ポケットモンスター Re:Champion Road   作:1.96

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32話 チノセイレイ

 

 

 

「みんな、ここまでにしよっか」

 

 額の汗を拭って、私とリングマ、その他ポケモンたちは一息つく。目の前には、戦闘不能になった野生のポケモンたちが倒れていた。

 ここは、ヨロイ島の鍋底砂漠。洞窟を抜けた先に広がる砂漠のエリア。朝起きてすぐ、私はポケモンと散歩がてらトレーニングの真っ最中だった。

 

 ヨロイ島は凄い。自然がいっぱいだから、様々なタイプの野生ポケモンが生息してる。色んな相手、色んなシチュエーションに応じて鍛えることができる。課外授業とは違ってあくまで自由な時間だから、こうして好きな時間に好きなだけトレーニングできるのは最高だよ!

 

 

 

 ……先生にボロ負けした。ここまでボコボコにやられたのは初めて。ネモ相手にも、ここまであっさり負けたことはない。

 正直ショックだった。負けるのは仕方ない。でも、思った以上に弱い自分がショックだった。最後にリングマを出した時なんて、どんな指示したか覚えてない。気がついた時には勝負は決まっていた。

 

 私なりに、先生を対策したつもりだったよ。実際に対策がハマって、ウェルカモはニャローテを倒してくれた。

 でもその後、カルボウにかき回されてあっさり。エース格のマリルリを温存されたまま負けた。

 

 先生は私の対策なんてきっとしてない。あのポケモンたちなら、多分誰と戦っても勝つよ。先生にとって私とのあのバトルは、普通に戦って普通に勝っただけなんだ。

 対策した私と、何もしてない先生。それでいてあの結果。情けなくて笑っちゃう。

 

 先生は私の目標。その強さの秘訣を知りたくてついて来たのに、現実を分からされちゃった。

 

「グマァ……」

「ん?なぁに?心配してくれてるの?」

 

 シュンとした表情のリングマ。自分のせいだって思ってるのかな。そんなことないのに。

 

 こうなったのは、トレーナーである私の責任。私がまだまだ弱い。課外授業が順調だからって、いい気になっていた。

 でも、井の中のハラバリー。もっともっとこの子たちの強さを引き出したい。もっと私は強くならなきゃいけない。そのためには特訓あるのみ。

 

「よし、皆帰ろう!ご飯食べて、また特訓!」

 

 休憩終わり。

 そう言ってポケモンたちと一緒に立ち上がる。あんまり遅いと心配かけちゃうし、こんなこと先生に知られたくない。早く戻っちゃおう。

 

 ほら、それに早くしないと砂嵐が―――

 

「グマッ、グマァ!」

「リングマ、どうしたの?」

 

 風が吹くと同時に砂が舞い、視界が悪くなる。

 何かを感じ取ったのはリングマだった。明らかに敵意を見せて周囲を警戒する。

 

 周りが見えない。代わりに聴こえたのは歌声。

 ううん、正確には歌声のような羽音。何かが羽ばたいて近づいて来てる。

 

 この砂漠に生息している羽のあるポケモン。

 ウォーグル?ウルガモス?きっと違う。あの子たちはここでのトレーニングで相手したし、それならリングマが警戒するはずもない。

 

 やがて砂嵐が止み、歌声も聴こえなくなる。

 代わりに視界が晴れて、姿を現したのは―――

 

 

 

 

 

 大きな大きな、隻眼のドラゴンだった。

 

「な、何……!?このポケモン……」

 

 二メートルはありそうなガッシリとした体に、立派な二枚の羽。

 特徴的なのは、赤いゴーグルのようなもの。あれが左目にしかついてなくて、右目のは完全に割れてしまっているのが気になる。

 

 図鑑の反応はない。やっぱり、パルデア地方にいるポケモンじゃないんだ。

 私たちの前に降り立った緑のドラゴン。その子は立ったまま、ギロっと私たちを見下す。

 

 強い。一瞬でそう感じた。

 ここの野生ポケモンとは別格だ。リングマが警戒するのもわかる。

 

「みんな、ゆっくり距離をとっ―――」

 

 勝てない。そう感じたのも束の間、そのドラゴンは、私たちを気にもしないで体を丸めた。

 寝る……のかな?私たちをチラリと見るけど、何もいなかったかのように目を閉じた。まるで警戒心のかけらもない。相手にされてないみたい。

 

 少し癪だけど良かった。

 いくら私でも、力の差ぐらいはわかる。悔しいけど、相手にされないうちに帰ろう。帰って、ここは先生に報告して……。

 

「ウーッ!」

「リ、リングマ!?」

 

 すると、リングマが敵意剥き出しで吠え出した。

 

 私を守ろうと?

 いや、違う。多分だけど、相手にもされてないことに対して怒ってる。自分を見下された感じで、ムカついたんだ。

 

「リングマ、だめ!!」

「グマァ!!!」

 

 私の静止も聞かないで飛び出したリングマ。腕を強振して、その爪で引き裂こうとする。

 だけどその一撃は当たらなかった。ドラゴンは簡単に躱して、巨体に合わないスピードで飛行。羽ばたきながら私たちを睨みつける。

 

「なんて速いの……」

 

 あの巨体で私のポケモンの誰よりも速い。マトモにやって勝てる相手じゃない。

 他の四匹が飛び出す気配はない。というより、あのドラゴンが睨みを効かせたから戦意を失ってる。特に気弱なキルリアは震えあがってる。

 

 私だって怖い。ヌシポケモンを相手にした時だって、こんな思いはしなかった。今すぐにだって逃げ出したい。

 でも、私はこの子たちのトレーナーだ。守る義務がある。

 

「リングマ、今は堪えて!私たちじゃ勝てない!」

「ウガアァ!!」

 

 ……聞こえてない!今まで、言うこと聞かないことなんてなかったのに。

 怯えてる私のポケモンの中で、唯一戦う気を見せるのはリングマ。でも、彼だって怖いのか腕が震えてる。それでも戦おうとするなんて、何があの子をそこまで駆り立てるの……。

 

 空中にいたドラゴンは、威圧感たっぷりに高度を下げていく。そのまま空中にいればいいのに、わざわざ下りてくるなんて。

 リングマは当然苛立つ。歯ぎしりがこっちまで聞こえてくるようだった。

 

「リングマ、ボールに戻って!」

 

 もう止められそうもない。私は、ボールに戻るようにリターンレーザーを当てる。

 けど、その光はリングマの意思で弾かれた。そして、それと同時にあの子はドラゴンに襲い掛かる。

 

 丸太のような腕を振り回して、きりさくを連打するリングマ。当たれば、並のポケモンなら一撃で沈めると思う。

 だけど当たらない。一回たりとも。リングマが大振りなのもあるけど、それ以上にあのドラゴンが凄い。余裕をもって躱してる。

 

「グググ……!?」

「そ、そんな。片手で受け止めて……」

 

 煩わしくなったのか、全部避けてたドラゴンがリングマの攻撃を受け止めた。

 

 リングマはピクリとも動かない。

 いや、全く動けない。

 

 そして完全に力で抑え込まれ、リングマは片手でぶん投げられた。地面に激しく打ち付けられ、リングマは砂の上を転がる。

 

「リ、リングマ!リングマ!!」

 

 全く歯が立たない。力の差が歴然すぎる……!

 それでもリングマは諦めない。すぐに起き上がって、再度きりさくを連発する。

 

「また……」

 

 結局同じことだ。全然当たる気配はない。あのドラゴンが明らかに手を抜いてあしらってるから無事で済んでるようなもので。

 だからこそ、ムキになってる。頭の血が上がりっぱなしだ。

 

 ……情けない。自分のポケモンを諌めることもできないなんて。

 

「リングマ!言うことを聞いて!」

 

 あのドラゴンとの力の差がわからないほど、あの子も馬鹿じゃない。突き動かしてるのは意地。敗戦直後で、ナーバスになってるのも原因だと思う。

 リングマは止まらない。勢い止めずにひたすら空振りを続ける。風切り音がこっちまで聞こえてくるみたい。それぐらい迫力はあるのに、一発も当たらない。

 

 いい加減飽きてきたのか、ドラゴンは気怠そうに腕を突き出す。またリングマの腕を掴む気だ。

 それを狙っていたのか、あの子が大きく一歩踏み込んだ。前傾姿勢になりながら、前に爪を振りかざす。流石のドラゴンも、反応が遅れた。

 

「か、カスった……!?」

 

 リングマの爪が、ドラゴンの腕を掠めた。ダメージを与えたわけでもない。たったそれだけのことなんだけど、なんだか大きな進歩のようにも見えた。

 それならばと欲が出るは出るもの。リングマはさらにもう一歩踏み込んで、腕を振り抜く。今度は外さないと、意気込んだ一撃だった。

 

「……フルォ」

 

 

 

 

 

 

 だけど、それはあのドラゴンにとっては些細な事に過ぎなくて。むしろ、私たちを明確に『外敵』と見なす行為だったんだと思う。

 ドラゴンは、細い目を見開いた。

 

「ルゴッ……!?」

「リングマ!?」

 

 気がついた時には、リングマは叩き伏せられていた。攻撃を躱し、一瞬で接近して、その拳で殴り倒したんだ。

 

「い、一撃……!?」

 

 技も使ってないただのパンチで、体力自慢のリングマを一撃で仕留めるパワー。腕だけ見たらリングマの方が太くて大きいのに、一体どこにそんな力があるっていうの……!?

 

「こんなの、勝てるわけ……」

 

 絶望。頬に涙が伝うのを感じた。リングマに寄り添うけど、それでも彼はピクリともしなくて。最悪の事態が頭をよぎる。

 

 ゆっくりとドラゴンが近づいてくる。赤いゴーグルの奥で、鋭く私を睨みつけながら。

 怖い、怖い、怖い。恐怖で体が動かない。私には、どうすることもできない。

 

「グワァ!」

「ウェルカモ、待って!!」

 

 私を守ろうと、勇気を振り絞って立ち向かったウェルカモ。でも一直線の攻撃があのドラゴンに当たるわけなくて、尻尾で薙ぎ払われて洞窟入り口まで弾き飛ばされた。

 

「ウェ、ウェルカモ!!」

 

 壁に衝突して、ウェルカモはぐったりと地面に倒れる。彼も地面に伏して動かなくなった。

 

 二匹目。こんなにもあっさり。

 それを見て、私も残った子たちも戦意を喪失した。震え上がる子たちの前に、私は体を張って立ちはだかるだけで精いっぱいで。

 

「他の子だけでも、守らなきゃ……」

 

 口の奥で、歯がカタカタと音を立てる。

 逃げることもできない。このドラゴンに背を向けるのが怖い。

 

「た、助けて……」

 

 喉から絞りでたのは、そんな情けない声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かえんボール!!」

 

 私とドラゴンの間に割って入ったのは、巨大な火の玉。姿が見えなくても、その声が誰なのか私にはわかった。

 

「帰りが遅いと思ったら……」

「せんせ、い……!」

 

 先生がポケモンたちと一緒に駆けつけてくれた。

 

 




砂漠に現れたつよつよドラゴン
あれは……かつてのレートの覇者!?

冗談はさておき、早く内定して……
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