夢の実力者になりたくて!   作:__aki__

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第-IV-話

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 ■

 

 

 

「よし……」

 

 アレクシアを囮にしてこの場から退散する作戦を考えた。

 

 そのための布石として、まずは『あそこにUFOが!』作戦からだ。

 古典的で使い古された方法だが、相手の注意をひくために相手の興味の対象を挿げ替える手は一定の効果がある。

 

 何よりその小賢しさがモブっぽくて良い。

 

 まず、「あれれ、あっちにアイリス王女が」と――、

 

「あれは、アイリス姉さま!?」

 

 あれ? 向こうから来た?

 

「街が騒がしくて来てみれば……。王都を乱す反乱の徒――シャドウ。今日こそはあなたを倒します」

 

 僕が視線を向けると、そこにはアイリス・ミドガル王女がいた。

 ミドガル王国の第二王女であり、この国でも屈指の実力者だ。

 

「お姉さま、だめよ!」

 

 アイリスはアレクシアのことをちらりと見るが、シャドウへの警戒を緩めることはしない。

 

「アレクシア、あなたは下がっていなさい。大丈夫。私は! 負けない!」

 

 アイリス王女が勝てるかというと、まあ無理だ。

 偽シャドウは実物よりは陳腐だが、その実力は偽物じゃない。

 

 それはアイリスも分かっているのか、彼女はかなり緊張している。

 

 互いに剣を構える。

 

 そして、まず偽シャドウの挑発から始まった。

 

「アイリス・ミドガル。来ないのか?」

 

 それにこたえるように、アイリスは剣を振る。

 以前よりも荒々しい剣。

 

「はあッ!」

 

 しかし、その剣では偽シャドウに届かない。

 アイリスの剣は偽シャドウの間合いの外を空振る。

 そして、そのままシャドウはアイリスの体を引き裂くように両断しようと――。

 

 しかし、そこでさらなる乱入者が現れた。

 しかもそれはシャドウではなく、アイリスを守ろうとしての介入だ。

 

 シャドウの剣を防いだのは――。

 

「貴様は……、アルファ!?」

 

 アイリスが驚いてそのエルフの名を言うが、アルファはアイリスを見ていない。

 

「異常な魔力を感じてここに来たけど……。シャドウ、なぜアイリス王女を?」

 

「……」

 

「応えてはくれないの……?」

 

 偽シャドウは、僕には生物ではなく魔力の塊に見える。

 

 だが、アルファも騙されるくらいだ。

 もしかしたら、僕以外には偽物に見えてないのかも知れない。

 

「二人とも、偽物とは気づいていないみたい」

 

「だね」

 

「あのアルファという名前のエルフが偽物のシャドウと剣を交わしているってことは、シャドウガーデンはアイリス姉さまを敵だとは思っていないということかしら」

 

「かもね」

 

「なら、あのアルファを説得すれば、偽物のシャドウを倒してくれるかも!」

 

「やってみれば?」

 

 アレクシアは決心したように顔を強張らせて、アルファとアイリス王女に話しかけた。

 

「二人とも! それはシャドウじゃありません! 偽物のシャドウです!」

 

「……何?」

 

 アイリスは疑いの念でシャドウを見やる。

 

「……偽物? それはどういう――」

 

 アレクシアの声を聞き、アルファはちらとこちらを見る。

 

「え!? シャドウが二人!?」

 

「二人……?」

 

 アルファは失言から口を閉じる。

 

 僕はアルファに、偽シャドウを止めるように視線で指示する。

 アルファは頷くと、偽シャドウと剣を合わせる。

 

「――余り長く持たせることはできないわ。すごい魔力だもの。3人はすぐにここを去りなさい」

 

「なぜ貴様に指示されなくてはならない!」

 

「アイリス姉さま。ダメです。早くこちらへ」

 

 アルファは拮抗しているが、勝てそうにはない。

 アルファも相当強いが、偽シャドウはそれよりも強いらしい。

 

「ポチも急いで――いえ、私が担いでいくわ」

 

 アレクシアは僕を肩に担ぎ、魔力を精一杯込めて大ジャンプする。

 

「え、いやちょっと! うわあ!」

 

 

 

 アレクシアの運送によって、僕ら3人はちょっと遠くまで逃げてくることができた。そして――。

 

「あれ?」

 

「突然、空が赤く?」

 

 僕とアレクシアが同時に違和感を口にする。

 

 少し離れたところで、空に違和感を覚える。先ほどまで真っ黒の夜空のようだった空が、突如としてもとに戻った。

 

 夕焼けが見える。

 そうだ、そういえば今は夕方だった。

 

 シャボン玉が弾けたときに夜になったけど、あれは範囲効果の魔法的な奴だったのだ。

 

「あ、ついでに偽シャドウも撒けたみたいだね」

 

「本当だ。偽物のシャドウが追ってきてない……なんで?」

 

 今、偽シャドウは僕らを追っていない。

 

 あれだ――範囲限定ボス。

 ボスが部屋の扉を破って出てこないように、偽シャドウはあそこ一帯からエリア移動できないボス的な存在なのだ。

 

 つまり偽シャドウは、行動範囲の制限を律儀に自分に課しているタイプの敵なのだ。

 

 ボスと陰の実力者は違う概念の存在だけど、それがあの偽シャドウにとって重要なことならそれは尊重しよう。

 流石にここまで追われていたら面倒だったから、GJと言っておく。

 

 平和になったところで、姉妹の喧嘩が始まった。

 

「姉さま。先ほども言いましたが、シャドウガーデンとやたら敵対するのは危険なのです!」

 

「アレクシア! あなたこそなぜこんな場所にいるのです? 王都は以前のように安全な庭ではないのです!」

 

「たまにリフレッシュしたっていいでしょう!」

 

 この隙にさっさと寮に帰ろう。

 

「待ちなさい! ポチ!」

 

「いい機会です。シド・カゲノーさん。あなたにも聞いてもらいますよ。いいですか、あなたがもっとしっかりアレクシアを止めてくれなければ困るんです!」

 

「はい。反省してます」

 

「以前は我々の手落ちで迷惑を掛けましたが――」

 

「はい。反省してます」

 

「――」

 

「はい。反省してます」

 

 とりあえず謝っとけばいいだろう精神。

 あー。早く帰りたいな。

 

「――そもそも、王族にはとても重要な仕事が任されるんです。あなたはアレクシアと結婚して、そのあとにどんなことになるか。それをちゃんと考えているんですか!? ちゃんと責任をとれるんですか!?」

 

「姉さま!?」

 

「アレクシアが可愛いのは分かります。ちょっと性格のあまりよくない部分も少しだけありますが、可愛いのは分かります。それを見抜けるのは見どころがあると思いますが……」

 

「姉さま!」

 

「アレクシア、あなたは静かにしなさい」

 

 アイリス王女の話は帰り際20分くらい続いた。

 

 

 

 そして、姉妹の話はついにシャドウガーデンの話に。

 市井での評判を知るためにも、僕もちゃんと聞いてみる。

 

「姉さまは、やっぱりシャドウガーデンを倒すつもりなのですか? 今回、シャドウは私たちを救ってくれました」

 

「その言葉を信用するつもりはありません。アレクシア。私の邪魔をしないでください」

 

「でも、お姉さまでは勝てません。シャドウの強さは常軌を逸しています」

 

「問題ありません、アレクシア。武神ベアトリクス様も、現在、王都に滞在しています。万全の準備を整えています。偽シャドウも、本物のシャドウも一網打尽にする計画もあるんです」

 

「どんな計画ですか?」

 

 僕も知りたい。

 

「あなたに伝えることはできません」

 

 残念。

 

「姉さま。私を信用できませんか?」

 

「……私は帰ります」

 

 ほー。

 しかし、シャドウを倒す計画、か。

 それはとても楽しそうだ。

 

「何にやにやしているのよ、ポチ」

 

「あ、ごめん」

 

 面白そうな話に頬が弛緩していたようだ。

 

「いや、姉妹仲がよさそうだなって思ってさ」

 

 アレクシアは少しだけ寂しい顔をしながら、「そうね」と返した。

 

 

 

 ■

 

 

 

 アイリス王女が帰還したあと、僕らはゆっくり街を歩いていく。

 夕焼けに染まった街では、あちらこちらで夜の準備をしている。

 

 そんな中、僕はアレクシアに詰問されていた。

 

「それよりあなた、ポチ。言っておくけど私は騙されてあげないわよ」

 

「え、何?」

 

「さっきの偽物のシャドウ。本物ほど強くなかった」

 

「だろうね」

 

「でも、それでも私よりは圧倒敵に強かった。――なのに、あなたは彼の剣を簡単に防いで見せた」

 

「咄嗟のことだったからなあ。全然覚えてないなあ」

 

「あなた、実際の実力を隠しているんじゃない? 本当はアイリス姉さまとかクレアさん並みに強いんじゃないの?」

 

「全然覚えてないんだもんなあ」

 

 覚えてないって言っとけば、都合よく解釈してくれるかもしれないので狂った機械のように連打している。

 アレクシアは僕をジト目で睨む。

 

「そ、れ、と!」

 

「あなた、血まみれで倒れてるとき、私が言ってたことも聞いてたってこと!?」

 

「何の話?」

 

 ちなみに本当に分からない。

 

「私が、あなたを、……大切に思ってるとか、そういう……」

 

「何か言ってたっけ? 思い出せないや」

 

「そう……まあいいわ。今日はあなたが思ったより趣味が悪い人だってわかったからいいわ。そこら辺のことはまた次の機会に聞いてあげる」

 

 

 

 ■

 

 

 

 ま、僕がシャドウとバレてないなら許容範囲かな。

 実力のこともとりあえず黙ってくれるみたいだし。

 

 邪魔しないでくれることを祈るか。

 

 しかし――アレクシアか。僕が普通のモブより強いことに気づかれてしまった。

 アレクシアはあんまり空気が読めないから、陰の実力者ごっこの邪魔をしてくるかもしれない。

 

 これからはアレクシアに普通に勘づかれる可能性もあるってことだ……。

 

 かなり注意しなきゃならないかも。

 折角何も知らない主人公ポジだったのに、がっかりだ。

 

 

 

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