ポケットモンスター Re:Champion Road   作:1.96

34 / 37
34話 気高き孤高の竜

 

 

 

 その竜はひたすらに強さを求めた。

 

『そのポケモン、進化しても弱いまんまだぞ』

『マジかよ!ドラゴンだから期待してたのに!』

『やめとけやめとけ。それなら、ダンデの使うオノノクスとかドラパルトの方がよっぽど強いぜ』

 

 かつては人の下にいたこともあったが、それは昔の話。

 弱いと烙印を押された自分は、逃げるようにそのトレーナーの元を離れた。その不完全な羽では、軽やかに飛んで逃げるなんてできない。虫のようにカサカサと、惨めに地べたを這いつくばって逃げるしかなかった。

 

 

 その竜はひたすらに強さを求めた。

 

 野生で生きるには、己の力しか信じるものはない。ズタズタになったプライドは捨て、生き延びるためだけに力をつけた。

 貪欲に獲物を追い求め、喰らい、血肉と化して竜は成体へと姿を変える。

 

 竜は、あっという間に砂漠の王となった。

 弱いものは、ひと睨み効かせるだけで震えあがった。自分に歯向かう命知らずは、その拳で殴り伏せた。そこに人もポケモンも関係ない。出会った敵は全て力を以てして屈服させた。

 

 

 その竜はひたすらに強さを求めた。

 

 周りに敵がいない。自分を負かす……いや、脅かす存在すらいない。

 退屈だ。竜は闘いに、力に飢えていたのだ。

 

 その竜にも、最近悩みがあった。

 

「エースバーン……!く、これでもう三匹目」

 

 最近見かけるようになった、ある人間だ。

 それ自体は珍しくない。自分に勝負を挑む、あわよくば捕まえようとする愚か者は多かった。大抵そういった人間は、力で分からせれば二度と現れないのだが。

 

「一回立て直すよ!アーマーガア、またナックルシティまでお願い!」

 

 

 

 

 その人間は、しばらくするとまた姿を現した。万全の状態に回復したポケモンと共に。

 そいつの手持ちも、なんでその人間に何回も付き合っているのか分からないが、少なくとも不満気ではなく。むしろ、嬉々として自分に立ち向かってるようにすら見える。

 

 まるで、自分をトレーニング代わりにしてるようだ。なんとも不愉快な話である。少し痛い目を見せてやるとしよう。

 

「マホイップ、マジカルシャイン!」

 

 眩いまでの光が襲いかかるが、そんなものは砂嵐で掻き消してしまえばいい。攻撃を防ぐと同時に、人間の視界を奪う。

 軟弱な人間は、砂嵐の中では身動きを取れないだろう。竜は尻尾で目の前の敵を薙ぎ払い、その人間目掛けて吹き飛ばした。

 

「うぐぅ……!?」

 

 当たったみたいだ。追撃も加えてやろうと、竜は大地にエネルギーを与えて爆発させる。

 痛い思いのひとつもすれば、もう自分に付き纏わなくなるだろう。どれ、その間抜け面を拝んでやろうか。

 

 その竜は、羽ばたきで砂嵐を掻き消す。

 

「ははは、また勝てないかぁ……」

「マミュゥ……」

 

 だが、ソイツは砂の上に転がっていた。痛みに顔を歪ませながら、でもどこか満足げな表情で。

 なぜ逃げない。今まで歯向かう者は力で黙らせてきたのに、なぜコイツには効かないのか。

 

 竜はその人間に歩み寄る。わざとらしく、のしのしと足音を立てて威圧しているつもりだ。彼のポケモンが、主人を守ろうとボールから飛び出して自分の前に立ちはだかる。

 しかし、肝心の本人はまだ顔を上げない。

 

「大丈夫だよぉ、エーフィ。その子襲って来ないと思うから……」

 

 竜は、そこで歩みを止めた。

 図星だったからだ。元より人間自体を痛めつける気はない。ただ気に食わないから、脅そうとしただけだ。

 だけど、その人間には見透かされていた。

 

「だって、その子強いもん。本気で殺しにきてたら、ボクたちとっくにやられてるよ」

 

 それは大胆な白旗宣言。だけど悔しそうには見えなくて、いっそ清々しいぐらいで。

 竜は細い目を開く。自分に怯えるものは数知れずいたが、面と向かって強さを認められたのは初めてだった。

 

「だからこそ、キミには勝ちたいんだよね。まぁ、このザマなんだけど……。アーマーガア倒されちゃったし、どうしようかな……」

 

 空を仰いで自嘲気味に笑う人間。自分の力では起き上がれないのか、心配そうに手持ちポケモンがすり寄る。

 

「ボクさ、世界最強のトレーナーに勝って、チャンピオンになるんだ……。キミを倒すことができたら、それに近づけそうな気がするんだよ」

 

 フン、と竜は背中を向ける。

 何をやっても通じなさそうだし、戦わないならその人間に用はない。数日間、いいトレーニングにはなったとだけ心の中で褒めておく。

 

 そうして寝ぐらに戻ろうとした時、その行く手を阻む者たちがいた。

 

「ギラァス!!」

 

 二匹のバンギラスだった。そういえば以前喧嘩をふっかけてきたのを、返り討ちにしたなと竜は想起する。相棒を連れてお礼参りにでもきたのか。

 砂嵐を巻き起こし、敵意は剥き出しだ。余裕で立ち回れるかは怪しい。というか、バンギラスクラスともなると多少の傷は覚悟せねばなるまい。やるしかないか、竜は向き直る。

 

「……マズいね。もう手持ち少ないってのに」

 

 人間は上半身だけを起こし、苦虫を噛み潰したような顔をする。確かに、その様子ではバンギラスから逃げるのは無理そうだ。

 

 それとも、コイツらと結託して自分を倒しにかかるか。それならそれで、まとめて叩き潰すだけ。何の問題もない。

 多少変わっているが、所詮コイツも人間。自分とは何の関わりもない、関わりたくもない存在だ。それならいっそ、堂々と敵に回ってくれれば……。

 

「マホイップ、デコレーション

 

 人間が自分に対して技を命じる。

 だが、飛んできた技はおおよそ予想していたそれとはまるで違った。

 

 力が湧いてくる。普段の倍くらい。

 まさか、この人間が手助けした?何のメリットがあって。

 

「混乱に乗じて逃げたり、バンギラスに加勢するより、キミを味方につける方がよっぽど楽だと思ってさ。エーフィ、彼のサポート頼めるかな?」

 

 不思議そうに視線を向けていると、人間はそう答えた。

 それは、ある種最大級の賛辞。人間はバンギラスに便乗するどころか、竜の強さを利用しようとしている。

 

 エーフィが横に並び立つ。あまり納得していない様子なのか、少し距離を置いて自分を見定めるようにジロジロと見てきた。それでも逆らわない辺り、従順なのだろう。それとも、あの人間の言うことに納得したのか。

 

「力を貸してくれないかな、フライゴン。虫のいい話なのは分かってるけどさ」

 

 竜―――フライゴンは、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 邪魔だけはしてくれるなよ、と軽く睨みつける。

 

「ありがとう。エーフィ、あまごい!」

 

 砂嵐が止み、砂地に冷たい雨粒が降り始める。それを開戦の合図として、二匹のバンギラスが襲いかかってきた。

 力の上では互角。一匹と組み合っている間に、もう片方が側面から爪を向けてくる。だが、その一撃はバリアーによって弾かれた。

 エーフィのリフレクターだ。本当に、あの人間の指示を忠実に守って自分のカバーをしてくれた。

 

 いや、その働きはサポートに留まらない。

 

ウェザーボール!」

 

 小さな球体がバンギラスの巨体を押し返し、転倒させるに至る。

 フライゴンが人間の方を見ると、人間はニコッと笑いかけてくる。マホイップに支えられながらという何とも情けない絵面。それでも満面の笑みで、役に立つでしょ?とでも言いたそうだ。しかし、それを認めるしかないのが妙に悔しい。

 

 自分と組み合っていたバンギラスを押し返し、放り投げる。どちらのバンギラスも相手の力量に驚いたのか、警戒して接近するのを躊躇った。

 さて困った。なぜか知らないが、敵は遠距離攻撃の効果が薄い。砂の舞っていた以前は、それなりに苦労したものだ。本当は近づいて殴り倒したいのだが。

 

「フライゴン、だいちのちからって使えたよね?今から撃てる?」

 

 その思惑を無視するような人間の指示。

 フライゴンは少し躊躇う。

 

「大丈夫。さっきボクに撃ちこんだ奴、お見舞いしちゃいなよ」

「……ラァゴ」

 

 鼻につく言い方だ。

 そこまで言うならやってやるよ。フライゴンは大地を踏み鳴らし、エネルギーを奴らに送り込む。

 

 さて、言われた通りにしたがどうするのか。フライゴンがチラリと横を見ると、エーフィが真似事のように大地に足を当てていた。

 いや、無理だろ。鼻で笑ったその時。

 

まねっこ!」

「エーフっ!」

 

 エーフィの額の宝石が輝き、先ほど同様に地面からエネルギーが噴出した。地が割れ、フライゴンの技に追い打ちをかけるようにしてバンギラスに襲いかかる。

 効果は抜群。バンギラスに対しては遠距離攻撃の効果が薄い、というフライゴンの心配もよそにバンギラスは二匹とも戦闘不能に陥った。

 

「よかった、決まって……」

 

 雨が止み、さっきまでの悪天候が嘘のように晴れる。慌てて逃げ出すバンギラスたちを、フライゴンは気にも留めない。あれだけ痛い目を見れば、どうせもう襲ってこないだろう。興味がなかった。

 むしろ気になるのはあの人間だ。

 

 ……瞬殺だった。自分ひとりで戦うよりもずっと楽に勝てた。

 今まで誰かの力を借りるなどしてこなかったフライゴンにとって、それは初めての経験。力任せだった自分の戦いに知恵という武器が備わった。

 

「砂嵐を消しちゃえば、バンギラスもそんなに堅いポケモンじゃないからね。キミの火力あってこそだけど……。ホント、ありがと……」

 

 そこで人間は事切れた。自分が食らわせたダメージと、さっきのバトルで疲労が限界に達したのだろう。仰向けになって、でもどこか満足げな表情で気を失っている。

 

 エーフィが心配そうにしてすり寄る。いつも彼を乗せていた鳥ポケモンは、今日はいない。さっき自分が倒したからだ。

 つまり、放っておけば人間は砂漠で野晒しなわけなのだが。

 

「フラァゴ」

 

 フライゴンはその手で人間を掴み、背中に乗せる。それに戸惑うエーフィも有無を言わさず抱きかかえ、彼は飛翔した。

 その日、彼は初めて人を背に乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから数日後。

 竜は、その姿になって初めて敗北というものを味わう。それは屈辱的なものかと思っていたが、意外とそうでもなくて。

 むしろ、半ば退屈に感じていた日常を変えてくれる存在を喜ぶくらい。その身がモンスターボールに収まるのを、竜は反抗することなく待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来るよ、アーマーガア」

 

 その竜は強さをひたすらに求めた。

 自らが唯一認めた人間を、頂に君臨させるため。

 

 あの屈辱的な敗北から三年。人間は自分の力量不足を嘆いていたが、全ては戦った自分の未熟故。甘さを捨て、人間の元を離れ、自らを鍛え直しながら彼が迎えに来るのを待った。

 三年という年月は、竜を化け物と形容するに相応しい怪物へと変貌させた。より強靭な肉体、決して折れない精神、そして新たな技―――。

 

「フラアアアアアァィ!!!!」

 

 天に向かって吼える。

 身体中の力を滾らせ、受けたダメージを怒りに変えて相手にぶち撒ける技。

 

 竜技の頂点、げきりん―――

 

 




フライゴン内定おめでとう!!!!!!!!!!!
ニンダイ見て狂喜乱舞ですよ
マホイップは前情報あったので知ってたけど、この子だけはなかったので。もう嬉しすぎる。テラスタル+ふゆうは強いので、普通にバトルで扱えるのが嬉しい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。