夢の実力者になりたくて!   作:__aki__

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第-II-話

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 ■ SIDE: シド

 

 

 

 ミドガル魔剣士学園の校庭。

 木製の質素なベンチ。

 

 木の影とわずかに吹く風が心地よく感じられる昼のことである。

 

「あーら、ポチ? 奇遇じゃない? これからお茶でもどうかしら?」

 

 髪の毛をいじりながら、偶然を装って近づいてきたのはアレクシア・ミドガル――ミドガル王国の第二王女で、学園にいると頻繁にエンカウントする女子生徒だ。

 

 不自然でない程度に気配を消しても、こうやって向こうから近づいてくる。

 

 実のところ彼女の気配には気づいていたのだが、向こうがこっちを完全にロックオンしている時点で、逃げるのは悪手だと僕も学んでいる。

 彼女は野生動物みたいに、逃げても追ってくる。

 

 姉さんも一部は同じことが言えるが、頻度的にはアレクシアの方が多い。

 

「(……いつまでモブに絡んでくるのやら。婚約者のゼノンを殺したのは悪手だったかな……)」

 

「何かいった? ポチ」

 

「いやナンデモナイデスヨ」

 

 王女は陰の実力者側ではなく、主人公側につくべき人間だ。

 

 シリアルキラーのきらいがあるのがたまに傷だが、将来的にはディアボロス教団を倒す的な表の実力者となるだろう。

 

 ま、ディアボロス教団なんて存在しないんだけど。

 

「じゃ、行きましょ」

 

 アレクシアが僕の耳を引っ張る。

 

「あ、ちょっと待って。午後の授業はどうすんの?」

 

「さぼりましょ。そういう気分なの」

 

 さぼりはモブ道としてどうなんだろう?

 

 友達とたまのさぼり位はやった方がモブっぽいか?

 

 ただ、魔剣士学園のモブの人たちは、まじめというか小心者というか、そんな生徒が多い印象だけど……。

 ジャガやヒョロも、赤点はとっても授業は休まないタイプだ。

 

「うーむ……」

 

 悩みながらも、僕は引っ張られるままに連れていかれた。

 

 

 

 アレクシアとともに街を歩く。

 

 こういう時、アレクシアは庶民派とでも言えばいいのか、王族っぽい傲慢さのようなものを感じさせない。

 そういった振る舞いに慣れているというか、長けているというか。常日頃から猫を被ってる王女様は違う。

 

 今も、もしかしたら彼女もモブの道を歩もうとしているのかもしれないと思うくらい一般人らしい所作だ。

 だが、彼女はその立場がそれをさせない。

 王女がモブになる道はない。

 それは王女に生まれたものの宿命なのである。

 

「ねえ、ポチ」

 

「なに?」

 

「こうして二人で歩いていると、こんな日々がずっと続けばいいのにって思わない?」

 

「思わない」

 

 僕が望んでいるのは王族の友人のポジションでは断じてない。

 

「即答ね。ま、そう答えると思ったけど。でももしあなたが私と恋人になったら、こうやって――」

 

 アレクシアが金貨を投げる。

 

 僕は一瞬にしてその軌道を追い、剣の柄をその軌道に這わせるように振るう。

 

 金貨は柄に弾かれ、僕の右手に。

 

「お金が絡むと器用ね。……話を戻すけど、私の恋人になれば、こうやって――犬みたいにはいつくばって金貨を集める必要もないのよ? どう?」

 

「どう、と言われても、別に興味ないね。僕にはお金なんかよりももっと大切なことがある。お金は所詮、その大切なものを形作り守るためのものに過ぎないのさ」

 

 お金は陰の実力者の活動資金に使われる。

 

 将来的にはいろんな国にアジト的な秘密基地を作りたい夢もある。

 

 そのためにはいくらあっても足りない。

 

「何よ、大切なものって?」

 

「いや、それは言えない。僕は僕にとって一番大切なものは心の中に秘めておきたいんだ」

 

「どうせくだらないことなんでしょ? 分かるわよ」

 

 くだらなくなんてない。

 でも、この会話を続けても不毛だ。

 

「そういえば姉さんがさー――」

 

 僕は会話の方向を変えることにした。

 

 

 

 ■

 

 

 

 アレクシアに付き合わされて、4時間。

 

 よくもまあこんなに喋ることがあるなあ、と思いながら僕はアレクシアの口から発せられる音を右から左へと聞き流していた。

 

 あくまで傾向だが、女の子は話が長い。

 

 その点はシャドウガーデンのみんなもアレクシアも大体同じだ。

 

 特にアレクシアは僕の興味の外側の話を中心にしてくるので厄介だ。

 

「ねえ、ポチ……あれ見て」

 

「はいはい」

 

「あれって何かしら?」

 

「へいへい」

 

「ポチ、私の恋人にならない?」

 

「ん? いやだけど」

 

「ちっ……。ポチ、あれを見なさい」

 

 アレクシアの指す先には、なぞの黒い靄があった。

 黒い靄は少しずつ大きくなっていっているような気がする。

 

 あまり危険な感じはしないけど、アレクシアはどうもそうじゃないようだ。

 

「何だと思う?」

 

「分からないけど、黒いね」

 

 僕が適当に答えると、アレクシアは霧に近づいていった。

 

「触れてみればわかるかしら?」

 

「危なくない?」

 

 僕は一応忠告をする。

 

「危ないと思うなら、私を止めるなり、一緒についてくるなりしなさい」

 

「えー」

 

 アレクシアは何の気なしに、その黒い霧を触った。

 

 すると次の瞬間――、

 

「あれ?」

 

 僕はそう言うと、その場を高速で離れた。

 シャボン玉のような大きな玉が黒い霧から次々に出てくる。

 

「アレクシアが……消えた?」

 

 僕は一般通行人モブらしく、アレクシアの消滅を反芻した。

 

 

 

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