだ。

椅子の上で伸びをする。久々の僕の体の感触だ。

 

「しかし、すごいね。本当に僕が主人公と同化したような感覚だったよ。体だけでなく頭の中まで」

 

「それが『リアルドライブ』のウリですので」

 

落ち着いた藍色のスーツ系の制服に身を包んだ若い女がわずかに口角を上げながら『リアルドライブ』のセールスポイントについて語り始める。

 

『リアルドライブ』は試作型のVRゲーム筐体である。

しかし、この試作型は単なるVRゲームとは異なる。

一般のVRゲーム筐体の場合は脳や身体の信号を送受信し、仮想現実でのロールプレイングを実現する形である。

だがこの試作型の場合は、身体や思考までもを主人公キャラと同化させ自分の感覚にはない思考や身体感覚を得ることを可能とする。

これにより普段感じることのない快楽や、新たな思考へのインスピレーションを得られるというわけである。

また、ゲーム開始直前の自分自身の記憶やゲーム内容以後の未来の情報の記憶を思い出させないようにする。

これにより、さらに主人公と同化することができるというわけだ。

 

もちろん非合法である。

 

「ところで、こちらのゲームはお客様が初めてのプレイとなりますが、感想はいかがでしょうか」

 

「うん、とても面白かったよ。でも、もう元の世界に戻ってきてしまったって考えると憂鬱だけどね」

 

憂鬱から逃げるため、非日常に逃げ込む。

それはどの時代、どの人間も行ってきたことだ。

抑圧、狂気、自虐、性のコンプレックス、少女への救い。

どの時代でも、惹かれるものは同じなのだろう。

天使。

僕が怪物になること。

救いは、確かにあった。

 

でもそれももう終わりだ。

 

「ではお支払いはいつもの通り、カードで。筐体のほうは後日回収に参りますので、その時に。また、ゲーム内データのほうは…」

 

もう、終わりだ。

 

椅子から降り、いつも通りの説明をする女の横っ面を殴り飛ばす。

もんどりうって倒れる女に馬乗りになり、顔面に拳を振り下ろす。

鮮血が噴き出る。

わめく女。

続けて何度も殴る。2回。3回。4回。5回。6回。7回。8回。

ようやく声を出さなくなるが、まだ空気の漏れる音がする。9回。10回。11回。12回、13回、14回、15回16回17回18回19、20、21、22、23、24……。

 

静かになった。

顔には温かい液体がかかっている。

右手に白いものがいくつも刺さっている。

歓喜で呼吸が震える。

 

僕は 自分の頭を指差し、ケケケと高い声で笑った。

 

 

 

 

ゲームを再起動する。

ヘッドセットを装着。視界が黒に染まる。

手足にコントローラを接続し、ロック。

指先でゲーム起動開始の合図を送る。

 

 

準備は、整った。

 

 

 

帰ろう。

僕の世界に。

僕が僕である意味を持つ世界に。

 

 

「……さよなら」

 

 

 

 

 

僕は、僕とさよならを告げた。

 

 

 

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