ポケットモンスター Re:Champion Road 作:1.96
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アカデミーの図書館は、そりゃあもうメチャクチャにデカい。本の種類は豊富だし、この広いエントランスに見劣りしない広さもある。
それ自体は素晴らしい。ひとつ文句があるとすれば、規模が大きすぎるが故に目的の本が見つかりにくいかな。
「うわ、あれも高いとこだなぁ……。エーフィ、またサイコキネシスでお願いできる?」
「エフー……」
「露骨に嫌な顔しないで?」
現在ボクは、次の授業のための調べ物をしている。本の多いここなら、調べ物をするにはうってつけだからね。
だけどご覧の通り、めあての本を探すのに苦労している状態。ポケモンたちにも手伝ってもらってるんだけど、エーフィはこんな感じだし。
……まぁ、ずっとサイコパワーで本を下ろしてもらってるから疲れるし飽きるのも仕方ないか。ごめんね、あとで埋め合わせはするから。
「ニャッ」
「ん?あぁ、ありがとうニャローテ。助かるよ」
ニャローテが本を手に抱えている。彼には、低い場所をお願いしていた。
進化はしたけど今までとあまり変わりなく、彼は素直なまま育っている。
進化した途端に言うことを聞かなくなる話はよく聞くけど、この子はそんな心配はなさそう。あるいは、反抗期が遅れて来るのかもしれない。
「よしよし、もう休んでいいよ」
「ニャフ〜」
来るのかなぁ。
ニャローテの頭を撫でると、彼はゴロゴロと喉を鳴らす。まぁ、反抗期が来ないに越したことはないけど―――いったい!?何!?なんか落ちてきた!?
「こら、エーフィ!」
「フンっ」
落ちてきたのは、エーフィに取るように頼んだ本だった。わざと高所から落としたんだろう。……大丈夫、理由はなんとなくわかってる。
ふてくされた彼女は、そのまま校舎の中に消えていった。散歩にでも行ったな。あれはしばらく帰ってこなさそう。
「はぁ……。今度ホイップ入りのカレーでも作ってあげるかな」
「珍しいな。調べ物か?」
本を拾い上げてると、背後から声をかけられた。
歴史担当のレホール先生だ。
「こんにちは。授業で必要でして」
「野外活動、だったな?クックッ、今の時代にそぐわぬ中々ワイルドな活動らしいじゃないか」
「古いでしょうか……」
「ああ、気を悪くしないでくれ。むしろ、先人に学ぼうとするその姿勢に関心を持ったぐらいだ」
そんなつもりはあまりなかったけど、黙った方が吉だろうか。レホール先生はどこか楽しそう。
歴史の先生なだけあって、古いものが好きな人だ。ボクの持っていた本を一冊手に取り、パラパラとめくる。
「ほう、クラフトか」
「ボールは無理だったけど、こっちならいけるかなと。素材もあるみたいですし」
「興味深いな。授業がなければ私も参加したいぐらいだよ。いや、いっそ中止にして……」
「実行に移すのは止めてくださいね?」
「なに、冗談だ」
信用できん。
レホール先生は自分の好奇心を何よりも優先するきらいがある。
この前アオイに対して、『災いと呼ばれたポケモンの封印を解いてみないか?』とか言い出した時は、流石に止めに入ったよね。
それはさておき、次の授業内容はレホール先生も言った『クラフト』だ。まだショップもない時代では、アイテムは自らで作るものだったという。
今の時代、買う方が手軽といえばそれまで。だけど、万が一手持ちのアイテムが尽きた時に作れたら便利だよねってわけで。
……はい、今回もヒスイに学びました。次は別の引き出しを考えとかなきゃなあ。
「しかし、貴様はずいぶんと心優しいな」
「そうですか?」
「薬以外にめかくしだま、ねばりだまか……。クラフトで作らせようとしてるものは、どれも生徒の身を案ずるものだろう?」
確かにそうだ。次の授業をするにあたって、まず思いついたのが『生徒の身の安全を守ること』だった。
こないだのヌシポケモンの存在も影響したかもしれない。あの状況、いつ怪我人が出てもおかしくなかったし。
「生徒を守るのが教員の役割ですから」
「その意気は認めるが、空回りせんことだな。特に、この宝探しに関しては」
どういう意味だ。
「痛みや傷を負うのも時には必要ということだ。人は過去の傷を振り返り成長する。それが強烈なら強烈なだけいい」
「成長のためなら、怪我や傷は受けて上等って言うんですか?」
「そこまで言わない。が、過敏になるのも良くないと言っている。たかだか一回の授業に、その資料の数は過剰だろう?」
レホール先生はボクを指差す。ボクが図書館でかき集めた本、その数は二十冊を超えている。
……確かに過剰かも。クラフトの授業は今回限りだろうし、この中の五冊も使うか怪しい。ごめんね、エーフィとニャローテ。
「貴様の方針を否定はせんが、過保護になりすぎて生徒を抑えつけないことだな」
「……そうですね」
「貴様もトレーナーなら、それなりに痛い思いをしただろう?傷つくのは嫌か?」
レホール先生は、その傷を乗り越えてきただろう?とでも言いたげだった。
確かにジムチャレンジでは辛い思いをした。それを乗り越えれば、成長できるかもしれない。
だけど。
「そうですね。痛いのは嫌いです」
ボクはずっと逃げて、ごまかしてきたんだ。
◇ ◇ ◇
『あーっと!?リンドウ選手、最後の1匹をモンスターボールに戻した!!これはどういうことだぁ~!?』
三年前。ダンデさんとの決戦の日。
あの試合を見ていた人は、その結末にさぞや驚いただろう。
予想外の出来事に戸惑う実況に、ざわつき始める観客。ボクの戦う意思無しと判断した審判は、ダンデさんを勝者とジャッジする。その瞬間、ボクの負けが決まった。
ボクのジムチャレンジ最後の戦いは、リタイアという形で幕を閉じた。
ガラルでのボクの評価は、『ダンデを追い詰めたトレーナー』ということになっている。その表現に誇張はなく、実際ボクはリザードンを除くダンデさんのポケモン五匹を倒した。
最後は、ボクのエースポケモンとリザードンの一騎打ち。残ったのは、ガラルを旅してきた中でボクが最も頼りにした子だ。彼が負けたのを見たことがなかったし、リザードンを倒すのも彼しかいないと思ってた。
とにかくタフな子だった。誰よりも負けず嫌いで、実力では劣るものの、リザードンに負けじと食らいつき意地を見せる。この子ならあるいは、と観客やボク自身に期待させてくれたのはいうまでもない。
だけど事故は起こった。
リザードンの爪が、あの子の右目を奪った。赤いゴーグルを突き破り、鋭い爪が目に達する。その痛々しい光景は、今でも忘れられない。
もちろん故意の出来事ではない。バトル中のアクシデントのひとつ。リザードン、ましてやダンデさんが悪いわけではない。まだバトル中なら、切り替えないといけなかった。
だけど当時のボクは割り切れなくて、もうパニックで。マトモな指示も出せないまま、ただ立ち尽くすだけだった。
リザードンに押されながらも、あの子は何度でも立ち上がった。何度でも立ち向かった。それなのにボクはというと。
傷つく彼を見るのが怖くて、止めなきゃ死ぬまで立ち続けるんじゃないかと怯えて。ボクに出来るのは、トレーナーとして戦いを止めさせることだけだった。
こうして、ボクは棄権したんだ。
ポケモンはの意思も確かめず、身勝手な理由で。
その後、彼はボクの元を離れて野生に帰った。
ボクに止める権利はない。もっとボクが強ければ、あんな惨めな思いをさせずに済んだと、今でも後悔は消えない。
今もなお、彼を迎えに行けてない。合わせる顔がないと自分を説得してきたけど、結局あの敗戦から逃げているだけなんだ。
最もらしい言い訳で、自分の弱さをごまかしてるだけ。もうこれ以上、トレーナーとして成長はできない。そう悟ったから、ボクはトレーナーを引退したんだ。
「フー」
「いたっ!?」
ガラルで撮った記念写真。自室でそれを見ながら想いを馳せていると、エーフィの甘噛みで現実に引き戻された。
普段はアレでも、この子はとても聡明だ。色々思い出してナイーブになったボクを、彼女なりに励ましてくれたのかもしれない。
「ありがとね――って、もういないし」
やっぱり、そうでもないのかも。どこまでも気まぐれなんだから。
パルデアに来て、再度トレーナーとして歩み始めた。そのきっかけは、『そういう機会があったから』だ。パルデアに来ることがなければ、きっとボクはトレーナー復帰していない。
そんな些細なきっかけだけど、新たに三匹の仲間に出会えた。まだ幼くて伸びしろの大きなこの子たちと成長して、ボク自身もっと強くなる。
そうして、もう一度あの子に会いに行くんだ。今度は逃げずに向き合って、トレーナーとしてもう一度認めてもらえるように。
アカデミーの先生としてバッチリ仕事をこなして、もっともっとバトルの経験を積んで―――
「ロニャー!」
「どうしたのニャローテ……ってちょっと!?マリルもカルボウも喧嘩しない!エーフィは眺めてないで止めて!?」
いや、スローペースで行こう。
肩の力が一気に抜けたボクは、彼らの喧嘩の仲裁に入るのだった。
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レホール先生が悪役一歩手前みたいなキャラしてるの好き
善悪より好奇心を糧に動く感じ、アクロマみを感じる