ポケットモンスター Re:Champion Road 作:1.96
○
セルクルジム戦。ひとまず、序盤の流れは掌握できたと自負しよう。
「不思議な戦法ですね〜。とんぼがえりですか」
「無策で不利なくさタイプを出したわけじゃありませんから」
むしタイプ専門のジム戦に、わざわざ不利なニャオハを選んだのには、主に二つの理由がある。
ひとつはカルボウの経験不足。いくら相性有利でも、捕まえたばかりでは荷が重いと思った。
そして、もうひとつはニャオハの習得技だ。とんぼがえり然りふいうち然り、彼は自慢のスピードを生かす術に長けている。これなら、苦手なむしタイプにも互角以上に渡り合えるはず。
あわよくばスピードで翻弄して一匹倒せればと思ったけど、流石にそこまで甘くはなかったや。
てなわけで作戦変更。ここからはマリルに頑張ってもらう。
「いきますよ〜、たいあたり〜」
「マリル、ジャンプ!」
さっきの高速たいあたりだ。
マリルは尻尾を支えにして高く跳躍。上空からタマンチュラを見下ろす。
「とびはねる!」
高速回転しながらマリルが追突。尻尾でタマンチュラを押し潰した。効果は抜群だ。
マリルの持つフェアリータイプはむし技を半減にする。そして、とびはねるは効果抜群。カエデさんに対して、有利に戦えるといえる。
「なるほど、仕込んできましたね〜。でも、ただで攻撃を受けたわけではないんですよ〜?」
「なっ?」
着地したマリルがしきりに足元を気にしている。
そして、そこにあるのは紫に輝く何か―――
「どくびし……?」
「正解です〜。これでマリルさんの動きを封じさせていただきますよ〜」
「なら、近づけばいいこと!アクアジェット!」
「ひきましょう〜。続けて、いとをはく〜」
まだマリルはどくびしを踏んでいない。それなら、どくびしの撒かれていない相手陣地側で戦えば気にならない。
だけど、そんなボクの考えは読まれていた。タマンチュラに攻撃を躱され、糸で動きを封じられる。
「リル……!?」
「マズい……」
「たいあたり〜」
ドスン!と鈍い音がして、マリルが吹き飛ぶ。ゴロゴロと転がるが、彼女は手足を封じられたせいで起き上がれない。
だが、すぐに次は来る。
「畳みかけましょう〜。とびつく」
「マリル、尻尾を使って跳んで!」
手を塞がれながらも器用に跳躍。先ほどと同じように、マリルはタマンチュラの上を取る。
もう一回とびはねるを喰らわせれば倒せそうだけど……。
「させませんよ〜。いとをはく」
「やっぱ警戒されてるよね。アクアジェット!」
そう来るよね。
マリルは水を纏って突撃。放出された糸は、水で弾かれて効果をなさなかった。
地面に突き刺さるように突撃。タマンチュラを吹き飛ばし、さらにマリルは、自分の体を縛っていた糸を弾き飛ばす。
「よし、体の自由が戻った!」
「では何度でも縛りましょう〜。もう一度いとをはく攻撃〜!」
「右手でガードして!」
そう何度も同じ手は食わないよ!
マリルは飛んできた糸を右手だけで押さえつけ、自ら雁字搦めになる。だが、これでいい。もう片方の腕さえ自由なら!
「あら〜?それなら、すぐに糸を切って――」
「そのまま手繰り寄せるんだ!」
左手を添えて、マリルは力一杯に糸ごとタマンチュラを引き寄せる。
その姿は、まるで一本釣りのごとく。釣れたのは魚じゃなくて、虫ポケモンだけど。
カエデさんの指示に従ったタマンチュラが、自分の出した糸を切るけどもう手遅れだ。釣り上げられた彼は、空中で無防備に晒される。
「いけっ!アクアジェット!!」
「リイイイルウー!!!」
打ち上げたタマンチュラ目掛けて、マリルは水を纏って高速突進。彼に避ける術はなく、撃ち落とされて先頭不能に陥った。
『タマンチュラ戦闘不能!マリルの勝ち!』
「よし、まずは一匹!」
予想以上に苦労したけど、とりあえず数の有利を取ることができた。タマンチュラがダウンしたと同時に、周りの観客もどっと湧く。
ジム戦で使うポケモンは二匹。つまり、カエデさんの手持ちはあと一匹だ。だけど次に出てくるのは切り札。油断はできない。
「なかなかやりますね〜。委員長の評価もわかる気がします〜」
「どうもです。このままひとつ目のバッジゲットと行きたいですが……」
「それはできない相談ですね〜。私だって負けたくはありませんから〜、おいでクマちゃん〜」
「クマちゃん?」
そう言ってカエデさんが繰り出したのは、クマちゃんことヒメグマ。そう、ノーマルタイプのあのヒメグマだった。
「さぁ、ここからどうころがしましょうか〜」
ヒメグマという謎の選出。カエデさんの意図が分からない。セルクルジムはむしタイプ専門のジムのはずだけど……。
いや、プラスに考えよう。ノーマルタイプならニャオハでも十分に相手できる。
「マリル、まだいける?」
「リルゥ!」
「よし、いけるところまで頼むよ!バブルこうせん!!」
どくびしを撒かれている以上、交換戦をすればこちらが明確に不利だ。マリルで攻めて、たとえ倒れてもニャオハで押し切ればいい。
大丈夫、勝機は十分ある。
「クマちゃ〜ん。まずは接近しましょう〜」
「速い!?」
ヒメグマとは思えないスピードでフィールド上を駆け回り、バブルこうせんを躱していく。アオイの個体よりスピードはずっと上だ。なるべく接近戦はしたくないのに……。
「みだれひっかき〜」
「まるくなるでガードして!」
周りにどくびしが眠っている以上、あまり自陣側で動きたくない。マリルは体を丸めて硬くし、ヒメグマの攻撃を耐える。
にしても、なぜあの人はヒメグマを突っ込ませるんだ。そんなにこちら側のフィールドで駆け回っていたら……。
「ググ……?」
「あら〜、踏んじゃいましたね〜」
ヒメグマの表情が一変した。どくびしを踏んだんだ。あれだけ動き回れば、こうなることは必然。カエデさんが焦ったからなのかわからないけど、こっちには好都合!
「マリル、攻め立てよう!テラスタル!」
「こちらもいきますよ〜。さなぎを破って、大きく育ちましょう〜」
同時にテラスタルを切る。
マリルはみずテラスタル。対してヒメグマは、触角が生えたような結晶模様で……。
いや、まさか。
「むしテラスタル!?」
「正解です〜。れんぞくぎり〜」
「くっ……。バブルこうせん!!」
くそッ、迂闊すぎた。
ちょっと考えればわかるだろうに!
マリルが放ったバブルこうせんを、ヒメグマは
そして、テラスタルで強化された爪の連撃を浴びせる。フェアリータイプが消えたこともあって、マリルは耐えきれずダウンした。
『マリル戦闘不能!ヒメグマの勝ち!』
……やられた。テラスタルを切ったのに何もできずに倒された。想定しうる最悪の状況。
これはボクの失態だ。勝負を焦り、強引にテラスタルを切ったボクの責任。
くぅ……、実戦から遠ざかってたせいか勝負勘が鈍ってる。
「ごめんね、マリル。タマンチュラを倒してくれてありがとう」
マリルに労いの言葉をかけて、ボールに戻す。
落ち着いて考えよう。あのヒメグマの特性は、おそらくはやあしだ。状態異常になるとすばやさが上がるという特性。鈍足というヒメグマの短所を、こんな形で克服してくるなんて。
でも、スピードならこっちも負けない。
「託したよ、ニャオハ!」
「ハニャォ!!」
最後の一匹はもちろんニャオハ。
そして、場に出たニャオハが顔を歪める。タマンチュラが残したどくびしの効果だ。
相手はテラスタル済み、こちらは無し。タイプ相性も不利。そして毒状態。さぁて、この絶望的な状況をどうひっくり返そうか。
「……まだ諦めてないようですね〜?」
「ここで投げたら、ニャオハにもマリルにも失礼ですから」
ジムチャレンジでもこれぐらいのピンチはいくらでもあった。勝負は諦めなきゃわからないってことを、先輩としてアオイに見せてあげなきゃ。
なにより、やる気の表情を見せているニャオハを勝たせてあげたい。
「いい心構えですね〜。でも手加減はしませんよ、れんぞくぎり〜」
「望むところですよ!ニャオハ、ヒメグマにひっついて!」
高速で向かってくるヒメグマに対して、ニャオハも前に出て一気に距離を潰した。
爪が振りかざされるよりも先に、ニャオハはヒメグマに体当たり。見事攻撃を止めてみせた。
れんぞくぎりは、連続で攻撃を当て続けることで威力が上がる技。さっきまで上がっていた火力はリセットだ。
「爪はもうひとつありますよ〜?」
「させるか!とんぼがえり!」
もう片方の攻撃が来る前に、ニャオハは素早く離脱。翻しながら尻尾ではたく。
ヒメグマの攻撃が空振りに終わる。動きが鈍ったのを見逃さない。
当てるなら今だ、むしジム対策のとっておき!
「つばめがえし!!」
ニャオハは突進。右手の爪を振り下ろし、跳躍しながら返しの左手で攻撃。高速の二連撃がヒメグマを襲った。効果は抜群だ。
でも。
「カウンターで倍返ししちゃましょう〜」
「なっ……!?」
決まったかと思った矢先、ニャオハの小さな体が吹き飛んだ。
カウンターは、受けたダメージを倍返しにする技。まさか、そんな技まで持ってたなんて……。
「ニャ、グ……」
与えたダメージが大きい分、カウンターで受けたダメージはもっと大きい。立ち上がってはいるけど、彼も苦しいはずだ。
攻撃力の高いヒメグマ相手に、受けられる攻撃はもうない。そして、毒が体力を蝕むことも考えると時間も長くは……。
「たたみかけましょう〜」
「グマァ!」
好機とみて、ヒメグマが突っ込んでくる。みだれひっかきの構えだ。捌き切れるか?
距離を詰めるヒメグマに対して、ニャオハは起き上がって身を躱す。相変わらずしなやかな身のこなしだけど、動きのキレがだいぶ鈍っている。
「このは!!」
しんりょくの効果が乗ったこのはで、なんとか押し戻す。けど、これではジリ貧だ。早いとこ決めないと、ニャオハが毒で力尽きてしまう。
まだ諦めたくない。でも、もう一か八かで突っ込むしか、他に何か策は……。
「ニャオハ、いける!?」
「ハニャ、フー、フー……」
彼も苦しそうだ。
でも、戦う意思は潰えてない。
どうにかしなきゃ……。
「ニャォォォォォォ!!!!」
次の瞬間、高らかに雄叫びを上げるニャオハの体が光り始めた。
「え!?」
「あら〜?」
そんな、いや、まさか。
光はどんどん強くなり、目を開けてられないほどにまで眩くなる。時間にして数秒、徐々に光が弱まり、目を開けたそこには……。
「ロニャァァァ!!」
「しん……か……?」
『ニャローテ。くさねこポケモン。
ニャオハの進化系。体毛に隠したツタを操り、硬い蕾を敵に叩けつける』
スマホロトムが飛び出して図鑑登録。流れる無機質な音声に、ボクは喜びを噛み締めた。
そっか、進化か。そっかぁ……!
「本当に、色々と驚かせてくれますね〜。でも喜ぶのは早いですよ〜?れんぞくぎり〜」
「ニャローテ、ツタを伸ばして!」
気を引き締めろ。まだ勝負の最中だ。
突っ込んでくるヒメグマに対して、ニャローテはツタを伸ばして牽制。そう簡単には近寄らせないよ。
「横に移動しましょ〜」
「下がって!」
ニャローテはバックステップ。距離をとれば、ヒメグマの動きも捉えやすくなるはず。
「右!向いて!」
そしてその距離は、進化して追加された技の射程圏内!
「タネばくだん!」
爆ぜるタネの嵐。効果はいまひとつといえど、ヒメグマの進行を鈍らせる。
とはいえ、ヒメグマもタフだ。勢いが衰えながらも、足を止めることはない。
「気にせず詰めましょ〜。れんぞくぎり〜」
「受け止めて!」
振りかざされた右手を、ニャローテは左手で受け止める。力は五分か、ちょうど抑え込めた。しかし、もう片方の腕が残っている。
ニャローテは、すかさずツタに手を伸ばした。
「左手、来るよ!」
「ニャル!」
ツタをまるで鞭のようにしならせて、蕾部分をヒメグマの手に打ちつける。ばちぃんとした音が響き、ヒメグマの左手が弾かれた。
さらにニャローテは、ヨーヨーのように自在にツタを操って、ヒメグマの左腕をぐるぐるに縛り上げた。
「これは……」
「ひっぱれ!」
縛ったヒメグマの左腕ごと、ニャローテはツタを力いっぱい引く。ツタに引っ張られるようにヒメグマは地面に倒れ込み、無防備な姿を晒した。
その体勢じゃあ、もうカウンターはできっこない。チェックメイトだ!
「つばめがえし!!」
両爪を用いたニャローテの連撃。ヒメグマも、身を翻して爪で応戦した。
爪と爪の交差。攻撃を放った後、フィールド内だけ時間が止まったように二匹の動きが止まる。
ヒメグマは地面に横たわったまま。ニャローテは片膝で手をつき、苦しそうな表情をしている。
固唾を飲む観衆。パートナーの動向を見守るボクとカエデさん。そして、先に動いたのは……。
「……ニャル」
勝利を確信し、ヒメグマに背を向けてこちらにゆっくりと歩いてくるニャローテの姿だった。
ヒメグマは倒れたまま、目を回していた。
『ヒメグマ戦闘不能!ニャローテの勝ち!よって勝者、リンドウ選手!!』
「っっっっっし!!!やったよ、ニャローテ!」
今にも倒れそうなニャローテに、ボクは急いで駆け寄って抱きしめる。そのフラフラの状態で、本当によく頑張ってくれた。
元々ニャオハで撹乱して、マリルで詰めるプランだった。それを苦手なむしタイプ相手に、テラスタル無しでよくぞここまで……。今日はめいっぱい褒めてあげなきゃ!
「ルニャ」
「あら?」
ボクがニャローテの頭を撫でていると、彼はボクの抱擁を解いて押しのけるようにした。
疲れてるのに悪いことしちゃったかな。早く休ませてあげよう。
「リル〜!」
「わっ!?うんうん、君もよく頑張ったね」
ニャローテをボールに戻そうとすると、今度はマリルが飛び出してボクに抱きついた。ボールの中で少し回復したかな。
もちろんマリルも勝利の貢献者だ。こっちも、いっぱい褒めてあげる。
すると。
「ロニャ〜」
そっぽを向いていたニャローテが、不機嫌そうな顔でボクの袖を引っ張った。そっけなかったのは、進化して格好つけていただけみたいだ。
そんな天邪鬼な彼を、ボクは優しく撫でてあげる。まったく、わかりやすいヤキモチ妬いて可愛いんだから。
ひとしきり可愛がってポケモンたちをボールに戻すと、カエデさんが近づいてきた。
「わたしのポケモンたち、み〜んな虫の息です〜。素晴らしいバトルでした〜」
「今回は、ポケモンたちに助けてもらいました。本当にギリギリで……」
「それを引き出したのは、他でもないあなたの力ですよ〜。ニャローテさん、あなたのために戦ってるように見えました〜」
「ちょっと恥ずかしいですね……」
ニャオハが進化したのは完全に予想外だった。あんなにやんちゃで言うことを聞かない子だったのに、感慨深いものがある。トレーナー冥利に尽きると言う他ない。
「改めておめでとうございます〜。ジムリーダーに勝った証に、ジムバッジを差し上げましょ〜」
「……ありがとうございます!」
大歓声が起こる中、ボクはバッジを高く掲げる。まだ一つ目、たかが一つ目。だけどそれは、ボクが今まで踏み出せなかった一歩を踏み出した、大きな大きな瞬間だった。
マリル 一勝一敗
ニャローテ 一勝
一つ目のジム、セルクルジム攻略!
●
てなわけで一つ目ジムクリア&ニャオハ進化回でした。
ちょっと早いかなーと思いつつ、レベル的には進化してもおかしくないのでまぁいいかってことで。
最近テラスタルでとどめさすシーンが目立ったので、今回は早々に退場いただきました。
あ、弊ニャオハはオスです。