> 夢の実力者になりたくて! 第-V-話
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寮の自室に戻ると、窓の外からアルファが入ってきた。
「シャドウ。今回は迷惑をかけたわね。ごめんなさい」
「いいっていいって。そこそこ楽しめたし」
「あんなものを見て「楽しめた」とは、流石豪胆ね。あんなに強い敵、教団と戦う上でもいなかった」
アルファはうつむきながら話す。
「あなたと別れたあと、私は偽物のシャドウと戦ったわ。でも、勝てなかった。技量自体はあなたより弱いけど、魔力の量では圧倒された――あれは」
僕はそこで、続く言葉を言わせずに割り込んで言う。
「あれは『夢魔』――かつて君にも話したことがあるはずだ」
昔、シャドウガーデンが始まってすぐの頃。
アルファとの会話では、こういう時のための伏線を仕込んでおいた。
僕らの敵はディアボロス教団だが、世の中にはまた別の脅威も存在する――と、そうしておけば、陰の実力者ごっこのマンネリ化を防げると思ったのだ。
そして、今! それが生きているッ!
「……やはり」
ほら、アルファも乗ってきた。
「以前あなたが言った通り、あれは非常に危険だわ。私すらシャドウが偽物だと気づけなかった」
「だが、弱点もある。それは、夢魔が現実に召喚する夢には効果範囲があるということだ。偽物は我らが遠ざかれば追ってこれない」
範囲限定の敵だからね。
「やはりそうなのね……。途中で偽物のシャドウは突然消えてしまって、その理由を考えていたの。でも、敵の正体は謎に包まれている。これからどうすれば……」
「問題はない」
「まさかッ! あなたは既に解決策を検討済みだというの!?」
「ああ、既に4つくらいは思いついている」
「そんな! いや、流石シャドウと言うべきかしら」
1つ目は、とりあえず全部吹っ飛ばしてみる方法。
夢だか何だか知らないけど、あれは全部魔力の塊なのでアトミックしてしまえば消えてなくなるだろう。
2つ目以降は…………………………。
まあ、これから考えよう。
「とにかく、そちらでもできるだけ様々な情報を探れ。……ゼータやイータの力も借りた方が良いだろう」
「ええ、分かったわ。――あなたは、私の想像をいつも超えていく。私たちはいつになったらあなたの隣に立つことができるでしょうね」
アルファは、自嘲をはらんだ表情で部屋を去っていった。
部屋に残された僕は呟く。
「ふむ……。『夢魔』も気になるけど、シャドウを倒す『計画』も気になる……。どう動こうかな?」
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それから数日後、僕は休みを使って短期間の遠征に出かけようとしていた。
早朝のコーヒーを用意しながら、僕は遠征の準備をしていた。
バッグの中に、財布、スライム、ハンカチと詰め込んでいく。
あとは、外出の許可をとって、久しぶりの盗賊狩りだ。
盗賊狩りは王都でもできる――というのはもはや過去の話だ。
ここ数年で盗賊の分布は大きく変わってしまい、ミドガル王国王都は多くの金が集まる宝庫なのにも関わらず、盗賊が減少してきている。
最近ではデルタを連れていくなりの工夫をしなければ、普通に探しても見つからなくなってしまっている。
僕らが活動しているせいで王都の近郊では、盗賊が減ってきてしまっているのかもしれない。
僕は間引きも程度が必要だと理解しているけど、みんなはあまり理解してくれないのだ。
盗賊狩りは楽しい。
しかし――。
「快楽に浸るだけの愚者は必ず報いを受けるものだ」
朝三暮四ってやつだね。
今盗賊を狩るのを我慢すれば、あとで増えているかもしれない。
「しししッ、シド君! お姉さんが来ていますよ。あ、あと、お、おうにょも!」
ジャガの声、それに扉をたたく音。
モブ学生たちが惰眠を貪っている朝のこの時間。
騒音を巻き散らかす彼は少々非常識にも思えるが、学園の美女2人が来たとなれば彼の反応はモブとして正しいものなのかもしれない。
朝7時。
普通の休日ならジャガもこんな時間に起きてはいないだろうが、今日はなぜか起きているようで、壊れた時計みたいに扉をたたき続けている。
さて、面倒くさいことは重なるものだ。
アレクシアとクレア姉さんが来ているらしい。
超逃げたいが、こんな朝の早い時間に来るということは、僕を逃がすつもりはないということだ。
逃げられないわけではないが……。
「お、おうひょ! なぜここここここに!?」
「頼んだら入れて貰えたわ。さて――入るわよ、ポチ」
「え、待って」
僕のか細い懇願は生憎無視され、アレクシアが無理やり入ってきた。
カギを壊して、である。
アレクシアの後ろにはクレア姉さんが立っている。
そのさらに後ろにジャガがいる。
「アレクシア。これは流石にどうかと思うわよ」
ぶっ壊れた扉を見て、クレア姉さんが言う。
「あら、大丈夫よ。王族だからカギの弁償くらい安いものよ。クレアだって聞き分けのないポチにはこうすればいいのよ」
残念ながら、逃げる目は消えたらしい。
「おい、ジャガ。なんで2人をここに――」
「あ、ボク、ちょっと用事があるんでしつ、失礼しまぁっす!」
「逃げたか」
しかし、用事があるというのはうそではなさそうだ。
外行き……それもデートか何かの格好に見える。
妙なファッションをしていたし、バラの花束を持ってたし。
落ち着きもいつも以上になかったような気がする。
ジャガが女の子と付き合える筈が無いので、多分美人局だ。
「で、2人は何なの?」
「私は普通にシドと遊びに来ただけよ。お出かけしましょ!」
クレア姉さんはいつも通りだ。
「クレアの用事がそれだけなら、私の方を優先してほしいわね。――今日と明日の2日間、あなたの時間を貰えないかしら」
「うーむ……」
考えている風を装っているように見えて、本当に考えている。
姉さんに連れまわされるのは疲れるけど、アレクシアの用事は時間がかかりそうだ。
そもそも僕は盗賊狩りをしたいんだけどなあ。
よし。
「残念だけど、僕は予定があるんだ」
「何の予定よ?」
姉さんが聞き返してくる。
「……勉強、とか?」
もちろん本当は盗賊狩りだが、正直に言うわけにもいかないので。
「ならだーめ。どうせアンタ勉強なんてしないし。お姉ちゃんの方が優先されまーす」
まあ僕もとりあえず言っただけだ。
この人たちは人の都合とか考えないので、実際のところどちらかの予定を選ぶしかないのだ。
アレクシアか姉さんか。
まあ、悩むまでもない。
「じゃ、姉さん、さっさと行こうか。アレクシアは残念だけど貴殿のご栄達を願うとともに、今後とも――」
(あなたの本当の実力、クレアさんには知られたくないわよね)
アレクシアは僕の耳元で言った。
僕はすごく嫌な顔をした。
結局のところ、僕はアレクシアと2日間なぜか一緒に行動することとなった。
姉さんは最初は納得できていなかったが、来週、僕と遊びに行くことに決まったらしく、納得していた。
僕は行くって言ってないのに。
残されたのは部屋に2人。
僕とアレクシアだ。
「お茶でも出したらどうなのかしら?」
「……」
僕は少しムカついた。
せめてもの嫌がらせで、水を出す。
自分の分は、盗賊狩り出発前に飲もうと用意していたコーヒーをテーブルに置く。
すると、アレクシアは自分の水と僕のコーヒーの場所を入れ替えて言う。
「ありがとう、コーヒーを入れてくれたのね」
この女、性格が悪い。
アレクシアはそのままコーヒーを飲み始めた。
用意していたミルクと砂糖は出番なしだ。
「おいしいわね。私が普段飲んでいるミツゴシ商会の最高級品のようだけど……よく用意できたわね」
アレクシアは感心したように言う。
コーヒーとかお菓子はガンマが送りつけてきたものだ。
元手はタダだが、奪われたのは気分が悪い。
「僕は違いの分かる男なんでね」
「何それ」
「それで休日まで一体何のつもりなのかな? 予定があるなら早く済ませたいんだけど?」
アレクシアが僕を連れまわそうとしている理由、僕には少しだけ検討がつく。
これはパーティ集めだ。
彼女は『夢魔』による、何かの大きな陰謀と戦うために、ついに仲間集めを開始したのだ。
つまり、――アレクシアの中で僕が主人公一行ポジに置かれたってことだ!
これは流石にエマージェンシー。
最悪の事態といっても過言ではない。
どうにかして軌道修正をしていこう。
大丈夫だ、これまでだって何とかなってきたじゃないか。