> 夢の実力者になりたくて! 第-VI-話
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アレクシアとともに訪れたのは、王城の裏手だ。
騎士団の訓練を行っているらしく、土煙が舞っている。
アレクシアは行き先も言わずに僕をここまで連れてくると、「準備してくるから待っていてね」と言って城に入っていった。
アレクシアが突然来たものだから、僕も含めて奇異の目で見られていた。
僕は周囲の目線に隠れるように、木にもたれ掛かりながらじっとしている。
さて、この隙に逃げようか。
――と僕が画策していると、隣に誰かが座った。
研ぎ澄まされて洗練された体の運び。業物の剣を引っ提げて現れたぼろいローブの彼女は、前にも合ったエルフさんだ。
アルファによく似た顔つきを、僕はどことなく覚えている。
「シド。どうして王城にいるの? 騎士団に用でもあるの?」
「いや別に。誘われてね」
「誘い……? 騎士団に入るの?」
「僕には無理だよ」
「そう?」
「そうだよ」
「ふーん。でも、前よりも上達してるみたいだね」
僕の体をじろじろ見ながら言う。
「そんなことないかな?」
僕はそう答える。
彼女は、モブになりたい僕からすると少し危うい存在だ。
前にブシン祭に現れたときも、僕の実力を見抜いた経歴がある。まあ、誤魔化せたけど。
「ところで、君はなんでこんなところに?」
「私と同じ顔のエルフの目撃事例があるのはこの国だから。姪を探している。前にも言った」
エルフさんはまたフードを外して見せてくれた。
そういえばアルファにはまだ確認してなかったっけ。
「前にも言われたね。でもやっぱり知らない顔だ」
「そう、だよね」
エルフさんは少し寂しそうな顔だ。
それからしばしの静寂。
キン、キン、と剣のあたる音が聞こえる。
静寂にも嫌な感じはしない。
騎士団の訓練を見入る。
全般的に退屈な剣だが、動きがエキセントリックな騎士とかいて面白い。
「あ」
エルフさんは何かを思い出したみたいに口を開けた。
「そういえば、アイリス王女に呼ばれてるんだった」
「そうなんだ。じゃあ、急いでいった方がいいかもね」
「うん。そうする。シド、楽しかった」
「それならよかった」
僕も時間を潰せたのは良かったかも。
「ポーチー! 準備できたから、行くわよ!」
アレクシアの声だ。
……逃げるのには失敗した。
――そして時は数刻ほど進む。
騎士団の訓練場を抜けて、僕たち2人は海方面へ向かっていた。
ミドガル王国は海に接しており、漁業や観光業でも優秀な土地だ。
目的地は未だ不明。もちろん目的も不明。海賊狩りにでも行くのだろうか。
「あー、それで王女様。どこに行くんで?」
王族用の格式高い馬車に揺られながら、アレクシアに聞く。
「浜辺のリゾート地よ。ミツゴシリゾートの学生貴族用デートプラン1泊2日で2人ペア券をもらったの。でもアイリス姉さまは忙しいし、私は行きたいけど、どうしようかと思って。それで、折角2人分のチケットなのに1人で使うのは勿体ないと思ってあなたを誘っただけ。だから勘違いはしないでね」
アレクシアは少し早口に言った。
「他の人と行けばいいじゃん」
「……チケットが突然とれたの。ポチしか誘えなかったから仕方ないのよ。……そう! 仕方なかったの!」
アレクシアは少し顔を赤くしながら言う。
「なるほど、友達がいないから……」
僕はボソっと言う。
「いるわよ! そうじゃなくて! ……ああ! なんでポチなんかと一緒に……。これじゃまるで……ッ!」
アレクシアは顔を真っ赤にして髪を掻きむしりながら、僕を睨む。
理不尽だ。
お前が誘ったんだろ、と言いたかったけど自嘲した。
「ま、ただで旅行できると思えば、別にいいか」
僕はそう思って、これ以上の詮索をやめることにした。
無駄なことに頭を使うべきではないのだ。アレクシアの思考回路は複雑怪奇、奇妙にして無比、凶悪にして独裁的なのだ。推し量る努力は無駄なのだ。
「……ッ! 少しくらい、察してくれたっていいじゃないの! ポチのバーカ!」
■ SIDE: ???
アレクシアたちの行き先である、リゾートホテルの付近には、海面に隠された洞窟があった。
その場所は海賊の拠点として利用されていた。
その洞窟に、3人の怪しい風貌の男がいた。
小さな船を横目に、2人の海賊は相対する1人の仲間に対して警戒していた。
「おい、てめえ! これは一体どういうことだ! 俺たちを裏切ったのか!?」
「金持ちどもから、金を盗み出す。簡単な計画だ。俺たちを裏切る理由はなんだ?」
3人の海賊の計画は極めて単純だった。
貴族用のリゾート地を開発していたミツゴシリゾートの、ホテル建設予定地に狙いをつけて、貴族から金目の物を分捕る計画だ。
一般人は、この穏やかな浜辺が実は海賊に利用されいていることなど露ほども知らない。
ならば、それを逆手にとって、根城としている洞窟から、建設予定地へのトンネルを掘って、ホテルと繋げてしまえば、恒久的にホテルに忍び込める方法を用意できる。
成功すれば、しばらく金には困らないという計画だ。
だが、今日になって突然、3人のうちの1人が裏切ったのだ。
片腕の魔剣士は、剣を鞘から抜き、敵へと向ける。
「戦うしか……ないかもな」
もう一人の男、彼も同じように剣を敵へ向ける。
「クソ、覚悟決めるぞ!」
だが、その次の瞬間には、男たちは原型をとどめないレベルに切り刻まれていた。
男たちの最後の顔は、驚愕に引き攣っていた。
「――我が剣のさびとなれ」
男は、高揚感も悲壮感もなく、ただただ感情の無い不気味な声でそう言った。
誰かの夢により顕現した人の皮を被る『人狼』なる存在。
この付近の村の伝承に過ぎない――おとぎ話に過ぎないそれが、現実として顕現する。
存在しない存在を存在せしめる。
それこそが――。
「――夢の力というものだよ、シャドウ」
ドリーは、黒い靄の中から現実へと声を響かせる。
夢と現実、虚実が混じり合い、境目が消えていく。それとともにドリーは自分の力の高まりを感じる。
「君たちへの次のプレゼントだ。楽しんでくれるよね?」