> 夢の実力者になりたくて! 第-III-話
■ SIDE: アレクシア
時間の流れが掴めない。
空間の感覚が分からない。
私は、アレクシア・ミドガル。
学校帰り(さぼり)にポチと一緒に歩いていたら、変な黒い霧を見つけ――。
それでここは、どこ?
「教えてあげようか?」
何か聞こえた。
何を、教えてくれるというの?
「何でも。でも、私だけ聞くのは不公平だから、あなたの『夢』も聞かせてもらうわ」
そう言うと、声だけの謎の女が、目の前に具現化した。
黒い髪の少女だった。
よくわからないのだけれど、じゃあ、ここはどこなのか。あなたは誰なのか。
それを教えてくれるかしら。
「私の名前は【ドリー】。場所はあなたの『夢』の中」
ドリー……? 夢の中……?
ってことは、私は突然眠くなって寝ちゃったってこと?
「突然、じゃないよ。黒い霧に触れたでしょ? あれが夢に繋がるファクター、因子、あるいはきっかけ」
ねえ、あなた。
なんでも聞いてくれるのよね?
「ん? 疑問があるなら聞くよ。でも、対価は貰うつもりだけど」
じゃあ、今すぐここから出る方法を教えて。
私、こんな場所で時間をつぶしてる暇ないの。
デートなのよ。
「デート? あの男の人――シド・カゲノーと?」
ドリーは、少し怖い顔をして言った。
私は、少し妙に思った。
この少女は、何かポチと関係があるのだろうか?
「ううん。なんでもないよ。でも君も好き者だね。あんな危険な奴と一緒にいるなんて」
危険……?
ポチのことを言っているの?
「ああ、なんだ。知らないんだ。なら――ちょうどいいね。君の『悪夢』を利用させてもらうよ。――対価はそれで十分だ。望み通り君も外に出してあげる」
ちょっと、ちょっと待って!
あなた、何を言っているの!?
「じゃ、楽しんでね。バイバイ」
その瞬間、世界は消滅した。
■ SIDE: シド
大体3分くらいだろうか。
黒い霧がシャボン玉を出し終わったようだ。
黒い霧は消滅して、消えていたアレクシアが外に出てきた。
「うーん。結局何も起こらなかったみたい?」
あの黒い霧は何かのイベント発生オブジェクトだと思ってた。
でも、結局は黒い霧はシャボン玉を吐き出して終わっただけだった。
「もしかして霧の方は引っ掛けで、あのシャボン玉に何かあるのかも?」
シャボン玉はまだふわふわと浮いている。
「うぅ……」
アレクシアがゾンビみたいにうめき声をあげながら起きる。
「アレクシア、あー、えっと……大丈夫?」
「何なのよ、あの女!」
「大丈夫そうだ」
と、そのとき――、
空に飛んでいたシャボン玉が突然弾け飛ぶ。
次の瞬間――空が真っ黒になった。
「ん……夜?」
「くッ……逃げるわよ、ポチ!」
「おっと」
僕はアレクシアに引っ張られ、通りを走る。
その間にもシャボン玉は次々に割れていく。
そして、割れると同時に現れたのは――。
黒いマントを羽織った人型の魔力の塊だ。
どことなくシャドウ形態の僕に似ている。
偽物さん――偽シャドウだ。
かなり膨大な魔力を持っているのが分かる。
下手したらヴァイオレットさんに匹敵するかも。
「追いかけてきているわ――逃がすつもりは無いみたい」
「それは厄介だね。ところであれが何か君は知ってるの?」
「あれは私の『夢』らしいわ。夢を具現化する存在なんて聞いたことないけど……そういうものだってわかる。あれは、前に私が見た夢の一部。夜の闇の中で私の大切な人たちが殺される――絶望の夢よ」
「夢……」
そういえば、魔人ディアボロスの前に存在していた『夢魔』っていう存在についてアルファに教えたことがあった。
それに似た何かってことかも知れない。
あれについてもっと知れば、陰の実力者ロールプレイにもっと深みが出るかも。
「――っと、攻撃してきた」
僕は、偽シャドウの攻撃を剣でいなし剣をはじき返す。
アレクシアも僕に加勢する。
「あなた。今のよく防御できたわね?」
「ま、偶然運よく」
つい反撃してしまった。
「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者なり……」
陰の実力者――その偽物が喋りだした。
使い古された展開だが、とても良い。
自分で自分の偽物を用意するのは難しいから、こういった場面に出くわすとワクワクする。
しかし……七陰の誰かの演技とかではない。
多分おそらく、シャドウのファンの誰かがドッペルゲンガー役をスライムで作ってくれたのだろう。
感謝の気持ちしかない。
ありがとう。
さて、僕はさっさとやられて、本物のシャドウとして介入を――いや待てよ。
これだけのセットを用意してくれたが、僕はそれに応える準備ができているのだろうか。
偽物が生まれた理由とかの設定がまだ深堀されていない。
なのに出てきたこの瞬間に彼を斬って、それで観客は満足だろうか?
シャドウに深い恨みを持つ教団員とか。
教団がシャドウに対抗するために作り出したクローンとか。
鏡の世界から現れ、シャドウを倒そうとする鏡の世界のシャドウ自身とか。
そういうバックグラウンドがあるかもしれない。
そうだ――なら――。
「ぐはっ」
「ポチ! 嫌、そんなッ!」
僕はシャドウにやられたふりをして吹き飛ばされ、すぐにシャドウに変身する。
その時間はほんの一瞬。
アレクシアは僕がシャドウに変身したことに気づきもしないだろう。
一応、スライムで僕の体を再現したスライム人形を残しておく。
細部はあまり再現できなかったが、遠目に見る分には十分だろう。
「本物のシャドウ!?」
アレクシアが驚く。
「我が偽物よ……去れ」
僕はそう言うと、シャドウの剣にそこそこの威力で剣をぶつける。――キン、という音とともに、シャドウをどっか遠くへ吹き飛ばした。
「……」
僕はそのまま無言でクールに退場。
で、一瞬でシドに戻り、その場に横たわる。
大量出血でぎりぎり一命をとりとめる感じだ。
本物のシャドウと偽物のシャドウがぶつかり合って「どっちが本物か」みたいに思わせておいて、幕引き。
なかなか高度な陰の実力者ごっこが披露できた。
しかし――偽シャドウはすぐに戻ってきてしまった。
戻ってきたというより、思ったよりも遠くに飛ばされなかったって感じかな?
いやどちらかというと転移みたいな感じか?
「我はシャドウ……」
「やめて……」
アレクシアが掠れた声で言う。
「その男に用がある」
僕に用がある?
なんで?
僕はモブだから、アレクシアとかと戦えばいいじゃん。
「なんで、やめて。お願い。この人は殺さないで……お願いします。……私はどうなっても、いいからぁ……」
アレクシアは、まだ妄想に逃避中だ。
涙を流し、なかなか泣き止まない。
僕の流した血を必死に止めようとしている。
ただ、処置の仕方はあまり合理的ではない。そこを抑えても血は止まらない。
「死んじゃ嫌……死なないで……」
偽シャドウが僕の首に狙いをつけて、剣を構える。
普通に受けたら死ぬかもしれない。
「やめ――!」
「――別に死んでないし、死ぬつもりもないんだけど」
僕は平然と起きて、腰に差した剣で偽シャドウの剣を弾く。
「え、あれ……」
「はあ……、まあ仕方ないか」
死んだふりしてるんだから、逃がしてくれればいいのに。
「んんん!? 意外と余裕そう?」
アレクシアの実力は、この偽シャドウ相手には頼りにならなそうだ。
さて、やるか。
超モブっぽく、こいつから逃げて見せる!
地の文とかキャラの考え方とかはできるだけ原作に似せたいと思って書いてます。