ポケットモンスター Re:Champion Road 作:1.96
◯
テストが終わったからって、解放されるのは生徒だけ。今度は膨大な丸つけが残っている。
担当科目のテストがないボクも、丸つけなら手伝える。他の先生の負荷軽減の目的もあって、ここ数日は解答用紙に丸バツをつける作業の繰り返しだ。
「残りは……一年生か」
でも、その作業も終わりが見えてきた。最後は一年生のバトル学だけだ。
模範解答と見比べながら、丸とバツをつけていく。単純解答の問題ばかりだから楽なのが幸い。
「なんだこれ、自由記述?」
最後の解答欄。明らかに大きく設けられたそこに、文字がビッシリ書かれている。そういえば、サービス問題を用意したとかキハダ先生言ってたな。
特に条件はなく授業の質問とか感想とか、とりあえず何か書けば加点らしい。なんて優しい救済措置なんだ。
まぁ、ここは担当のキハダ先生にじっくり見てもらうとして……。ボクも少し見てもいいかな。いいよね減るもんじゃなし。
ここは役得ってことで。
「えーと、『外での授業は新鮮で楽しいです』、『体も動かすから眠くならない』、『最初の体操の時間は短くしてほしい』と。……手厳しいのもあるねぇ」
とはいえ、ほぼ全てが授業に対する肯定的な意見だった。こういう生徒の生の声、先生は嬉しいだろうなぁ。
「先生何してるのー?暇ならバトル教えてよー」
「あたしもあたしもー!」
「テストの採点。これでも忙しいんだよ?」
ごめんなさい。思いっきりコメント読んで楽しんでました。
最近嬉しい変化として、こんな感じで話しかけられることが増えた。取り分けバトルの話題が多い。
きっかけは……言うまでもなく、ナンジャモの生配信だろうなぁ。嫌でも目立ったもんねアレ。
「ねー、どうやったら先生みたいにバトル強くなれるの?」
「難しい質問だなあ。やっぱり、ポケモンと信頼関係を結ばなきゃね」
「技を鍛えるとかじゃないの?」
「それも大事だけどね。方法はひとつとは限らないからさ」
解答になってるかなあ。自分がバトルをするわけじゃないし、アドバイスって難しいよね。
バトルが上手くなりたい、ってのはさっきの自由記入欄に書いてる人は結構いた。キハダ先生ならどう答えるんだろう。少なくとも、ボクは自信持って回答できない。まだまだ未熟者だ。
「じゃあ、今度先生の授業行ってみるねー!」
「先生、また後期でねー!」
「はいはい。またね」
そこそこの会話を終え、生徒たちはボクの元から去っていく。授業に来る、かあ……。バトルのアドバイスとかもやった方がいいのかな。
……いや、それはなんか違うか。バトル能力の向上が、必ずしもトレーナーの向上に繋がるわけじゃない。
『トレーナーレベルの底上げ』
オモダカさんの言葉の真意は見えてこない。このアカデミーで、生徒たちに何を見せればいいのだろうか。
そもそもトレーナーのレベルってなんだ。どうすれば上がるのか、逆にどうすれば下がるのか。ボクは十分に達しているものなのか。聞きたいことは山ほどある。
一人で考えても分からないなぁ。いい機会だし、向こうに戻ったらマスタードさんに聞いてみよう。
……素直に答えてくれるとは思えないけど。
「せーんせっ」
「わっ!?……ってなんだ、アオイか」
思案に耽るボクの背を叩いたのは、久しぶりに見たアオイだった。
「なんですかその反応。さっきまで、女の子二人に囲まれてデレーってしてたくせに」
「知った顔だから安心しただけ。あと勘違いを生むから言い方、ね?」
いつから見てたんだか。一ミリたりとも変な顔なんてしてないよ。してないよね?
「採点ですか?終わりそうです?」
「今キミが来たから、作業効率落ちたかも」
「あーっ、ひどーい!」
応対しながら、再び採点の手を進める。なんだろう、アオイならこれぐらいの対応でも大丈夫かなという変な信頼があった。暇つぶしに来たっぽいし。
なんにせよ、丸つけは今日中に終わりそう。
「せんせ、バッジ集めは順調?」
「ようやく半分ってところだよ。アオイは?」
「私はもう五つ取りましたよ!それとヌシが三匹でしょ、あとスター団も三つ目」
「おお、流石だねぇ」
本当に凄いな。ジム巡りだけでもハイペースなのに、同時進行であれこれやってるんだから。彼女のポテンシャルが窺える。
「それだけ外にいたら、勉強怪しいんじゃない?テストどうだった?」
「へ?授業をちゃんと聞いてたら余裕じゃないですか?」
「……ごもっともだけど、それ絶対に他の子の前では言わないようにね」
あーはいはい、そういうタイプね。無意識に敵作っちゃう感じだ。そういえば、この子は天才肌だった。今採点してるバトル学、満点じゃん。
時として、正論は人を傷つけるんだよ。
「そんな感じで、今の私は絶好調なんだよ!今なら先生にも勝てるかも!」
「ほー、それは頼もしいね」
「そこは、よしじゃあ今からバトルしよう!って流れじゃないんですかー?」
「ボクは仕事中なの」
なんか発言がネモに似てきたな。類友かな。
「それこそ、ネモとバトルしたらいいのに」
「そう思うじゃん!?ネモってば、連休中は家族で旅行に行くっていうんですよ!?」
「それは仕方ないでしょ……」
「だから、先生は可哀想な私に目一杯構ってください!いや、構うべきです!」
そうはならんでしょ。
なんだろう、アオイがボクのエーフィばりに図々しい気がする。擬人化した?いや、そんなバカな。
「残念だけど無理だよ。ボクだって、ガラルに里帰りするんだから」
「そんなー!?」
かれこれ数ヶ月ガラルを離れてたわけだし、今回ばかりは曲げられないかなぁ。
「うう、皆そうやって私を見捨てるんだぁ……」
「んな大げさな。戻ったらバトルしてあげるから」
「ぶー……」
なだめたけど不満そう。困った。
とはいえ、ボクにどうにかできる訳でもないので気にせず丸つけを続ける。まさかガラルに連れてくってのもねぇ……。
『着信ロト!着信ロト!』
「ちょっ。職員室だからマナーにしといたのに」
スマホロトムが一人でに鳴り出す。先生たちの視線が痛い。いや、さっきマナーモードにしたんだってば本当に。
『マスタードさんロト。さっきから五件ぐらい着信が来てたから、お知らせしたロト』
あの人は……。
とりあえず、スマホロトムさんは設定をすり抜けて自己判断するの止めて?わかったよ出ます、出ますから。ひとまず、職員室から出させて。
「もう……仕事中なんですよ」
『やっほ〜リンドウちん。いやね、帰省日はいつかな〜って思ってねん』
「明朝こっち出て……着くのは昼過ぎぐらいですよ。って、そのためにわざわざ?」
ビデオ通話によって、マスタードさんの顔が映し出される。相も変わらず、飄々とした人だ。
『リンドウちん一人?この前話したことは考えてくれた〜?』
無論ボク一人だ。
マスタードさんに帰省することを話した時、こんなことを言われた。『教え子も連れて来い』と。
当然その時は断った。そんなことをする意図がわからないし、一部の生徒を優遇するのもどうかと思うし。
だけど、またこうして言ってきた。何かしら狙いがあるとみていいのかな。分からないけど。
「無理ですよ。第一、そんなアテもないですし」
『後ろでジーッとこっち見てる子は違うのん?』
「え?」
後ろでジッと見てる子?
まさかと思って振り返ってみると、そこにはさっきまで駄々をこねていたアオイがいた。少し離れたところで、ボクたちの通話を眺めていたらしい。ボクと一緒に職員室を出てきたのか。
『ねぇキミ、リンドウちんの生徒?ポケモントレーナーだよねん?』
「はっ、はい!アオイです!」
「ちょっと、マスタードさん……」
『リンドウちんと一緒にガラルに来てみない?』
ダメだこりゃ。こうなったらこの人話聞かねえ。
今に始まったことじゃないけど。
「私は……興味ありますけど」
アオイがチラッとボクを見る。さっきあんなこと言った手前、遠慮しているのかな。
その視線はまるで捨てられたワンパチのよう。これじゃあボクが悪者みたいじゃないか。
『うん、じゃあ決定だねー。特別トレーニング用意してるから、楽しみにしててねん』
「ちょ、ちょっと!?」
有無を言わさず、唐突に通話が切れてしまった。
なんて強引な。この流れ、ボクがパルデアに飛ばされた時となんにも変わらないじゃないか。
……確定だろうか。意味のないことをする人ではない。幸か不幸か、教え子連れて来いって言われて呼ぶとしたらアオイになるだろうし。
「せ、先生。私行っても……」
「わかったよ。ただし、ちゃんと親御さんの許可は得ることね」
「や、やったぁ!」
何事もなければいいけど。
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はい、前半終了です。
次回からは、しばらく舞台をガラル地方に移します。
本編から外れた箸休め回みたいなもんです。まぁ10話ぐらいガラルにいる予定ではありますが。