エンディング『水の星におやすみを』   作:野生のムジナは語彙力がない

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世界の終わりが始まった。
残された時間は僅かだ。

間に合わせる、なんとしてでも……
たとえこの身が朽ち果てようとも
少しでも可能性があるのなら、俺はその僅かな可能性にかける

だから


エンディング『水の星におやすみを』

新暦██(AD25██)年12月24日

その日、水の星は青い輝きに包まれていた。

 

雲ひとつない晴れ渡った空、日の出から間もない世界は暖かな暁の色に染まっている。地上には、まるで全てを埋め尽くさんとばかりに一面の花畑が広がっていた。色鮮やか、そして種類豊富な花々は、生き生きとした生命の輝きを放ち、光合成によって生成された新鮮な空気を、花の香りと共に世界中に向けて送り出していた。

 

それは母なる水の星に残された、最後の奇跡

 

この尊い大地に生まれた生命が放つ、最後の残り香

 

終わりなき命のバトンの終着点

 

この世界が放つ、最後の息吹

 

そして、滅び

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM 08:00

赤みが差した青空の下を、フライトユニットを装備した3機BMが飛行していた。指揮官の操縦する機体を先頭に、単縦陣で2機の量産型ウァサゴがそれに追従している。

 

指揮官の乗機、ウァサゴG

光学兵器に対して高い耐性を持つゴールド塗装が施され、さらに高性能レーダーや最新鋭の機体制御AIなどといった指揮官専用の特別なカスタマイズが施された機体……

しかし、それも『かつての話』である。

派手な色をした装甲の塗装は完全に剥がれ落ち、かつての眩い輝きは最早見る影もなく、機体は鈍い光を反射させるに留まっている。ところどころ剥き出しとなったフレーム、高性能レーダーを搭載した頭部は大きく削ぎ落とされて殆ど機能を停止しており、最新鋭のAIはとうの昔に沈黙。さらに各関節部からは時折スパークが生じ、そして欠損した右腕と左脚を補うかのように量産型のものが取り付けられていた。

 

いくつもの激戦を潜り抜けてきたであろう、それを表すかのようにバックパックのフライトユニットは空中分解寸前の状態で、こうして飛行を続けられているのは、まさに奇跡的と言えた。

 

ウァサゴGの基本武装であるビームライフルやドローン砲、ブレードといった類のものは何も装備されていない。ここに至るまでの間に全て破壊されるか、弾切れのために放棄されていたからだ。

 

……どちらにせよ、もう必要なかった。

 

終わり行く世界の中で『約束の地』に向かって渡り鳥の如く飛行を続ける3機。そのうち、なんの前触れもなく最後尾を飛行していた3番機のメインカメラから唐突に光が消え失せた。

 

(…………!)

機能停止に陥ったのか徐々に降下する3番機の様子に気づき、指揮官は慌てて機体にブレーキをかける。並走していた2番機のパイロットもそれに気づいたのか空中で動きを止め、共に降下する3番機を追いかけた。

 

両脇から3番機を支える形で花畑の上に接地する。機体から降りた指揮官は、3番機のパイロットをコックピットから抱き上げ、ぐったりとした様子の彼女を花畑の上に優しく横たえてあげた。

 

「ごめん……ボクももう、ダメみたいだ……」

 

褐色の肌を持つ彼女の口から、弱々しくそんな言葉が漏れ出た。彼女の体に目立った外傷はない。しかし、握りしめた彼女の手は恐ろしいほど冷たくなっていた。

 

「でも、最後まで足手まといになるのは嫌だから……ボクの命を貴方にあげる。大したものじゃないけど、これなら少しは生き長らえると思うから……」

 

(…………)

冷たい彼女の掌から温かいものが流れ込んでくる。

 

「はぁぁ……私も、もう限界」

 

その時、ヨロヨロとした足取りで2番機のパイロットが歩み寄ってきた。長い黒髪が乱れるのも構わず、彼女は花畑の上に力なく膝をつくと、そのまま指揮官の側で仰向けになって寝転んだ。

 

「指揮官……機体のパワーパックを私のと交換しといたよ。これなら多分、目的地まで辿り着けると思うから……」

 

黒髪の少女も3番機のパイロットと同様、目立った外傷はない。しかしながら、血の気が失せ蒼白に染まった彼女の肌は、どうあがいても手の施しようがない状態であることは誰の目にも明らかだった。

 

最盛期には何千名といた機動部隊員も、ついに最後の2人だけになってしまった。そして今、激戦を潜り抜け指揮官のことを長らく支え続けてきた2人の命も、もう間も無く潰えようとしていた。……対照的に、3人の周囲に咲き誇る美しい花々はゆったりと風にたゆみ、溢れんばかりの生命力に満ちていた。

 

その内、少女は指揮官に向けて手を伸ばした。

震える白い手を指揮官が握り返すと、やはり温かい何かが流れ込んでくる気配を感じた。

 

(…………)

 

「ねえ指揮官……私たちのことは良いから先に行ってよ。少し休んだら、すぐに追いかけるから……必ず、そっちに行くから」

 

(…………うん、わかった)

 

もう温かい何かは流れ込んでこない。

2人の手を離し、指揮官は立ち上がる。

……そして、去り際にこう告げた。

 

 

(おやすみ……ナディア、ポーラ)

 

 

無数の花びらを巻き上げながら、指揮官の乗るウァサゴGが上昇していく。花畑の中に残されたナディアとポーラは、舞い散る花びらの中に光るその軌跡を見つめながら、小さく笑いかけた。

 

「ねえナディア、まだいる?」

 

「……うん、一応ね」

 

「指揮官は無事にたどり着けるかな?」

 

「…………うん。大丈夫だよ、指揮官ならきっと」

 

「あはっ……だよね。なんたってあの人は……」

 

「…………」

 

「…………ナディア?」

 

「……」

 

「……………………そっか」

 

冷たい肌の中に、未だ指揮官の温もりが残っている。先ほどまで指揮官と触れ合っていた2人の手の先に、いつのまにか地面から一輪の花が萌え出でていた。

 

 

桃色のガーベラ

花言葉は『希望』『前進』

そして……『感謝』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

エンディング『水の星におやすみを』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

アイテム番号:SCP-001

コードネーム・リリーの提言『美しい世界へ』

オブジェクトクラス:不必要

 

特別収容プロトコル:

SCP-001を収容する必要はありません。

 

説明(一部省略):

SCP-001は、地球上の全ての命に死が訪れる直前に発生する特異事象を指します。SCP-001自体は終焉シナリオの原因ではなく、終焉シナリオの成立に先立って発生する現象です。

SCP-001イベント中、地質や大気および水質といったあらゆる地球の自然環境は終焉シナリオが発生する以前の状態へと回復し、その後、生命の生存可能な地表の90%を自発的に出現する花が覆い尽くします。天候は晴れわたり、世界中で大多数の人間にとって快適な気温が確認されます。

 

 

 

SCP-001は、地球上の全ての命に死が訪れる24時間前に発生します。

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から約半年前……

太平洋の中心に出現した怪異……それは全てを喰らい尽くす異次元の生命体だった。人類にとって脅威以外の何者でもない敵性生命体の襲来。これに対し指揮官である貴方は全世界に危険を報せ、警戒を促すと共にバラバラだった世界を1つにまとめ人類軍を結成した。

迫り来る世界終焉シナリオの機運を前に、誰しもが戦闘に加わった。自身の故郷を、居場所を、そして愛する人たちを守るために…

 

だが、人類は敗北した。

持てる全戦力を投入した人類史上最大最後の激戦、オペレーション・オメガでの敗北を機に、人類の活動領域は急速に失われていった。古代巨神の力も、異世界の力も足止めにしかならなかった。

 

多くの人たちが死んでいった。

それでも指揮官……いや、貴方は最後まで抗い続けた。多くの人が世界の終焉を運命だと認めていく中、貴方は残った仲間たちと共に走り続けるのをやめようとしなかった。

『希望はある』そう信じて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦██(AD25██)年12月24日

エリア████ベース████

 

AM 11:00

ナディアとポーラから託された想いを胸に、前を向いて進み続けること数時間……長いフライトの末、指揮官はついに『約束の地』へとたどり着くことができた。

 

『識別コード確認。ようこそ主様』

 

(その声、ノア……?)

 

『はい、AQ21の着陸を許可します。こちらの誘導に従って下さい。滑走路は1番を使用』

 

基地まで残り5キロほどに迫った時、管制塔のコントロールシステムを介してコックピットのモニター上に小さな少女の姿が映り込んだ。すると滑走路上の誘導灯とプロジェクションマッピングによるガイドが一斉に光り、指揮官はそれに従う形で司令部に最も近い1番滑走路へとランディングを成功させた。機体が静止した次の瞬間、ウァサゴGのシステムが一斉にダウンし、まるで役目を果たしたかのように動かなくなってしまった。

 

今までお疲れ様……

労いの言葉を心の中で呟き、それからモニターに映る『ノア』へと視線を向ける。いつものように淡々とした様子の彼女、しかし、その表情はいつにも増して明るい色が浮かんでいた。

 

『本来であれば、主様のお迎えをするのはAICである「あの子」の役目である筈なのですが……ここでこうして私が主様のお迎えをできているのは、私も1人の人間として認められたということでしょうか?』

 

指揮官の見ている前で、電子の存在である『ノア』は、まるで人間がするかのように小さく息を吐き、まるでいつもそうやっていたかのように、その言葉を口にした。

 

 

『それでは改めまして……お帰りなさい、指揮官様!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリア████ベース████

それは指揮官が、指揮官として始まった場所……

全てはここから始まったのだ。

指揮官による調和の下で、国や民族の垣根を超えて多くの人々が集った思い出の場所。先の『星喰らい』との戦闘で放棄され、跡形すら残すことなく破壊されたはずなのだが……どういうわけかSCP-001の影響すら受けることすらなく、指揮官の記憶している通りの、そっくりそのままの状態で存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM 12:00

基地の中に入った指揮官は、1人廊下を進んだ。

途中、格納庫やリフレッシュルームを通り過ぎていたのだが、ここまでで基地の中には誰の姿も見受けられなかった。

 

久しぶりに基地へと帰ってきて、最初に会うべき人物は指揮官の中で既に決まっていた。自称世界一の天才、古代巨神の第1パイロット、O5-1、スピードスターと、何にでも1番にこだわる性格の彼女……きっと、最初に来なければ怒られてしまうことだろう。

そう思いながら、研究ラボへと足を踏み入れる。

 

「あはっ、帰ってきて早々私のところにくるなんて殊勝な心がけね。指揮官ってば、私のこと好きすぎじゃない?」

 

ラボの最奥、薄暗い電算室の中にひっそりと佇む彼女の姿があった。毛先に朱色が混じった青髪を揺らしながら、いたずらっぽい笑みを浮かべている。

1ヶ月ぶりの再会に、指揮官は胸の奥が熱くなるのを感じた。他のO5メンバーがいなくなってからも、自分のことを信じて背中を押し続けてくれた彼女……その存在が自分にとってどれだけ有り難かったことか。

 

「天才の私がこんなにも尽くしてあげるのは、後にも先にも指揮官だけなんだからね? なんたって指揮官は私の…………ううん、なんでもない。それよりも、もう行かなくちゃ」

 

軽いやり取りの後、感謝の言葉とともにそれを伝えると、彼女は非常に照れた様子で頬を赤く染め、はにかんだ笑顔を見せた。

 

「それじゃ指揮官。また明日、会いましょ!」

 

笑顔のまま手を振る彼女。

次の瞬間、指揮官が瞬きする僅かな間に彼女の姿は忽然と消え失せ、気がつけば研究ラボの中は一面の花園に変わっていた。

 

(おやすみ、セラスティア……)

 

そう告げて、指揮官はラボを後にした。

つい先ほどまでセラスティアが立っていた場所には、神秘的な光を放つ一輪の青い花が咲いていた。

 

青い薔薇

花言葉は『奇跡』『可能性』

そして……『夢かなう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 01:00

ラボから出た後、指揮官は他の仲間を探して基地の通路を彷徨い歩いていた。すると静寂に包まれた中、どこからともなく聞こえてくる話し声を耳にする。

 

「それで、お前たちもここにいるのか」

「そうだよ! でもセンパイにも見せてあげたかったなぁ……バケモノどもの魔の手から指揮官を守りきった、シャロ様のカッコいい勇姿を!」

「そうだね、本当にカッコよかったよ」

 

それは基地の食堂からだった。

外から中を覗き込むと、そこには非常に仲の良い少年少女たちの姿があった。アルト、シャロ、グルミ……それだけではない。曦夜に佐伯、龍馬、夏美、遥、瞳……同世代の子たちだけで食堂の中央を占拠し、手前にお菓子とジュースを広げ、ちょっとしたパーティーを開催していた。

 

「ん……この感覚は……ああ。来たのですね」

「え、瞳どうしたの? って、あー! 指揮官だー!」

 

瞳の視線を辿った遥が食堂の前に佇む指揮官の存在に気がつき、立ち上がって声を上げる。その声に反応するようにして、その場にいた全員の視線が指揮官へと集まる。

 

「お、やっと来たか」

「何よ? そんなところに突っ立って」

「先生ー! こっちこっちー!」

「さあ、先生もどうぞご一緒に」

 

佐伯に曦夜、そして龍馬と夏美が手を振って呼びかけてくる。邪魔しちゃ悪いかなと最初は遠くから見守っていた指揮官だったが、みんなの熱心な声に心を動かされ、やがて食堂の中心へと歩み寄った。

それから沢山のことを話した。

長い時間をかけて、心置きなく……

そのうち、1人……また1人と、指揮官が瞬きする度に仲間の姿が消えていく。そして最後の1人が消えると、食堂は色とりどりの花で溢れ返っていた。

 

(みんな、おやすみ……)

 

ライラックが食堂の中央に群生していた。

花言葉は『友情』『思い出』『大切な友達』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 03:00

次に、指揮官は執務室へと向かった。

セキュリティを解除して自室も兼ねているこの場所に足を踏み入れると、やはり記憶にある通り代わり映えのない部屋のレイアウトが広がっていた。ただ一箇所を除いて……

 

「…………すやぁ」

 

指揮官用の寝室……部屋の中央に配置されたベッドの上で、どういうわけか水色髪の少女が眠っていた。寝落ちしたのかその手には携帯ゲーム機が握られており、我が物顔でベッドを占領し、安らかな寝顔を浮かべている。

まあ、ある意味いつもの光景ではあった。

 

思えば、彼女とは本当に長い付き合いだった。

まだ基地が小さかった頃に出会い、基地を運営し少しずつ大きくしていく上で多くの苦労を共にしてきた影の立役者。その面倒くさがりな性格に辟易しつつも、基本的にハイスペックの彼女は頼れる副官として活躍し、いつしか自分にとってかけがえのない存在になっていた。

 

少女の様子に苦笑しつつ、近寄ってみる。

小さく呼びかけるも、起きる様子はない。

体が冷えてしまわないよう、あたたかい毛布を被せてあげる。

 

「ふふっ……アニキ、くすぐったいよ〜 」

 

頭を優しく撫でると、彼女の口からそんな声が漏れ出た。寝言だろうか、夢の中でも自分のことを想ってくれていると思うと、指揮官は少しだけ嬉しくなるのを感じた。

 

(おやすみ、シェロン……)

 

そう告げて、指揮官は部屋から立ち去る。

誰もいなくなった室内は花に覆われていた。

その中で、ベッドの枕元に咲き誇る、一輪の花。

 

クロッサンドラ

花言葉は『友情』『仲良し』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 05:00

どこからともなく楽しそうにはしゃぐ子どもたちの声を耳にした指揮官は、基地の滑走路に戻ってみることにした。機能停止に陥ったウァサゴG、いつのまにかその周囲は一面の花畑と化しており、その中でアイリやドリス、クルスといった年少組の子どもたちがお花遊びをしていた。その傍らにはウツボさんの姿もあり、子どもたちの様子を微笑ましげに見守っている。

また、子どもたちから少し離れたところにはハインリヒ、ミドリ、葵博士、それに五十嵐命美の姿もあり、遠くから子どもたちの様子を見守りつつ、他愛のない世間話に興じていた。

 

「久しいな、指揮官よ」

 

玉のように静かな声が、指揮官の背後に生じた。

振り返ると、そこには日ノ丸の君主と呼ぶにふさわしい装束を身につけた、小柄ながらも神秘的なオーラを放つ女性の姿があった。

 

「ここにいる魂はどれも笑顔と安らぎに満ち溢れているな。皆、指揮官の作ったこの場所が好きなのだろう。もっとも……今の我もその内の1つに過ぎないのだがな」

 

そう言って神皇様は指揮官の元へと歩み寄る。

神皇様は日ノ丸の象徴として丁重に扱われ、長らく外の世界から隔絶されていた。それを指揮官が連れ出したことで、彼女はようやく世界の広さを、そして自由を知ることが出来たのだ。

 

「指揮官よ。最後に、余の名前を呼んではくれまいか。神皇という日ノ丸の象徴としての名前ではなく、花見をした時に伝えた、余の本当の名前を……」

 

(…………はい)

 

指揮官は静かに、大切にその名を口にする。

それを聞き終えると、神皇は朗らかな笑みを浮かべた。それは神皇として日ノ丸の運命を背負う重圧と責務からようやく解放されたかのような、清々しい微笑みだった。

 

「……ありがとう、友よ」

 

感謝の言葉を最後に、神皇は姿を消した。

先ほどまで彼女がいた空間の足元には、いつのまにか一輪の花が咲いていた。

神々しい輝きを放つ純白の花……

 

(おやすみなさい……)

 

日ノ丸を象徴する、菊の花

花言葉は『高貴』『高潔』そして『高尚』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 06:00

SCP-001によって保護された最後の一日。指揮官は時間の許す限り基地内を歩き回り、失われた数多くの仲間たちと言葉を交わした。

訓練場では朧に光子、嵐、そして睦月と

酒場ではヴァネッサら喫茶店バビロンの子たちと

中庭の庭園ではイザベラにアリシア

管制塔の望楼でべサニー

休憩所には黛と臙脂

監視所ではテレサと

待合室にはトリスタやアンたちヴァルハラ勢が

格納庫にはスリーローゼスとリーゼロッテの面々

司令部にはO5-2のオスカーにベカスもいた。

ロンドン防衛線において壮絶な最期を遂げたアルファ・ブラボーチームの面々とも会った。世界の終わりが間近に迫りつつある中でも、薔薇の騎士たちとカロルは基地の隅で鍛錬を続けていた。

 

この他にも、指揮官は出会った全ての仲間たちと言葉を交わし、一人一人に感謝の言葉を……時に自らの行いを謝罪していった。皆、指揮官の言葉を信じて仲間に加わり、基地の中で寝食を共にし、そして数多くの戦場と修羅場を渡り歩き、その果てに死んでいった者たちである。

しかし、指揮官に対してそれを責める者や、無能な指揮だったと蔑む者は……ただ1人としていなかった。

 

(…………)

 

指揮官がおやすみを告げる度に、少しずつ基地の中が花々に包まれていく。斜陽した世界は間もなく夜を迎える。相変わらず雲ひとつない空、紅の増した日差しが花々を照らし、優しく吹き付けるそよ風も相まって、燃え盛る海の如く一面を真っ赤に染め上げる。

 

「おい凡人、何を考えている?」

 

(…………!)

 

指揮官がまだ花に覆われていない基地の通路を進んでいると、その背後から聞き馴染みのある声が響き渡った。思わず振り返ると、案の定、そこには彼女の姿があった。

窓から差し込む日差しが2人の体を紅く照らす。

 

「酷い顔だな。いや、言わずとも分かる……自らの指揮で多くの部下と仲間を失ってしまった。しかし、誰も責めてくれないのは何故か……? そういう顔だな」

 

(…………)

 

「ふん、全く……こっちに来い凡人」

 

(…………)

 

「来たな。よし、そこに膝をつけ」

 

言われるがまま膝をつくと、彼女はいきなり指揮官の体を掴んで引き寄せた。そのまま指揮官の顔を自らの胸に抱き、その存在をしっかりと感じ取れるよう目を閉じて優しく髪を撫で始めた。

 

「そう気にするな、お前はよくやったよ。強大な敵に立ち向かうべく色鮮やかな世界を調停し、バラバラだったそれらを1つにまとめあげた。歴史上の王や皇帝、それこそ大天帝にすら成し得なかったことを、お前は凡人の身でありながら軽々と成し遂げたのだ。そして世界の為に、ここにいる全員が生きる明日を勝ち取る為に、ずっとひとりで頑張ってきたのだ。ここにいる者たちは、皆それを分かっているのだろう……だからこそ、お前を責める者などおるまいよ」

 

(…………)

 

「よしよし、余計なことは気にしなくていいぞ? 時間はたっぷりあるからな、気を遣ってくれたマティたちに感謝しながら気が済むまでこうしているといい……」

 

しばらくの間、指揮官は彼女に包まれることを望んだ。凡人の傭兵と機械の王、身分違いも甚だしい……にも関わらず、ある時からお互いに存在を認識し、長い交流の末に理解が深まり、いつしかお互いに大きな影響をもたらし合うまでになった。

この時間が永遠に続けばいいのに……

そう思わずにはいられない

しかし、時間の流れは残酷だった。

 

「もう時間か……時の流れは早いものだな」

 

終わりの時を感じ取り、どちらからともなく体を離す。お互いに見つめ合うと、彼女の瞳には小さく涙が浮かんでいるのが見えた。彼女はそれを隠すように……今まで決して見せることのなかった優しい笑みを浮かべ、最後にこう告げる。

 

「凡人、ありがとな」

 

次の瞬間、彼女の姿が嘘のようにかき消える。

しかし、彼女の頬を伝う小さな雫は消えることなく流れ落ち、そのまま地面に咲いた一輪の花を温かく揺らした。

 

(おやすみなさい、スロカイ様……)

 

赤いゼラニウム

花言葉は『尊敬』『信頼』『真の友情』

そして……『君ありて幸福』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 11:50

スロカイを見送った後も、指揮官の役目はまだ終わりではなかった。日はとうの昔に沈み、世界が夜闇に包まれてもなお……指揮官は基地に現れる仲間を探し、まだ花の咲いていないところを訪れては、仲間たち一人一人に最後の言葉をかけ続けた。

 

基地スタッフだけではなく、数千名いた機動部隊の面々にもほとんど声をかけ終わった頃……沢山のアキレアとベロニカに囲まれながら、指揮官が窓から月の様子を眺めていると、通路の方から何か騒がしい気配が近づいてくるのを感じた。

 

「お! いたいた、やっほー指揮官!」

 

「指揮官……早く、ついてきて」

 

それはキラスターだった。

その後ろには、リンダの姿もある。

2人に手を引かれ、指揮官は滑走路へと向った。

 

 

 

 

 

新暦██(AD25██)年12月25日

AM 00:00

 

「あ、指揮官様! ようこそお越し下さいました」

 

滑走路の中央に辿り着くと、そこにはスノーの姿があった。いや、それだけでなくキラスターやリンダなど、今まで姿を見せなかった仲間たちがその場に集結していた。その中には、ナディアとポーラの姿もある。

 

まだ花に覆われていない滑走路。

航空機を基地へと着陸させるための誘導灯が光り、さらにガイド用のプロジェクションマッピングが作動している。

 

「ねえねえ指揮官、今日って何日か分かる?」

 

(今日は、確か24日……いや、もう25日?)

 

「うん、合ってる。でも、ただの25日じゃない」

 

「はい! それでは……御二方、お願いします!」

 

スノーが暗闇の中に佇む誰かへと声をかけた。

その瞬間、何かの魔法が発動したかのように誘導灯とプロジェクションマッピングの光が一箇所に集中し、指揮官たちの目の前に巨大な光の塊を作り出した。

 

「フフ……驚いたか? 指揮官」

 

「我らも、協力した」

 

暗闇の中から鴉と煙が姿を現わす。

基地のスタッフたちと北境の2人が協力して作り上げた光の塊……それは、色とりどりのイルミネーションが施された大きなツリーだった。

 

(そうか……今日は、クリスマス……)

 

それを見て、指揮官は日付を跨いだ今日がクリスマス当日だったことに気づいた。それと同時に、忘れかけていたクリスマスの記憶が鮮明に蘇る。今年はとてもそれどころではなく、絶望的な日々の中で忘れかけていたが……こうして皆でクリスマスを祝うことができたことに、指揮官は喜びを隠しきれなかった。

 

「そうか、ならば良かった」

 

「さあ、我らと祝おう……今日この日を」

 

空には神秘的な光を放つ三日月に満天の星々

その下で、指揮官は仲間たちと色々なことを語り合い、後悔のないよう最後のひと時を過ごした。

 

やがて滑走路全体を花々が覆い尽くした。

その中で一際目立つ、ルコウソウ、コスモス、スノーフレーク、コムラサキ、クロユリ……色とりどりの花々に囲まれながら、指揮官は最後の言葉を告げる。

 

(おやすみ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM 06:00

東の空が徐々に明るくなっている。

まもなく夜が明けるのだろう。

それは同時にSCP-001という、1日限りの魔法が解けることを意味していた。

 

結局、彼は『約束の地』に現れなかった。

無理もない、あらゆるものがぐちゃぐちゃに崩壊した世界の中で、闇の中に取り込まれた最後の希望を見つけることは、砂漠の中でひと粒の砂金を見つけるようなものだ。

 

基地はすっかり花々に覆い尽くされている。

乗ってきたウァサゴGも、花の山になっている。

指揮官は時間を確認した。

後1時間もすれば全てが終わる。とてもそうは見えないが……どちらにしろ、今更ジタバタしても仕方がない。指揮官は花畑の上に腰を下ろし、ジッとその時を待った。

 

温かな日差しが指揮官の体を優しく包み込む。

穏やかな風が髪を揺らし、風の音だけが聞こえる

時間の流れに身を任せ、指揮官は目を閉じた。

そして、心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

『水の星におやすみを』

 

 

 

 

 

こうして、世界は終わりを迎えた。




あるいはもう1つの道があったのか?

【引用】
Lily's Proposal
by LilyFlower
http://www.scp-wiki.net/lily-s-proposal
http://ja.scp-wiki.net/lily-s-proposal

【参考】
Tale ‐ たんぽぽが咲く頃に
執筆者:ykamikura
http://ja.scp-wiki.net/ykamikura-6

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