ポケットモンスター Re:Champion Road   作:1.96

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10話 セルクルのあま〜い誘惑

 

 

 

 セルクルタウン。

 テーブルシティからさほど離れていない、のどかな街だ。オリーブの名産地であること、有名なパティスリー『ムクロジ』があることで、小さいながらも活気で溢れている。

 

「む、やはり若い女性が多いな……。ワガハイは浮いてないだろうか?」

「大丈夫ですよ、サワロ先生。あくまで、表向きはボクの付き添いですから。どんと構えましょ」

「うむ……そうだな。今さらながら付き合わせてしまってすまない、リンドウ先生」

「いえ、ボクもここに用があったので。甘いもの大好きですし」

 

 そんなムクロジのテラス席に男二人という組み合わせは、周囲と比べて少しだけ浮いていた。

 

 ガタイのいいサワロ先生は、生徒から『シブい』とか『ダンディー』という評判。その実、辛いものが苦手だったり、逆に甘党だったりとイメージとは真逆で。

 ムクロジのお菓子は食べたいけど、周囲からの印象は崩したくない。その結果、ボクが付き添いに参加した……ってのがここまでの経緯。

 

「ではいただくとしよう。おぉっ、これは――」

「ん〜、あま〜い!並んだ甲斐がありましたね!」「うむ……!疲れた体に染み渡るようだ」

 

 行列ができるだけのことはある。甘いけどしつこくなくて、いくらでも食べられそう。

 ガラルだとバトルカフェくらいで、ご当地スイーツとかないもんね。パルデア万歳。

 

「みんなも美味しい?」

 

 ボクの言葉に、全員が元気よく答える。このケーキ、ポケモンも食べられるように味を調節してるようで、ボクの手持ちにも好評だった。

 

 マリルは既にたいらげ腹を向けて寝てるし、カルボウは思いっきり頬張り、ニャオハは口の周りにクリームをべっとり付けて。

 ……お行儀あんまり良くないね君たち。まだ幼いし、仕方ないか。

 

 エーフィだけは流石というか、お上品に小さな口でつまんでいる。

 けど、ボクの膝に乗ったままだから台無し。いいレディーなのに、ずーっとボクが食べさせてるんだけど。どこのお嬢様なんだか。

 

「あーっ!サワロ先生とリンドウ先生だー!」

「んぐふっ!?」

「店内では静かにねアオイ……って、何その量」

 

 ケーキに夢中になっていると、元気の良い声でアオイが駆け寄って来た。

 彼女もここのケーキを食べに来たようで、お盆の上にケーキがいち、に、さん……いや、多い多い多い。何個食べるつもりなの?

 

「ここのケーキ、美味しいって生徒の間でも評判なんですよ」

「そうだね、それは知ってる」

「だから、コンプリートしたいなと!」

「普通そうはならないよ?」

 

 恐るべき女子の胃袋。

 

「なんだか珍しい組み合わせですね。サワロ先生も甘いもの好きなんですか?」

「えっ!?いや、そのだな……ううむ……」

「ボクが頼んだんだよ。ほら、サワロ先生は家庭科専門だし、こういうのに詳しいかなと思って」

 

 すかさずフォロー。目線で、サワロ先生が『感謝する』と言っているように感じた。

 

「なるほど〜!確かに、リンドウ先生は甘いもの好きそうですもんね!」

「ははは……。まぁね」

「私もご一緒していいですか?」

「どうぞ」

 

 上手く誤魔化せてよかった。アオイの言い方に少し引っ掛かるところはあるけど。

 アオイの純度マックスの笑顔を見ると、悪気があって言っているようではなさそう。いや気にしすぎだな、うん。

 

「アオイさんはジムに挑戦しないのかね?」

「もちろんしますよ!でも、ジム戦まで少し時間があるみたいで。私の前に一人予約者がいるんです」

 

 ジムは予約制だ。挑戦権を得るためのジムチャレンジをクリアし、そのうえで予約をとる。どうやら、ジムチャレンジは既にクリアしたみたい。

 セルクルジムのジムリーダーはここの店長。このテラス席からも見える広場が、バトルフィールドになっている。

 

「それで時間潰してるんだ」

「はいっ。それで、せっかくだしケーキをと……」

「ははは。腹ごしらえは重要だからな。むしろ、多すぎないか不安だが……」

「大丈夫です!こう見えて吸収は早いので!」

 

 ジム戦前にお腹壊すとかやめてね?

 美味しそうにケーキを頬張るアオイ。彼女のお皿からは、もう既に半分ほどのケーキが消えていた。若いって怖い。

 

「アオイさんは、この課外授業を通して、どんなトレーナーになるのかね?」

「えっ?」

 

 サワロ先生のいきなりな質問に、アオイの手が止まる。

 

「なに、難しく考えなくていい。興味本位で聞いてみただけだ」

「うーん……。リンドウ先生にも同じこと聞かれたけど……やっぱり分からないです。ジムに挑んで、強くなりたいってのはあるんですけど……」

 

 強くなりたい。

 ボクの問いに対しても、アオイはそう答えた。

 

「どうして強くなりたいって思うの?」

「え!?えーと、強くなったら、ネモともっと楽しいバトルができるなーとか……」

「……そっか」

 

 まだ決まってないみたいだけど、今はそれでいいのかもしれない。いつか転んだ時に彼女を支えてあげるのが、ボクたち先生の務めだから。

 なんだか、質問責めみたいで申し訳ない。

 

「ならば、この後のジム戦はなんとしても勝たなきゃいけないな」

「サワロ先生、それプレッシャーですよぉ〜。私これが初めてなんですから」

 

 これが初挑戦なんだ。物怖じしなさそうだけど、アオイでも緊張するんだな。

 

「戦法も手持ちも固まってないんですよねー。ネモは『大丈夫!』って言ってくれたけど……」

「不安?」

「すこーしだけ」

 

 初めてのジム戦。ターフジムを思い出す。大観衆の前で、頭真っ白になりながらも戦ったっけ。

 通常の野良バトルでは味わえない緊張感がそこにある。それは、新米トレーナーには結構な重荷かもしれないね。

 

 なら、それを和らげるのが今のボクの役目か。

 ボクはこの子の先生でもあり、トレーナーとして三年先輩でもある。

 

『リンドウさん、そろそろお時間ですが……』

「分かりました。すぐコートに向かいます」

「……えっ?コートってもしかして……」

 

 スマホロトムから流れるのは、ジムの受付の声。どうやら、時間が来たみたいだ。

 

「ワガハイも久々にジム戦を見るからな。楽しみにしているよ、リンドウ先生」

「えっ、えっ!?私の前の人ってもしかして……」

 

 ボクが立ち上がると、ポケモンたちがみんな気合いの入った表情で立ち上がる。そうだよね、ワクワクするよね。ボクもなんだ。

 なんせ、三年ぶりのジム戦なんだから。

 

「まあ見ててよ。先輩として、ジム戦の戦い方ってヤツを見せてあげるから」

 

 呆けるアオイを後に、ボクはバトルコートへと向かった。

 

 

 

 

 バトルフィールドはムクロジの屋上に用意されている。ケーキを楽しみながら、バトルを見れるってわけだ。

 そこには、ビビヨンを連れたエプロン姿の女性が待っていた。彼女がここのジムリーダーカエデ、通称『お菓子の虫』。

 

「あら、あら〜。先ほどケーキを買ってくれたお客さん〜?」

「こんにちは。とても美味しかったですよ」

「それは嬉しいわ〜。改めて、パティスリー『ムクロジ』店長のカエデです〜」

 

 ふわふわとした口調で話すカエデさん。掴めなさそうな人だ。

 

「今はジムリーダー、じゃないんですか?」

「ああっ、そうでした〜。いけない、ジムリーダーのカエデです〜」

 

 調子狂うなぁ。

 

「リンドウさんのことは、オモダカ委員長から聞いてます〜。大層腕がたつらしいですね〜」

「過大評価ですよ」

「手加減なしで良いとのことですので、私も楽しみにしてました〜。だから、ちょっぴり強い子たちでお相手しますね〜」

 

 余計なこと言ったなぁ、あの人。

 どうしよう。アオイにあんなカッコつけたこと言ったのに、負けたらシャレにならないよ。

 

「小さいけれど、大きな力を持つむしポケモン。足をすくわれないように、ふんばってくださいね〜」

「どうかお手柔らかにお願いしますよ……」

 

 挨拶もそこそこに終え、トレーナーの配置につく。観客席からの歓声が大きくなり、いっそう会場のボルテージも上がった。

 スタジアムほどの観客じゃないけど、やはり見られているというのは緊張する。でも、ジム戦はこうじゃなくっちゃね!

 

 

ジムリーダーの カエデが

勝負を しかけてきた!

 

 

「おいでなさいな、タマンチュラ〜」

「頼んだよ、ニャオハ!」

 

 カエデさんが出したのはタマンチュラ。ニャオハでは相性不利だね。

 先に言っておこう。セルクルジムはむしタイプを専門とするジムだ。

 

「え、ニャオハ!?せんせーい!くさタイプはむしタイプと相性悪いんだよー!?」

 

 アオイの悲痛な声が聞こえる。周りのギャラリーも、この選出には驚きが強いみたい。

 

「あら、あら〜。くさタイプのポケモン?余裕があるということでしょうか〜」

「考えがないわけじゃないので」

「では、見せてもらいましょう〜。タマンチュラ、とびつ―――」

「ニャオハ、ふいうち!続けて、引きながらこのは!」

 

 タマンチュラが跳びかかろうとしたところに、ニャオハが高速で潜り込んで一撃。

 出足を挫かれ、行動を止めざるを得ないタマンチュラ。その間にニャオハは引き、ついでにこのはをぶつける。彼お得意の電光石火。

 

 とりあえず先制はできた。この戦法は、こないだのアオイ戦でシュミレーション済みだ。

 

「目の覚めるような攻撃ですね〜。驚きました」

「の割には、驚いてなさそうですね?」

「そうですね〜。まずはその足を止めましょう。いとをはく〜」

「よけて!」

 

 タマンチュラが真っ直ぐに糸を飛ばし、こちらの動きを封じようとする。

 むしタイプの厄介なところは豊富な搦手。こと動きを封じることに長けている。技の貧相さと耐久の脆さを、知恵と工夫でしぶとく生き残る。それがむしタイプだ。

 

 だけど、それも当たらなければどうということはない。ニャオハのスピードなら、攻撃を躱すのも苦じゃないはず。

 

たいあたり〜」

「え、速っ――!?」

 

 距離は十分にあった。

 だけど、ニャオハとタマンチュラの距離はあっという間に潰され、強烈な頭突きを喰らった。あの見た目からは想像だにしないスピードで。

 

「……なるほど。あの糸はフェイクですか。最初からニャオハを狙う気はなかった」

 

 いとをはくは、相手に直接当てて動きを封じるのが普通。だけどタマンチュラは、それを最初からニャオハの後方狙って飛ばした。

 発射した糸を地面に貼りつかせて、その伸縮性を活かして突撃。これが、あの高速たいあたりのカラクリか。なんてトリッキーな。

 まるで、自分が弾丸になったよう。これじゃタマンチュラじゃなくて弾ンチュラじゃないか。

 

「正解です〜。タマンチュラ、とびつく〜!」

「もう一度ふいうち!」

 

 ニャオハが再び飛び込む。さっきと違うのは、タマンチュラが攻撃の体勢をとっていること。

 これじゃふいうちは決まらない。カエデさんもそう思ったはず。

 

「今っ!戻っておいで!」

「ハニャォ!」

 

 ボクの合図と同時に、ニャオハは身を翻して尻尾でタマンチュラをはたく。そして、そのままボクのボールに触れ、中に戻っていった。

 次はこの子の番だ!

 

「マリル!アクアジェット!!」

「あら〜?」

 

 ニャオハが戻ると同時に飛び出したマリルは、水の柱を纏って突進。タマンチュラを殴りつけた。

 このジム戦、鍵を握るのは『スピード』だ。

 

 




スイーツ系男子×2
さて、初めてのジム戦です。
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