九校戦2日目。本日の行われる競技はクラウド・ボール本戦の予選~決勝、アイス・ピラーズ・ブレイク本戦の予選。
達也と十六夜はまだまだ観客気分で、本日も観戦する。2人の観客気分が抜けるのは、新人戦が開始される明後日かその前日、あるいは、事故が起こった瞬間だろう。まぁ、十六夜は原作知識で事故が起こる事を知っているし、雫に害が及ばない限りスルーを決め込むつもりなので、事故が起こったとしても気分は変わらないだろうが。
ともかく、達也と十六夜は観客気分で達也一団と共に本日の競技を観戦する。試合内容については、原作と同じなので割愛しよう。
九校戦を学生として楽しんだ達也一団with十六夜。そんな彼らは観戦を終えた後、普通の学生とは違う楽しみの時間を過ごす事になる。
「へぇ、これ武装一体型の
達也が試作したと言う武装一体型CAD、刀剣の形をした、後に『
摩利がバトル・ボードでボードと自身を硬化魔法によって相対位置を固定していたのだが、達也はそれに着想を得て作ったのがそのCADだと語った。
物質的に連続していないもの同士がその相対位置を固定できるなら、物理的に連続していない物同士の相対位置を固定する事もできるだろうと。
端的に言えば、硬化魔法によって刀身を浮かす事ができるだろうと。
という事で、達也一団の中で最も硬化魔法を得意とするレオがそのCADのテスターとなり、無事硬化魔法によって刀身を浮かす事に成功した。
「よくこんな事思い付いたな、達也」
「十六夜も思い付いてたと思うぞ」
驚くべき発想をレオが称賛しているのに、当の達也は何故か十六夜へとその称賛を分散させにかかる。
「いや、まぁ。刀身を浮かすのは考えてたけど、普段はどうやって分離する刀身を繋げとくもんかなぁって。電流反応型の形状記憶合金を留め金にするってのは、俺には思い付かんかったんだ」
原作知識で既知だった事をおくびにも出さず、十六夜は言葉を取り繕った。ただ、刀身を繋げておく方法は純粋に忘れていたので、その言葉に嘘はない。
「じゃあ、この接合方法を知った上で、何か思い付く事はないか?」
達也は十六夜の発想力に純粋な興味を抱いているため、十六夜の思い付きを聞き出そうとした。
「うーん、ぱっと思い付いたのは2つかな?実現性は加味してないが」
「え?2つも?」
「うん。十六夜ならそのくらい思い付く」
「さすがは、と言ったところか」
「まだ思い付きを発表してないんですけどねぇ!?」
ほのか、雫、達也と3人から無駄に持ち上げられる十六夜。思い付きを話しづらい雰囲気が無駄に形成される。
「それで?」
「え、マジでこの流れで発表させる気なん?……まぁ、もう分かったよ」
達也に催促され、周りから期待の眼差しを向けられて十六夜は退くに退けなくなった。
「まず1つは、だな。分離というか伸縮スピードをもっと早めて、その伸縮させた刀身で刺突するっていうのだな」
刃が伸びる事から、あえて打撃あるいは斬撃武器として使うのではなく、刺突武器として使う案。
着想はぶっちゃけ言うと『
とかく、『小通連』も伸縮スピードを上げれば、完全再現は無理でも充分実戦に耐え得る性能にはなるだろう、という発想である。
「面白いな、リーチの増大より伸縮に着目したのか。一見リーチが売りに見せてからの刺突となれば、意表も突けるだろうが。実戦に耐え得る伸縮スピードとなると、使用者の魔法力も問われるな」
「アンタじゃ無理だって」
「誰もそうは言ってねぇだろが!」
達也が十六夜の発想に感嘆としている横で、エリカとレオがじゃれ合う。エリカとレオはいつもの事なので、皆苦笑を浮かべるだけだ。
「もう1つは、接合方法が関係なくなってくるんだが。蛇腹剣が作れるんじゃないかって」
「蛇腹剣?」
「ちょい待て。……ほいこれ」
達也には聞き慣れない名前だったようで、十六夜は携帯端末で画像を検索した。フィクションにはいくらでも転がっている武器なので、画像を見つけるのにそう手間取る事はない。
そうして検索で出てきた画像を見せれば、達也だけではなく皆が端末の画面を覗き込む。
「なるほど。複数の刃をワイヤーで繋いでいる武器か」
「そうだ。フィクションだと鞭と剣の形態に適宜変形させてるが、硬化魔法だと単純にリーチを伸ばした剣としか使えないだろうな。それでも、その試作機より分離する刀身間の殺傷力がない空間を少なくできる。ワイヤー自体に刃を仕込めば、伸ばした刀身全体で切れるって寸法さ」
「ふむ。この試作機に使っている接合方法が使えなくなるが。それなら最初から通常の剣の状態で硬化魔法をかけて、刀身を伸ばす際はそれ用の硬化魔法に切り替えれば良いな。普段は鞘に収めていれば問題ないだろう」
「あ、鞘で思い付いた。こういうのもできるんじゃないか?」
達也からの寸評を受けている最中、新たな思い付きを発表するために十六夜はまた画像を検索し、達也に見せる。
その画像とは、『
「この武器、鞘を付けたままなら大剣として、鞘から抜けば長剣として使えるんだよ。鞘と剣は硬化魔法で相対座標を固定すれば良いだろ?……いや待て、そうなるとこっちもできるか。こっちは鞘がハンマーみたいになっててな。これなら斬撃と打撃で使い分けできる」
「……なるほど。これは企業にその発想力を買われる訳だ」
次にまたまた検索してみせた画像が『Blood borne』の『協会の石鎚』、先程とは違い、こっちは鞘がハンマーになっている武器だ。
新たな発想の発表中にさらに新たな発想。十六夜から湧き出るその発想群。これには達也も舌を巻く思いだった。これだけポンポンとアイデアが出てくるなら、企業がアイデア出しとして正式に雇用するのもおかしくはないと、達也は納得する。
「ところで十六夜。アイデアをそう打ち明けてしまって良かったのか?素直に告白すると、俺は知り合いのCAD工房にそのアイデアを流すぞ?」
「……ま、良いんじゃないかな?
「……後で知り合いの工房からNWCに契約書を送らせる。ちゃんと契約内容を読み込んで、周りと相談した上で署名するか決めてくれ」
CADメーカーで働いている人間のアイデア、それも割と商品価値がありそうなそれを聞いて作ってしまうのは、いわば技術盗用だ。本人の言質が取れたのだが、後々裁判沙汰になる事を達也は恐れた。
達也の言う『知り合いの工房』が木端な工房ではなく、『フォア・リーブズ・テクノロジー』という一大CADメーカーなのも問題だ。大企業が技術盗用紛いをしたとなれば、裁判沙汰になる可能性は高いし、無罪を勝ち取れたとしても要らぬ風評被害を買いかねない。
よって、達也は自身の言う工房がFLT*2であると明かす事を決意しつつ、正式な手続きを踏んだ上で十六夜のアイデアを買おうとする。
「……すまん、ありがと」
原作知識で達也の言う工房がFLTである事を知っている十六夜。大企業に自身のアイデアを無償提供しかけていた事に、「やっべぇ、後でNWCの皆に怒られるかなぁ」と内心焦っていた彼なのだが、今さら慌てて取り消すのは自身が達也の秘密を知っていると疑われかねない。だからこそ、達也のその良識と常識がある対応へ純粋な感謝を告げた。
こうして、密かにCADメーカーへ勤める両者によって、地味にCADメーカー間の諍いの種を潰すのだった。
◇◇◇
九校戦3日目。本日の行われる競技はバトル・ボード本戦の準決勝~決勝、アイス・ピラーズ・ブレイク本戦の予選~決勝。
明日から新人戦が始まるし、その競技はスピード・シューティング新人戦の予選~決勝、バトル・ボード新人戦の予選。
スピード・シューティング新人戦の方は選手のCADを担当しながら自身も選手として出場するという、さりげなくスケジュールが過密している。よって、十六夜はスケジュールの密度を少しでも下げようと前日から準備に取り掛かっていた。なので、今日は観戦せず、作業車両へ詰めっぱなしである。
事故が起こる予定であるバトル・ボード本戦の準決勝から離れるには
そうして、CAD整備を続けて少し。十六夜は作業車両までわざわざ来た雫の口から、摩利がレース中に第七高選手と衝突事故に遭った事を聞くのだった。
「よう、達也。こんな夜にどうした?」
九校戦が本日の日程を消化し終えた夕暮れ時。結局十六夜はどの試合も観戦せずにCADに噛り付いていた訳だが、さすがに充分整備したので、後はゆっくりしようと構えていた。そんなところで、達也に呼び出されたのである。
「渡辺先輩と七高選手が衝突した事故についてだ。まず、あれは第三者の介入があったという前提で話がしたい」
「と、突拍子もないが……。ま、検証はして、その可能性が高いって結論が出たんだろう?じゃあ、素直にその前提で行こうじゃないか」
まさか件の事故について、一対一の話し合いを達也から持ちかけられるとは思っていなかった十六夜。でも、純粋に達也が自身とどんな話がしたいのか気になるので、その話の席に着く。
「もし、今回の衝突事故と、九校戦会場に向かう際のあのオフロード車が突っ込んできた事。それら2つが同一の目的で行われていた場合、その妨害行為を仕掛けてきている相手は、次に誰を狙うと思う?」
達也が持ちだした話は、なんと、次の被害者予想だった。達也は次に敵の標的となる対象の特定に、十六夜の推測を用いようとしているのだ。
「あの意図的に突っ込んできたのが、
「そうだ。あの時お前は、いくつかの可能性を推測しているようだった。だから、バトル・ボードの妨害も踏まえての、次の相手の行動を考えてほしい」
そう。達也は十六夜の思考力を買っている。第一高九校戦メンバーへ最初に襲い掛かった妨害工作の時点で、十六夜は
ついでにではあるが、達也はCAD開発の発想力もその思考力の一端だと捉えている。
悲しきかな、どれも前世がある故の産物。片や原作知識、片や無駄に培ったオタク知識によるモノなのだが。
「……。風紀委員長、ミラージ・バット本戦にも出場する予定だったよな」
そういうキャラを求められている事を薄々感じ取った十六夜は、自身の前世が見透かされる万が一の事態に内心冷や冷やしながら、その事態を避けつつ求めに応じる体勢で臨む。
「そうだな」
「……彼女1人負傷すると、バトル・ボードもミラージ・バットも、第一高は優勝を逃す事になる。そうなれば、第一高が総合優勝を逃すだろう」
「一高の有力選手を棄権に追い込む事で、一高を総合優勝させない目論みか。だが、それだったら七草先輩と十文字先輩は狙われていない?」
「……十師族直系ともなれば、妨害にも即座に対処されると思った。あるいは、十師族を敵に回す事を嫌った」
十六夜は言葉を選び、用いる原作知識を選び、思考力のあるキャラを装っていく。
「となると、あの2人は狙われないか」
「推測が当たってればな。だから、次狙われるのは十師族じゃない有力選手。モノリス・コード本戦は、さすがに会頭以外を棄権に追い込むのは、妨害工作があからさまになるからやらないだろうし、1年生は前情報が少ないから狙われないだろう。うーん、そう考えると、意外ともう狙い目がないな。強いて上げるなら、ミラージ・バット本戦に出場予定のもう1人、くらいか?」
「なるほど。敵は渡辺先輩を負傷させられた時点で、目的をほぼ達成したのか」
「そうなるな。後は、
「そうか。ありがとう、参考になった」
達也は十六夜が上げた可能性を全てあり得るものとして、自身の推測の材料にする。
「ま、本当に参考程度にな。俺の推測全部外れて、深雪さんだけピンポイントで狙われる、なんて事もあり得なくはないだろうからよ」
「それはあり得ないだろう。お前が言った通り、前評判も分からない深雪が狙われるとは考えづらい。アイス・ピラーズ・ブレイク新人戦で実力を見せたとしても、次に出場するのはミラージ・バット新人戦。新人戦は本戦より得点が少ないから、狙っても利益が少ない。深雪が渡辺先輩の代わりとしてミラージ・バット本戦に出場しない限り、狙われる事はないだろう」
「……そうだな」
『深雪が渡辺先輩の代わりとしてミラージ・バット本戦に出場しない限り』というフラグと言うか予言。それが達也によってなされた事に、十六夜は「うわぁ……、フラグが立ったぁ……」と頭に過る訳だが、おくびにも出さないように努めるのだった。
ちなみにこの後、達也と深雪は真由美に呼び出され、深雪のミラージ・バット本戦出場が決まった。