九校戦開始となる本日。既に達也と幹比古が裏工作を仕掛けていた『
今日に行われる競技はスピード・シューティング本戦の予選~決勝戦、バトル・ボード本戦の予選。達也も十六夜も、本戦の選手は担当していないので、どちらも今日は観客気分が強い。
その観客気分のまま、2人とも午前は達也一団と共に真由美と摩利の試合を観戦し、彼女らの難なく予選突破していく姿を見納めた。
そうして、達也は午後に皆とスピード・シューティング本戦の準決勝・決勝を観戦すると約束しつつ、一旦単独行動を取る。
その理由は、昨夜の続きをするためだった。
「来たか。まぁ、掛けろ」
九校戦選手たちが宿舎として一部を貸与されている軍設備、その選手たちに貸与されていない部分。本職軍人以外立ち入り禁止の一室、高級士官用客間にて、達也は国防軍少佐である
まぁ、原作通り、昨夜捕まえた賊を風間擁する独立魔装大隊・101旅団に引き渡したため、引き取ってくれたお礼、並びにその大隊に所属する非正規士官・特尉として挨拶しに、改めて彼らの下へ伺ったのである。伺うと言っても、相手の方が待っていた形だが。
とかく、達也はそこに集っていた大隊の隊員たち、
「高校生の大会にCADエンジニアとしてあの『シルバー』を迎えているのは、いささかイカサマな気がするんだが」
「真田大尉。お忘れかもしれませんが、その『シルバー』も高校生ですよ?」
「いや、そうなんだけどね。レベルが違い過ぎるだろう?」
天才魔工技師『トーラス・シルバー』、その片割れである達也が九校戦に出ている事を話題にする真田と藤林。その話題は皆の笑いを攫っていた。
そこに、1人笑っていなかった達也が更なる話題を提供する。
「確かに、今回の第一高はかなり卑怯かもしれません。何せ、『ノーザン・ダンサー』も参戦しているのですから」
達也の提供した話題に、大隊の皆が瞠目する。『ノーザン・ダンサー』の正体について、大隊の皆は達也が知っていると思っていなかったのだ。
それに、その正体たる十六夜について、101旅団は浅くない繋がりがあるため、なおさら驚かされている。ともすれば、そこまで知られているのかも、と。
「……どうやら、皆さんも『ノーザン・ダンサー』の正体についてご存知のようですね」
「……特尉、君はどこまで知っている?」
「『ノーザン・ダンサー』はハードウェア担当、ソフトウェア担当、アイデア担当からなるCAD開発グループであり、そのアイデア担当が北山十六夜である事。同時に、北山十六夜が大亜軍の元少年兵にして脱走兵である事も存じています」
「……八雲師匠が話したのか」
「後者はそうです。前者は雑談している際に零してくれました。まぁ、本人にとってそこまで大した秘密ではないようで、ボロと言う程ではないでしょうが」
「……そうか」
風間は達也が十六夜についてどこまで知っているかを追求し、予想以上に知られている事を確認した。おかげで、彼は肩を落とす事になった。何処か、胸を撫で下ろすようでもあったが。
「……北山十六夜は沖縄海戦で脱走した折、日本国防軍へ投降してきたのだが。その際の拘留に我々大隊も関わった」
「なるほど、少佐と彼の接点はそこでしたか。納得しました」
達也は101旅団と十六夜の接点が気になっていたが、風間が意を決して明かしてくれたため、労せず知る事ができた。
沖縄海戦の時、101旅団が防衛に参加していたのは既知であり、十六夜の脱走の時期と場所が合致するため、その明かされた情報に達也は齟齬を感じない。故に、すんなり真実として呑み込んだ。風間の胸を撫で下ろした様子が引っかかるが。
「それにしても、彼も参加したのか……。達也君が言ってたように、今回は他校が可哀想だな。『トーラス・シルバー』と『ノーザン・ダンサー』相手だと、CADの性能差でどうしても不利になるだろう」
「面白くなるとは思いますがね。『ノーザン・ダンサー』のアイデア担当がその発想力を遺憾なく発揮するのですから」
「ああ、それは確かに面白くなりそうだ。CADのスペックが制限された上で、稀代の天才魔工技師たちはどんな奇策に出るのかな」
「俺にも伏せられていますので。十六夜がどのようなCADを持ち出してくるかは、まさにお楽しみと言ったところでしょう」
「いや、彼だけでなく君にも言ってるんだが」
真田と達也が第一高のエンジニアについて盛り上がる。
他もその談笑に交ざったり耳を傾けたりで、軍隊とは思えない朗らかな時間が流れていくのだった。
◇◆◇
達也が101旅団と交流しているその裏で、話題になっていた十六夜も達也一団と別れてCADの整備をしていた。
「傍から見てもすごいCADだなぁ、これ」
同じ作業車両で同じくCAD整備をしていた阿賀沢。彼は十六夜が整備するCADを話題として触れた。
起動式プログラミング部の部長としてCADには一般より詳しいのだが、その知見を以てしても、十六夜が持ってきたCADには興味が引かれていたのだ。
「このショットガンみたいなの、NWCの起動式ストレージ・カートリッジ化技術が使われてるんだよな」
「そうっすよ。雫のお父さんがあそこの出資者で、俺自身もそれ経由で交流があるので、ちょっとそこら辺の縁を使って作ってもらいました」
傍らに立てかけられたCAD、レバーアクション・ショットガンのような形をしたそれ*1について、阿賀沢と十六夜は談笑する。
「特注品だろ、これ。縁があるって言っても良く作ってもらえたな」
「九校戦用にスペック抑えましたけど、実はそれ以外まるまるNWCが取り扱ってる商品らしいっすよ?これ」
「え?こんなショットガンみたいなの、携帯に向いてないから商品にならんだろ」
「ええ、だから市場にじゃなくて軍に卸してるそうです」
携帯ができないと言うだけで、9個以上の魔法が使える特化型CADとなれば有用性は充分だ。だからこそ、ショットガンと同等程度の携帯性があれば充分な軍には需要があり、一部の部隊がその商品を採用している。
「軍需品って訳か。……そっちのもそうなのか?」
阿賀沢は、十六夜が整備している最中のCADを指差す。そのCADはアサルトライフルのような形をしており、さらに、フォアグリップでも後付けできそうなレールが取り付けられていた。
「あ、こっちはまだ何処にも卸してない試作品らしいです。丁度新技術を試してみたいってんで、九校戦用に作ってもらいました」
そう。こちらは試作品。十六夜がアイデアを出したばかりで、まだ商品化に至っていない新作CADだった。
「し、新技術の試作品って……。よく作ってもらえたな……」
「何事も権力ってやつですよ。出資者には逆らえないんですねぇ、NWCみたいな中小企業は特に」
そんな新作を卸してもらえた理由を、十六夜はNWC出資者にして雫の父である潮になすった。本当は自分がNWCの関係者である事が理由なのだが、自身が関係者でなくても潮なら卸してもらっていただろうと、勝手に想像する。十六夜がNWCに関わってなかったら、企業の存続すら危ういのだが、そんな事十六夜は知らない。
「権力ってやつか……。……ところで、どんな性能なんだ?」
「お楽しみっすよ。雫がアイス・ピラーズ・ブレイクでの切り札として使う予定なんで、期待しててくださいねー」
阿賀沢は当然その特異なCADの性能が気になって訊ねたのだが、十六夜の口は固く、同じ作業車両の作業仲間にも秘密にする。
どうしても秘密にしておきたいのだ。少なくとも、アイス・ピラーズ・ブレイクで雫と深雪が当たるまで。
それが、対深雪戦の切り札なのだから。
「……勝たせるんだ、彼女を」
戦う前から敗戦濃厚の試合を考え、十六夜は意気込むのだった。
偏に、雫の望みを叶えるため、否、己の贖罪を果たすために。