ポケットモンスター Re:Champion Road   作:1.96

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2話 オレンジアカデミーとブラック理事長

 

 

 

 パルデア地方。

 ガラルの南に位置している、大自然豊かな地方。パンフレットにそう書いてある。逆にいうと、その程度の情報しか知らない。

 なんでこんなことに。

 

 大きな正門をくぐり、階段を上った先にあるのは大きな広場。アイスクリームの出店や飲食店、小物店がありふれていて、賑やかな街だ。

 

 テーブルシティ。

 パルデア地方最大の都市で、ボクの勤め先……あの奥にあるオレンジアカデミーがそれらしい。

 

「でっか……」

 

 長いながーい階段を上り終えると、オレンジアカデミーの校舎が立ちはだかる。道場の何倍あるんだろう。

 にしても、こんな場所で教員やれってどういうこと。ボクは道場で指導の経験はあれど、教鞭を振るった試しは一度もない。道場をクビになって、知らない地方に飛ばされて、そこで教員として働けと。話が突飛にもほどがある。

 ……ガラル帰りたい。

 

「貴方が、新しく来るっていうリンドウ先生?」

 

 項垂れてると、背後から声をかけられた。

 先生……そうか、先生ってボクのことか。

 

「そうだけど……」

「やっぱり!はじめまして、私ネモっていいます!今日から新しい先生が来るって聞いて、私とっっっても楽しみにしてました!」

 

 ネモと名乗ったその子は、ボクに握手を求めてくる。ここの生徒かな。いい子だなぁ。

 

「ありがとう。これからよろし――」

「なんせバトルがすっごく強いって聞いて、早く手合わせしたくてしたくて!ここで待ってれば絶対会えると思ったんです!あ、今からバトルしませんか!?」

 

 取り消し。とんだバトルジャンキーだこの子。

 なに?待ち伏せしたうえに、入国して間もないボクに対して勝負のお誘い?色んなステップをすっ飛ばしすぎてない?

 あと誰だ、バトルどうこうの情報流したの。マスタードさんしかいないだろうなぁ……。

 

「近い近い……。とりあえず、今日は疲れたから勘弁してほしいかな」

「そっかあ。じゃあ、また今度ですね!」

「じ、時間があればね」

「やったー!!」

 

 なんか安請け合いをしたような。とりあえず、目を光らせて詰め寄ってくるネモと距離をおく。もう嫌だ、ガラル帰りた――これはさっき言った。

 

「じゃあ、中入りましょうか。クラベル校長に案内頼まれてるんです」

 

 初めから案内役だったんかい。

 

 

 

 

 

 

 

「へ〜!ガラルではジムチャレンジってイベントがあるんだ!」

「うん。他の地方と比べても、ジム戦であれだけ盛り上がるのは珍しいんじゃないかな」

「いいないいな!私も行ってみたいよ〜!」

 

 道中、そんな会話をしながら校内を進む。ボクの話に目を輝かせるネモは、パルデアのチャンピオンクラスらしい。

 ボクよりも二、三歳は若いだろうなのに凄いなぁ。というか、こんな子がいるアカデミーでボクは何をしろと言うんでしょう。ホント、授業とか出来る自信ないよ?

 

 とか考えていると、乗っているエレベーターが3階で停止した。ネモが先導して進む。

 

「失礼しまーす!連れてきましたー」

 

 ボクが通されたのは校長室。

 そこにいたのはメガネをかけた高齢の男性と、凄いボリュームの髪した妙齢の女性。

 

「ありがとうございます。ネモさん」

「いえいえー!じゃあ、私はこれで失礼します。先生、今度絶対バトルしようねー!」

 

 役目を終えたのか、ネモは嵐のように去っていく。念押しで、バトルのお誘いもセットで。待って、いきなりボクだけ残さないでほしい。

 胃がキリキリするのを感じる。男性の方はニコニコしてるからまだしも、女性の方はこう……なんか圧力があるというか。威風堂々という言葉が似合う。

 

「はじめまして。私、オレンジアカデミー校長のクラベルと申します。そしてこちらが……」

「理事長のオモダカです。はるばるガラルから、ようこそいらっしゃいました」

 

 いきなり学校のツートップと対面。胃痛が強くなった気がする。

 

「お、お世話になります。リンドウです。よろしくお願いします……」

「こちらこそよろしくお願いします。そう固くならずに、楽にしてください」

 

 そう言われましても。

 怖い。面接を受けている気分だ。校長の物腰が柔らかそうなのが幸い……かな。

 

「すでにご存知かと思いますが、リンドウ先生には課外授業に向けて新設した科目『野外活動』の授業をお願いしたく。ガラルのジムチャレンジで培ったバトルの技術、トレーナーとしての心構えを、生徒たちにご教授いただければと思います」

「はぁ……野外活動、ですか?」

「え?」

「え?」

 

 

 

 

 …………いや、知らないよ?初耳だよ?

 そもそも課外授業って何?

 

「あの、ボク……失礼。私は何をすれば……」

「もしかして、マスタード氏からは何も知らされてないのですか?」

「はい」

「……本気ですか?」

「大マジです」

 

 クラベル校長が頭を抱えた。わかる、わかるよその気持ち。ボクだって、昨日から何回頭抱えたか分からないもん。

 

 

 気を取り直して説明を受ける。

 まずボクの役割は、課外授業に向けた野外活動の指導をすること。

 ……役割が曖昧すぎる。野外活動って何するんだ?安全教育とか?

 

 あ。課外授業ってのは、パルデア地方を自由に旅する授業のことね。ジム巡りも出来るらしいし、ボクも時間があればしていいって。するかどうかは考えてないけど。

 

 なんでボクがとは思ったけど、今は道場をクビになって無職の身。ボクだって見知らぬ土地で野宿なんてゴメンだ。お金が貰えるなら喜んで働こう。

 ……事前説明ぐらいはしてくんないかなぁ、マスタードさん。

 

「期待していますよ、ミスターリンドウ。ひとまず、しばらくはアカデミーの生活に慣れてください」

「わ、わかりました。やれる限りのことはします」

「それでは早速、貴方にお願いが――――」

 

 

 

 

 ガシャン!!

 

 

 

 

 オモダカさんの言葉を遮った音は、校長室の奥から響いた。音のする方に視線を向けると、檻に猫のようなポケモンがいる。

 顔にある緑色の模様が特徴的な、可愛らしい見た目の子。だけど、それとは裏腹に目つきは鋭く、お世辞にも人懐っこいようには見えない。

 

「フシャー!!」

「わっ!?」

 

 ボクが近づこうとすると、そのポケモンが牙を剥き出しにした。檻越しに襲いかかってくるんじゃないかって勢いだ。

 出せ、とでも言わんばかりに檻に噛み付く。よっぽど人が嫌いみたい。

 

「こ、この子は?」

「くさねこポケモンのニャオハさんです。本来はもっと甘えん坊な子で、生徒に渡す初めてのポケモン候補なのですが……」

 

 ガラルでいうヒバニー達か。そんな子がどうしてまた。

 クラベル校長が言い淀む。

 

「元は、アカデミーを去った生徒のポケモンです。どうもその子には扱いきれなかったようで」

 

 割って入ってきたのはオモダカさんだった。

 要するに、見捨てられた……って解釈でいいのだろうか。一度は生徒の手持ちになったのに、そりゃあ本人のショックも大きいよね。

 そこからはご覧の有り様。

 人間不信に陥っていると。現に、この子は与えられた餌に一切手をつけていない。

 

「……あらゆる手を使っては見たのですが」

 

 心を開いてくれないと。クラベル校長は困り果てた表情。

 まぁ、こんな状態ではトレーナー初心者には渡せないよね。

 

 

 …………んん?

 その時点で、ふと気づいた。オモダカさんが、有無を言わさない笑顔をボクに向けていることに。

 

「そこでお願いですが、このニャオハを引き取っていただけますか?」

「……私がですか?」

「はい。赴任祝いです」

「この子、人嫌いですよね?」

「かといって、野生に返すわけにはいきません。生徒にはお渡しできませんが、優れたトレーナーの貴方であれば適任かと」

 

 ダメだこれ。どう足掻いても、この人は引き下がらない。笑顔なのに、有無を言わさない圧力はなんだ。

 クラベル校長の助け舟を期待する……けど、オモダカさんの背後で無言で頭を下げた。どうやら、力関係はオモダカさん>クラベル校長らしい。その時点で、ボクに逃げ場はなく。

 

「……謹んで頂戴いたします」

「ええ。よろしくお願いしますね」

 

 こうして、ボクの手持ちが半強制的に一匹増えました。肝心のニャオハは、檻の中で終始ボクに向かって牙を剥いていた。とんだ歓迎だよハハハ。

 

 パルデアでの新生活、不安しかない。

 マスタードさん、ボクはやっていく自信がありません。あと恨みはありませんが、ガラルに帰郷した暁には貴方の元気な顔をいっぺん殴らせてください。

 

 




アカデミーは入学する子に御三家渡してるけど、ニャオハなんて渡したら子どもの性癖歪みそう。
この世界にPTAがなくて良かった。
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