ポケットモンスター Re:Champion Road 作:1.96
4話 転校生と不登校生
○
「んっんー。いーい天気だなぁ」
あのニャオハの脱走騒動から数日後。初めての休暇をもらったボクは、アカデミーを飛び出して南1番エリアにいた。
テーブルシティから一歩出たら、そこはもう大自然。ワイルドエリアとは比較にならない規模に、ボクの心は小躍りした。
課外授業では生徒たちが自由に探索できるんだから驚きだ。たくましいね、パルデア人。
ニャオハを肩に乗せて周辺を歩く。せっかくの休暇だし、今日はリラックスした―――
「誰か助けてえええ!」
……何か聞こえたよね。
いや、気のせいかな。
「ニャ、ハニャ!」
「キミも聞こえた?」
無視はできないか。アカデミーの生徒だったら大変だし……。
行くしかなさそうだ。ニャオハを肩から下ろすと、音のする方へ駆け出していった。ボクもそれについていくことにする。
「ここなの?」
「ニャ!」
自慢げ鼻高々のニャオハが指したのは、青色の巨大な結晶が光り輝く場所だった。その結晶の根本には、地中深くまで続く穴がある。
これってポケモンの巣穴だよね。
「早く助けに行かなきゃ!」
ニャオハを抱きかかえて、ボクは巣穴の中に入っていく。巣穴の形はガラルと同じだから、恐怖心はなかった。進めば進むほど光が強くなっていって、段々と前が見えなくなってくる。
程なくしてある地点に辿り着いた。ゆっくり目を開くと、そこは辺り一面が結晶に覆われた広場。そしてテラスタルしたポケモンが、二人の侵入者に襲いかかっていた。
「どうするよアオイ!お前がこんなとこ入るって言ったんだぞ!」
「むーりー!ペパーだって『やる気まんまんちゃんだな』って言ってたじゃん!」
「行くとは言ってない!無理やり巣穴に引きずりこんだんだろうが!」
追われているのは、金髪三つ編みの女の子に、長髪にリュックサック背負った男の子。
アオイとペパー、ね。制服を着てるから、アカデミーの生徒で間違いなさそう。
「リルゥゥゥゥー!!」
その二人を追っているのは、みずうさぎポケモンのマリル。頭の結晶が噴水だから、みずテラスタルの個体か。
そのマリルは、テラスタルにより強化されたバブルこうせんを二人に放つ。野生だから当然だけど、一切の容赦がない。
「わーっ、また来た!?困ったちゃんだなもう!ホシガリス、タネマシンガン!」
「ハネッコ、ようせいのかぜ!クワッスはみずでっぽう!」
三匹の攻撃がぶつかってもなお、バブルこうせんの勢いは止められそうにない。それどころか押し返されそうだ。早く助太刀しなきゃ。
「ハニャァー!」
「ニャオハ!?」
エーフィを出そうとすると、腕の中にいたニャオハが飛び出した。こっちを振り向いて、早く指示しろと言わんばかりに強気な表情を見せる。
……仕方ない。タイプ有利だし任せてみようか。
「わかった、キミのやる気を買うよ!このは!」
ニャオハの生み出した木の葉は、バブルこうせんを横から弾いた。衝突した木の葉たちが泡を次々と吸い取っていき、威力を弱める。
「あれ?攻撃収まった……?」
「二人とも大丈夫?」
少し落ち着いたところで、ボクは二人に駆け寄る。うん、怪我はなさそうだ。
「だ、誰だアンタ?」
「ボクはリンドウ。アカデミーの新任教師で……って話は後の方がいいかな」
マリルはまだ健在だ。あの子を鎮めないと、巣穴からも逃げられない。
「先にアイツを止めなきゃだな。ホシガリス、たいあたりだ!」
「クワッス、つばさでうつ攻撃!」
二匹が突撃。さすがにダメージは入ったようだけど、尻尾であっさり弾かれる。耐久力も相応にあるな、あのマリル……。
「ハネッコ、すいとるで抜群狙うよ!」
「こっちも!もう一度このは!」
効果抜群の攻撃ならどうだ?
木の葉の旋風に吸収攻撃。流石に効いたのかマリルは顔を
だけど。
「受けながら攻撃の構えとってる!?」
「来るぞ攻撃!まるくなる!」
「クワッス、みきりで躱して!」
尻尾をバネにして高く跳び、マリルはそのまま尻尾を振りかざす。そのまま、重力に任せてたたきつけてきた。
クワッスは攻撃を見切って避けたけど、ペパーのホシガリスは少しダメージ喰らったか……。まるくなるでダメージ抑えられたと思うけど。
「今のうちに動きを止めるよ!しびれごな!」
「ニャオハ、つめとぎでスタンバイして!」
尻尾をたたきつけたところに、ハネッコのしびれごなが振りかかる。麻痺で動きが鈍くなった!マリルの表情に曇りが出始める。
「リルっ!!」
でも、まだマリルは諦めない。水の柱を纏って、宙を舞いながら襲いかかってきた。極太のアクアジェットだ。
「二人とも、あの攻撃止められる?その隙に、ボクたちが一撃をぶち込むから!」
「や、やってみます!」
「うっし!」
ニャオハの盾になるようにホシガリス、クワッス、ハネッコが並ぶ。その三匹を吹き飛ばすように、マリルは突っ込んできた。
「タネマシンガン!」
「クワッスはみずでっぽう!ハネッコはもう一度すいとる!」
両者の技がぶつかり合う。勢いは少し押されてる。けど、ハネッコのしびれごなでスピードは落ちてるし、それだけ火力も抑えられてるはず。これなら撃ち抜ける。絶対に無駄にはしない。
ボクは先日オモダカさんに貰った道具―――テラスタルオーブを起動して、ニャオハの元に投げた。
「さぁ行くよ、テラスタル!めいいっぱいの力でこのは!!」
「ハァァニャァァァァッ!!!」
頭に煌めく花の結晶。くさテラスタルを切ったニャオハは、木の葉をたっぷり乗せた突風を打つ。
つめとぎで上がった攻撃力と、くさテラスタルで底上げされた草技。そして効果抜群。さっきまで繰り出していたものとは比較にならない木の葉が、水流ごとマリルを吹き飛ばした。
テラスタルが解けたのか、結晶が砕け散ってマリルの体は元に戻る。それはマリルが力尽きたことを意味し、ボクたちの勝利を表していた。
「にゃふ……」
「よく頑張ったね、ニャオハ」
ニャオハはぐでっと倒れる。
初の実戦。初のテラスタル。短いバトルだったけど、彼にとって濃密な時間だったはずだ。
ボクが労うように頭を撫でると、彼はゴロゴロと心地よさそうに喉を鳴らした。
「た、助けてくれてありがとうございました!」
「エラい目に遭ったぜ……。その、ありがとうございます」
「こっちこそ、サポートありがとう。二人がいなかったら、勝てたか怪しかったよ」
それぞれ、相棒をボールに戻したアオイとペパーが駆け寄ってくる。うん、ボクとしても大事な生徒を守れて良かった。
これがテラレイドバトルか。ガラルのマックスレイドバトルと似てるようで違ってて、これはこれで楽しいね。安全に気をつければ、いいトレーニングになりそう。
それはさておき。
「ごめんね。大丈夫?」
力尽きたマリルの元に駆け寄る。この子も巣穴に人間が入ってきてビックリしただろうし、罪はないはずだ。げんきのかけらを与えて、復活させる。
「リ、リルぅ……」
「先生、その子どうするの?」
「まだ元気ないみたいだし、一緒に外に出ようか。ここに放置するのも危険だからね」
「心優しいちゃんだな、先生」
昨日の敵はなんとやらだ。
マリルを抱きかかえ、ボクたちは巣穴から抜け出した。
「改めてありがとうございました。その、今度からアカデミーに通うアオイです」
「2-Gのペパーだ」
「どういたしまして」
改めて自己紹介。
転入生のアオイはともかく、ペパーも初めましての顔だ。もうひと通りのクラスで授業したはずなのに。不登校気味の子がいるって聞いたけど、もしかしてこの子かな。
「ところで、二人はどうして巣穴に?」
「う。それはぁ……」
ボクの問いに苦い顔をしたのはアオイ。それと同時に、ペパーがジトーっとした目で彼女を見つめる。オーケー、大体察した。
それでも一応話を聞く。
テーブルシティで人を待っていたこと。
暇になって一度南1番エリアに戻ったこと。
そこで、光り輝く結晶を見つけたこと。
近くにいたペパーを捕まえて、強引に連行したこと。
……酷い話だなぁ。どこからツッコむべき?
「……とりあえず、巣穴には四人で行くように」
「あはは……。ゴメンね、ペパー」
「まったくだぜ。無駄な時間は食うし、大変な目に遭うし。俺にはやることがあるってのに」
「やることって?」
ボクが尋ねると、ペパーは顔を歪めた。
「……それは先生には内緒だ。じゃあな」
「あっ、ペパー!?学校にはちゃんと来るんだよー!!」
あっという間に行っちゃった……。
引き止める隙もなくて、アオイの声にも振り向かずにペパーの背中は見えなくなった。
「彼、学校に来てないの?」
「えと、不登校みたいです。なんでかはわからないですけど」
「そっかぁ……」
やっぱり不登校の子だった。アカデミーは規模が大きいし、中にはそういう子もいるだろうけど。
……うん。今度彼に会ったら話をしてみようか。これも教員の仕事だ。
そうこうしていると、アオイのスマホロトムに着信通知が届いた。
『アオイ、許可取れたよー!……ってあれ?リンドウ先生がいる!?なんで!?』
「ネモ?」
スマホロトムのビデオ通話。画面を覗き込むと、通話相手はネモだった。アオイの待ってた人って、彼女だったのか。
「アオイ、ネモと知り合いだったの?」
「家が隣なんです。それで仲良くなって」
『アオイ凄いんだよー!二回バトルして、私二回とも負けちゃったんだから!』
へえ。それは凄い。
ポケモンのレベルは合わせてるだろうけど、それでもチャンピオンクラスの彼女を負かすとは。
確かに、さっきは初心者ながらポケモンを二匹同時に使っていたし、技の選択も絶妙だった。確かにバトルの筋は凄く良いのかも。
『そーだよー!もしかしたら、先生より強かったりして!』
「先生もバトル強いの?」
『凄いんだよ!なんてったって、ガラル地方のトーナメント覇者――その世代のナンバーワンなんだよ!』
………………んん?
楽しそうに話すネモの口から、聞き流せないワードが聞こえた気がした。あれ、ボクそんな話したっけ……?
ボクの情報はガラル出身と、そこで旅してたことぐらい。
ボクの過去を知るのは、マスタードさんと繋がっているクラベル校長、オモダカさんぐらいのはずだけど。
「ネモ、それどこで知ったの?」
「名前で調べたら出てきました!ほら、ポケチューブにも動画が残ってるし……」
「わー、ホントだすごーい!」
「まさかの検索!?」
うわ、本当に動画サイトにジム戦やらトーナメントの動画が残ってる。再生数も万超えてるし。
インターネット社会こっわ。エゴサなんてしないし、初めて知ったよ。
あんまり思い出したくないし、黙ってようと思ってたのに……。よりによって、ネモに知られるなんて。
「出来れば、喋らないでくれると嬉しいな」
『じゃあ、また今度バトルしましょうね!』
「……お受けします」
『わーい!じゃ、私テーブルシティで待ってるから!アオイ、また後でねー!』
簡単に次のバトルの約束をしたところで、通話は一方的に切られる。
え、待って。これテーブルシティに行ってすぐにバトルってわけじゃないよね?大丈夫だよね?
……いいや。変な約束は頭の片隅の方に寄せとくとして、早くテーブルシティに戻ろう。
「せ、先生大変ですね……」
「ありがとうアオイ。労いの優しさが身に染みるよ。それじゃ――」
立ち上がったボクの裾が、何者かに引かれた。
「どうしたの?」
「リル、リル!」
「あなた、さっきのマリル?」
テラレイドバトルで倒したマリルが、ボクの足元にいた。そういえば、巣穴から一緒に連れ出したんだ。さっきまでひんし状態だったけど、もう心配ないみたい。
「どうしたんだろう?」
「先生、気に入られたんじゃないですか?」
「え、ボクがぁ?」
手当てをしただけなんだけどな。だけど、マリルの目はジッとこちらを捉えている。
ボクはしゃがみ、マリルと視線を合わせた。
「キミも来る?」
「リルゥ!」
返ってきたのは元気の良い声。そこまで言うなら、ボクも応えよう。
空きのモンスターボールを取り出してかざすと、マリルは尻尾でスイッチを押す。光に包まれてボールに入ると、数回揺れた後、やがてボールは収まった。
「よし、マリルゲット。これからもよろしくね」
ボクがボールに向かって語りかけると、ピョンとボールが元気よく跳ねる。こうして早くも二匹目の仲間、マリルがパーティーに加わった。
●
ジョウトポケモン多くね?
って書いてて思った。でもジョウトが一番好きだから仕方ないね。最初はパルデアで固めようと思ったけど、やっぱり色んなポケモンを出したいので。