ポケットモンスター Re:Champion Road   作:1.96

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35話 Re:START

 

 

 

 フライゴンの実力は、三年を経てボクの想像を遥かに上回るほどにまでなっていた。

 

「ガ、ア……」

 

 アーマーガアが殴り倒され、地上で気を失う。

 一撃だ。てっぺきを二回積んだアーマーガアが、効果今ひとつの攻撃一発で倒された。

 前から規格外だったけど、ここまでになってるなんて……。ひとまず、ボクはアーマーガアをボールに戻す。とても戦える状態じゃない。

 

 使った技は、多分げきりん。ドラゴンタイプの頂点ともいうべき技で、その破壊力は随一。三年前には覚えていなかったはず。

 

「くっ……マホイップ、マジカルシャイン!」

 

 だけど、ドラゴン技はフェアリーで止まる。げきりんは強力な分、取り回しが難しい技なんだ。

 マホイップに期待したのは、まさにそれだった。とにかくげきりんを止めること。あわよくば、効果抜群の攻撃で倒してくれれば。

 

 だけど、ボクはその認識の甘さを思い知る。

 

「む、向かってきてる!?」

 

 効果抜群の攻撃でもお構いなしか!

 いくら彼がタフでも、マホイップの攻撃を真正面から受け続けられるわけがない。

 でもその勢いが衰えないのは、尋常ならざる精神力で耐えてるから。もはや痛みすら感じないほど、彼は激情してるのかもしれない。

 

 マジカルシャインのおかげで、げきりんの技そのものは消滅してる。だけど、今のフライゴンだと技抜きの拳でマホイップが沈みかねない。

 

「エーフィ、リフレクター!」

「ラァァァゴ!!!」

 

 技のない拳ひとつで、エーフィの貼ったリフレクターにヒビが入った。この化け物……。

 面倒だと思ったのか、フライゴンはターゲットをマホイップに集中させた。尻尾を硬質化させ、辺り一帯を薙ぎ払う。

 

サイコキネシスでマホイップを移動させて!そのままボクの方に投げるんだ!」

 

 エーフィのサイコパワーで、マホイップは上空へ移動。そのまま投げられた彼女を、ボクはしっかりと抱き止める。

 アイアンテールを外した隙は大きい!

 

「エーフィ、マホイップ。マジカルシャイン!」

 

 二匹同時に放つ七色の光。フライゴンが砂嵐を起こしてガードしても、流石に貫けた。

 ……でも。

 

「フラァイ!」

「まだ耐えるってのか……」

 

 一般的な話をすれば、フライゴンというポケモンは打たれ弱い。肉体云々より、彼の真に恐ろしいところはこの底力。怒りに身を任せ我慢、それだけで耐えてる。

 まだフライゴンの目は死んでない。倒すには、最大火力で意識を消し飛ばすしか……。

 

 フライゴンが、吠えながら大地にエネルギーを送り込む。だいちのちから……。二匹まとめて消し飛ばす気か!

 

「マホイップ、エーフィにアロマミスト!エーフィ、なんとか掻い潜って接近して!」

「エフっ!」

 

 足元の爆発を避けながら、エーフィが縦横無尽に突っ込む。こうなると、もう彼はエーフィを狙うしかない。近寄らせるかと、爆発は次第に激しさを増すばかりだ。

 多少当たっても気に留めない。持ち前のとくぼうの高さに、マホイップのアロマミストで耐久はさらに上がっている。特殊技なら耐える!

 

 マジカルシャインの射程圏内だ。嫌がったフライゴンはだいちのちからを打つのを止めて、拳を振りかざす。目に見えるほどの竜のオーラを彼は纏っていた。げきりんが来る。

 

「お願いマホイップ!ミストフィールド!エーフィはリフレクターを貼って!」

 

 マホイップが霧の立ちこめるフィールドを作り出し、エーフィは壁を貼ってフライゴンの攻撃を待ち受ける。

 場の雰囲気が明らかに変わる。だけど、それでもフライゴンはお構いなしに、竜の力が加わった拳を壁に叩きつけた。

 

 一瞬の拮抗。そして破壊。壁を拳で叩き割りながら、フライゴンは渾身のげきりんをエーフィにぶつけた。

 

「大丈夫!耐えるよエーフィ!」

 

 地を転がるエーフィ。そして、そこに追い打ちをかけるようにフライゴンが向かってくる。

 リフレクターによる防壁、ミストフィールドの効果でドラゴン技の威力半減。ここまですれば、いくら打たれ弱い彼女でも耐えられる。

 

 ボクが狙っていたのは、とどめを刺しにくるこの瞬間。撃つのは彼女の最高火力にして、普通ならまず当たらない大技だ。

 ボクは、あらかじめ構えていたテラスタルオーブをエーフィに対して投げる。

 

「マホイップ、あの子にデコレーションを!当ててよ、エーフィ!全身全霊のはかいこうせん!!」

 

 瞬間吐き出されたのは、華奢なエーフィには到底見合わぬ極太の光線。今の彼女が放てる、最大火力の攻撃技。

 ノーマルテラスタルによって更に強化されたそれは、げきりん中のフライゴンをも勢いよく吹き飛ばす破壊力。真正面から向かってきた彼は、もろに光線に巻き込まれた。

 

 フライゴンは地面に叩きつけられ、派手に砂の上を転がり、光線の大きな爆発に巻き込まれる。吹き上げられた砂が舞い散り、彼の姿を隠した。

 

 やった……かな?

 ボクがそう思ったのと同時に、エーフィが脱力して地面に倒れた。

 

「エーフィ!」

 

 慌てて駆け寄る。

 ……いや、戦闘不能になったんじゃない。げきりんで受けたダメージと、はかいこうせんの反動が合わさった疲労だ。

 もはや無事なのはマホイップだけ。エースバーンら最初の三匹には地力で劣る彼女らが、よく頑張ってくれた。

 

「フラァ、ァイ……」

「フライゴン……」

 

 砂煙が晴れ、フライゴンの姿が確認できる。なんと彼は、フラフラながら立っていた。そんな状態でもまだ戦う意志は失っておらず、少しずつ歩みながらボクらを睨みつける。

 だけど、もう流石に無理だ。いまなら、マホイップ一匹でも倒せる。それぐらいには肉体が限界を迎えている。

 

 それでも闘志は萎えない。瞳の光は消えず、ギラついたままだ。

 なんでそこまでして……。

 

「危険な状態だ。これを使うといい」

「あ、どうも……」

 

 確かにその通りだ。まずはフライゴンの回復を優先させた方がいい。

 早速貰った『かいふくのくすり』を……

 

 

 

 

 え?

 

「元気そうだな、リンドウくん」

「ダンデさん!?」

 

 颯爽と現れたのは、ガラルチャンピオンにして最強のトレーナー。ボクの永遠の憧れ。会うのは、チャンピオン戦以来だ。

 いや、なんでこんなところに。

 

「ラァゴ!フラァィ!」

「こら、フライゴン!」

 

 ダンデさんを見て、闘争本能をさらに剥き出しにするフライゴン。ボクに制止されるぐらいにはフラフラのくせに全く……。

 

「ホップから、君が帰ってくるのを聞いたんだ。ようやく時間が取れたから来てみれば、中々に熱いバトルをしていたからね」

「見てたんですか!?」

「ああ!思わず、リザードンを出して参加するところだった……」

 

 ばぎゅあ!とリザードンが吠える。相変わらず強そうだ。あれからもずっと勝ち続けてるもんな。

 

「君と、そのフライゴンはやっぱり強かった。今日見て改めて確信したよ」

「いえ、ボクはまだまだ……」

「とにかく気持ちが強い!差し違えてでも倒すんだという決意と覚悟!三年前の君との試合で、オレのリザードンも呑まれてたぐらいだ」

 

 棄権という形で終わったのは残念だったけどね、と言うのはダンデさん。どこか遠くを見ているようにして話す。

 確かに、この子は強い。とにかく精神が強い。さっきだってアレだけ攻撃を叩き込んでも結局倒せなかった。相当な負けず嫌いだ。

 

 だから不安にはなるし、その結果の棄権負けだったんだけど……。

 

「トレーナー復帰したってキバナから聞いたぞ!前より強くなってるって」

「恐縮ですが……」

「また、俺に挑んでくれないか?」

 

 その言葉に反応したのは、ボクよりもフライゴンの方が早かった。やっぱりこの子は、あの時の敗戦を忘れてなんかいない。

 それはボクも同じ。最初は無理やりにパルデアに行かされて、それで一から出直して。新しい仲間にも出会って。

 

 最初はトレーナーとして再始動するのに悩む気持ちもあったけど、本人を前にそんなものは吹き飛んだ。結局、みんなみんなこの人に帰結する。

 ダンデさんともう一度やりたい。

 

「約束は出来ないですけど……。はい、いつかは必ず!だから……」

 

 そうなると、やっぱりこの子の力が必要なんだ。

 

「ボクともう一度出直さない?フライゴン」

「……フラァゴ」

 

 フンとそっぽを向きながらも、フライゴンは差し出したボクの手をパシンとはたく。それは、彼なりの肯定の意だと受け取る。

 コツンとボールを当てると、フライゴンはおとなしくボールに収まった。十個目のモンスターボールを腰に下げる。

 

 ……やっとみんな揃った。

 これで……これで、ようやく本当の意味で再スタートできる。

 

「おめでとう、という表現が正しいか分からないが、ひとまずそう言っておくよ」

「ありがとうございます。もっと……もっと力をつけて、いつかダンデさんに挑みますから」

 

 今はまだ遠い背中だけど、三年のブランクを埋めて力をつけた時にはきっと……。

 

「そこで、快気祝いと言ったら少し変なんだが……」

「はい?」

 

 ダンデさんから受けたひとつの提案。

 それは唐突ながらも、嬉しい嬉しい内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 私は何を見てるんだろう。

 今、見ているものが信じられなかった。いや、信じたくなかった。

 

「フライゴン、かみなりパンチ!!」

「迎え撃て、だいもんじ!」

 

 リザードンと、あの緑のドラゴン―――フライゴンが空中戦を繰り広げている。どちらにも力量差は感じられない互角のバトル。

 そのリザードンを操ってるのが、現ガラルチャンピオンのダンデさん。そして、私たちをメタメタにしたドラゴンのトレーナーが……先生だった。

 

 あの後道場に戻って、ポケモンたちを回復してもらって、外が騒がしくなったから道場から出ると。

 繰り広げられていたのは、一礼野原での野良バトル。私だけじゃなくて、他の門下生も外に出た。

 

「……ホップさん、あのポケモンは?」

「フライゴンのことか?アイツはリンドウの切り札だぞ。メチャクチャ強いんだ!」

 

 ああ、やっぱり。

 

 ホップさんに聞けば、あのポケモンはしばらくの間先生の元を離れてたらしい。私を助けた後に、また捕まえなおしたのかな。

 いずれにせよ先生があのポケモンを完璧に従えているのは、バトルを見ても明らか。その事実が、私の心を曇らせる。

 

 私は先生を目標にしていて、いつか勝てればいいなって思ってて。宝探し期間中にジム戦、ヌシ、スター団とバトルを重ねたことで、力と自信をそれなりにつけたつもりだったんだけど。

 結果バトルでは惨敗。私たちを完膚なきまでに叩きのめしたフライゴンが先生のポケモンで……。

 

 先生を倒すには、あのポケモンと戦うの?

 技も使わずにボコボコにされたのに?

 無理だよ、そんなの。

 

「あれ?アオイ、見ないのか?」

「……ちょっと気分が良くなくて」

「そっか、ゆっくり休むんだぞ。今日はトレーニングしちゃダメだからな!」

 

 ホップさんの明るい声が心に刺さる。

 私は、軽くお辞儀だけして目の前のバトルに背を向けた。文字通り、もう見たくなかったんだ。

 

りゅうのはどう!」

だいもんじ!」

 

 技の撃ち合いが起こるたびに沸く歓声。

 それを聞くことすら嫌で、私は逃げるように道場へと帰っていった。

 

 結果は引き分けだったらしい。バトル後に嬉しそうに話す先生の姿が、私にはとても辛かった。

 

 




これにてガラル編、完。
次回からは、またパルデアに帰ります。アオイメインのお話も増やしていきたい所存。

最近小説のメンツで剣盾をやり直してるんですけど、マホミルの攻撃技がドレインキッスしかなくて辛い。
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