> 夢の実力者になりたくて! 第-I-話
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かつての伝説の話。
魔人ディアボロスが生まれるよりずっと前の伝説だ。
世界には、魂のみで世界を揺蕩う、『夢魔』がいた。
名前は――名前はそうだな、ここでは『D』としておこう。
本当の名前を教えるわけにはいかない。
それはディアボロス教団について知ることよりも危険なことなのだ。
この知識に触れるべからず。
特に、この夢魔と言われる存在は、魔人ディアボロスとはまた違う意味で危険であり、その存在を認識することすら辛苦が伴うのだ。
『夢魔』は夢と現実――虚実の両方の陰に写される、深淵の世界を創り出すという。
そして、その現実への夢の侵食が起こっても、――生半可な実力では、それを意識することすらできないのである。
例えば、――この今我々が認識している世界すら、虚構に過ぎないのかもしれない。
(まあ、全部僕が考えた設定の話なんだけどね)
■ SIDE: シド
きっかけが何かは覚えていない。
でも、気づいたころには僕は陰の実力者にあこがれていた。
僕はシド・カゲノー。王立ミドガル学園の一般モブ学生。
しかしその裏の顔は、陰の実力者、シャドウ。
最近は王都での華々しい活動に加え、七陰のみんなの協力もあって、認知度が上がってきた。
陰の活動が現実に知れ渡ることに対して、あまりよく思わない人もいるかもしれないけど、僕はいいんじゃないかなと思ってる。
だってたくさんの人が僕らに注目してくれるってことは、ゼノンとかローズ先輩とか、そういう『ノってくる人』もどんどん増えていく、ということだからだ。
陰の実力者のムーブをする機会もこれからどんどん増えていき、いずれ世界が混沌に支配される日が来るのだ。
ある日、ミツゴシ商会の屋根のてっぺんでシャドウの格好で陰の実力者ポーズをとっていると、一人の女の子が音も立てずにやってきた。
「あなたがシャドウですか」
「ふむ、貴様は確か……」
知らない人だ。
身長は僕の肩の高さくらいで、黒色の髪の女の子だ。
「ドリーです。アルファ様より、新たにシャドウガーデンの七陰に加わる許可を賜ったものです」
その女の子――ドリーによれば、新しく七陰に加わるとかなんとか。それで僕に許可をもらいたいとかなんとか。
アルファたちには実力を認められ、七陰への加入を要望したところ、僕に訊くように言われたらしい。
一応、シャドウガーデンにはルールがあって、仲間外れの僕にも度々こういった要件が飛び込んでくることがある。
でも七陰を増やすという要件は初めてだ。
「そうか……」
僕はドリーと名乗る少女を見やり、意味深に考えるふりをする。
実のところ答えは決まっているのだが、勿体付けて深淵をのぞき込んでいるようにふるまう。
こういった目に見えない部分の演出が勝敗を分ける場合もある。
「アルファが許可したというが、貴様には荷が勝ちすぎる。我らに加わるにはまだ精進が必要であろう」
僕は、今回は不採用ということにした。
だって七陰が一人増えると、八陰になってしまう。
八は末広がりとかいうけど、縁起を担ぐ陰の実力者なんてダサい。
それに、数字にはカッコいい数字とカッコ悪い数字があるのだ。
陰の実力者が2人いると微妙なように、七陰は八陰よりもいい感じだ。
アルファたちもそれを理解するべきだ、と僕は心の中で文句を言った。
■
場所は変わって、ミツゴシ商会内部の仰々しい部屋。
「シャドウ様……申し訳ございません」
ガンマが腰をついて僕に謝る。
八陰はさすがに、と思った僕だが、これだけちゃんと謝られれば、許す気にもなる。
「どういうわけか、私たち全員があの女性を七陰に推薦したことになっていて……。しかも記憶が少しあやふやなんです」
ベータは分析した内容を伝える。
話が少しかみ合っていない気もするが、僕は寛大な気持ちで接する。
「今日は寮に届けた手紙を見て来てくれたのよね。忙しい中来てくれたのに、こんなことになってしまうなんて……。ドリーと名乗ったあの女……状況から見れば、七陰に潜入してシャドウガーデンにスパイとして潜入しようとしたのかしら」
そしてアルファの流れるような状況説明。
ふむ。手紙……か。
ミツゴシにきた理由を言えば、今日はたまたま気分が乗って来ただけだ。
その手紙は見てない。
「不思議な感覚だった……どういうわけか、私たちみんな、あの女に騙されていたみたいなの。でも、さすがシャドウね。私たちはいつの間にかあの女を同志だと思い込んでいたけど、あなたは騙されなかった」
「フン。容易いことだ……視線の動きを見ればわかる」
「流石シャドウ様……」
さっきの陰の実力者にあこがれた少女だが、なんとディアボロス教団のスパイだったらしい。
なるほどそういう設定か。
今回のはなかなかに手が込んでいる。
多分、ミツゴシ商会のバイトの子を使ってスパイ潜入ドッキリを仕掛けようとしたのだ。
僕が彼女を入れた後、スパイっぽいことをさせて「貴様がどこの差し金か、我は気づいている」的な演出をするやつだ。
でも、残念ながら今回は僕の方が上手だった。
舞台は良かったが、今回は残念ながらスパイに僕が気づいてしまいました逆ドッキリになってしまった。次に期待しよう。
折角ならノってあげたかったけど、事前の打ち合わせがなかったせいだ。
「……でも、この件、これで解決とは言えないわ。彼女の足取りはゼータに負わせているわ。そして今後、いざというときのため、あなたの協力も必要よ」
アルファはどうもまだ引っ張る気のようだ。
多分だが、引っ込みがつかなくなってしまったのだ。
まあ、僕の協力がいるというのは、打ち合わせはちゃんとやりましょう、ということだ。
いい心がけだ。
そっちがその気なら、僕もノってやろう。
そして真の陰の実力者を見せつけてやるのだ。