魔法科高校の編輯人if~枝世界~   作:霓霞霖

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23 生まれつき、彼がする呼吸のリズムは奇妙なエネルギーを生む、なんて事はない

 達也を産業スパイ的にストーカーしていた生徒(平河(ひらかわ)千秋(ちあき))を捕縛したり、エリカとレオが2人揃って休んだり、そういうイベントがあって過ぎていく日々。

 十六夜は相変わらず雫にくっつかれながらも平穏な日々を過ごしていたのだが、そこにちょっとしたイベントが差し挿まれる事になる。

 それは、土曜日の午前授業が終わり、起動式プログラミング部の部活動に精を出していた時に起こった。

 

〈1年E組、北山十六夜君。論文コンペ会場警備隊・総隊長、十文字克人さんがお呼びです。至急、野外演習場にお越しください〉

 

 まさかの呼び出しを食らったのである。

 

「前会頭からの呼び出しって、今度は何やったんだ?」

 

「いつも何かやらかしてるみたいな言い方止めません?部長、いや、前部長。警備隊・総隊長の名目で呼び出しって事は、そっち方面でしょうよ」

 

 とっくに退部済みのはずなのに我が物顔で居座っている阿賀沢。彼からの揶揄いを十六夜はいなしつつ、呼び出しの理由を推測していた。『警備隊・総隊長』という役職を持ち出しての呼び出しだから、その理由は明白だが。

 おおかた、どうして警備隊に入っていないか、という事だろうと十六夜は当たりを付けている。

 魔法科高校9校が合同で論文コンペ会場を警備する警備隊。志願制ではあるが、もちろん実力のある者のみ受け入れており、そういう者たちを勧誘している。

 ならばこそ、九校戦で優秀な成績を収めた十六夜が、勧誘されない訳もないのだ。

 

「さすがにバックレるのは拙いんで、行ってきまーす」

 

 十六夜本人としては雫の安全以外どうでも良いのでバックレたかったが、さすがにここまで公に勧誘されて無視するのは印象が悪くなる。

 仕方ないとばかりに溜息を吐きながら、十六夜は重い腰を上げるのだった。

 

 という事で野外演習場、第一高校舎に隣接する丘を改造して作られたその場に十六夜は顔を出す。

 そうすれば、体育会系というか、魔法実戦に自信がある者たちが集い、克人の前で列を整えていた。その列の中には、幹比古の姿もある。ただ、幹比古は警備隊の一員ではなく、克人との練習相手として参加している人員だ。

 

「お待たせしちゃいましたかね?」

 

「いや、呼び出したのはこちらの都合だ。それに、お前が所属する起動式プログラミング部の部室から来たと仮定した所要時間であれば、充分急いでくれた事が分かる」

 

 大勢集まってるところに後から来たという事でばつの悪さを感じた十六夜だったが、克人はクソ真面目にそのばつの悪さを取っ払った。

 

「そう言っていただければ有難いっすけど。これ以上待たせるのも気が引けるので、単刀直入にご用件を窺っても?」

 

「ああ、そうだな。単刀直入に言おう」

 

 克人が十六夜を真っ正面に捉える。周りの人間が緊張感を抱く程、空気が重くなったように感じ、その状況に息を呑み、見守っていた。

 

「北山十六夜、論文コンペ会場警備隊に入れ」

 

「嫌です」

 

「そうか」

 

 物凄いスピードで流れていく克人の嘆願と十六夜の拒否。緊張感を抱いていた周りは、無礼だなんだと思う前に度肝を抜かれたと言って良い心情だった。

 最早強制とさえ感じられる克人からの嘆願に(克人本人にそんなつもりはないが)、何食わぬ顔で十六夜が即座に拒否したのだ。その胆力は逆に称賛モノだろう。

 おまけに、克人がその拒否に対して一切機嫌を悪くしていない様子によって、その状況にシュールさが付与されてしまっている。

 

「あ、拒否権あるんすね」

 

「自ら志願してきたでもない人間に、警備を任せる事はできない。入隊の勧誘も、入隊に躊躇っている実力者を後押しするために行っているだけだ。実力があるとはいえ、関心のない者を巻き込むつもりはない」

 

 てっきり拒否権はないものと思い込んでいたのに、実はダメ元で勧誘されていた事を知った十六夜。やる気がない姿勢を見せればワンチャンあるかと拒否した訳だが、ワンチャンどころか確定演出だった。これには十六夜も少し肩透かしを食らった気分になる。

 

「しかし、お前程の実力者を一切警備に関与させないのは惜しい」

 

「じゃあ、総隊長の練習相手とかですか?」

 

「話が早いな。そういう事だ。……どうだろうか」

 

「それならお安い御用ですよ。傲りかもしれませんが、実戦練習の相手には困ってるもんで」

 

 十六夜は本心でそう述べた。実際、類稀にして驚異的な魔法資質を持つ十六夜は練習相手に困っているのだ。

 雫の守護を命題に掲げている十六夜としては、実戦経験なんていくらあっても良い。でも、自身の本気に比肩する実力者は、『魔法科高校の劣等生』(この世界)にそうはいないと評価している。何せ、『一方通行』モドキなのだから、と。

 そんなところに転がり込んできたのが、絶対的な防御力を持つ十文字克人との模擬戦。最強の盾との戦いは、間違いなく良い経験になる。ならば、これを逃す手はないのだ。

 

「感謝する。早速今日の練習から参加してくれ」

 

「了解っす」

 

 そうして克人がその十六夜を迎え入れる事で、十六夜は警備隊の練習に混じっていくのだった。

 

 

 

「オラァ!」

 

 野外演習場に響く掛け声と、異常な光景。

 

「ぬっ!?」

 

 それは、克人が十六夜に間近まで迫られ、張っている障壁魔法に拳を打ち込まれるという状況の事である。

 十文字家は障壁魔法を得意とし、さらにそれを発展させた『ファランクス』という多層障壁魔法を持っている。十文字家直系たる克人も当然そうであるし、十文字家の血縁で最優と呼ぶべき実力者だ。障壁魔法以外の魔法にも高い適性を備えている。

 そんな克人が、拳を打ち込まれる程の接近を許しているのだ。第一高生徒の誰も見た事がない状況である。もちろん、九校戦のモノリス・コード本戦ですら、こんな状況に陥った事はない。

 

「オラオラオラオラオラオラアラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 拳1発では飽き足らず、十六夜はラッシュをかけた。その拳を障壁魔法で受け止めている克人は、冷や汗をかいている。

 今まで感じた事のない衝撃が伝わってきているのだ。ともすれば、障壁魔法が割られるのではないかと錯覚を起こす程の衝撃が。

 そう思ってしまったのが失策だったかもしれない。魔法において、思い、イメージは重要な要素なのである。

 

「震えるぞハート! 燃え尽きる程ヒート!おおおおっ、刻むぞ血液のビート!山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)ぅ!!」

 

 思いを弱めた克人に反し、十六夜は思い出深い台詞で思いを強め、特に波紋疾走(オーバードライブ)している訳ではなく別の魔法を仕込んだ拳を連打した。

 そして、その連打の最後の一振りが、壁をぶち壊す。

 

「むぅ!?だがっ!」

 

 自慢の障壁魔法は破られた。だが、いや、だからこそ克人は秘技を使う。

 十文字家秘技『ファランクス』。通常、障壁を多層展開するだけのその魔法を、その障壁をぶつける事によって、相手を弾き飛ばす。

 

「ぬわっ、と」

 

 十六夜も、『全反射』が作用しながら、弾き飛ばされた。しかし、即座に加速系で移動ベクトルを操作し、弾き飛ばされた時にかかった移動エネルギーのベクトルを分散。木や地面に打ち付けられる事なく、空中で直立するように制止する。

 実は超人としての高い身体能力で受け身を取っても良かったが、さすがにそれで無傷で済ますのは疑われると判断したため、魔法の使用を選択したのである。

 

「……なるほど。お前が常時張っている反射の魔法は、この手のモノまでは反射できないようだな」

 

「俺に直接当たってはいませんけどね。盾と盾がぶつかって、みたいな感触っす」

 

 克人も十六夜も、『全反射』の仕様を少し理解する。

 『全反射』、十六夜自身も害となる物全てを反射すると思っていた魔法は、克人の『ファランクス』に対してはそのように作用していなかった。

 十六夜が思っている通りの作用を起こすなら、『ファランクス』での弾き飛ばしも反射するはずなのだ。だが、反射はされず、十六夜は弾き飛ばされた。しかし、『ファランクス』を素通しした訳でもない。『全反射』適応領域から、十六夜に移動エネルギーがかかるようにして、弾き飛ばされたのだ。

 つまり、十六夜の『全反射』は『ファランクス』に対して、盾のように作用したのである。

 

「原理が分からんな。面白い」

 

「同じく。初めから持ってたし、感覚的に使ってるもんで、詳しい効果は分かんねぇんすよねぇ」

 

 ただ、克人も十六夜も、この作用について理論的な理解はできていなかった。『全反射』と『ファランクス』は盾同士をぶつけ合うようにぶつかり合う、というだけの理解である。

 

(純魔法的エネルギーに対しては、『全反射』がちゃんと機能しないって事なんかな?)

 

 魔法によって生み出された障壁。それは物理的には存在しないモノだ。『ファランクス』はその障壁を移動させる事によって相手を弾き飛ばす事ができる。

 以上を踏まえて十六夜は推測し、魔法的に生み出された物理的でないエネルギーを『純魔法的エネルギー』と呼称し、そのエネルギーは反射できないと考えた。

 

(ますます達也の『分解』は警戒しないとな)

 

 そもそも直接作用系の魔法は自身の干渉力を上回れれば効く現状、『分解』という純魔法的エネルギーによる物質の分解は防げないと判断し、十六夜は達也の敵にならないよう、より一層心構えるのだった。

 

 閑話休題。

 

「お前のその反射する魔法も厄介だが、ベクトルの操作も厄介だな」

 

 克人は十六夜の脅威性を正しく認識する。

 

「そうっすね。こうやって空中に立てるんすもん」

 

「そっちもだが。俺が今言っているのは、障壁魔法を破った方だ」

 

「ありゃ、気付いてましたか」

 

「俺の障壁魔法をただの拳で破れると思うな」

 

 そう。克人は十六夜が拳のラッシュに魔法が仕込まれていたのを気付いていた。そうでなければ破れないという自負もある訳だが。

 

「破られた障壁魔法は衝撃を分散するモノ。対し、お前が使った魔法は拳の衝撃を集中させるモノ。相克となる魔法がぶつかり合い、そうして、干渉力で上回ったお前の魔法が勝った」

 

 式によって設定された効果に干渉されたため、式が矛盾を起こして破綻し、魔法が消滅するという事例はある。だが、そもそも効果に干渉されるというのは初期設定のまま設定を弄らなかった場合か、干渉する力の方が上回っていた場合か、その2択である。

 克人は当然、今まで感じた事のない衝撃に対して対処すべく、設定を改変していた。なのに障壁魔法は破られた。導き出される答えは、後者だったという事だ。

 

「加速系とかだけっすよ、十師族を上回れるのなんて」

 

「それだけでも脅威だ。うむ。すぐさまにでも十師族に取り込みたくなった」

 

「ご勘弁を、十文字家長男っ!」

 

「全く、惜しいものだ!」

 

 雑談もそこそこに、2人はまた衝突する。

 

「しかし、どうする!お前の『全反射』(それ)は絶対防御だが、俺の『ファランクス』も絶対防御だ!盾同士の戦いでは、決着が着かんぞ!」

 

「仰る通り!」

 

 克人が自身の『ファランクス』を絶対防御と誇る通り、十六夜はその防御を突破できない。何せ、障壁1枚破ったところで次がある。その次を破る前に、補充が済まされている。十六夜の破壊速度では、どう足掻いたって突破できない。

 それでも、十六夜は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ただねぇ、十文字総隊長。俺ばっかり見てたら、足元掬われますよ?文字通り、ね」

 

「っ!?」

 

 空中から拳を連打してくる十六夜を注視していた克人だが、急に浮遊感に襲われる。それだけに収まらず、噴き上がった土柱が克人を呑み込もうとしていた。

 そう。克人は文字通り、足元を掬われたのだ。足元の土を一瞬で掘り返されるような形で。

 克人の足元を掬ったのは幹比古だ。彼は『土遁陥穽(どとんかんせい)』という古式魔法で克人の足元にあった土を操作し、その土を掘り起こすように退かして克人を穴に落とし、ついでに退かした土で埋め立てようとしているのだ。

 

「倒したと思っていたが!」

 

 何故こうして足元を掬われた、いや、足を掬われたのか。簡単だ。そもそもこの模擬戦は一対多数で、克人1人に対して十六夜含めた多数が相手となる形式だった。

 もちろん、克人は十六夜以外の相手を無視していなかった。だが、十六夜とのサシ状態になる前に、全て伸しておいたのだ。故に、伸して以降は無視していた。まさか、気力で立ち上がってくる者がいるとは、思いもしなかったのだ。

 そのため、気力で立ち上がってきた幹比古に、こうして足を掬われたのである。

 ただ、その程度で倒せるなら十文字家次期当主ではない。

 

「だが、甘い!」

 

 克人は全方位に『ファランクス』を展開する事で、呑み込まんとする土柱を防ぎ、埋め立てられる事も防ぐ。

 

「これでも駄目なのか……!」

 

「一筋縄ではいかないっすねぇ」

 

 まさしく絶対防御の『ファランクス』に、幹比古も十六夜も冷たい汗を一筋かいた。

 

「やるじゃないか、北山。そして吉田」

 

 『ファランクス』の反発力で容易く落とし穴と土柱から脱し、平坦な地面へと悠然に着地する克人。反して、十六夜と幹比古は余裕なく、しかめた顔を晒していた。あれ以上の策は、残念ながら2人には思い付かないのだ。

 次の攻撃が待ち遠しいかのように毅然と立つ克人。次の攻め手をどうにか捻りだそうと歯を食いしばりながら身構える十六夜と幹比古。両陣営が動きを止め、膠着状態となる。

 そんなところに、けたたましいブザーが鳴り響いた。

 練習終了の合図だ。

 

「3人とも、そこまでだ」

 

「随分と白熱していたわね」

 

 事故防止と事故発生時の救護活動役として控えていた摩利、そして真由美が克人たちの下まで姿を出す。

 練習に集中しすぎてブザーが聞こえなくなった場合、それと克人や十六夜が過剰攻撃した場合を想定し、彼女らは近くで控えていたのだ。それくらい克人と十六夜が練習メンバーの中でも火力が高いという事で、その2人を止めるとなると、摩利と真由美にしかその役を任せられないのである。達也がいればそっちが任せられたのだが、彼は絶賛論文コンペの準備中だ。

 

「凄かったな、北山君。吉田君の方も。今からでも遅くないから風紀委員に入らないか?」

 

「お断りしまーす」

 

「か、考えておきます」

 

 摩利から腕を見込まれて、さりげなく風紀委員に勧誘されるが、十六夜は断り、幹比古は保留した。そもそも、風紀委員は推薦がなければ入れないのだが。

 彼女以外からも、特に回復した練習メンバーから十六夜と幹比古は褒め称えられ、十六夜は「それ程でもー」とテキトーに流し、幹比古はむず痒そうに応対するのだった。

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