感情を機械的に模倣するだけの上位存在だった天使が愛を理解する話   作:ジョク・カノサ

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友達

「冥加与……与吉、私は食事が必要無いと言った筈ですが」

 

 彼女をいーちゃんと呼ぶにあたって、気になったのが僕の事をわざわざフルネームで呼ぶ事だった。だから名前で呼んでほしいとお願いしたら受け入れてくれた。

 

 名前で呼ばれるのなんて、いつぶりだろう。

 

「え、そうなの!?お茶は要らないって意味じゃ……」

 

「飲食物は必要無いという意味です」

 

「そ、そうなんだ。早とちりしちゃった……」

 

 二人分の夕飯を並べた所でいーちゃんがそう言った。

 また失敗してしまった。多分、今の僕は初めての友達に浮かれている。

 

「まあ、明日食べれば良いかな……。そっか、食べ物要らないのかあ、久しぶりに作ってみたんだけど……」

 

「……必要無いというだけで、摂取する事は出来ますが」

 

「へ?そうなの?」

 

「味覚も再現しています。望むのであれば」

 

「僕としては、食べてほしいかな。折角作ったし……」

 

「分かりました」

 

 いーちゃんは割り箸を手にし、メニューの一つである筑前煮を摘まんで口に入れた。

 

「ど、どう?」

 

「……良く分かりませんが、甘く感じます」

 

「え、本当?……うーん、僕がこれ作る時は毎回こんな感じなんだけど」

 

「そうですか」

 

「美味しくなかった?」

 

「もう少し、塩気があればいいかもしれません。……いや、私の人間的な感覚は所詮模倣。今の発言は気にしないでーー」

 

「分かった!次作る時はそうするね!」

 

「……」

 

 模倣っていうのは良く分からないけど、いーちゃんの好みの味付けがあるという事だろうか。

 

 それにしても。

 

「嬉しい。他の人に料理を食べてもらった事も初めてなんだ」

 

「……私の先の発言は、与吉の気分を害していてもおかしくなかったのでは?」

 

「そんな事ないよ!自分が作った料理の味を他の人はどう感じるんだろうって気になってた。マズイって言われても、嬉しいかも」

 

「分かりました。要望には応えます」

 

「あ、魚の骨は気をつけて!」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 食事を終えた後はお風呂に入った。

 今日は色々とあってお風呂上りに疲労感がどっと来た。まだいーちゃんと話したい事とかはあったけど、明日は学校に行く日だから素直に寝る事にした。

 

 いーちゃんはお風呂も睡眠も必要無いらしい。だとすると僕が寝ている間は暇になるだろうから、何か暇つぶしが必要だな、と考えていたところで僕の眠気の限界が来て、ベッドに倒れこんだ。

 

 久しぶりによく眠れたからか、僕が昔好きだった子守歌を口ずさむお母さんの夢を見た。

 でも、最後には消えてしまった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「行ってきます!……これも久しぶりだなあ」

 

 気持ちよく起きる事の出来た朝。今日は学校に行く日だ。

 

 僕の体質は僕以外の人も巻き込む。だからあんまり学校とか、人の多い場所には行かないようにしている。他にも少しワケがあって、僕が学校に行く日は少ない。

 

「いってらっしゃい」

 

「!それも久しぶりだよ!」

 

「といっても、私もここを出ますが」

 

「え、そうなの?」

 

「再度言いますが、私の目的は与吉の監視。外では秘密裡に動くので、同行という形ではありません」

 

「あ、そっか」

 

 昨日は色々と楽しかったせいで忘れてたけど、いーちゃんは僕の監視をする為に居るんだった。

 ……なんというか、その事実は少し悲しい。

 

「いーちゃん」

 

「はい」

 

「その監視が終わったら、いーちゃんは帰っちゃうの?」

 

「そういう事になります」

 

「嫌だっ」

 

「……そう言われても、私には何も答える事はできません」

 

 いーちゃんの表情が少し動揺したように見えた。いつの間にか、まだ弾かれてはいないがいーちゃんに僕の手が伸びていた事に気がつく。

 

 まただ、またやってしまった。

 

「ごめんなさい。……行ってくるね」

 

「はい」

 

 いーちゃんの声を遮って扉を閉めた。

 いーちゃんが居なくなる。昨日会ったばかりなのに、考えたくない事だった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 学校はあんまり好きじゃない。

 

 僕自身の問題と学校にあまり行かないもあって、友達は出来た事が無い。自分から友達を作りに行こうとした時もあったけど、僕には難しかった。

 

「ふぅ……」

 

 昼休み。昨日の残りを詰め込んだ弁当を食べ終わる。あんまり美味しくなかった。

 

 教室ではクラスの人達が思い思いに話している。僕が学校で一番嫌いな時間。

 

 いーちゃんの事を思い出す。

 

「帰りたいなあ……」

 

「ーー悪魔だ!」

 

「うわ、マジじゃん!」

 

「!」

 

 窓際に立っていた生徒が声を上げた。それを聞いた皆に混ざり僕も窓から外を見る。

 

 そいつは校庭に居た。昨日の悪魔と同じような姿をしている。

 

「またかよ!多くね!?」

 

「ここらへん、他と比べて出現率高いって聞いたことある」

 

「呪われてんのかなあ……引っ越してぇ……」

 

「おお天使様……どうか悪魔を……」

 

 皆が思い思いに悪魔について話している。この学校の近辺では悪魔の出現例が多い。

 

 多分、僕のせいだ。皆に迷惑をかけていると思うと、気分が悪くなってきた。

 

「お、おい、校舎に入って来たぞ!」

 

 眼下で悪魔が校舎に侵入してきたのが見えた。皆の動揺が強くなる。

 

 もし、僕を狙う為に校舎に入って来たのだとすれば。

 

「……!」

 

 教室が半分パニックになる中、先生が戻って来る前に僕は教室を出た。

 

 走る。僕を狙っているのだとすれば、悪魔は僕の所にまで来る筈。

 

「はあっ、はあっ」

 

 慣れない全力疾走で辿り着いたのは屋上だった。ここだったら来たとしても誰も巻き込まない。

 

 息を切らしながら屋上の真ん中の方へ着いた時、その鳴き声が聞こえた。

 

『------ッッ!!』

 

「ひっ!」

 

 いつの間にか、さっき僕が居た屋上の入口に悪魔が来ていた。昨日と同じように、大口を開けて僕を睨んだ後、僕の方へと飛びかかって来た。

 

「いーちゃん……!」

 

 ここには誰も居ない。昨日と同じ。

 でも。

 

「ーーはあッ!」

 

『ガアッ!?』

 

 屋上には確かに僕以外誰も居なかった。でもいーちゃんは隠れながら僕を見ていると言った。

 

 昨日と同じ炎の剣を片手に悪魔を真っ二つにしたいーちゃんを見て、それが本当だった事を悟った。

 

「悪性魔獣消滅、守護武装送還。……良い判断でした、与吉。ここなら周囲に気にすることなく私が動ける。……分からない。何が起因となってこんな現象がーー」

 

「いーちゃん!ーーうわっ!」

 

「……接触は不可能と言ったでしょう」

 

「あはは、そうだった」

 

 いーちゃんは少し呆れているように見えた。

 本当に僕を見守ってくれていた。昨日と同じように僕を守ってくれた。

 

 朝の会話を思い出す。いーちゃんと離れるくらいなら、死んだ方がマシだと思った。

 

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