魔法科高校の編輯人if~枝世界~   作:霓霞霖

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03 『北山』だから『ノーザン』。『ウィッチ・クラフト』は社長の趣味。

 入学式も既に昨日の事。本日は学校のオリエンテーションに授業時間を費やされる。

 十六夜はAクラスである雫たちと別れ(まだこのクラス分けについて雫が難色を示していたが)、自身が在籍する事となるEクラスに足を向けるのだった。さりげなく原作主人公と同じクラスである事に、一抹の不安を覚えながら。

 

 自身の座席を視認して、一抹だった十六夜の不安を十抹(じゅうまつ)くらいに膨れ上がった。

 なんと、原作主人公の右斜め前が自身の席なのである。補足すると、『魔法科』メインキャラクター・西城(さいじょう)レオンハルトの右隣でもある。

 ここであえて達也を中心として座席の並びを公開すると、まず右斜め前が北山十六夜、前が西城レオンハルト、左が柴田美月、そのまた左が千葉エリカ、となっている。

 五十音順に座席を割り振られた結果、十六夜は達也及びその友人たちの近場に座席を配置されてしまったのだ。

 

(どうして『栗山(くりやま)』とか『小林(こばやし)』がいないんだ……。じゃなければ『北山』の次が『西城』になる事はなかったのに……)

 

 というのが十六夜の偽らざる本心である。

 だが、心の中でどれ程悪態を吐こうが現実は変わらない。十六夜はしぶしぶ席に座った。

 そして、彼の十抹の不安はフラグだったかの如くすぐに回収される事になる。

 席に座ってふと横を見た時、こちらを珍しそうに観察するレオと目が合ってしまったのだ。その瞬間、十六夜は色々と諦めた。

 

「あ、悪い。気に障ったか?」

 

「いや、大丈夫だ。目を引く見た目なのは自覚してるからな」

 

 礼儀は弁えているようで、レオは謝罪から切り出した。十六夜はその礼儀正しさを映すように、波風立てない対応をした。

 

「俺、西城レオンハルト。『レオ』って呼んでくれ。よろしくな」

 

「俺は北山十六夜。『十六夜』で構わんよ。こちらこそよろしく」

 

 見た目について詮索してこないレオ。それどころかまず友好の証として握手を求めてきた。十六夜はその態度を好ましく思い、邪険にする事なく、素直に握手へ応じる。

 こうして、十六夜とレオは友好を結び、談笑をしていた。のだが、それを遮るというか、気になるタイピング音がすぐ傍から聞こえてくる。

 言わなくても良いかもしれないが、一応言うと、それは達也が鳴らしていた音だ。受講登録を一気にしようと、達也はものすごいスピードでタイピングしていた。

 そのタイピングに目を奪われていたレオは、そのまま受講登録を終えた達也と視線を重ねる。それからは原作同様、レオが達也、そしてエリカと美月にまで友好の輪を広げていった。

 そんな陽キャじみた彼の事だ。先に友好を結んだ十六夜をハブるはずもない。

 

「あっと、そうだ。十六夜の紹介を忘れてたぜ」

 

 エリカとの痴話喧嘩を達也と美月に宥められたレオ。彼は思い出したように十六夜を話題に上げ、達也たちの視線を十六夜に集める。

 

「もしかしてアルビノ?」

 

 不躾というか唯我独尊というか、エリカが十六夜を視認しての第一声がそれだった。

 

「お前、さすがに失礼すぎねぇか?」

 

「ハァ?そうやって触れないのが優しさだと思ってんの?そう言うのね、相手は逆に気にすんのよ?腫れ物扱いを暗にされてる気がしてね」

 

「ストップ。ストップだ、お2人さん。どっちも俺を気遣ってくれてるのは分かってるから、俺の思いを汲んで矛を収めてくれよ」

 

 レオとエリカがまた痴話喧嘩をする前に、十六夜は2人を制しにかかった。2人はそれで不服そうにしながらも口を噤む。

 

「この際だから俺の容姿について説明するけど。あまり言いふらさないでくれよな?」

 

「何々?」

 

「なんだなんだ?」

 

 十六夜が秘密を共有するために声を潜めれば、エリカとレオは秘密という蜜に誘われて機嫌を直し、耳を傾ける。

 

「実は俺、常に紫外線を反射する魔法を無意識に使ってるみたいでな。そのせいでメラニン色素が体内生成されなくて、結果こんな容姿になってるんだ」

 

「へぇ」「へぇ」

 

「肌にシミができないって事ですか?羨ましいです」

 

 十六夜の説明に半分程度しか理解できてないレオとエリカは生返事をし、別視点で理解した美月はちょっとずれた感激をしていた。

 

「待て。紫外線を常時反射できるような魔法を行使できる人間が、なんで二科生なんだ?」

 

 正しい理解をしたのは達也で、光の中から紫外線だけをピンポイントに、しかも常時反射する事の難しさを理解していた。同時に、そんな魔法を行使できるなら一科生レベルの魔法師資質だろうと、十六夜の魔法師資質に疑問を持つ。

 

「俺、BS魔法師みたいなモノなんだ。魔法師資質がかなり偏っててな。得意分野以外は正直ダメダメなんだよ。だから俺も司波君と同じように、魔工技師志望なんだ」

 

「なるほど。俺も硬化魔法以外は正直苦手だからな」

 

「ふぅん、そういう事なんだ」

 

「わ、私も魔工技師志望なので、よろしくお願いします」

 

 十六夜が自身をBS魔法師と例えれば、レオ・エリカ・美月が三者三様に応答し、それぞれ友好的な態度を示した。

 

「……そういう事もあるか」

 

 ただ1人、達也だけが警戒心を抱きつつ、それを潜める。

 十六夜は達也の警戒に気付いていたが、紫外線以外も反射できる事、加速系魔法にも特化している事を隠したので、お互い様として指摘しないのだった。

 

 

 

 十六夜が達也一団に迎合して談笑した後、オリエンテーションも何事もなく過ぎ去って、昼食までの時間も達也たちの工房見学に同行して費やした。

 ただ、昼食は達也に同行しなかった。雫たちとの先約があったため、同時に、十六夜が超人由来の大食漢であるためだ。食堂で腹を満たそうとすればその大食漢を披露し、悪目立ちする恐れがある。故に、弁当を持参して雫たちと食べる予定なのである。

 

(まぁそれと、あの差別イベントは関わる意味もないし、雫に嫌な思いをさせるだろうからな)

 

 原作において、今日は食堂で司波深雪(みゆき)にお近づきになりたい一科生と達也たち二科生が一悶着を起こす。二科生へ差別的な態度を取った一科生たちに非があるのだが、諫めて治まるようなものではない。二科生である十六夜が諫めたとなれば、火に油を注ぐ事にもなりかねない。

 だから、十六夜はそのイベントの回避を目論み、ついでに雫とほのかも回避させようとしたのだ。深雪と達也たちはどうやったって回避させられないだろうから、そこは見過ごす。

 そうして、十六夜は校庭の一角にあったお誂え向きの芝地にブルーシートを広げ、雫たちと共に弁当をつついた。

 

「深雪と友達になったよ」

 

「深雪って、もしかして総代の司波深雪さんか?まぁ、雫たちなら釣り合いが取れてるか」

 

「釣り合いが取れてる取れてないで友達は選ばない」

 

「あはは、そうだね。それに、深雪が凄すぎて私が釣り合ってない気がするし。凄いんだよ、深雪は!」

 

 弁当をつつきながら、3人は談笑を交える。雫たちが深雪と友達になった事を、十六夜は原作通りに行っていると内心安堵していた。

 

「十六夜は?友達できた?」

 

「なんだ、その心配するような顔は。俺にも友達くらいできる」

 

「名前を上げて?」

 

「どんだけ疑ってるんだ?雫。……西城レオンハルト、司波達也。柴田美月さんと千葉エリカさんも含めて良いのかな?」

 

「誰よその女」

 

「友達だって言ってるだろ」

 

 雫が微妙に挿んでくるギャグへ、十六夜はしっかりツッコむ。再度明記するが、ギャグである。

 そんな砕けたやり取りをする、微笑ましい時間を十六夜・雫・ほのかは過ごしたのだった。

 

 

 

 時は流れ、放課後。

 昼食の後に不機嫌そうなレオとエリカを十六夜は拝んでいたので、食堂での原作イベント発生を把握し、そして、このイベントを予期していた。

 

「何の権利があって、司波さんたちの仲を引き裂こうとするんですか!」

 

「身の程を弁えたらどうだ?二科生」

 

 二科生と一科生の言い争う、このイベントを。

 一科生が深雪を囲い込もうとし、二科生である達也たちから引き離そうとする行為。その行為に、温厚そうな美月が怒りを露にしていた。私情を挿んでいると言うか、シスコン・ブラコンの禁断の恋的な桃色フィルターを挿んでいそうだが。

 

 とかく、十六夜はこのイベントも回避しようと、雫とほのかを少し足止めし、下校のタイミングをずらしていた。そうして渦中から雫たちを離したのだが、それで素通りできる程、ほのかの性根は暗くなかった。

 

「ど、どうしよう……。止めないと……」

 

「ほのかさん?何しようとしてる?」

 

「あ、あの、目くらましすれば頭をみんな冷やしてくれるんじゃないかって」

 

 おもむろに腕輪形汎用型CADを操作していたほのか。何をするきかと十六夜が制止すれば、まさかの回答に思わず苦笑してしまう。どうやって目くらましで頭を冷やせるのかと。その謎回答は慌てたために混乱したせいだと、十六夜はほのかの正気を一旦信じた。

 

「……分かった。俺が止めてくる」

 

「え?」

 

「十六夜、穏便にね」

 

「了、解っ!」

 

 このままではほのかが何をしでかすか分からないと、十六夜は意を決する。

 ほのかの返事は待たず、雫のお願いだけ聞いて、十六夜は渦中へと跳び込む。

 そう。文字通り、争う者たちの真ん中へ目掛けて、魔法に偽装した超人の身体能力で跳んだのだ。

 

「二科生風情がぁ!!」

 

 ただ、既に激突寸前だった。一科生(かの悪名高い(?)森崎俊)が拳銃形特化型CADをホルスターから抜き放ち、その銃口を美月たちへ向けようとしていた。エリカはそのCADを弾き飛ばそうと、伸縮警棒を構えて踏み込んでいる。

 放っておいてもエリカが森崎のCADを弾き飛ばし、両者無傷で済む。

 でもあえて、十六夜はちょっとした手品をする事にした。

 まだ着地もしてない体勢で、森崎とエリカの手を掴み、その手からそれぞれの得物を奪い取ったのである。

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 気付けば、自身らの間に人一人が何処からか飛んできて着地し、合わせて得物が奪われているという手品。森崎もエリカも、これには驚愕を隠せない。

 

「あっぶなかった。2人とも、なかなか良い動きをしてるな。そっちの彼は『クイックドロウ』で、エリカさんは何か剣術を修めてるのか?」

 

 十六夜は原作知識で既知の事をさも今察したかのように、森崎とエリカ、それぞれの技術に感心した様子を取り繕った。

 

「でも、2人とも周りの警戒が足りてないかもな。だから第三者に得物を盗られた。実戦だったらそれでアウトだ」

 

「い、いやいやいや、人垣跳び越えて空中で得物奪ってくとか、実戦でもあり得ないでしょう!?」

 

「実戦では何でもありだ。そんな言い訳するなんて、剣の腕が泣くぜ?ほら、今度は盗られないようにな」

 

「いやいやいやいや」

 

 十六夜から警棒を投げて返されたエリカは、どうやって盗られたのか自身の手と警棒を交互に見ていた。それでも分からず、思わず軽い現実逃避をする。

 

「そっちもだ。『クイックドロウ』なんて修めてるのに、活用法が傷害犯罪じゃあ、その腕どころか親が泣く」

 

「き、貴様……!」

 

 当初の予定では説得だけで済ませるつもりだった十六夜。事ここに至り、下手に抑え込むよりは発散及び鼻っぱしを折ってやった方が良いと、森崎を煽る方に手法をシフトしていた。

 

「それに、やっぱり腕も泣いてる。そんな未熟な『クイックドロウ』を自慢げに披露しようとしてたらさ」

 

「二科生如きが!僕の、森崎家の『クイックドロウ』を馬鹿にするな!」

 

「じゃあ勝負しよう。どっちが早いか、勝負ってやつだ」

 

 森崎のCADも、十六夜は投げ返す。どちらが魔法を早くできるかの勝負に、森崎を乗せる。自慢の技を叩き潰せば折れるだろうと、十六夜は勝負に出た。

 

「後悔させてやるぞ、二科生」

 

「合意と見て良いな、一科生。このコインが地面に落ちた瞬間がスタートの合図だ」

 

 森崎がCADをホルスターに戻して構えたところで、十六夜は普段から持ち歩いているコインを空中へと放った。

 ただ、十六夜は正面を向けど、構えは取らず自然体のままだ。それが、なおさら森崎を煽る。

 唐突に始まった早撃ちの決闘に周りの人間は頭が追い付かず、その成り行きを静観するしかできない。

 観客も対戦者も静まり返るほんのわずかな静寂の時間。それは、コインが地面に落ちる無機質な音を合図に破られた。

 

「身の程を知れ!二科せ―――っ!?」

 

 森崎は十六夜より早く、真っすぐ腕を伸ばしてCADの銃口を向けていた。起動式も展開できていた。なのに、その式は撃ち崩される。

 森崎と十六夜は、そもそもやっている勝負が違ったのだ。誰も、そんな腕を伸ばして『エア・ブリット』を先に発動させたら勝ちなんて、言っていない。

 だから、しっかりと銃を抜き放った森崎の『エア・ブリット』は、腰の辺りに銃を置いたまま魔法を発動させた、まるで西部劇のガンマンが如き射撃姿勢である十六夜のサイオン弾に魔法を無効化されたのである。

 

「僕が、負けた……?」

 

「知っておいてくれ、一科生。二科生だって、君たちに劣らない部分はあるんだ」

 

 失意で崩れ落ちる森崎を見ながら、十六夜はこれまた西部劇のガンマンのように拳銃形特化型CADを回転させてから、ホルスターに収めた。リバルバーに似た回転弾倉のような機構を持つ、その特化型CADを。

 

「という事で、丸く収まった事になりません?風紀委員長並びに生徒会長」

 

「なる訳ないだろ」

 

 森崎とその他一科生の戦意喪失を見届けて、十六夜は他所を向く。そこには、厳めしい表情をした第一高風紀委員長・渡辺(わたなべ)摩利(まり)と、口角が少し上がっている生徒会長・七草(ななくさ)真由美(まゆみ)が居た。

 

「だったら、裁かれるべきは俺だけです。魔法を発動できたのは俺だけで、あまつさえ人に向けましたから。ちなみに動機は馬鹿にされたから、です。『ついカッとなってやった』ってやつですねぇ」

 

「ほう、自首か。色々とふざけているが、殊勝な心掛けだな」

 

 事態を収拾させるため、間違っても雫たちにまで飛び火させないため、十六夜は罪を自身だけに集約させにかかった。自身の両手を手錠がかけやすいように摩利へと差し出す。風紀委員は手錠なんて採用してないが。

 俺の意を汲んでか、もしくは摩利も事を荒立てたくないのか、摩利は俺の手を掴み、連行しようとする。

 そこに、思わぬ助け船が出る。

 

「待ってください。十六夜が、彼が使った魔法はただのサイオン弾です。攻撃性は低いですし、自衛目的での使用でした。彼は無罪です」

 

 無罪の主張は、まさかの達也から出た。これには十六夜も目を丸くする。

 

「ほう。しかし自衛か。とすると、そちらの一科生が攻撃性のある魔法を使おうとしていたのが、証明できると?」

 

「彼が使おうとしたのは『エア・ブリット』です。硬度も速度も高い設定をされた起動式だったので、攻撃性は充分にあったでしょう」

 

「起動式が読めたと言うのか、君は」

 

「実技は苦手ですが、分析は得意なので」

 

「口では何とでも言えるだろう?」

 

 起動式の時点で魔法を特定できる人間なんてのは稀だ。よって達也が起動式を読めるという言葉を、摩利はすんなりと受け止める事ができない。達也以外起動式が読めないので、答え合わせもできない。最悪、達也が都合の良い嘘を吐いている可能性が疑われてしまうのだ。

 だから、この問答は決着がつかず、堂々巡りだ。ただ1人、犯人の自供を除いては。

 

「その二科生が言ってる事は正しいです。僕は、攻撃性の高い『エア・ブリット』を使おうとしました」

 

 これまたまさか。なんと、森崎が自供したのである。

 

「おいおい。森崎さんだったかな。アンタまで自首しなくても良いだろ?」

 

「うるさい。被害者に庇われるなんて、それこそ家に泥を塗る」

 

 自供した森崎の顔は苦渋に塗れているが、十六夜はその横顔に気高さのようなモノを感じた。

 森崎は、自身が何を背負っているのか、思い出したのかもしれない。誇りに思っている親の顔、森崎家の看板を。

 

「いや。そもそも俺が煽ったせいでこうなったんだから、アンタは悪くないだろう?」

 

「そもそもの話をするなら、僕が君たちを目の敵にしたからだろう」

 

「……どういう状況なんだ?これは」

 

 そして何故だか始まる庇い合い。取り締まり役の摩利も、これには困惑を禁じ得ない。

 

「ふふ……。摩利、ここは大目に見ても良いんじゃないかしら。新入生が入学早々問題起こすのは、ある種の恒例行事でしょう?2年前は摩利がその立場だったし」

 

「むぅ、確かにそうだな……」

 

 2年前の自身を持ち出された摩利。彼女はそれを持ち出した真由美に反論できなかった。同時に、ここに集まる一年生のほとんどは「風紀委員長が問題起こす側だったのか」と、無駄に内心をシンクロさせている。

 

「……生徒会長もこう仰られているから、お前たちの誠意にも免じる形で今回は特別に不問とする。だが、森崎(お前)十六夜(お前)、それと達也(お前)!お前らは名乗れ!」

 

 さすがに今回の騒動を完全になかった事にはできず、問題を起こした代表として、森崎と十六夜が摩利に指差された。後、何故か達也も。

 

「1のA、森崎駿(しゅん)です」

 

「1のE、北山十六夜です」

 

「……1のE、司波達也です」

 

「森崎俊、北山十六夜、司波達也か。よし、お前らの顔と名前は覚えたからな。以上、解散!」

 

 言葉通り顔を覚えるだろう程に森崎・十六夜・達也を観察した摩利。これ以上事態を長引かせて教師陣が出てくる前にと、解散を促した。そこに集まってた1年生は一科生・二科生問わず、蜘蛛の子を散らすように解散していく。事の渦中だった数名を除いては。

 

「……貸しだとは思わないからな、北山十六夜」

 

「ああ。己の未熟を省みてくれたら、それで充分だ。森崎さん」

 

「……ちっ」

 

 悪態を吐き続けるのは恥の上塗りと思ったのだろう。森崎は、十六夜の言葉に舌打ちするだけで、トボトボと校門を潜っていった。森崎と十六夜の会話は、これで終わりだ。

 

「司波君、弁護してくれてありがとうな」

 

「……貸しだからな」

 

「……まぁ、了解。今後何かで返す」

 

 十六夜は達也の方に向き、素直な感謝を伝えた。だが、達也は風紀委員長に顔を覚えられるデメリットを負うつもりはなかったのか、十六夜への貸しというメリットで打ち消そうとしている。デメリットを負わせた自覚はあったので、十六夜は渋々承諾した。

 

「あ、美少女を紹介するって言うので返せない?……雫、ほのかさん!」

 

「び、美少女だなんて……。み、光井ほのかです……」

 

「どうも。美少女の北山雫です」

 

「……それで帳消しにするなんて言ってないが、まぁ、もうそれで良い」

 

「あら、お兄様?雫たちを紹介される事がメリットになるんですか?」

 

「深雪、何か勘違いしてるぞ」

 

 貸し借りの帳消しに十六夜が漫才を始めて一悶着。微笑ましい青春の1ページが刻まれる。

 実は深雪が既に雫・ほのかと友達で、雫とほのかが十六夜と友達、十六夜が達也たちと友達であると発覚。世間は狭いだの、奇縁があったものだのと、全員が友人の輪で繋がり、下校を共にするのだった。

 

 下校中、司波兄妹は双子でなくて同級生になる年子だの、雫と十六夜は姉弟(きょうだい)*1でなくて十六夜が雫の家に引き取られた孤児だのと話した後、達也が深雪のCADを調整している事が話題になり、深雪が達也の腕を褒め称えれば、エリカが自身のCADも調整できないかと悪戯心増し増しで願う。

 しかし、達也はエリカのCADが刻印術式を採用した伸縮警棒という特殊なモノである事を見抜いており、さすがにそこまで特殊なモノは専門外だと断っていた。

 ここで、何故か雫が張り合いだす。

 

「十六夜さんなら、エリカのCAD、調整できる?」

 

「いや、できる訳ないだろ」

 

 張り合いだしたと言うよりは、十六夜を引き合いに出したと言う方が正しいかもしれない。雫が、十六夜もCADを調整できると、自慢したかったのだ。残念な事に、十六夜にはそこまで自慢できる腕がないのだが。

 

「私のCADも時々調整してるのに」

 

「達也*2と同様の理由だ。それに、俺は通常のCADですらまだまだなんだ。刻印術式なんて調整できんよ」

 

「それにしては、お前自身特殊なCADを使っているようだけどな」

 

「え?ただの特化型CADに見えたけど」

 

 十六夜が魔法を使う時に抜いた拳銃形特化型CAD。それに通常の拳銃形特化型CADにはない回転弾倉のような機構がある事を、達也は目ざとく視認していた。十六夜の使うCADについて知っている雫とほのかを除き、他の者はその機構を視認しておらず、エリカが代表するように疑問を言葉にした。

 

「意地悪だなぁ、達也。魔工技師志望なら、これがそんなに特殊なモノじゃないって知ってるだろ?」

 

 改めて皆がしっかり視認できるよう、十六夜は銃身を握って掲げる。それでようやく、皆が回転弾倉のような機構を視認する。だが、それ以外特殊な部分はないし、実際、その機構以外は通常の拳銃形特化型CADと大した違いはないのだ。

 当然、達也はその事が分かっている。でも、興味を引かれていたのだ。

 

「使っている人間を初めて見たんでな。年明けに発表されたノーザン・ウィッチ・クラフトの最新モデルだろう?」

 

「やっぱり知ってたじゃないか。お察しの通り、NWC(エヌ・ダブリュー・シー)*3の最新モデル、ノーザン・リボルバーだよ」

 

 魔工技師志望どころかCADメーカー界を騒がせる天才魔工技師(トーラス・シルバー)の中の人である達也が、他社のCADとはいえ、最新モデルの情報を押さえていないはずもない。

 特に、NWCは新興会社ながら、他のCADメーカーにないニッチなCADを世に送り出す事で固定客を獲得した、侮れないCADメーカーなのである。ライバル企業として、あるいは自身にない発想を持つCADメーカーとして、達也も目を離せない相手だ。

 ちなみに、NWC創設には雫の父親である潮が噛んでいたりする。娘可愛さに娘のためのCADメーカーを立ち上げたとかそうでないとか。

 

 閑話休題。

 

「お兄様が特殊と仰っていましたが、どこが特殊なのですか?」

 

「まず拳銃形特化型CADでも珍しい、起動式ストレージのカートリッジ化をしているんだが。ノーザン・リボルバーのカートリッジ機構はかなり特殊だ。カートリッジに起動式が1つしかインストールできない代わり、そのカートリッジをCADに6つ装填できる。つまり、通常の特化型CADが同系統の魔法しかインストールできないのに対し、ノーザン・リボルバーは異なる系統の魔法をインストールできる。通常が9つとインストール数では劣るものの、特化型CADの起動式展開速度を維持しながら別系統魔法が6つ使えるのは大きな利点だ」

 

「うん。使用者でもないのに全部言ってったな。後、強いて言うなら、この回転弾倉みたいなところがカートリッジを納める所、カートリッジシリンダーになってる事くらいか」

 

 ノーザン・リボルバーの詳細を求めたのが深雪だったためか、詳細を答えたのは達也だった。使用者の十六夜を置いてほとんど説明するものだから、使用者にできる事はその特殊機構を実演するくらいしかない。

 十六夜はその残った役割を果たすため、リボルバー拳銃の振出式と同じような横に振り出すシリンダーを見せ、弾丸くらいの大きさしかない円柱形のカートリッジを取り出した。

 

「すごいでしょ。それ、十六夜が考えたの」

 

「ちょっと待て、雫」

 

「なんだと……!」

 

 ノーザン・リボルバーのアイデアは十六夜のモノであると雫が衝撃告白をすれば、十六夜は雫の口を塞ぎにかかり、達也は目を(みは)る。

 

「お前が、NWCの謎多き魔工技師、ノーザン・ダンサーだったのか……」

 

 自身も謎多き魔工技師(トーラス・シルバー)の中の人である事を棚に上げ、達也は姿をまったく露出しない有名魔工技師の正体に驚愕していた。

 

「……正しくは、そのグループのアイデア担当だ。ハードウェア担当とソフトウェア担当が悪乗りしてな。自分たちの功績にすればいいのに、何故か俺を巻き込んだんだよ」

 

「いや、その人たちの判断は正しい。アイデアというのは知的財産だ。知的財産権を侵害しないように、お前を共同開発グループに巻き込んだんだろう」

 

「ああ、そういう……。後で俺のアイデアだったんだと騒がれるのもアレだしな」

 

 十六夜は今まで共同開発に名を連ねれている事に納得いっていなかったが、達也がその正当性を解説する事によって、ようやく納得がいく。つまりは、「パクリだ」と言われないようにしたのがこの共同開発グループ、NWCのノーザン・ダンサーなのである。

 

「十六夜君って、もうプロの魔工技師って事なんだよね。魔工技師志望の達也君的にはプロに会えて嬉しいんじゃない?」

 

「そうだな。是非ともCADについて話し合いたいところだ」

 

「悪いけど、俺はNWC専属だし、さっきから言ってるがただのアイデア出し要員だ。あまり期待はしないでくれよ」

 

「ああ。期待している」

 

「するなって言いましたよねぇ!」

 

 エリカのパスから達也のキラーパスに繋がった十六夜たちの談笑は、皆の一笑いを攫う。

 こうして、原作同様に達也と愉快な仲間たちが形成され、そこに十六夜も加わっていくのだった。

*1
十六夜の誕生日が9/11、雫の誕生日が6/20と、雫の方が誕生日が早いため、キョウダイならば自身が姉だと雫が主張した。皆、そういう事にした。

*2
『司波君』では司波が2人いてまぎらわしいと、達也に呼び捨ての許可を取得済み。

*3
ノーザン・ウィッチ・クラフトの略称

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