魔法科高校の編輯人if~枝世界~   作:霓霞霖

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10 出来レースは面白くないと思いました(筆者談)

 8月1日。九校戦の会場へと出発する日。いよいよといったこの日だったが、第一高九校戦メンバーの出発はスムーズではなかった。真由美が家の都合で遅れたのである。本人は会場で合流する案を出すも、出発せずに集合を待つという意見が多数出た。なので、第一高九校戦メンバーは選手バスとエンジニア作業車両が停車する第一高の駐車場で皆待機している。

 そして何故か、空調の効いた車内ではなく、真夏の太陽照り付ける夏空の下で、達也・摩利・十六夜は真由美の集合を待っていた。

 寒冷化が進んだ現在でも、夏は暑い。それでも、3人は汗をかいていなかった。

 

「……便利だな、お前の『全反射』」

 

「紫外線を常時反射できるとは聞いていたが、まさか陽光も多少反射できるとはな。しかも、自身以外も適応下にできるとは」

 

「ま、さすがに有害な物以外となると常時は使えませんし、自身以外も適応下って言っても、自分を中心に範囲を広げられるだけですけどね」

 

 達也と摩利は、十六夜の反射魔法『全反射』の恩恵を受けていたのだ。

 陽光が少し反射され、日差しを弱めているため、十六夜を中心とした達也と摩利の周辺は過ごしやすい温度となっている。

 

「……有害な物は反射するというが、熱も反射するのか?」

 

「あ~~、どうだろ。お風呂とかサウナでは反射しないし、意図的に試した事もないな。火とかは、試して駄目だったら火傷するしな。それ繋がりで放射線とかも試した事ない」

 

「……粒子放射線はできるんじゃないだろうか。放射線と言っても、あれは物質的なモノだ。物質の移動ベクトルを転換できるお前なら、できる可能性は高いだろう」

 

「可能性は高いってだけだから試しようがないっての。それに、電磁放射線の方は期待薄だろ。俺、放出系はダメダメだし」

 

「紫外線反射という光波振動系ができているんだから分からんだろ。……今さらだが、光波振動系全般が駄目なのに反射はできるというのはどういう魔法資質なんだ?」

 

「振動系だのなんだのは結局人が勝手に決めた分類だし。俺の魔法資質、その根本は有害物の反射で、物質相手ならさらに融通が利くって事なんじゃないか?」

 

「ふむ、そうか。魔法演算領域はまだまだブラックボックスが多い。そういう、今ある理論が通じないような事も起こり得るか」

 

 などなど、達也と十六夜間で十六夜の魔法資質について談義する。

 

「ごめんなさーい!遅くなりましたー!」

 

 そうして時間を潰したおかげで、暇を持て余さず真由美の集合が叶った訳だった。

 ようやく、第一高九校戦メンバーは会場へ向けて出発する。

 ちなみに、十六夜はやっぱり作業車両に乗り込んだ。その車両内でも、同乗者である阿賀沢を交え、達也と十六夜は談義を続ける。

 ただ、十六夜はずっと窓から流れていく景色を眺めていた。何処か注意深く、メタ的に言うと車が突っ込んでくる原作イベントを見逃さぬように。

 

 

 

 バスと作業車両が走る事幾ばくか。

 選手バスの方は、姦しいとまでは行かないが、少し騒がしいおしゃべりが繰り広げられていた。深雪の方はその美貌のせいで多くの人に声をかけられ、ずっとお喋りに付き合わされていたのだが、見かねた摩利が深雪(とついでにほのかと雫)を自身の後ろの席に配置した。そして深雪たちを挿むように、そのさらに後ろに克人が配置され、立ち入りづらい領域を作っている。そうして守られている深雪たちは少し気後れしたが、その気後れも長くは続かなかった。

 深雪が避難する前よりは静かになったバス。そこでふと、深雪が窓の外を眺めた時だった。

 

 対向車線を走るレジャー向けのオフロード車が、右前輪部の辺りに火花を散らしながら、選手バスの方へと近付いてくる。

 選手らは「パンクか?」「脱輪だろ」と、危機感のない雑談をしていた。あっちとこっちの境に堅固な間仕切りがあるのだから、対岸の火事を見るような気分だったのだろう。

 そのオフロード車が、まさか自身らの方へ飛んでくるとも知らずに。

 オフロード車は急にスピンしだし、間仕切りに激突して跳び上がり、選手バスに降りかかろうとしていた。

 バスは当然急ブレーキを踏み、選手ら全員がシートベルトにつんのめる。シートベルトをしていない者もいたが、幸いにして座席から跳び上がるような事はなかった。

 それよりも、今は降りかかろうとするオフロード車だ。誰もがつんのめった衝撃を受け止めた後、オフロード車をどうにかしようと、一斉に魔法使用の準備を始めた。

 だが、誰も間に合わない。良い意味で。

 

「……は?え?……車が宙に停まった?」

 

 誰かがそう呆ける。

 そう。降りかかろうとしていたはずのオフロード車が、急に空中で止まったのである。あまつさえ、止まった後にゆっくりと地面に降りた。

 オフロード車は炎上していたが、それも問題ない。地面に降りた瞬間、深雪が振動系により常温まで冷却して鎮火した。

 

「おーい、雫ぅ、ついでに皆さぁん。お怪我はないですかー」

 

 作業車両からいの一番に駆け付けたのは十六夜である。

 

「……飛んできた車を止めたのは、お前の魔法か?」

 

 呆ける皆を代表して、克人が疑問を口にする。返ってくる言葉など、知っているだろうに。

 

「イエス、会頭。ワンチャンこっちに飛んでくるんじゃないかと見てたらビンゴで、すぐに魔法を使いました。あ、言うまでもないでしょうが、加速系で移動ベクトルを半分転換させて相殺しただけです」

 

 十六夜が事も無げに言うが、克人を始め、そこにいた多くの生徒が驚愕する。

 魔法式の構築・演算、それらの速度が尋常ではない。飛んでくるオフロード車の移動ベクトルを全て計算し、ピッタリ半分を転換するなんて、果たして一科生の何人ができるか。事前に移動の方向・エネルギー量を知らされていたとしても、そんな芸当はできないし、そもそもやろうとしない。

 単純な話、飛来物との衝突を避けるだけなら障壁魔法で充分だ。今回飛んできたオフロード車に耐え得る障壁魔法を使えるのは、ここにいる面子では克人くらいだろうが。

 

「おーい、雫ぅ。無事かー、返事をしろー?」

 

「無事」

 

「オーケー。という事で、警察と救急は既に呼んであるので、皆様しばしそれぞれの安否確認を」

 

 皆が驚愕している事など無視し、十六夜は雫の無事を確認した。その後は言うべき事だけ言ってさっさとこの場を離れる。

 慣れている雫とほのか以外は、唖然としたままだ。

 

「……皆、無事か。怪我をした者はいないか」

 

 他より早く唖然とした状態から復帰した克人は、皆の安否確認を始めるのだった。

 

 唖然とする生徒たちを放っておいた十六夜は、対向車線を見つめていた。

 

「……」

 

「……十六夜、何を見ている?」

 

「……ブレーキ痕。それとあの車がぶつかった間仕切り。……どう計算しても、あんな飛び方しないんだよ」

 

 十六夜は現場検証して、先程の結果とその過程を擦り合わせていた。でも、どう仮定しても、あの結果に結びつく過程が存在しない。少なくとも、自然現象では。

 

「……魔法を使って意図的に飛んできたと?」

 

「そうとしか考えられないんだよなぁ……」

 

 達也の指摘通り、魔法なら辻褄が合う。十六夜も、その事を考えていた。

 

「通り魔じゃなければ、第一高を狙ってきた事になる……。第一高の九校戦出場を阻むために車を突っ込ませるって?何処のどいつがそんな妨害工作するんだって話だよ」

 

 何処のどいつかなんて、原作知識で知っている十六夜だが、素知らぬ態度を装う。

 後、純粋に九校戦で賭け事しているマフィア紛いの連中を思い出し、改めて呆れていた。良い大人が子供たちのスポーツで何やってんだと、マフィアの時点で悪い大人だが。

 

「あー止めだ、止め止め。考えられる可能性がどれも馬鹿馬鹿しくて頭痛くなる。優秀な魔法師の卵たちを逆恨みした数字落ち(エクストラ)による自爆特攻でファイナルアンサーです」

 

 テキトーな推測を気だるげにでっち上げ、十六夜はこれ以上の推理を止めにした。そもそも、十六夜としては原作通りに話が進んでいると確認できた時点で、もうこの事故には興味がないのだ。

 

「じゃ、俺は作業機材の点検に戻るわ」

 

 十六夜は現場検証を止め、急ブレーキで作業機材が故障してないかの点検に移る。

 

「……ああ」

 

 その背中を、達也は見送るのだった。

 

 

 

 事故についての事情聴取と交通整備の手伝いで時間を取られた第一高九校戦メンバー。遅刻する真由美を待ったタイムロスと合わせて、会場への到着が昼過ぎまでズレ込む事となった。

 ただ、九校戦開始は明後日で、今晩に懇親会があるだけ。この遅参(ちさん)が九校戦参加に問題を起こす事はない。

 強いて言うなら、九校戦出場選手へ解放された練習場を他校に先取りされてしまった、という程度の問題しかない。先取りされたといっても、占拠された訳でもないのだから、本当に強いて言うならの問題だ。

 ともかく、第一高九校戦メンバーは自身に割り当てられた宿舎の自室へ荷物を運び込み、それからは各々過ごす。

 

 そうして、時刻は懇親会の開催へと至る。

 十六夜も当然参加するが、学校代表にエンブレムとも言える八枚花弁の刺繍が施されていないブレザーを着させる訳には行かないので、学校側から刺繍された予備のブレザーが貸し与えられている。ちなみに、達也も貸し与えられているのだが、2人そろってサイズが微妙に合っていないと愚痴っていた。

 

 閑話休題。

 

 それで、懇親会という各校メンバー合わせて400人超の人混みに十六夜が混ざっているのだが――

 

「大丈夫?十六夜」

 

「……ダイジョバない」

 

――視線に敏感な十六夜は本編と同様に調子を崩していた。

 今は丁度、十六夜が体調を崩すだろうと予想していた雫に介抱されている。

 

「はい、酔い止め。水も」

 

「……あざす」

 

 酔いに近い症状であるため有効であると、雫から酔い止めを受け取る十六夜。一緒に貰った水で、それを胃へと流し込んだ。

 

「……少しは良くなったかな」

 

「そんな即効性の薬じゃない」

 

「プラシーボ、プラシーボ。……とにかく、だ。もう大丈夫だから、雫はほのかさんの下へ行ってやりなさい」

 

「……うん」

 

 まだ青白い顔(元々色白だが)をしている十六夜の様子に後ろ髪を引かれるが、雫は自身のせいでより視線を集めているだろうと、ここから離れる事にする。

 そんな彼女が何度も振り返るのを、十六夜は手を振りながら送り出した。後は、パーティー会場の隅で1人で項垂れる色白白髪赤目という、奇妙な光景を作り出すだけだ。

 どう足掻いても人目を引くのは仕方がない。そう割り切っている十六夜は向けられる好奇の視線に耐えながら、時間が過ぎ去るのをじっと待つ。

 ただ、そんな人目を引く光景を作っているのだから、興味を持って歩み寄ってくる者も、1人くらいは出るものだ。

 しかも、項垂れて下がっている十六夜の視線へ、屈んで無理矢理映る形で。

 

「……おぬし、アルビノか?」

 

「……アルビノではない。遺伝子異常でもない。特殊体質と言うか、特殊な魔法資質だ」

 

 初手でアルビノか聞いてくる少女。着ている制服からして、第三高の女子生徒だ。

 初手でそれを聞くのは不躾だとか、古風な喋り方だとか、そういう指摘をする精神的余裕は十六夜にはなかった。ついでに、明るい振る舞いを取り繕う余裕もない。

 

「色白白髪赤目になる魔法資質?そんなモノがあるのかのう」

 

「無意識に紫外線を反射してるんだ。だから、廻り巡ってメラニン色素が作られない」

 

「大分端折りおったが。なるほど、相分かった。常に紫外線を反射しておるとは、よもや、おぬしは名のある家の者か?」

 

「いや、突然変異(ミュータント)*1だ。血縁者に魔法師は誰もいない」

 

「ほう、そうかそうか。それは難儀じゃのう」

 

 余裕がないため腹芸もできず、十六夜はただただ少女の疑問に素直に答えていく。

 

「ところで、名前は?」

 

「……北山十六夜」

 

「ほう、姓ではなく名が十六夜なのか」

 

「誕生日が2079年9月11日で、旧暦に変換すると8月16日で十六夜の日なんだ。そこからまんま取って名付けたらしい。……『十六夜家』があるから、少し紛らわしいとは俺も思ってる」

 

「そうじゃのう。しかし、良い名じゃとわしは思うぞ?」

 

「……どーも」

 

 さりげなく名前の由来を語りつつ、十六夜は少女との会話で少しずつ調子を取り戻していく。

 

「こっちは名乗った事だし、そちらの名前を伺いましょうか、レディー」

 

「おっと、名乗り忘れておったか。わしの名は―――」

 

沓子(とうこ)、こんな所にいたのね」

 

 少女の自己紹介を遮って現れるのは、少女の友達2人。

 その友達が名を読んだ事で、十六夜は図らずも少女が『沓子』という名前である事を知る。その名前を原作知識と照会するが、ヒットなし。スピンオフか、あるいは劇場版かのキャラと当たりは付けた。

 

「あら、……お友達?」

 

 沓子の友達、鋭い目じりに強気なイメージを与えるその少女は、十六夜の特異な容姿に一瞬言葉を詰まらせるも、動揺するような無礼はしない。

 

「友達ではないさ。この懇親会での一期一会だな」

 

「『一会』とは、悲しい事を言うのう」

 

「会う機会がこれ以降あるかは、今後次第だろうな。……えーと、とりあえず。北山十六夜だ。この容姿は遺伝子異常とかではないし、目立つ以上の不都合はないから気にしないでくれ。詳細は沓子(その子)にちょっと話してあるから、そっちに頼む。後、壁際で項垂れてたのは人混みで調子を崩したってだけだ。人混みが大の苦手でね」

 

 どうせまた聞かれるだろうと、十六夜は自身の容姿についてと、項垂れていた理由を矢継ぎ早に語った。

 

「うむ!では改めて。わしは四十九院(つくしいん)沓子。こっちの友人が、きつそうな方が一色(いっしき)愛梨(あいり)、静かそうな方が十七夜(かのう)(しおり)じゃ」

 

「誰が『きつそう』よ」

 

 友人たちを紹介しつつ、愛梨と戯れる沓子。仲の良さは一目瞭然だろう。

 

「四十九院に、十七夜。そして、一色か。名だたるナンバーズが揃い踏みで」

 

 彼女らの名前を聞き及び、絶対オリキャラではないなとメタを張る十六夜。九校戦での登場という事で、原作『劣等生』では語られなかった雫たちの対戦相手がスピンオフで補完されたのだろうと推測する。

 実際、彼女らは『魔法科高校の劣等生』スピンオフ・コミック、『魔法科高校の優等生』登場キャラクターである。

 

「そういう貴方こそ。『北山』って、鳴瀬(なるせ)紅音さんが嫁いだ家じゃないかしら?」

 

 鳴瀬紅音。雫の母親・北山紅音の旧名である。現役時代は十師族に匹敵するとまで言わしめた一流の魔法師であり、一色が知っていてもおかしくない程の名声があった。嫁ぎ先まで把握しているのは、さすが師補十八家・一色の情報網と賞賛すべきか、もしかして一色家は紅音の囲い込みに動いていた家の1つかと邪推すべきか。

 ちなみに、十六夜は後者で考えている。何処の家だって、まだ唾の付いていない有力な魔法師は欲しいものだ。

 

「ほう、あの鳴瀬女史の。……いや、待て。血縁者に魔法師はいないと言っておったではないか」

 

「俺はその『北山』に保護されただけで、血縁者じゃないんだよ。沖縄海戦のおり、俺は1人になったからな」

 

 大亜軍を抜けて1人になった。何も嘘は付いていない。本編同様、相変わらずの詐術である。

 

「あ、それは……すまん」

 

 沓子は見事十六夜の詐術に嵌まり、沖縄海戦で家族を亡くしたものと思い込む。

 

「そんな気にせんでも良いさ。裕福な北山に迎え入れられて、むしろ元より幸せになれたかもしれんし」

 

「……家族とは、仲が悪かったの?」

 

 沓子を慰めれば、意外にも栞が踏み込んでくる。彼女は、家族との不仲で絶縁し、『十七夜家』の養女となった経歴があるのだ。だから、十六夜の物言い、まるで家族仲が悪かったように聞こえるそれに自身の過去を重ね、自然と興味を抱いたのである。

 

「この通りの容姿だし、突然変異(ミュータント)だからなぁ、俺」

 

「……そう」

 

 自身の何が栞の興味を引いたのか分かっていない十六夜だが、彼女の誤解をあえて舗装するように騙った。

 色白白髪赤目の突然変異(ミュータント)とくれば、家族仲が悪かったというのは想像に難くない。もちろん、栞もそう想像してしまう。

 

「なぁに、『捨てる神あれば拾う神あり』だ。北山に拾われたおかげで、俺は九校戦に選手として出られる程すくすく育ったんだぜ?幸福なもんだろうよ」

 

「……そうね」

 

 十六夜のそのポジティブシンキング。栞自身、親と別れたおかげで幸せを掴めているのだから、その考えには同調できた。騙されているのだから、『できてしまった』と言う方が適切かもしれないが。

 

「貴方、エンジニアじゃなくて選手なの?」

 

 少し重い話題が続いているので、愛梨はあえて話題を変える。

 突然変異(ミュータント)自体昨今珍しくなくなってきたとはいえ、魔法資質を得た一世代目が強力な魔法資質を持っている事は珍しい。

 だから愛梨は十六夜をエンジニアだろうと予測していたが外した。その事を丁度良い話題として焦点を当てたのだ。

 

「エンジニアと兼任だよ。それと、BS魔法師でな。得意魔法以外はダメダメなんだ。だから、どっちかって言うと魔工技師志望なんだよ」

 

「……」

 

「……どうした?」

 

 急に仏頂面になる愛梨。何か地雷でも踏んだかと、十六夜は嫌な予感を覚えた。

 

「貴方、己を卑下しすぎではない?」

 

「……え?」

 

突然変異(ミュータント)だのBS魔法師だのと、自身を蔑む言葉ばかり並び立て、あまつさえ得意魔法以外はダメだと悪い点を上げるばかり。貴方は自身が置かれる立場が分かっているの?九校戦の選手に選ばれる事は、大変名誉な事なのよ?その座を欲して足掻いた者がどれ程いるか。そんな彼らを押し退けて座ったというのに、そんな貴方が自身を過小評価するのは彼らへの侮辱だわ」

 

「お、おう?」

 

「エンジニアと兼任なのも大変名誉な事よ?魔法師の腕だけではなく、技術者の腕も評価されているという事。兼任させる程となれば、貴方を無理させてでもその技術力を発揮させてほしかったという事にもなるわ。分かる?」

 

「分かった!分かったから!」

 

「何が分かったのか言ってみなさい!」

 

「魔法師としても技術者としても周りから認められてこの場にいるんだから、自己評価を改めろって事だろ!?」

 

「……分かったなら良いわ」

 

「……ほ」

 

 愛梨から説教された十六夜。彼女が物理的に迫ってくる恐怖から解放され、思わず物理的に胸を撫で下ろす。

 そんな光景を、沓子と栞は目を点にして拝んでいた。

 

「……珍しい事もあるものじゃ。愛梨が親身に説法するなんてのう。もしや、惚れたか?」

 

 そう。沓子がそう言うように、2人は愛梨の説教する姿に驚いていたのだ。愛梨は一色家としての誇りがあってか、普段は周りに素っ気ない。なのに説教までし出したとなれば、思春期の乙女たちなら恋愛沙汰を疑うだろう。

 

「こういう奴が嫌いってだけよ!後、惚れたって言うなら沓子の方でしょう?私たちからいつの間にか離れて、この人の下に向かったんだから」

 

「ただ面白そうな者がいると、交流を図っただけじゃ。ここはそういう場じゃからな。嫌じゃのう、なんでもかんでも恋愛に結び付けるのは」

 

「貴女から始めたんでしょうが!」

 

「2人とも、騒ぐのはその辺りで。周りに見られてるわ」

 

 愛梨と沓子のじゃれ合いがヒートアップしそうなところで、一番冷静な栞が制止する。周りに見られているという事で、それを自覚した愛梨はばつが悪そうに押し黙り、沓子を睨んだ。その沓子は何処吹く風で、今にも口笛を吹き鳴らしそうだ。

 

「北山十六夜さん、騒がせてごめんなさい。私たちはそろそろ行くわ」

 

「いや、綺麗なお嬢様方とのおしゃべりだ、充分楽しませてもらったよ。機会があったら、また是非とも」

 

「じゃあのう」

 

「……失礼するわ」

 

 栞から別れを切り出し、十六夜はそれに応じた。長く引き留めるのは悪いと思っていたのだ。

 その別れに合わせ、沓子と愛梨もそれぞれ別れを告げる。

 少し姦しかく、変に注目を集めていた場は、こうして正常化された。

 

「十六夜、あの子たち、誰?」

 

「……いや、誰って」

 

 雫から微妙に詰問される事となったのは、ご愛敬としておこう。

 

 余談だが、この後原作同様、懇親会の締めとして九島(くどう)(れつ)が手品を披露したのだが。本編のように烈が十六夜へ興味を抱いている事はなく、特に好奇の視線を投げかけられなかったため、十六夜は手品に騙された多数の1人に紛れ込む事ができたのだった。

*1
血縁者に魔法師がいないにも拘らず、魔法資質を獲得した者を指す隠語。公的放送NGワード。原作でもこんな単語があった気がするんだが、筆者は見つけられませんでした。

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