ポケットモンスター Re:Champion Road 作:1.96
○
そして来たる授業二回目。
内容は先日調べ物をした通りクラフトだ。手作業なので、今回はジニア先生から理科室をお借りしている。あれ、野外活動してなくない?
まぁ、実際は外で行うものだからセーフということにしよう。
そんなことより気になるのは……。
「人、多くない?」
「はーい!私が集めましたー!」
何してくれてんのアオイ。普通にひとクラスと相違ない人数がいるんだけど。一回目は二人だったのに、この増え方おかしいでしょ。
道具多めに用意して正解だった。
緊張するなぁ……。
「じゃあ、始めようか。みんなちゅうもーく」
少し騒がしかった教室が静まる。
みんな素直で結構。
「えーと。みんなこの授業に参加してくれてありがとう。この科目担当のリンドウです」
以前から顔見知りの二人だけならともかく、今日は知らない子も多い。実質、今日が授業一回目みたいなものだ。
「この『野外活動』は、課外授業で役立てる知識や技術を教えていく授業です。みんなの宝探しの助けになってくれれば、先生としては嬉しいかな」
今日は外に出ないけど……と付け足しながら、活動で使う道具を配布する。
「今日作ってもらうのは二つ。キズぐすりと、めかくしだまです。キズぐすりについてはもう知ってるよね?……そう、店売りされてるあのキズぐすり。材料はオレンのみとクスリソウ。一緒に配ったすり鉢ですり潰して、混ぜ合わせれば完成するよ」
へぇ〜と、感嘆の声がちらほら。
「めかくしだまは、簡単に言えば煙幕だね。地面にぶつけることで煙を発生させることができるよ。こっちはケムリイモとタマゼンマイを使ってね。タマゼンマイでケムリイモの粉末を包むだけだから、簡単に作れると思います」
授業の効率を上げるため、ケムリイモはあらかじめ粉末状にしておいた。結構骨が折れたんだぞ。
それはさておき、クラフトとはいえ図工みたいなものだ。普段の授業ではまずやらないであろう体験に、生徒たちも興味を示したみたい。ひとまず、掴みは上々ってとこか。
「先生、質問いいか?」
「どうしたの、ペパーさん」
「めかくしだまって聞いたことないが、何に使うものなんだ?」
「そうだねぇ。用途は色々あるけど……せっかくだし、みんなに予想してもらおうか」
「はい先生!」
ペパーに続いて、ネモが挙手する。
嫌な予感しかしない。
「……どうぞ」
「バトルで投げつければ、相手トレーナーやポケモンの視界を奪えると思います!」
「絶対に止めてください」
このバトル脳は……。
当然、対人のバトルでトレーナーが小道具を使うのは反則だ。
「野生ポケモンを捕まえる時に、こっそり近づける……とか?」
「視界を奪うなら、逃げる時にも使えそうだな」
「アオイさんにペパーさん。そうだね。ネモさんの言う通り、このアイテムは煙幕を出して視界を奪えます。主に使うのは野生ポケモン相手になるかな」
アオイの回答は、前回の授業に参加したからこその発言だね。ある意味、ボクもこの回答は予想していなかった。
「キズぐすりはもちろん、このめかくしだまもみんなの身を守る助けになるかもしれないね。手強い野生ポケモンに出会った時……ピンチな時は迷わず使って」
今となっては、ピッピにんぎょうという便利なものもあるけど……と補足をいれておく。まぁ、その場作りができるのがクラフトの良いところだ。まさにサバイバル。
◇ ◇ ◇
「みんな、お疲れ様。じゃあ今回の授業はこれでおしまい。キズぐすりは、効果を確かめてから返すからね。めかくしだまは人に投げないように」
無事に授業終了。キズぐすりを提出してもらい、解散となった。
キズぐすりの効果は、作業内容によって良くも悪くもなる。上手く攪拌されてなかったら効果が薄まる……とか。
テーブルに山積みで置かれたキズぐすりを見て、さっきの自分の発言を呪う。これひとつひとつ、効果を確かめなきゃいけないんだった。
……キズぐすり、多いなぁ。
でも、このモニターになってくれるうってつけのポケモンがいるんだ。
「おいでウーラオス」
ボクがボールから出したのは、ガラル時代の手持ちの一匹。この子は、かくとう•みずを有している『れんげきの型』だ。
ボクのパーティーでも一番の努力家で、とにかくバトルが大好きだった。暇あればトレーニングしてるから、生傷が絶えないんだよね。キズぐすりのモニターにはぴったりなので、様子見も兼ねてガラルから呼び寄せたってワケ。
「ウラッス!」
「久しぶりだね!わぁ……また傷作っちゃって」
前見た時より一層増えた気がする。本人が元気そうだからいいけど、大怪我には気をつけてね。
まぁこれだけ傷があれば、生徒分のキズぐすりは確かめられそうだ。早速ビンを開け、中身を塗っていく。
「ごめんね〜。久しぶりに会ったのに、こんな実験台みたいなことさせちゃって」
「ラオッス」
いくらキズぐすりを試すだけとはいえ、多少罪悪感はある。でも彼が気にすんなと言ってくれると、こっちも救われた。早く終わらせよう。
ええと、これはネモか……。
少し作りは荒いけど、効果は問題無さそう。
んで、これはアオイ。
お手本のような出来だ。丁寧に作られてるね。
そしてこれが……。
「わっ、凄いなコレ。みるみる怪我が治ってく」
ペパーが作ったものだ。
効能は他の生徒と比べても抜群だし、心なしかウーラオスも心地良さそうにしている。
素材は丁寧にすり潰されているし、攪拌もしっかりされている。材料は同じはずなのに、作り方で効果はこうも違うのか。これ、既製品のより効能いいんじゃ……。
「あの、先生」
「わっ!?え、いたの!?」
「なんか声掛け辛かったから……」
振り向くと、そこにはペパーが。すっかり帰ったと思ってたよ。作業に夢中で気づかなかった。
「ごめんね。で、どうしたの?忘れ物?」
「いや、それの効能が知りたくて」
「キズぐすりの?バッチリだよ!市販のキズぐすりと大差ないか、それ以上の出来じゃないかな」
「そ、そうか……」
あれ。
さっきも言ったけど、彼のそれは一番の出来。だけど、ペパーはあまり嬉しくないみたい。何か、気に障ることを言ったかな。
「市販のものと大差ないか……」
「ゴメンね。クラフトといっても、あくまで応急処置で使うようなレベルだから」
「いや、先生は悪くないんだ」
当然ながら、ポケモンの傷を治すにはポケモンセンターに行くのが一番確実。
申し訳ないけど、今回のキズぐすりにそこまでの万能性はない。
「俺のポケモンさ、結構な怪我しちまって……。もしかしたら、その怪我が治せねーかなって思ってたんだけど」
「そっか……。ゴメンね、期待に応えられなくて。もしかして、スパイス集めもそのため?」
ボクが問いかけると、ペパーはコクリと頷く。彼が危険を冒してヌシポケモンと戦っているのには、そういう背景があったんだ。
「手伝ってくれてるアオイには感謝してる。あと、先生にも。俺は2人と違って、バトル得意じゃねーし弱いから……」
ヌシポケモンは相当な強敵だった。あれを一人で倒すのは至難の業。アオイの協力は大きい。
ペパーは項垂れる。彼のポケモンが傷ついた経緯はわからないけど、負い目を感じてるのは確か。自分が弱いからこうなってしまった。そう感じている姿は、どこか自分とダブってみえる。
「ボクも自分のポケモンを傷つけたことあるよ」
「……先生もか?」
「うん。結局、その子はボクの元を離れちゃったけどね」
ダンデさんとの試合後、手元から離れていったあの子だ。
「でも、ペパーは違うんでしょ?まだ、その子は手持ちにいる」
「あ、あぁ……」
「だったら、しっかりしないと。その子にはキミしかいないんだから。ペパーには、ボクと同じ道を辿って欲しくないな」
ボクに出来るのは、小手先の知識や技術を教えるだけ。本当にそうだろうか。
『人は過去の傷を振り返り成長する』
レホール先生の言葉を思い出す。ボク自身過去に苦い思いをしたし、その失敗は帰ってこない。
でも、その時の経験を次に活かすことはできる。二人目、三人目のボクを生まないことだ。
ペパーと彼のポケモンがまた笑い合えるよう、ボクにも何か出来ることがあるはず。
「ありがとうな、先生。そうだよな、マフィティフには俺しかいないもんな」
「うんっ。もし、ボクが力になれることがあったら言ってね」
「あぁ!」
ペパーに笑顔が戻った。
過去を振り返る、か。マスタードさんがなんでボクをパルデアに送ったのか、少しだけわかった気がした。
●
クラフト回。以前感想で、クラフトはわざマシンマシンに引き継がれてるなーと頂きまして。それ使おうと思ったけど理屈が分からんすぎて、泣く泣く普通のキズぐすりとめかくしだまにしました。アイテムはアルセウスのクラフト素材そのままですが、一応パルデアでもそこら辺探せば見つかるであろう設定。
まぁ、認知されてないだけって可能性もあるしね。オレンのみは現代でも存在してるわけで。
そして、リンドウくんのガラル手持ち4匹目は水ウーラオスです。まだ見ぬ2匹と、存在だけ仄めかされてる1匹。彼らはそのうち出します。