【メガテン三次】転生したら、サンカクヘッドだった件 作:白鮭
山を下り車を走らせ30分もすると車が多くなり、国道に合流してショッピングモールに入る。
残念ながらロデムはデカすぎて中を連れ歩く事なんて無理だし、桃香も覚醒してない人間には見えないからCOMPに戻ってもらい、だだっ広いショッピングモールの中を歩く。
目的地は不便な場所に佇む、一見して客の入っていなさそうなリサイクルショップで名前は宝物屋。
ここが密かににオカルト商品の売買を行っているのを、わんぱくクリッパー*1を使って見つけられたのは幸運だった。
「こんにちは」
「いらっしゃい。しかし、今日は随分と早かったな。何かあったか?」
「悪魔の湧きもLvも下がったから、飽きて帰って来たんですよ。
それで聞きたいんですが、他に黙って入って文句言われなくて、Lvがある程度高い異界ってあります?」
「そうだな……少し待ってくれ。まずは仕事を片付けるから」
そう言って仕事でもしていたのかPCの前に座っていた30代半ばに見える、眼鏡を掛けた線の細い男性がカウンター前に移動して来たので、俺もその人の前に座った後でCOMP経由でマッカを100枚ほど出すと、それを確認して後ろの部屋に下がっていった。
聞いた限りだと後ろの扉は事務室兼保管庫につながっていて、人のサイズ程もある大きな金庫があるらしい。何でも現金や換金後のアイテム、それと高価な売り物などを収めると、どうしてもこのサイズの金庫が必要になると言っていた。
「マッカ100枚で10万*2だな。確認よろしく」
「……確かに」
目の前に出されたお金をを確認している最中に店長は考えを纏めたようで、確認し終えて財布に入れてから話し始めた。
「さっきの話なんだが、現実問題として異界なんて管理しきれてないのが大半だ。
だから入った所で文句を言える奴なんていない、ただし中で何があっても自己責任だけどな。それで、今のレベルは幾つなんだ?」
「Lv20。だから異界のレベル的には、13~15の辺りがあれば……どうしたんです?」
「そんなに強いのか!? そんな恰好をしてる割には、毎回とんでもない量のマッカやドロップアイテムを持ってくるから、おかしいとは思っていたが……」
「そんな恰好って。悪魔退治するのに、し〇むらのパーカーとボトムとトレッキング・ブーツじゃそう見えないのも当然かもしれないですけど、別に今通ってる異界だったら大丈夫ですよ。一人でやってる訳じゃないですから」
頭痛を堪えるように額を手で押さえて、呻くように言う店長を見ながらLv20でここまで驚くとか、いったい日本のデビルバスター関連はどうなっているのかと内心慄く。
メシア教にいた頃に、日本の霊的防衛組織は物理的に消滅させたとは聞いていたが、ここまで状況が悪化しているとは思わなかった。
「クズノハとかヤタガラスとかって残ってます?」
「そんなのとっくの昔にGHQに解体されたよ。霊的防衛組織として残っているのは築地・根願寺だが……そうか、知らないのか」
宇宙猫みたいなアホ面をさらしてるのを見て悟ってくれたらしいが、根願寺と言われてすぐには出てこない。確かⅣに出て来た組織だったっけ。
霊的防衛組織と言えば、個人的にはクズノハとヤタガラスなのだが、無くなったのは地味にショックだった。
「その辺の知識は補っておかないと後で困るか。店長、話面白かった。また来ます」
「待ってくれ。仕事を頼みたい」
「仕事?」
「レベルがそこまで高いとは思わなかったからな。異界潰しが出来るなら、ぜひ頼みたい。報酬は最低でも500万。そっちの要望があれば出来るだけ叶える」
「500万って。知り合って時間も経ってないのに、よくそんな仕事を頼む気になりますね」
「この店に来てから約二ヶ月、毎日のように異界に潜って生き残ってるのが何よりの信用だ。お願いだ、頼む」
「良いですよ。受けます」
そう言って立ち上がって頭を下げる店長の姿を見て、依頼を承諾する。
知り合って時間も経っていないのにこう言う仕事の話が出たというのは、現状が相当ヤバいのだと思うが、信用を稼いで今後を安定させたい俺としてはある意味絶好のチャンスだった。
「良かった。こっちも用意があるから、二日後の十時に来てくれ。依頼人を紹介する」
「店長が依頼人じゃないのに、勝手に報酬の額とか決めて大丈夫なんですか?」
「この辺の霊能組織のボスからの依頼で、受けられそうな人をだいぶ前から探してたからな。困ってたから本当に助かる」
「受けた以上はキッチリやります。じゃあ、二日後の十時に」
「ああ、よろしくな」
店から出る前に店長を見ると、スマホを取り出していた所だったのでそのまま店を出る。
今までは自分の事で精一杯でとにかくレベルを上げるのに集中していたが、メガテンの知識と現実にかなりのズレがあるのを今更ながらに確認出来たのをマズイと思いながら移動していると、装飾過多な緑色のワンピースを着た背が低くて悲しいくらいに凹凸が無い代わりに、ウエーブの効いた濃いブラウンの髪と翡翠色の瞳を持った美少女に声を掛けられた。
「メガテンの悪魔と言えば何を思いつく?」
「ケルベロス」
「私は何と言ってもピクシーだな。初めまして、私の名は烏丸エミーリエ。
転生者で一応、名門霊能者の家系生まれだ。――それで、君の名前は?」
見た目とは裏腹なしっかりとした声で自己紹介した後で、絶対に逃がさないという意志の籠った目で見詰められる。
その目を見返しながら、微かに焦りのような感情が声に乗っているのに内心首をかしげる。何故だか知らないが、随分と危ない事をしているなと言うのが正直な感想だった。
「中島
「……ああ、よろしく。私の事はエミで良い」
「俺の方は好きに呼んでくれていいよ。慣れてないしな」
「そうか、では
まあ、分かってる奴からすれば偽名だってのは分かるか。
釘を刺す意味でもあるのか俺の事を
「私を覚醒させてほしい」
滅茶苦茶ロクでもない話だった。
「霊能の名門なんだろ? 覚醒くらい自分の家でやれよ。
俺が知ってるのって拷問って言う名の修行か、強大な悪魔に唾付けられた上での殺し合いだぞ。後おせっかいで言うけど、覚醒して愚者になった所でそのままだと餌でしかないけどな」
「……愚者? 随分と詳しいんだな」
「逆に何でそんなに知らないんだよ、霊能の専門家なんだろ?」
「私は専門家がGHQに狩り尽くされて、才能の無い分家が本家を名乗り出した戦後世代。
烏丸の家はそれを補う為に同盟国のドイツの家と手を結んだらしいんだが、オカルト関係はチョビ髭の伍長殿に荒らし尽くされてロクなのが残ってなかったらしい。
それでも私の家は上澄みに近いって話だ。――私にはその才能が無いようだが」
混んでいる中で席を見つけてフードコートのど真ん中で、チェーン店のハンバーガー屋で買った遅めの昼飯を食べながら向かいに座ったエミと話しているが、本人は俺が奢ったメロンソーダーを飲みながら難しい顔をしていた。
ゴールデンウイーク中の午後二時に周りの人間と比べて、浮くくらいに高価な服を身に着けている日本人に見えない美少女と服装は普通の代わりに目立つ色彩の俺とが座って話しているが、これだけ目立つと他人の視線が飛んでくる代わりに、それ以上何かしてくる気配は皆無に等しい。
これが人気の少ないソファーでヒソヒソとやると、最悪警察が介入してくる可能性があるので仕方なくやってる事だが、後ろ暗い所がある俺は心の中で泣いていた。
「才能無いならお嬢様として生きればいい。生まれガチャで大当たりを引いて羨ましいよ」
「そう言う訳にもいかなくてな、生家に少し問題がある。
結婚しろと煩い男に付きまとわれてるが、いくら霊能の才能が有るとは言え、流石にあの男の嫁は嫌だ」
「……訳ありなのは分かったけど、最優先は兎に角霊能か?」
「そうだ。それに現代と考えるからおかしくなるが、この世界は裏ではガチガチの霊能力を背景にした貴族主義的な考え方が根強いぞ。
異界化した土地の管理を武力で鎮圧して守っているから、実質的には武士に近い」
「だから宝物屋を見張って本物が引っかかるのを待ってたのか? か弱い美少女がフラフラして、誘拐されても知らんぞ」
客観的な姿を見て呆れた俺に対して、エミは少し詰まってから強がるように言った。
「お局様のハイミスから、せっかく美少女に生まれ変わったんだ。好きなように生きてみたいじゃないか」
「……――ああ、その辺は分かるよ。
ニートのゲーオタなんて終わった人間から、せっかくやり直せるチャンスを与えられたんだ。生まれガチャが失敗した程度で諦めるのは悔しいよな。
いいよ、出来るだけの事はやってやるよ」
「ありがとう、よろしく頼む」
フードコートの真ん中に居座った、見た目だけなら二十歳前後に見えるの優男のアルビノと背の低い日本人に見えない美少女は、二人揃って顔に皮肉気な笑みを浮かべながら拳を突き合わせる。
五月初旬のゴールデンウイーク、こうして出会った烏丸エミーリエとは長い付き合いになるのだが、この時の俺はそんな風になるとは欠片も思っていなかった。