ポケットモンスター Re:Champion Road   作:1.96

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18話 ピンクの悪魔?

 

 

 

「せんせーい!こっちこっちー!」

 

 ジム戦を終えた直後。

 コルサさんからバッジを受け取り、ジムを出ると聞き慣れた声に呼び止められた。

 

「アオイ、来てたの?」

「たまたま寄ったら、先生が試合してるの見えたから!今回も凄かったです!」

「見られてたの……。でも、ありがとう」

 

 恥ずかしい気もするけど、褒められて悪い気はしない。

 ちなみに、アオイはもうボウルジムはクリア済みみたい。さすがはアカデミー期待のホープ。

 

「あの煙幕は参考になりましたね〜。ポケモンじゃなくて、トレーナーの目を欺くのは考え付かなかったです」

「ネモがこないだ授業で言ったことを思い出してね。小道具使うのはダメだけど」

「ふむふむ、なるほど……」

 

 どこから取り出したのか、メモまでしちゃって。勉強熱心なのは良しとする……か?最近、この子と行動することが多くなった気がする。

 まぁ、いいか。

 

「先生、この後暇ですか?」

「休みだよ。でも、次の授業の準備とか色々しなきゃだしなぁ」

「よし、このままハッコウシティまで行っちゃいましょう!」

「話聞いてた?」

 

 教員ってのはね、休みが休みじゃないんだよ。

 ボクみたいな非常勤じゃない、他の正規職員なんて目を回しながら仕事してるのに。

 

「お休みなのに働くなんて、そんなのお休みじゃないですよ。それだったら、可愛い生徒に付き合うのもお仕事です」

「自分で可愛い生徒て……」

 

 まさか、生徒にワークライフバランスについて指摘されるとは。うーん、言ってることは正論なのがなんとも。

 仕方ない。まだ昼前で時間もたっぷりあるし、ここは付き合ってあげるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 ハッコウシティは、パルデア地方の東に位置する大都市だ。近代的な都市のような街並みで、ガラルで例えるならシュートシティみたいな感じ。

 遠くからでも照明やビルが見えるくらいには派手だから、迷う心配はないんだけど……。

 

「……行き止まりじゃない?」

「ですねぇ」

 

 ボウルシティを北に出て東1番エリア。ボクたちは、幸先悪く足止めを喰らっていた。

 バリケードのようなもので道が塞がれている。燃え盛るような色のノボリも建てられていて、まるで何かのアジトのよう。

 

「ここ、スター団のアジトなんです。その中の、ほのお組ですね」

「スター団?」

「えーと。ほら、テーブルシティでネモと三人で戦った……」

 

 そこまで言われて、ボクはようやく思い出す。

 いたなぁ、そんな集団……。

 

 ただの不良生徒の集まりぐらいにしか思ってなかったけど、こんなことをしてるなら止めなきゃいけないよね。団ラッシュという名のカチコミ、つまりは強行突破しかないらしいのが気が引けるけど。

 どのみち、ここを突破しないとハッコウシティに行けない。やるしかないかぁ……。

 

「出てけっ!まったく、いい加減しつこいぞ!」

 

 そんなことを話してると、バリケードの方から声が聞こえた。

 中からスター団の生徒が現れ、ピンクのポケモンを粗雑に追い返す。ボロボロで地面に横たわるそのポケモンには目もくれず、生徒はまたバリケードを閉じてしまった。

 

「チャ、ヌ……」

「ちょっと、キミ大丈夫!?」

 

 カラダ中が煤だらけだ。ほのお組のアジトっていってたし、ほのおタイプの技でも食らったか。

 バッグからげんきのかけらとキズぐすりを取り出して、応急処置を施す。幸い、すぐにポケモンセンターに行かなきゃってほどでもなさそう。

 

 このピンクのポケモン、ナカヌチャンというらしい。可愛らしい見た目ながらハンマーを振り回すという、中々に物騒なポケモンだ。

 タイプがはがね/フェアリーなら、ほのおタイプは天敵のはず。そりゃあこうなるのも無理ない。

 

「ヌチャ……?」

「あっ、先生!気がつきましたよ!」

「何ともなさそうで良かった。具合はどう――」

「チャヌーーー!!!!」

 

 目を覚ましたナカヌチャンは、ボクの言葉なんかには目もくれず、ハンマー片手にバリケードに突っ込んでいった。

 

「ちょぉ!?さっきの今でもうカチコミ!?」

「ストップストップ!エーフィ、連れ戻して!」

 

 血気盛んすぎる。

 すぐさま、エーフィのサイコキネシスでこちらに連れ戻す。せっかく手当てしたのに、また傷を作られちゃ困るよ。

 

「ヌチャー!チャー!!」

「困った子だねこれは……」

 

 当然、ナカヌチャンは不満げだ。エーフィが動きを縛ってくれてはいるけど、それでもハンマーを振り回すから危ないったらありゃしない。一体、何が彼女をそこまでさせるのか。

 あんまり縛るのも可哀想なので、とりあえず解放してあげる。エーフィが睨みを効かせているからか、ナカヌチャンも大人しくなった。

 

「ブー……」

「見るからにご機嫌ななめですね」

「ボクたちがキミを縛る権利はないけどさ……。なんでそこまでしてあのアジトに行きたがるの?」

 

 ボクが問いかけても、ナカヌチャンはぷいっとそっぽを向く。

 

「そもそも、ナカヌチャンってこんな場所にはいない子ですよねー」

「そうなの?」

「遺跡のそばで、群れで過ごしてるみたいですよ。ハンマーの材料がいっぱいありますから」

 

 ナカヌチャンが持ってるハンマーはどれも手作り。自分が満足いくものを作り上げ、それをどんどん強化していくっていうのが特徴だ。

 

 そう考えると、確かにこんな場所にいるのは不自然。周りは草原で、金属のきの字もない。

 彼女のハンマーはそれは立派で、精巧な一品になっている。金属部がベースなのは図鑑説明と変わらない。でも、それとは別に一部つぎはぎになっているのが目立った。

 

「ちょっと失礼するね」

 

 触ると、微かに金属部が熱を帯びていた。ハンマーについてるのはなんだ……ポケモンの素材?

 

「ほのおタイプのポケモンですかね?デルビルのきば、カルボウのすす、ガーディのけ……」

「もしかして、このためだけに殴り込みを?わざわざ、苦手なほのおタイプ相手に?」

 

 ボクが尋ねると、ナカヌチャンはうんうんと頷いた。なんて野蛮なポケモンだ。

 

 ポケモンの素材とはいうけど、もちろん殺して剥ぎ取っているわけではない……はず。

 これらの素材は、ポケモンを倒した時に落とす物だ。ボクたちトレーナーも、わざマシンを作るのに利用している。

 

 推測だけど、この子は自分から群れを出たんじゃないかな。ハンマーの骨組み部分はしっかりできているし、独り立ちしてもっと自分のハンマーを強くしたかったとか。

 

「ぷっ、ふふふ……」

 

 想像すると、なんだか微笑ましくなった。こんな破天荒で無茶苦茶な子、見たことない。

 

「先生?」

「いや、バカにしてるわけじゃなくてね。強くなろうという意志のある子は好きだよ」

 

 それなら、気の向くままにしたらいい。エーフィをボールに戻して、彼女を自由にしてあげる。

 

「ねぇ、ナカヌチャン。ボクたちもちょうどあのアジトに用があるんだけど……」

 

 余計なお世話かな。

 でも、ボク自身がこの無鉄砲な子をもう少し見てみたくなったんだ。

 

「一緒に行く?」

「ヌチャ!」

 

 ナカヌチャンは笑顔でハンマーを掲げる。それが合図となって、二人と一匹の奇妙なパーティーが出来上がった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピィィー ガガ……!アジトに侵入者が入り込んできました。スター団の力の見せ所です。叩き出してあげましょう』

 

 見張りを倒し中に入ると、物騒な放送が流れてスター団がぞろぞろと出てきた。この子達を退けないとボスには会えなさそう。なるほど、これが団ラッシュか。

 生徒たちが次々とボールを繰り出して、ほのおポケモンが出てくる。デルビルにガーディ、コータスにドンメル……。こーれ面倒だな。

 

「ちょっと気が滅入るねぇ……」

「あら、先生怖いんですか?」

「まさか」

「ですよね!それでこそ先生です!」

 

 アオイはやる気満々らしい。頼もしいことで。

 ナカヌチャンは……ほのおタイプがたくさんで目を輝かせてる。うん、ポケモンを素材としてしか見てないなあの顔。ほのおタイプ見て喜ぶはがねタイプなんて見たことない。

 

 アオイはすでにウェルカモを出してスタンバイ完了。ほのおタイプ相手には当然の選択だ。ボクが出すのはもちろんこの子!

 

「頼んだよマリル!」

「リルゥ!」

 

 元気よく飛び出したマリルは、勢いそのままにアクアジェットで数匹のポケモンを吹き飛ばした。うん、問題なさそうだな。

 十数匹に囲まれるこの状況、ポケモンを何匹も使うのは無理だ。このカオスな状態で適切な指示を出すのは難しい。そも、カルボウとニャローテじゃほのおタイプに不利だし。

 

 だから、使うのは一匹。重要なのはポケモンそのものの強さとタイプ相性になる。その点、ウェルカモとマリルなら安心。

 エーフィやウーラオス使えって?生徒たちにトラウマ植え付けかねないからダメ。まぁ、これも一種のトレーニングだ。

 となると不安なのは、タイプ不利なナカヌチャンだけど……。

 

「ヌチャー!!」

「ハンマーでどんどん殴り倒してる……」

「うん。強いね、あの子」

 

 タイプ相性とはなんだったのか。ほのおポケモンを鋼鉄のハンマーでぶん殴りながら突き進む。

 強い。不利な相手にも怯まない姿勢は、見倣うところがあるかも。

 

「っと、アオイ。もうマリルたち先にいるから急がないと」

「あ、ハイ!」

 

 当然の結果だけど、あの二匹はスター団を苦にしない。ボクたちが少し目を離した隙にガンガン突き進んでいく。

 置いてかれないうちに追いかけないと―――!?

 

「バウァ!!」

「ちょっ……!?」

 

 そこに立ち塞がるは数匹のデルビル。マリルたちが倒し損ねたのか。

 ボクたちを外敵と見做しているのか、デルビルの口に炎が籠り始める。

 

「おい、トレーナーへの攻撃は……!」

 

 スター団が止めるけど間に合いそうにない。ていうか、大勢で挑むくせにその辺の良識はあるんだ。

 ええい、こうなりゃ最終手段!

 

「アオイこっち!喰らえ、めかくし玉!」

 

 どうだ、こないだの授業で作ったお手製のめかくし玉!持ってて良かった、ホントに。

 

「うおお!?なんだぁ!?」

「先生それ反則じゃ……」

 

 こんな場面イレギュラーなので不問!そもそも、こんな危険すぎるカチコミがあるか!

 ……いや、カチコミってこういうものか。そもそもボクらが勝手に踏み込んでるわけで。

 

「ええい!やっちゃえナカヌチャン!ぶんまわす攻撃!」

「ヌチャッ!」

「煙幕に紛れてさらなる追い討ち!?」

 

 その後。

 前衛はみずタイプコンビに蹴散らされ、後衛はナカヌチャンにボコされるという地獄絵図が出来上がったとさ。

 余談だけどボスはアオイに任せました。ウェルカモ一匹で無双してた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「そんなムチャクチャな突破したん……じゃなくて、したんですか?」

「その場の流れというか、ボクも気が大きくなったというか……」

 

 ボスを倒し、スター団ほのお組が壊滅して。補給係と称してやってきたボタンに、ボクはとんでもなく呆れられていた。その冷ややかな視線は少し辛いものがある。

 

 いや、だってね?身の危険を感じたんだよボクも。マリルとウェルカモがいなくなって、周りを何匹ものポケモンに囲まれてたんだから。

 その結果出来上がったのが、煙幕を張ってナカヌチャンが闇討ちする構図。……これじゃあボクの方が悪者みたい。

 

「怯える生徒が出てきたらどうするんよ……」

 

 やりすぎたかなぁ。

 足元のナカヌチャンをチラリと見る。集めたポケモンの素材を恍惚とした表情で品定めしている様子は、さながら狩りを終えた狩人のよう。

 

 冷静に考えると怖すぎるな、この子。

 不良とはいえど、一応彼らもアカデミーの生徒だったな。解散した彼らは、ちゃんと学校に来てくれるだろうか。

 

「優しいんだねボタンは。自分を襲った集団だってのに」

 

 彼女は、この前連中に絡まれてた張本人。

 ボクが彼女なら、スター団なんてまず関わりたくない。ましてや気遣うなんて。

 

「いやっ、その……それは、あの子たちにも事情があると思うから」

「事情か……。こんな感じの集団が全部で五グループだっけ?あくとほのおがすでに壊滅して、あと三つか」

「先生も全部止めに行くの?」

 

 どうしようかなぁ。

 事情を詳しく知らないとはいえ、不登校生徒の集団だ。アジト立てて近隣に迷惑をかけるのは、早めに止めた方がいい気もする。なんだかんだ団ラッシュを生徒にやらせるのも危険だし。

 

「いや、リンドウ先生は辞めた方がいいと思います……。どうせ後で校長にメッチャ怒られるやろし……

「ん?なんか言った?」

 

 校長がどうとかって……。

 確かに、今日の行いがバレたらお叱りかもしれないね。でもこの場に校長はいないし、知られる心配もない。これを知ってるのはアオイとボタン、さっきまでいたネルケ?って変な生徒だけだし。

 あんなハードボイルドな生徒が校長なわけないしね、アッハッハ。

 

「とにかく、ここはアオイに任せた方がいい……と思う。一応、内密な作戦だから」

「……わかった。でも、あんまり危険な行動はしないようにね?」

「ノープロブレムです!」

 

 アオイのかる〜い返事が気になるけど、まぁ彼女のバトルの腕なら大丈夫かな。

 それだけ言い残すと、ボタンはこの場を去っていった。こんな荒事に関わってるなんて、結構印象変わったなぁ。

 

 と、ひと段落ついたところで、地面でガサゴソしていたナカヌチャンが立ち上がった。

 

「わっ、ハンマーできたの?すごいすごーい!」

「職人みたいだね……」

 

 ナカヌチャンが自慢げにハンマーを振ると、小規模の爆発が起こって草に火が燃え移る。

 凄い、まるで火属性でも纏ってるよう。見た目も、ガーディの毛をあしらっててオシャレだ。

 

「ヌチャ!ヌチャ!」

「良かったねぇ、お目当てのハンマーが作れて」

「でも、もう無茶はダメだからね?」

 

 次は助けられないよ、とボク。当初の目的は果たせたし、彼女も野生に帰るだろう。

 

「チャヌ……」

「ん?」

 

 

 

 ―――でも、そう思っていたのはボクだけだったみたいで。

 

「ヌチャ!」

「えっ?あっ!ボール―――!」

 

 一瞬、悪戯そうな笑みを浮かべたナカヌチャンは、素早い動きでボクの腰元のボールを奪う。そして、自らボールを開いて中に入り込んだ。

 アオイもボクも呆けた表情。それを笑うみたいにボールは震えてたけど、やがてそれも収まった。

 

「えーと……」

「捕まえた……ってこと?」

 

 ボクは、ナカヌチャンの入ったボールを拾う。

 

「リンドウ先生ズルい!先生にその気がないなら、私が捕まえようと思ってたのに!」

「理不尽!?」

 

 横取りならともかく、向こうが自分からゲットされたんだから仕方なかろうに。ボクが見初められたってことだよ、ふふん。

 ……冗談はさておき、これで四匹目か。またクセの強そうな子だなぁ。

 

 ともかく、心強い味方が増えた。今度みんなにも紹介してあげよう。ナカヌチャンの入ったボールを、やさ〜しく撫でてあげる。

 

「へぇ……リンドウ先生やって。本当にこっちで先生しとるんやね」

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 聞き覚えのある特徴的な口調に、ボクは思わず跳ねた。そんなまさか、なんでここに。

 

「久しぶりやね、リンドウ」

 

 でも大事そうに抱えられたモルペコを見て、ボクは確信した。

 その人物。ボクの同期で、現スパイクタウンのジムリーダーマリィだった。

 

 




というわけで、人気のポケモン登場です。
モンスターハンターデカヌチャンは誰もが考えたはず。
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