幻想郷放浪記   作:もみじ 

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二度目のロープウェイ

 

 私と伏は守矢神社から少し下ったところにあるロープウエイ乗り場にやってきた。そこでは複数の河童達が忙しなく動いていた。奇妙だったのは、ついさっき走ってにとりを追いかけて行った早苗の姿がどこにもなかったことだ。

 図面を片手に作業をしている河童達に指示を飛ばしているのは、先程ロープウェイの再開を知らせに来てくれた河城にとりである。その時、カゴの上で作業していた河童の方を見たにとりが声を張り上げた。

 

「おいそこ!電気まだ切ってないぞ!」

 

 その言葉が言い終わるか終わらないかのタイミングで、バチンという音と共に黄橙色の火花が飛び散る。その衝撃で近くにいた河童はバランスを崩して落下する。

 そのまま数メートル下の地面に叩きつけられるかと思ったその時、にとりの巨大なリュックサックの中から大きな2本の機械仕掛けの手がびっくり箱のように飛び出し、落下する河童を受け止めた。

 

「初歩の初歩だぞ。電気が通ってないか確認をしてから作業をしろ」

 

「す、すみません」

 

 けろっとしているが、もしあれが人間だったら生きているかどうかも怪しいだろう。

 軽く注意をしたにとりは機械仕掛けの手を操作して、河童を再び作業していた箇所へ下ろすと、役目を終えた手はしゅるしゅるとリュックの中へ収納された。

 その光景に呆気にとられていると、視線を感じたのかこちらに振り向いたにとりと視線が合った。

 

「お見苦しいところをお見せしてしまったみたいで」

 

 そう言って彼女は恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「もう動かせると言ってませんでしたか?」

 

「ああ、乗るかい?今最終点検中なんだ。試運転がてら下まで送るよ」

 

 私と伏は顔を見合わす。考えていることはおそらく一緒だろう。特にさっきの様子を見せられたら尚更だ。

 

「こらこら、そんな言い方だと心配させるぞい」

 

 にとりの背後から現れたのは、マミゾウであった。相変わらず人間に化けている。

 

「天狗の里はどうじゃったかの?」

 

「良い経験になりました」

 

「ふむ、それなら良かった。して、そちらの妖狼は?」

 

 マミゾウに視線を送られた伏は少し体を硬直させる。

 

「八房伏と申します。失礼ですがあなたは?」

 

「儂か?儂は二ツ岩マミゾウじゃ。一応化け狸の頭領をしておる」

 

 やけにあっさりと正体を明かしたマミゾウはそのまま言葉を続ける。

 

「にとりよ、お主の実力はよく知っている。そのうえで質問じゃ。今朝のようにカゴが落下することはあるかい?」

 

「いいや、ないね。断言するよ。安全にふたりを下に送り届けることを保証しよう。なんだったら私も一緒に乗ろうかい?」

 

 自信たっぷりのそのにとりの言葉を聞いて私ひとつの仮説が浮かんだ。ロープウェイの落下は何者かによって仕組まれた事だったのではないか。それがなぜかは分からないが、そう考えなければにとりがここまで言い切る理由にならない。

 私は伏を見る。ロープウェイが落ちた時、考えられないほどの突風が吹いた。この山でそんなことができるのは天狗くらいのものであろう。

 

「どうかされましたか?」

 

 私の視線に気がついた、伏が声をかけてきた。

 

「……伏さんはどう思います?」

 

「何が⋯⋯ああ、ロープウェイに乗るかどうかですか?私は別に構わないですよ」

 

 確かにそれはそうだろう。伏からしてみればロープウェイが落ちたところで大した怪我などしない。むしろ一番危険なのは私なのだから。

 沼田から貰った鞄から頭だけ出しているヒョウも別段ロープウェイを怖がっている様子はない。

 

「わかりました。時間もないことですし乗りましょう」

 

 日が落ちるまでに人里に帰ることを一番に考えるのであれば乗らないという手はないだろう。

 私の言葉に、にとりは「よしきた!」と言って作業をしている河童たちに合図を送る。

 

「よかったんですか?」

 

「はい、何かあっても守ってくれると思ってますから」

 

「そこまで信頼されると困るのですが⋯⋯」

 

 伏は照れくさそうにほおを掻く、大概のことは大丈夫だろう。文の話を聞くに、私に何かあれば一番困るのは天狗側だ。私は死んでもどうせ100年後くらいにまた転生する。

 

「のう、阿求殿」

 

 早速ロープウェイに歩を進める私を呼び止めたのはマミゾウである。

 

「どうかされましたか?」

 

「怖くないのか?」

 

「⋯⋯質問の意図を図りかねますが、質問に答えるのであれば恐怖はないですね。それが何か?」

 

「いや、心配になっただけじゃ」

 

 そうは言いつつも何か言いたげな表情をしている。問い詰めても良かったのだが、今は用事ある。どうやってものらりくらりと逃げるであろうマミゾウと押し問答するメリットもないだろう。

 恐怖か、そういえば久しく感じていない。まあ人並みに恐怖があれば天狗の里に単身乗り込むこともないだろう。

 

 私と伏、そしてマミゾウが乗り込んだところでロープウェイの扉が閉まった。そしてカタンという軽い揺れとともにゆっくりと斜面に沿って下りはじめる。

 もう日はかなり傾いており、あともう少しすれば空も少しづつ赤くなっていくことだろう。

 登りの時とは異なり、ロープウェイは順調に進み続け、あっという間に妖怪の山の下にある駅に停止した。

 

「何ともなかったの⋯お?」

 

 ロープウェイから片足が出た体勢でマミゾウの足が止まる。

 

「あら、何かある予定だったのかしら?」

 

 聞き覚えのある声。マミゾウの体のすき間から外を覗くとそこには、赤いリボンをつけた巫女の姿があった。

 幻想郷には2つの神社がある。ひとつは妖怪の山にある守矢神社。そして、もうひとつ博麗神社と呼ばれる神社だ。その神社の巫女にして、同時に幻想郷の厄介ごと解決係であるのが、マミゾウの前にいる人間、博麗霊夢である。

 

「博麗の巫女様、どうされたのですか?」

 

「私の前で人間のふり?馬鹿にしてるの?」

 

 巫女は不機嫌そうにマミゾウの言葉を途中で遮ると、手に持った大幣の先端をマミゾウの鼻先に突きつけた。

 

「なんじゃ、今日は冗談も通じんのか?」

 

 ドロンと薄い煙とともに、マミゾウは変化を解く。現れたのは茶色の三角耳と長丸い縞模様の尻尾が生えた人間のような姿である。

 

「あんたには聞きたいことが山程あるわ。それに阿求、あなたにもね」

 

 そう言って巫女はマミゾウの後ろから覗き込んでいる私のこともバチッと睨む。

 どうやら今日の霊夢は中々にご機嫌斜めのようだ。

 

「何やら色々厄介事を抱えているようじゃの」

 

「ええ、おかげさまでね」

 

 観念したようにマミゾウがロープウェイから出る。その後ろに続いて私、伏の順番で降りる。

 私がロープウェイから降りると、霊夢が「あっ」と声を出す。

 

「あんた、その傘、もしかして小傘の?」

 

「はい、どこぞのいたずら氷精が持っていたので返そうかと思って」

 

 私がそう言うと、霊夢の表情がいきなり柔らかくなる。

 

「でかした!とりあえずひとつ解決ね」

 

「なんじゃお主、妖怪の失せ物探しもやっとたのかの?」

 

「うるさいわね。里の子供から、お姉ちゃんが困ってるから助けてあげて〜。なんて言われたら無視するわけにもいかないじゃない」

 

 基本腰の重い霊夢ではあるが、子供からの頼み事には弱いらしい。今度から霊夢への頼み事は子供にお使いさせれば良いのではないかとふと考える。

 

「私達、ちょうど彼女に用事があるので、ついでに渡しておきます。まだ人里にいますよね?」

 

「ええ、人里でなくしたと思ってるから、今も探してるはずよ」

 

 少し機嫌が良くなった霊夢ではあったが、話を聞いた限りでは彼女が今抱えている厄介事はひとつやふたつでなさそうだ。

 

「さて、私も人里に一旦行くから一緒に行きましょう。その間にたっぷりと話を聞かせてもらうわ」

 

 霊夢が素早く袂に腕を入れると、引き抜く動作そのままに細い銀の針を投げる。その針はしれっとその場を去ろうとするマミゾウの鼻頭をかすめて木の幹に突き刺さった。

 

「私言わなかったっけ?聞きたいことがあるって」

 

「これはこれは、手厳しいのう」

 

 ケタケタと笑うマミゾウを見て、霊夢はひときわ大きなため息をつくのであった。

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