ポケットモンスター Re:Champion Road   作:1.96

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11話 やんちゃっ子ニャオハの意地

 

 

 

 セルクルジム戦。ひとまず、序盤の流れは掌握できたと自負しよう。

 

「不思議な戦法ですね〜。とんぼがえりですか」

「無策で不利なくさタイプを出したわけじゃありませんから」

 

 むしタイプ専門のジム戦に、わざわざ不利なニャオハを選んだのには、主に二つの理由がある。

 

 ひとつはカルボウの経験不足。いくら相性有利でも、捕まえたばかりでは荷が重いと思った。

 そして、もうひとつはニャオハの習得技だ。とんぼがえり然りふいうち然り、彼は自慢のスピードを生かす術に長けている。これなら、苦手なむしタイプにも互角以上に渡り合えるはず。

 

 あわよくばスピードで翻弄して一匹倒せればと思ったけど、流石にそこまで甘くはなかったや。

 てなわけで作戦変更。ここからはマリルに頑張ってもらう。

 

「いきますよ〜、たいあたり〜」

「マリル、ジャンプ!」

 

 さっきの高速たいあたりだ。

 マリルは尻尾を支えにして高く跳躍。上空からタマンチュラを見下ろす。

 

とびはねる!」

 

 高速回転しながらマリルが追突。尻尾でタマンチュラを押し潰した。効果は抜群だ。

 

 マリルの持つフェアリータイプはむし技を半減にする。そして、とびはねるは効果抜群。カエデさんに対して、有利に戦えるといえる。

 

「なるほど、仕込んできましたね〜。でも、ただで攻撃を受けたわけではないんですよ〜?」

「なっ?」

 

 着地したマリルがしきりに足元を気にしている。

 そして、そこにあるのは紫に輝く何か―――

 

「どくびし……?」

「正解です〜。これでマリルさんの動きを封じさせていただきますよ〜」

「なら、近づけばいいこと!アクアジェット!」

「ひきましょう〜。続けて、いとをはく〜」

 

 まだマリルはどくびしを踏んでいない。それなら、どくびしの撒かれていない相手陣地側で戦えば気にならない。

 だけど、そんなボクの考えは読まれていた。タマンチュラに攻撃を躱され、糸で動きを封じられる。

 

「リル……!?」

「マズい……」

たいあたり〜」

 

 ドスン!と鈍い音がして、マリルが吹き飛ぶ。ゴロゴロと転がるが、彼女は手足を封じられたせいで起き上がれない。

 だが、すぐに次は来る。

 

「畳みかけましょう〜。とびつく

「マリル、尻尾を使って跳んで!」

 

 手を塞がれながらも器用に跳躍。先ほどと同じように、マリルはタマンチュラの上を取る。

 もう一回とびはねるを喰らわせれば倒せそうだけど……。

 

「させませんよ〜。いとをはく

「やっぱ警戒されてるよね。アクアジェット!」

 

 そう来るよね。

 マリルは水を纏って突撃。放出された糸は、水で弾かれて効果をなさなかった。

 地面に突き刺さるように突撃。タマンチュラを吹き飛ばし、さらにマリルは、自分の体を縛っていた糸を弾き飛ばす。

 

「よし、体の自由が戻った!」

「では何度でも縛りましょう〜。もう一度いとをはく攻撃〜!」

「右手でガードして!」

 

 そう何度も同じ手は食わないよ!

 マリルは飛んできた糸を右手だけで押さえつけ、自ら雁字搦めになる。だが、これでいい。もう片方の腕さえ自由なら!

 

「あら〜?それなら、すぐに糸を切って――」

「そのまま手繰り寄せるんだ!」

 

 左手を添えて、マリルは力一杯に糸ごとタマンチュラを引き寄せる。

 その姿は、まるで一本釣りのごとく。釣れたのは魚じゃなくて、虫ポケモンだけど。

 

 カエデさんの指示に従ったタマンチュラが、自分の出した糸を切るけどもう手遅れだ。釣り上げられた彼は、空中で無防備に晒される。

 

「いけっ!アクアジェット!!」

「リイイイルウー!!!」

 

 打ち上げたタマンチュラ目掛けて、マリルは水を纏って高速突進。彼に避ける術はなく、撃ち落とされて先頭不能に陥った。

 

『タマンチュラ戦闘不能!マリルの勝ち!』

 

「よし、まずは一匹!」

 

 予想以上に苦労したけど、とりあえず数の有利を取ることができた。タマンチュラがダウンしたと同時に、周りの観客もどっと湧く。

 ジム戦で使うポケモンは二匹。つまり、カエデさんの手持ちはあと一匹だ。だけど次に出てくるのは切り札。油断はできない。

 

「なかなかやりますね〜。委員長の評価もわかる気がします〜」

「どうもです。このままひとつ目のバッジゲットと行きたいですが……」

「それはできない相談ですね〜。私だって負けたくはありませんから〜、おいでクマちゃん〜」

「クマちゃん?」

 

 そう言ってカエデさんが繰り出したのは、クマちゃんことヒメグマ。そう、ノーマルタイプのあのヒメグマだった。

 

「さぁ、ここからどうころがしましょうか〜」

 

 ヒメグマという謎の選出。カエデさんの意図が分からない。セルクルジムはむしタイプ専門のジムのはずだけど……。

 いや、プラスに考えよう。ノーマルタイプならニャオハでも十分に相手できる。

 

「マリル、まだいける?」

「リルゥ!」

「よし、いけるところまで頼むよ!バブルこうせん!!」

 

 どくびしを撒かれている以上、交換戦をすればこちらが明確に不利だ。マリルで攻めて、たとえ倒れてもニャオハで押し切ればいい。

 大丈夫、勝機は十分ある。

 

「クマちゃ〜ん。まずは接近しましょう〜」

「速い!?」

 

 ヒメグマとは思えないスピードでフィールド上を駆け回り、バブルこうせんを躱していく。アオイの個体よりスピードはずっと上だ。なるべく接近戦はしたくないのに……。

 

みだれひっかき〜」

まるくなるでガードして!」

 

 周りにどくびしが眠っている以上、あまり自陣側で動きたくない。マリルは体を丸めて硬くし、ヒメグマの攻撃を耐える。

 にしても、なぜあの人はヒメグマを突っ込ませるんだ。そんなにこちら側のフィールドで駆け回っていたら……。

 

「ググ……?」

「あら〜、踏んじゃいましたね〜」

 

 ヒメグマの表情が一変した。どくびしを踏んだんだ。あれだけ動き回れば、こうなることは必然。カエデさんが焦ったからなのかわからないけど、こっちには好都合!

 

「マリル、攻め立てよう!テラスタル!」

「こちらもいきますよ〜。さなぎを破って、大きく育ちましょう〜」

 

 同時にテラスタルを切る。

 マリルはみずテラスタル。対してヒメグマは、触角が生えたような結晶模様で……。

 

 いや、まさか。

 

「むしテラスタル!?」

「正解です〜。れんぞくぎり〜」

「くっ……。バブルこうせん!!」

 

 くそッ、迂闊すぎた。

 ちょっと考えればわかるだろうに!

 

 マリルが放ったバブルこうせんを、ヒメグマは()()()()()()()()()躱し、懐に潜り込んだ。

 そして、テラスタルで強化された爪の連撃を浴びせる。フェアリータイプが消えたこともあって、マリルは耐えきれずダウンした。

 

『マリル戦闘不能!ヒメグマの勝ち!』

 

 ……やられた。テラスタルを切ったのに何もできずに倒された。想定しうる最悪の状況。

 これはボクの失態だ。勝負を焦り、強引にテラスタルを切ったボクの責任。

 くぅ……、実戦から遠ざかってたせいか勝負勘が鈍ってる。

 

「ごめんね、マリル。タマンチュラを倒してくれてありがとう」

 

 マリルに労いの言葉をかけて、ボールに戻す。

 落ち着いて考えよう。あのヒメグマの特性は、おそらくはやあしだ。状態異常になるとすばやさが上がるという特性。鈍足というヒメグマの短所を、こんな形で克服してくるなんて。

 

 でも、スピードならこっちも負けない。

 

「託したよ、ニャオハ!」

「ハニャォ!!」

 

 最後の一匹はもちろんニャオハ。

 そして、場に出たニャオハが顔を歪める。タマンチュラが残したどくびしの効果だ。

 相手はテラスタル済み、こちらは無し。タイプ相性も不利。そして毒状態。さぁて、この絶望的な状況をどうひっくり返そうか。

 

「……まだ諦めてないようですね〜?」

「ここで投げたら、ニャオハにもマリルにも失礼ですから」

 

 ジムチャレンジでもこれぐらいのピンチはいくらでもあった。勝負は諦めなきゃわからないってことを、先輩としてアオイに見せてあげなきゃ。

 なにより、やる気の表情を見せているニャオハを勝たせてあげたい。

 

「いい心構えですね〜。でも手加減はしませんよ、れんぞくぎり〜」

「望むところですよ!ニャオハ、ヒメグマにひっついて!」

 

 高速で向かってくるヒメグマに対して、ニャオハも前に出て一気に距離を潰した。

 爪が振りかざされるよりも先に、ニャオハはヒメグマに体当たり。見事攻撃を止めてみせた。

 れんぞくぎりは、連続で攻撃を当て続けることで威力が上がる技。さっきまで上がっていた火力はリセットだ。

 

「爪はもうひとつありますよ〜?」

「させるか!とんぼがえり!」

 

 もう片方の攻撃が来る前に、ニャオハは素早く離脱。翻しながら尻尾ではたく。

 ヒメグマの攻撃が空振りに終わる。動きが鈍ったのを見逃さない。

 

 当てるなら今だ、むしジム対策のとっておき!

 

つばめがえし!!」

 

 ニャオハは突進。右手の爪を振り下ろし、跳躍しながら返しの左手で攻撃。高速の二連撃がヒメグマを襲った。効果は抜群だ。

 でも。

 

カウンターで倍返ししちゃましょう〜」

「なっ……!?」

 

 決まったかと思った矢先、ニャオハの小さな体が吹き飛んだ。

 カウンターは、受けたダメージを倍返しにする技。まさか、そんな技まで持ってたなんて……。

 

「ニャ、グ……」

 

 与えたダメージが大きい分、カウンターで受けたダメージはもっと大きい。立ち上がってはいるけど、彼も苦しいはずだ。

 攻撃力の高いヒメグマ相手に、受けられる攻撃はもうない。そして、毒が体力を蝕むことも考えると時間も長くは……。

 

「たたみかけましょう〜」

「グマァ!」

 

 好機とみて、ヒメグマが突っ込んでくる。みだれひっかきの構えだ。捌き切れるか?

 距離を詰めるヒメグマに対して、ニャオハは起き上がって身を躱す。相変わらずしなやかな身のこなしだけど、動きのキレがだいぶ鈍っている。

 

このは!!」

 

 しんりょくの効果が乗ったこのはで、なんとか押し戻す。けど、これではジリ貧だ。早いとこ決めないと、ニャオハが毒で力尽きてしまう。

 まだ諦めたくない。でも、もう一か八かで突っ込むしか、他に何か策は……。

 

「ニャオハ、いける!?」

「ハニャ、フー、フー……」

 

 彼も苦しそうだ。

 でも、戦う意思は潰えてない。

 どうにかしなきゃ……。

 

 

 

「ニャォォォォォォ!!!!」

 

 次の瞬間、高らかに雄叫びを上げるニャオハの体が光り始めた。

 

「え!?」

「あら〜?」

 

 そんな、いや、まさか。

 光はどんどん強くなり、目を開けてられないほどにまで眩くなる。時間にして数秒、徐々に光が弱まり、目を開けたそこには……。

 

「ロニャァァァ!!」

「しん……か……?」

 

『ニャローテ。くさねこポケモン。

ニャオハの進化系。体毛に隠したツタを操り、硬い蕾を敵に叩けつける』

 

 スマホロトムが飛び出して図鑑登録。流れる無機質な音声に、ボクは喜びを噛み締めた。

 そっか、進化か。そっかぁ……!

 

「本当に、色々と驚かせてくれますね〜。でも喜ぶのは早いですよ〜?れんぞくぎり〜」

「ニャローテ、ツタを伸ばして!」

 

 気を引き締めろ。まだ勝負の最中だ。

 突っ込んでくるヒメグマに対して、ニャローテはツタを伸ばして牽制。そう簡単には近寄らせないよ。

 

「横に移動しましょ〜」

「下がって!」

 

 ニャローテはバックステップ。距離をとれば、ヒメグマの動きも捉えやすくなるはず。

 

「右!向いて!」

 

 そしてその距離は、進化して追加された技の射程圏内!

 

タネばくだん!」

 

 爆ぜるタネの嵐。効果はいまひとつといえど、ヒメグマの進行を鈍らせる。

 とはいえ、ヒメグマもタフだ。勢いが衰えながらも、足を止めることはない。

 

「気にせず詰めましょ〜。れんぞくぎり〜」

「受け止めて!」

 

 振りかざされた右手を、ニャローテは左手で受け止める。力は五分か、ちょうど抑え込めた。しかし、もう片方の腕が残っている。

 ニャローテは、すかさずツタに手を伸ばした。

 

「左手、来るよ!」

「ニャル!」

 

 ツタをまるで鞭のようにしならせて、蕾部分をヒメグマの手に打ちつける。ばちぃんとした音が響き、ヒメグマの左手が弾かれた。

 さらにニャローテは、ヨーヨーのように自在にツタを操って、ヒメグマの左腕をぐるぐるに縛り上げた。

 

「これは……」

「ひっぱれ!」

 

 縛ったヒメグマの左腕ごと、ニャローテはツタを力いっぱい引く。ツタに引っ張られるようにヒメグマは地面に倒れ込み、無防備な姿を晒した。

 その体勢じゃあ、もうカウンターはできっこない。チェックメイトだ!

 

つばめがえし!!」

 

 両爪を用いたニャローテの連撃。ヒメグマも、身を翻して爪で応戦した。

 

 爪と爪の交差。攻撃を放った後、フィールド内だけ時間が止まったように二匹の動きが止まる。

 ヒメグマは地面に横たわったまま。ニャローテは片膝で手をつき、苦しそうな表情をしている。

 

 固唾を飲む観衆。パートナーの動向を見守るボクとカエデさん。そして、先に動いたのは……。

 

「……ニャル」

 

 勝利を確信し、ヒメグマに背を向けてこちらにゆっくりと歩いてくるニャローテの姿だった。

 ヒメグマは倒れたまま、目を回していた。

 

『ヒメグマ戦闘不能!ニャローテの勝ち!よって勝者、リンドウ選手!!』

 

「っっっっっし!!!やったよ、ニャローテ!」

 

 今にも倒れそうなニャローテに、ボクは急いで駆け寄って抱きしめる。そのフラフラの状態で、本当によく頑張ってくれた。

 元々ニャオハで撹乱して、マリルで詰めるプランだった。それを苦手なむしタイプ相手に、テラスタル無しでよくぞここまで……。今日はめいっぱい褒めてあげなきゃ!

 

「ルニャ」

「あら?」

 

 ボクがニャローテの頭を撫でていると、彼はボクの抱擁を解いて押しのけるようにした。

 疲れてるのに悪いことしちゃったかな。早く休ませてあげよう。

 

「リル〜!」

「わっ!?うんうん、君もよく頑張ったね」

 

 ニャローテをボールに戻そうとすると、今度はマリルが飛び出してボクに抱きついた。ボールの中で少し回復したかな。

 もちろんマリルも勝利の貢献者だ。こっちも、いっぱい褒めてあげる。

 すると。

 

「ロニャ〜」

 

 そっぽを向いていたニャローテが、不機嫌そうな顔でボクの袖を引っ張った。そっけなかったのは、進化して格好つけていただけみたいだ。

 そんな天邪鬼な彼を、ボクは優しく撫でてあげる。まったく、わかりやすいヤキモチ妬いて可愛いんだから。

 

 ひとしきり可愛がってポケモンたちをボールに戻すと、カエデさんが近づいてきた。

 

「わたしのポケモンたち、み〜んな虫の息です〜。素晴らしいバトルでした〜」

「今回は、ポケモンたちに助けてもらいました。本当にギリギリで……」

「それを引き出したのは、他でもないあなたの力ですよ〜。ニャローテさん、あなたのために戦ってるように見えました〜」

「ちょっと恥ずかしいですね……」

 

 ニャオハが進化したのは完全に予想外だった。あんなにやんちゃで言うことを聞かない子だったのに、感慨深いものがある。トレーナー冥利に尽きると言う他ない。

 

「改めておめでとうございます〜。ジムリーダーに勝った証に、ジムバッジを差し上げましょ〜」

「……ありがとうございます!」

 

 大歓声が起こる中、ボクはバッジを高く掲げる。まだ一つ目、たかが一つ目。だけどそれは、ボクが今まで踏み出せなかった一歩を踏み出した、大きな大きな瞬間だった。

 

 

 

マリル   一勝一敗

ニャローテ 一勝

 

一つ目のジム、セルクルジム攻略!

 

 




てなわけで一つ目ジムクリア&ニャオハ進化回でした。
ちょっと早いかなーと思いつつ、レベル的には進化してもおかしくないのでまぁいいかってことで。
最近テラスタルでとどめさすシーンが目立ったので、今回は早々に退場いただきました。

あ、弊ニャオハはオスです。
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