魔法科高校の編輯人if~枝世界~   作:霓霞霖

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22 雉撃ちは死語ってより専門用語だと思ってる。

 夏季休暇も終わり、新学期が始まっている第一高校。すぐに生徒会選挙というイベントがあったのだが、十六夜が関与できるポイントも関与したいポイントもないので、彼はスルーを決め込んだ。

 なので、新生生徒会発足は原作通り、生徒会長が中条あずさ、副会長が司波深雪、書記が光井ほのか、会計が五十里啓である。ちなみに達也は風紀委員に残留。来年度から生徒会へ移籍するという事で、現・風紀委員長である千代田花音と合意している。一応、原作通りだ。

 そんな生徒会と風紀委員の間で交渉が行われて幾ばくか。さすが原作主人公とばかりに彼の周りはイベントが降って湧く。

 

「へぇ。達也、論文コンペの代表に選ばれたのか」

 

「まぁな」

 

 達也一団行きつけの喫茶店での談笑中、達也が論文コンペに参加する事を明かした。反応する十六夜も、明かした達也も、反応が薄い。

 

「……反応薄すぎない?2人」

 

「うん?……ああ、まぁ、凄い事だろうけど。祝える事でもねぇだろうし」

 

「そうだな」

 

 各校から3人しか選出されない論文コンペの代表だというのに、その2人の反応の薄さ。エリカはついつい流せず指摘してしまった。

 だが、十六夜にも達也にも反応が薄い理由がちゃんとある。

 

「論文コンペメンバーの選考って、なんか事前審査があったろ。達也がその審査に応募してるような話はしてなかったから、おおよそ欠員が出て、急遽代役に選ばれたんじゃないかって。だとしたら面倒事でしかないだろ」

 

「……十六夜の予想通りだ。コンペメンバーに欠員が出て、その代役として俺が抜擢された。審査で次点だった人にすれば良いと思ったが、どうにもメンバー代表者である市原先輩とは方向性が違うらしく、今回発表するテーマと似たような個人研究をしている俺を抜擢したかったらしい」

 

 十六夜が面倒事である事を言い当てると、達也はその十六夜の勘の良さに一瞬だけ警戒心を強めた。が、本当に一瞬だけに留め、面倒事である理由を詳細に開示した。

 

「俺的に、論文コンペに出せるようなテーマを個人研究してる事に驚きなんだが?」

 

「あくまで似ている、被る点があるだけだ。厳密には違うモノだよ」

 

 『相変わらずすげぇ原作主人公だな』という感嘆を多少漏らす十六夜に、一応訂正を挿んでおく達也。

 確かに、達也の個人研究は今回市原が発表しようとしていた論文の技術をより発展させた技術なので違っていたりする。なので、達也の訂正は間違いではない。

 とかく。達也一団はその論文コンペ、正確に言えば達也を褒め称える話題で終始するのだった。

 

◇◇◇

 

 達也が論文コンペで忙しいという事で、昼食は達也一団で集まらなくなった事に合わせ、ほのかが生徒会入りして彼女も忙しくなった。そのため、珍しく十六夜と雫の2人だけで、校庭の人気が少ないところで弁当をつついていた。

 ちなみに、何か良からぬ事をするために人気(ひとけ)を避けているのではなく、十六夜の大食漢が注目を浴びるのを防ぐためにそうしている。達也一団で昼食を取る時は、こっそり高カロリー飲料ゼリーを飲んで摂取カロリーを上げているのだが、食事の味気がなくなるのでできれば控えたい、というのが十六夜の思いである。

 

 閑話休題。

 

「ねぇ、貴方」

 

 弁当をつつき合っている時に、雫が十六夜を『貴方』と呼ぶ。一見突然『貴方』呼びだが、実はそうではない。

 

「……雫さん?その『貴方』呼びは止めてもらえませんかねぇ。それのせいで最近色んな視線を浴びるんですが。主に女子からは黄色の、男子からは緑の」

 

 そう。最近雫は所構わず十六夜を『貴方』呼びしているのだ。おまけに、手を握って登校する光景も目撃されている。雫の恋路を知る女子はようやく恋が叶ったのかと喚き立ち、男子からは雫の恋路を暗に察している人も構わず嫉妬の視線を突き刺している。五十里啓と千代田花音のバカップルはみんな見て見ぬ振りするのに。

 

「だって、『十六夜』って呼ぶと、貴方は『北山十六夜』のつもりになっちゃう」

 

 雫が何故『貴方』呼びをしているのかと言えば、そういう事だ。雫は、『北山十六夜』の奥にいる人間、『●●』を引き摺り出そうとしている。雫はまだ『●●』が前世由来である事まで理解していないが、彼が『北山十六夜』という役を演じて隠そうとしている本性がある事は理解しているのだ。

 

「……いや、別にそれが完全演技って訳じゃないんだが」

 

「一部演技って事だよね。じゃあ、やっぱり駄目」

 

 あの手この手ではぐらかしてくる彼を取り合うつもりは雫にはなかった。彼女は絶対に彼を逃す気はない。逃げ道も作らせない。

 

「……せめて別の呼び方にしません?」

 

「何か貴方を示す言葉があるの?」

 

「……『天王寺』、とか?」

 

「取って付けたヤツ。あるいは何かからの引用。不採用」

 

 リライターである事から連想して思い浮かんだ『Rewrite』主人公の名前。彼はそれを口にしたが、雫には即座に何かの連想であり、彼本人を指すモノではない事を見抜かれ、切って捨てられた。

 

「ちゃんと自身を指したネーミングをしてくれれば、そっちで呼ぶ」

 

「……血袋」

 

「ぶん殴るよ」

 

「なんで!?」

 

 彼は雫の注文に答えた名前を出したのだが、雫がその名前を受け入れるはずもなかった。

 

「自己評価、低いんだね。『北山十六夜』として手に入れたステータスは、自分のモノだって認識できない?」

 

 『ぶん殴るよ』と言った理由はそこにある。自身の得た功績を受け入れないというあまりな態度には、さすがの雫も苛立っていた。一周回って憐れんでしまうのだが。

 

「……オンラインゲームでの廃人プレイ、みたいなもんだ。リアルを犠牲にして得たオンラインゲームのステータスなんて、リアルじゃ自慢できない」

 

「貴方のリアルって、何?」

 

「……」

 

 根底がおかしかった。如何に現実感がないと言っても、その世界で生きている事と今生きる自分を切り離せる訳がない。

 よって、彼には今生きる自分とは別の自分があると、雫は推測している。

 実際、その推測は真実を掠めているため、彼は押し黙ってしまった。

 

「……人気(ひとけ)がないとは言え、さ、学校で話すような事じゃねぇんだ」

 

「じゃあ、家で訊いたら話してくれる?」

 

「……分かった。ここで話せるだけは話す」

 

 逃げられないとついぞ観念した彼は、多少だが固い口を解す。

 

「俺のこの魔法資質は、天然モノじゃないんだ」

 

「……元の髪、黒かったよね」

 

「さすがだな、雫。そこに繋げられるか」

 

 雫は驚きはした。でも、天然モノじゃない、人工的に得たモノと言われて悟ったのだ。彼が自身を助けようとしたあの時、宝物であるがずっと不可解だったあの記憶の光景が、そこに繋がってくるのだと。

 

「俺は髪の色が黒から白に変わったあの時、魔法資質を手に入れた。でも、この魔法資質は紛い物だ。それに付随して変わった俺の容姿も含め、全て。そんな紛い物を身に纏った俺が成した事も含め、全て」

 

「あの時から、貴方は『北山十六夜』だったんだね」

 

「……」

 

 雫の理解、特殊な力を使って自身を魔法師にしたあの時から彼は現実感を失ったという理解に、彼は沈黙を返した。

 その理解は、部分的には合っているが、完全に合っている訳ではないのだ。『●●』は、この第二の生を得た瞬間から現実感がないのである。より一層現実感がなくなったのが、魔法資質を得たあの時というだけだ。

 

「……」

 

 彼の沈黙に、雫もその答えが完全正答ではない事を察した。後2・3個、真実があるのだろうと、雫は目ざとく見抜く。

 ただ、彼が沈黙を返した時点で、これ以上は聞き出せない事も雫は察した。自身の理解が追い付かない話か、あるいは、聞かせれば嫌われると判断している話か。

 逃がしたくはない。彼に逃げ道を与えたくはない。でも、無理矢理聞き出す事が、果たして正しい事なのか。雫には分からなかった。

 

「……予鈴だ。雫、早く食わないと授業に遅れちまうぜ?」

 

「……うん」

 

 タイムアップだ。時間がない事を言い訳に、彼が『北山十六夜』の仮面を被ってしまった。

 

「それと、ちょっとお願いなんだが。……2人っきりとか、家だったら良いんだけどさ。さすがに周りの目がある時は、『貴方』呼びは止めてくれよ。マジで視線きついんだ」

 

「……りょーかい」

 

 今はまだ、友達以上理解者未満のままで。

 雫はそう、そこに踏みとどまってしまった。

 

◇◇◇

 

 幾日が過ぎ、論文コンペの準備が一段落した頃。それまでに達也が義母の持ち込んだレリックを奪われそうになって助けたり、産業スパイ的なストーカーが発生したりと、達也の方は忙しそうだった。反して、十六夜は相変わらずスルーを決め込んで平和だった。

 そんな色々あった後に、久々に達也一団が揃って下校していた。当然談笑する一団は論文コンペを話題にしながら真っすぐ帰路を辿っていた――

 

「ちょっと寄っていかないか」

 

――はずなのだが。帰路の途中にある達也一団行きつけの喫茶店を前に、珍しく達也が寄り道の提案をした。

 珍しいという以外には不自然さがなく、皆賛成して店内へ。紅茶やコーヒーを楽しみながら、彼らがするのは論文コンペの話題。喫茶店のマスターについての話題にそれる事もあったが、結局メインの話題は論文コンペだった。

 そうして談笑を楽しんでいたのだが、達也がカップに注がれたコーヒーを3分の2程飲んだところで、数人の雰囲気が変わる。

 

「ちょっとお花摘みに行ってくるわ」

 

「わりぃ、ちょっと電話に出てくるわ」

 

 エリカとレオが立て続けに席を立った。

 

「幹比古、何をやってるんだ?」

 

「ちょっと、忘れないうちにメモをしておこうと」

 

「……派手にやり過ぎるなよ」

 

 達也が幹比古のメモ帳を覗き込んで、2人で不思議なやり取りをした。

 そこで、ここまでこのイベントを忘れてた十六夜が思い出す。

 

(あ、これ、ネズミ捕りの人を取っ捕まえに行くイベントか)

 

 そう。レオとエリカが達也を尾行していた人を取っ捕まえに行くイベントだ。幹比古も取っ捕まえるために、人払いの術式を書いて、今しがた発動したところである。

 

「すまん、俺も雉撃ちに行ってくるわ」

 

「……お前もか?」

 

「やり過ぎないように、だよ。お二人さん、お盛んだからね。血気が」

 

「そうか」

 

 十六夜は達也に許可を取りつつ、エリカやレオと同じように席を立つ。達也は止めなかったので、それが許可と同義だと、十六夜はエリカたちの気配を追って店を出た。

 

 少し出遅れたため、エリカたちを見つけた時にはすでに件のネズミ捕りと戦闘態勢に入っていた。ネズミ捕りの男が拳を振りかぶろうとしている。ただ、十六夜は丁度良いとばかりに、その男と、その拳が振るわれる先であるレオの間に割って入った。

 

「ストーーーップ、暴力はんたーーーい」

 

「なっ」

 

 気が抜けるような声を出しながらも、十六夜は男の拳を手の平で受け止め、がっちりと掴む。男は自身の拳を受け止められた事に驚き、掴まれた拳が引き抜けない事に瞠目した。

 

「ちょっと、十六夜君!何で止めるの!」

 

「無駄な争いだからだよ。……ねぇ、ネズミ捕りさん?」

 

「ネズミ捕り?」

 

「スパイとかじゃないって事。おじさん、あれでしょ?スパイを狩る側の人間でしょ?」

 

「え?どういう事?」

 

「……なるほど。『北山十六夜』。危険視すべきは魔法だけだと思っていたが、洞察力もだったか」

 

 エリカやレオはまだ男の正体について当たりを付けられていない。男の方は十六夜に見透かされているものとして、はぐらかす事を諦める。

 男は体から力を抜いた。まだ拳からは力を抜いていない事なんて、十六夜にはお見通しだったが。

 

「名前とか所属とか依頼元とかは良いんで、ご職業についてだけゲロってくださいよ。じゃないと友人らが安心できないんで」

 

「私の職業柄、警戒心をそのまま持ってもらった方がありがたいのだけどね。まぁ、仕方がない」

 

 十六夜の逃がさぬ姿勢に、男はようやく抵抗と逃走の方も諦めた。それを察して、十六夜も男の拳を放す。ただ、油断はしない。

 

「あ、でも、これは抜き取っときますね」

 

「っ!?拳銃を、いつの間に……」

 

 男が隠していた拳銃を、十六夜はベクトル操作でひっそり掠め取っていた。仕舞っていたはずの場所を探ってその拳銃がなくなっている事を確かめ、そうして男は顔をしかめる。

 

「俺の友人に向けなかった事は感謝してるので、ゲロってくれたらお返ししますよ」

 

「……はぁ、分かった。……彼が言った通り、私はスパイを狩る側の人間だ。論文コンペが近く行われるのもあって、東側のスパイが活発に動いている。私はそのスパイが日本の最先端技術を盗み出されぬよう、監視する仕事を請け負っている」

 

 男は随分と素直に、自身の仕事を明かした。ただ、全部を丸々信じていいとは、エリカもレオを思っていない。

 『東側』なんて、USNA*1の諜報関係者あるいは軍事関係者が好んで使っている用語を持ちだしたのも、正直エリカたちは胡散臭く感じている。男が自身はUSNAに雇われたとミスリードしているのではないかと、彼女らは疑っている訳だ。

 ちなみに、十六夜は原作知識で色々知っているので、疑うというか話を半分も聞いていない。

 

「西側さんは日本が技術を盗まれないようにって、お金使ってくれてんすねー」

 

「実にお優しい事だろう?」

 

「日本の技術が盗まれて東側が増長しないようにって、黒い腹が見え見えっすけどねー」

 

 まるで善意で動いているように取り繕うとした男の言葉の裏を、十六夜はしっかり暴いた。そうすれば、男のすかした笑顔が口の端を微動させる。

 

「……つまり、どういう事だ?」

 

「……アンタ、バカね」

 

「バカとは何事だ!」

 

「じゃあエリカさんや、要約してみぃ」

 

「え、や、あ、あれでしょ?敵の敵は味方って事でしょう」

 

「要約しすぎじゃい」

 

 自分を棚に上げてレオを馬鹿にしているエリカの魂胆も、十六夜は暴いておいた。

 

「つまりは、大亜とかが日本の技術を吸収したら脅威だから、そうならないようにUSNAとかは日本の技術を盗もうとしている大亜とかのスパイを狩ってるって話」

 

「オーケー、なんとなく分かったぜ」

 

 どうにかこうにかレオもちゃんと理解できるレベルに、十六夜は要約する。そうすれば、十六夜の思い通り、レオは理解を示してくれたのだ。十六夜はそのレオの頭がちょっと煙を上げている幻視をしたが。

 

「という事で、お勤めご苦労様です」

 

「本当、苦労させられたよ。……では、これにて失礼しよう」

 

 十六夜がもう用済みだと拳銃を投げ返し、男はそれを受け取る。そうしてから男は、ジャケットの内側から小さな缶を足元に落とし、男と俺の丁度間に蹴り込んだ。

 エリカとレオは身構えるが、十六夜は自然体のままだ。手榴弾のような火薬のにおいがしないので、その缶がスモークグレネードの方だとすぐに気付いたのだ。そもそも、手榴弾だったとしても『全反射』が作用するので、身構える必要は微塵もないのである。

 

「ああそうだ。穏便に済ませてくれた礼として、1つ助言をさせてもらおう。……身の回りに気を付けるよう、君たちのお仲間に伝えておいてくれ。学校の中でも安心するな、とな」

 

「あいあーい。伝えときますよー」

 

 缶から噴き出した煙に紛れながら、男は達也への忠告を残す。十六夜はその忠告を聞き届けつつ、そのまま煙に巻いて遠のく男の気配を見送る。この後あの男が大亜の特殊工作員に殺される事を原作知識で知っていながら、後を追う事はしない。原作において『ジロー・マーシャル』と名乗ったあの男の安否など、十六夜にはどうでも良いのだ。

 雫の安全以外、彼にはどうでも良いのだ。

 

「んじゃ、お二人さん。帰りましょっか。これ以上は雉撃ちでも長すぎる」

 

「雉撃ち?」

「雉撃ち?」

 

「……もう死語なんですかね、『雉撃ち』って。達也には通じたんだけどなー」

*1
『United States of North American continent』の略称。意味するところは北アメリカ大陸合衆国。北アメリカ大陸まるまる占領したアメリカである。

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