ポケットモンスター Re:Champion Road   作:1.96

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37話 対等の相手

 

 

 上空。高所にいるボクを、生徒たちは見上げる。

 

「皆しっかり見ててよ。アーマーガア、お願い」

 

 合図を出すと、アーマーガアは掴んでいたボクの肩を手放した。

 ボクの体はどんどん落下。だけど地面に衝突する寸前で、不思議な力がボクの体を支えた。生徒たちからは悲鳴と歓声の混じった声が上がる。

 

 そのカラクリはスマホロトム。崖などの高所から落下しても、これさえあれば落下速度を抑えて身の安全を守ってくれる。

 要するに、それを自分で実演していたというわけ。今日の授業のテーマは、ズバリ安全教育。スマホロトムは生徒全員に支給されているけど、それはこういった理由もあってのこと。ガラルのにそんな機能はないから、少し驚いた。

 

「と、こんな感じでスマホロトムにはみんなの身を守る機能が備わってます。緊急時の連絡手段としてももちろん有効なので、外に出るときは必ずスマホロトムを持っておくようにね」

 

 一応保険でエーフィを下に待機させてるから、教員の飛び降り事故とかいう最悪の展開だけはない。

 念のためね。

 

「じゃ、後は試しにやってみようか」

 

 実演のあとは生徒にも体験してもらう。もちろん、安全を考慮してその辺の岩から飛び降りるレベルで。こういう機能が備わってるんだよ、という軽いレクチャーね。

 外を自由に冒険するうえでの危険性の周知と安全への意識。我ながら、かなり大事な内容だと思う。というより、もっと早くするべきだった。

 

 ……とは持ち上げてみたものの、正直生徒たちの反応は芳しくなかった。アカデミーに戻る生徒が増えてきた中、マッチするとはいえない内容だったから仕方ないのかもしれない。

 生徒が思ういい授業と、先生が思ういい授業は違うんだなぁ。

 

『なんで今さらそんなこと教えるの?』

 

 生徒に純粋にそう聞かれた時は、正直苦しかった。笑ってごまかしたけど、全然ごまかせてなかったと思う。

 トレーナーとして再スタートしたはいいけど、こっちを疎かにはできない。悩ましい話だなぁ。

 

「先生、どうしたの。ボーっとして」

「ん?ああ、少し考え事をね」

 

 ボクを現実に戻してくれたのはネモ。彼女も今回参加してくれていた。前のめりで聞いてくれた数少ない存在どころか、ボクみたいにアーマーガアから飛び降りたいとか言ったから困ったもんだった。もちろん、全力で阻止したけど。

 で、なんで彼女がボクに声をかけたかっていうと。……うん、右手に持ってるものでわかった。

 

「さ、先生!約束通りバトルだよ!」

 

 これである。

 つい先日の約束をちゃんと覚えてた。反故にするつもりはないけど、今は気分が乗らないんだ。でも、ネモはお構いなしって感じで。

 

「あのドラゴンとやるの楽しみだったんだ〜!ね、アオイも見たいよね!?」

「え!?う、うん……」

 

 急に話題を振られたアオイは覇気のない返事。

 ガラル振りに顔を合わせたアオイだけど、彼女はどうも元気がない。というか、ここ最近の彼女はずっとこうだ。

 

「……やっぱり私、先にアカデミー戻ってるね。それじゃあね」

 

 気になる。

 妙によそよそしいし、避けられてるような気もするし。それだけならまだしも、元気印の彼女があんなにおとなしいと心配だ。

 

「最近、ずっとあんななの?」

「うーん……。というか、連休が明けてからずっとあんな感じで。バトル誘っても応えてくれないし」

 

 やっぱり、ガラルで何かあったのかな。フライゴンに襲われてたし、そのせいかもしれない。ボクの監督不行き届きでもあるし、今度話をしてみよう。

 それにアオイがあの様子なせいか、ネモも少し神妙な顔だ。彼女にとっても、アオイが大事な友達なのは間違いない。

 

 いつだったか、オモダカさんは言っていた。ネモはライバルを欲している。強者ゆえの孤独を感じていると。

 それを埋めてくれる存在がアオイだったのは間違いない。今はまだ力及ばなくても、きっとネモの良きライバルになれる。彼女にはその見込みがあるんだけど。

 

 ……あんまり押し付けるのは止めよう。

 アオイにはアオイのペースがある。

 

「バトル、しよっか。ボクじゃアオイの代わりにはなれないけど」

「……よし!やろう先生!」

 

 ボクはネモのライバルにはなれない。でも、こうしてバトルの相手なら出来る。

 バトルの腕がそれなりにネモと対等なのは、忖度抜きの客観的な評価。今のボクが、ネモにしてあげられる精一杯じゃないかな。

 

 ルールは一対一のシングルバトル。

 ボクが使うのはネモのリクエスト通りの―――

 

「じゃあ、行こうかフライゴン!」

 

 ボールから出てきたフライゴンが、ズシンと地に降り立つ。両の握り拳を胸の前で合わせて、準備万端の合図。やる気みたいだ。

 

「私はこの子で!」

 

 ボクのフライゴンとやり合うポケモン。生半可なポケモン相手じゃ秒殺するだけに、ネモが何を使うのかは興味があった。

 そんな彼女が選んだのは、紺藍のドラゴン。力強くもスマートなビジュアル、強さも合わさって非常に人気なポケモン―――その名もガブリアス。

 ……なるほど、フライゴンの相手にはピッタリ。

 

「当てつけ?」

「いいえ。そのフライゴンと張り合うには、この子じゃないとダメだと思ったんです」

 

 同じじめん/ドラゴンタイプ。だけど、ポケモンとしてのポテンシャルはガブリアスの方が圧倒的に上をいく。

 どちらが強いか。そう聞けば、ほぼ全員がガブリアスと答える。そんな二匹だ。

 

 それが普通のフライゴンならね!

 

「小手調べ!ガブリアス、だいもんじ!」

ばくおんぱ!」

 

 挨拶代わり、といってはあまりに乱暴な攻撃。衝撃波と獄炎がぶつかり合って、熱波となり周囲に満ちる。

 相殺。となると、次の動きがオープニングヒットを決める。それを理解しているフライゴンは、ボクの指示よりも早く動き出していた。

 

「あの爆風の中を突っ込んできた……!?」

「叩くよ、ほのおのパンチ!!」

 

 ガブリアスを地面に叩きつけるように、フライゴンは豪快なパンチ。軋むような打撃音が炸裂する。

 

 先手を取った。そう思ったけど、それだけで終わらないのが流石ガブリアスというか。殴りつけたフライゴンの右手から鮮血が滴る。

 特性さめはだか。直接殴れば、こっちもダメージを負うことになるね。

 とはいえ、それを気にするフライゴンではない。

 

「火傷でもすれば儲けもんだったけど……」

「今度はこっちから!アクアブレイク!」

「無理そうだね。ばくおんぱで迎え撃つよ!」

 

 でも、ダメージを負えば不利になるのは事実。彼は微小なダメージぐらい気にしないだろうけど、それを制御させるのがボクの仕事だからね。

 

 音波を躱しながら、ガブリアスは翼を畳んで飛翔。超速でフライゴンに迫る。

 指示無しにほのおを拳に纏うフライゴン。正面から迎え撃ちたいのはわかるけど。

 でも。

 

「飛んでやり過ごして!りゅうのまい!」

「ラァゴ!?」

 

 疑問を隠しきれないフライゴンだったけど、それでも指示に従ってガブリアスの攻撃を避ける。

 ガブリアスは使えない反則級の積み技、それがりゅうのまい。

 なぜそんな前準備を、とフライゴンは感じたと思う。なぜなら、この子の技は基本的に攻撃技のみだから。ボクが小細工を一切使う必要がないのが、この子の強さをいっそう物語っている。

 

 でも、ネモはそこらのトレーナーとは訳が違う。

 だから、万端の準備をもってして潰す!

 

「そっちがそう来るなら……つるぎのまい!」

 

 ……ここで積み技?フライゴンが攻撃してきたら対応できないでしょ。ドラゴン技を撃たれたら負ける場面で、悠長すぎる。

 いや、きっと罠だ。こちらの攻撃を誘われてる気がする。ここは様子見でもう一度りゅうのまいを積んだ方が……。

 

「フラァイ!!」

「フライゴン!?」

 

 ボクが指示するより早く、フライゴンが飛び出した。やっぱり、血気盛んなあの子には我慢できなかったか……!予想はしてたけど!

 しかも、彼が纏うのは竜のオーラ。げきりんを勝手に使っている。

 

 ボクの予想通り、ガブリアスは攻撃への対応が間に合わない。りゅうのまいで素早さが上がっていることもあって、あっという間に殴り倒した。

 普通の相手ならこれでいい。今までもこうして勝ってきた。でも、ネモはそこらのトレーナーとはレベルが違う。フライゴンの攻撃を予測してないわけがない。

 

 それに―――ここはパルデアだ。

 

「耐えたよ、ガブリアス!アクアブレイク!」

「みずテラスタル……!」

 

 攻撃を正面で受け止めるガブリアス。耐え切った後、みずテラスタルの乗った一撃でフライゴンを吹き飛ばす。

 ネモは、ガブリアスが攻撃されても耐えられるようにテラスタルを温存していた。だから、あんなに余裕を持ってつるぎのまいをしたんだ。

 

 今までは、そういった策すらも力で捩じ伏せることができた。でもトレーナー、ポケモンのレベルが上がればそれは通用しなくなる。

 フライゴンの戦闘能力にひとつケチをつけるのなら、自分の強さへの誇りが強すぎること。それは言い換えれば驕り。同じレベルの相手がいないから、それに気づけなかった。

 ネモと同じ。周りと比べて強すぎたから、対等な相手というのがいなかったんだ。

 

「ラ、ラァゴ……!」

「まだ立てるよね、フライゴン。このままじゃ終われない」

 

 げきりんという技は、そんなフライゴンを体現しているといえた。力のままに相手をただ蹂躙するような技。弱い相手には絶大でも、同格の相手に対して使うにはクセが強すぎる。

 だから、ここで一皮剥けなきゃいけない。ボクたちがさらに成長して、ダンデさんという頂点を目指し、超えるために。

 

「もう一回げきりんを使うよ。今度はボクの声にしっかり耳を傾けて。なんとかコントロールしてみせるから」

「フラィ!」

 

 少々痛い目を見て、フライゴンも気を引き締めたみたい。ダメージ?大丈夫だよ。痛みなんかより、自分への不甲斐なさに対する怒りの方が大きいんじゃないかな。

 そういう子なんだ。

 

「いいね、先生もフライゴンも。まだまだ実っていく可能性を感じる……!」

 

 自分と対等な相手。それは、互いを高め合う絶大な存在。遅ればせながら、フライゴンにもようやく見つかったみたい。

 もっともっと、彼は強くなる。ボクは確信した。

 

「さぁ、反撃といくよ!げきりん!」

「負けないもんね!アクアブレイク!」

 

 両者の技が互角にぶつかり合う。

 そんな豪快でハイレベルなバトルは日が暮れる頃、二匹が同時に動けなくなるまで続いた。

 

 




完全無欠っぽい彼にも弱点はあります。
碧の仮面、とりあえずカイリューがダブルウイング覚えるのだけはやめて(切実)
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