そらをとぶパトロール   作:メタモン

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もうすでに力尽きそう


第チリ話

ピカチュウは不思議な生き物だ。

どこでもほぼ必ず存在するし、ピチューとライチュウに挟まれ、人気の出にくいと言われる中間進化ポケモンであるにも関わらず絶大な知名度を誇る。

 

人気の秘訣はなんなんだろうと一時期本気で考えたことがあるが、結局のところ万人受けするかわいさという身も蓋もない結論しか出なかった。

 

だがグレープアカデミーの言語学の先生…セイジさんも感情表現を伝えるために授業に協力してもらっているらしい。

 

もしやその辺の器用さが秘訣…?

 

そういえばアローラにいたピカチュウ器用に「なみのり」でサーフィンをしていたな…。

 

進化先のアローラライチュウも尻尾がサーフボードのようになっていた。しかしなんでライチュウはリージョンフォームで大きく姿が変わったというのにピカチュウは何の変化もないのだろう?

 

その辺もやはり器用だからだろうか。

 

「でもなァー…」

 

俺は自室のベッドからリビングで必死にジェンガをしているピカチュウたちを眺める。

 

片方は先程話した「なみのり」のできる♀のピカチュウ。*1もう片方は♂のピカチュウでなんと「そらをとぶ」で空中に浮かんでいる。*2

 

2匹慎重に慎重に木を抜こうとして……あっ崩した。

 

「「チャァ〜!?」」

 

「不器用すぎる…」

 

どちらも一番最初の木を無事に抜くことすらできていない。どうやら器用さは関係ないみたいだな…何回もやり直してるし。

しかしかわいいなこやつら。

 

「———ハッ」

 

「チャァ?」

「ピッ?」

 

そうか…ピカチュウが人気なのはやはり持ち前の可愛さもあるが…!

何度でも根気よく挑戦するチャレンジ精神にあったのか…!

 

「すごいなお前ら〜ッ!」

 

「「ピィッ?」」

 

アッ何もわかってないけど撫でられるの気持ちいぃ〜って顔も最高!最高かよ!最高だな!自慢してェ〜!!

 

あ〜でも時間だ!

 

「よし!スイチュウ!チュウチュウ!パトロール行くぞ!」

 

「ピッ!」

「ジュァ!」

 

2匹ともやる気だな!

よし!行くぞォ!

 

 

○○○

 

 

パルデアパトロール。

ポケモンリーグが主体となって作り上げた体制。

 

パルデアの大穴に近づく不埒な輩がいないか。雪山で遭難して動けない人がいないか。ケンタロスに吹き飛ばされて大怪我した人はいないか。

そういった人たちを発見してその場で応急処置、緊急そらをとぶタクシーの手配をするのが主な業務内容である。あとは定期的な報告。

 

「ン〜!異常はなさそォ〜だな!」

 

「ピッカァ!」

 

俺の場合はチュウチュウ*3の体にぶら下がって地上を見て回る仕事だな。

 

他にも地上をライドポケモンで見回る係もあるが…俺は目がいいからパトロールするならこれが一番効率がいい。実際1年と数ヶ月前にこの方法で遭難した宝探し中のグレープアカデミー生徒を保護したことがあるしな!

 

いろんな人からビックリされるし一回はやめとけって言われるが、可能(できる)ならやった方がいいだろう。

 

俺は軽いしちっこいからチュウチュウの負担も少ないしな!

 

…おっと、そろそろ連絡の時間だ。

 

「Hay!ロトム!チリさんにかけてくれ!あ、ちゃんと業務用の方にな!」

 

《わかったロトー!》

 

懐に忍んでいたスマホロトムが勢いよく飛び出し通信が始まった。

 

『はい。こちらポケモンリーグ』

 

おお。わずか1コールで繋がった。

さすがチリさん。仕事熱心だぜ。

 

「こちらNo.212のオウレン!現在地はハッコウシティ付近やで!特に異常ありまへん!」

 

オウレンというのは俺の名前で、ナンバーは背番号みたいなものだ。就職した時に決めたものである。

 

『…………定時連絡ご苦労様です。異常なし了解』

 

「チリさん…」

 

俺チリさんの真似スルーされて悲しいよ…。やっぱ仕事モードの時のチリさんは仕事熱心だなあ。普段とのギャップすごいぜ。

 

『…ツッコミを期待するならプライベートの方にお願いします』

 

「チリさん…!」

 

やっぱいい人だよチリさん!仕事中にふざけた俺をフォローしてくれるなんて…!

 

『こほん。では失礼』

 

《切れたロトー》

 

「おう。お疲れさんロトム。チュウチュウもそろそろ休むか?」

 

「ピッ」

 

定時連絡も終わったし、ずっと空を飛んでいてピカチュウも疲れたことだろう。太陽の位置的にもそろそろお昼の時間。

 

腰に付けたモンスターボールも腹減ったと訴える様に揺れている。スイチュウ*4はご飯が大好きだからな!きっと楽しみで仕方ないんだろう。ちょっと奮発していいもの食べてもいいかもしれない。

 

「よーし着陸するぞ!ごはんにするぞ!目標はポケモンセンター前!」

 

「チャァ!」

 

《ケテー!》

 

はらへったー!の合唱を大空に響かせながら俺たちは地上へと降りていったのだった。

 

 

 

○○○○○

 

 

 

時計の鐘が12時を告げる。

一般的にお昼休憩とされる時間。

 

「んがぁ〜!なんで仕事用にかけてくるんや!」

 

ポケモンリーグ面接室兼四天王じめんタイプ使いの執務室にて。チリは荒れていた。

 

「プライベート用のスマホロトムにかければええって前に言ったやん!まじめか!飯誘えんわ!!」

 

頭を掻きむしりジタバタと足を走らせる。

ひとしきり暴れた彼女は机の上に静置された仕事用のスマホをにらみつける。

 

仕事にプライベートは持ち込まない信条を貫くために購入したスマホ。その判断は間違っていないと信じているが、この件に関しては過去の自分を呪いたい。

 

「くっそ〜!カンペキに切り替えられるチリちゃんすごすぎやろ…!」

 

チリは優秀だった。

スイッチが入ると一切普段の口調が出なくなり、無駄な話題を省くようになる。それを無意識レベルで行える彼女はまさしく天才だろう。

 

…しかし、逆を言えば仕事関係の話題で彼女が砕けることはできないということになる。

 

「なんでや!なんであんなカワイイボケにツッコミできないんや!」

 

彼女はノリの鬼。生来の気質でいわゆるボケとツッコミをこよなく愛する人間。

 

そんな彼女があらかさまなボケに対してツッコミできないというのは非常に耐え難いことなのだろう…。

 

「チリちゃんの真似するとか…もうチリちゃんのこと大好きすぎるやろ!

 

ちょっと方向性違ったかな?

 

「いじらしいわ〜…!本人を前にまねっこってもう好きな人にしかやらんよなぁ!?めちゃくちゃかわええやん!!」

 

広角が上がり頬は赤く呼吸は荒く身を縮こませ衝動を抑えるかのようにプルプル震える。やがて抑えきれなくなったのかチリは誰も見ていないことをいいことに床をゴロゴロ転がり暴走していた。*5

 

「あーはよでっかくなってくれんかな!」

 

ちょうど部屋の中央、普段なら面接に来た学生が座る場所にチリは大の字に寝転がる(だいもんじにネッコアラ)

 

「流石に9歳くらいの子とは付き合えんし…成長が楽しみすぎるで!」

 

ちょっと盲目すぎやしないだろうか。

好かれ続ける自信満々である。

 

「……あと一年…あと一年や…そうすれば世間様もそこまで騒がん…!」

 

チリは四天王としてふさわしい振る舞いと清いお付き合いを求められている。未成年淫行など絶対に避けなければいけない事柄であろう。

 

しかし基本的にポケモンを持つことが許可されると言われる歳…10歳になると旅が可能になる点から大人扱いとなる風潮がある。

 

「……腹 減ったな…」

 

暫く天井を眺めていたチリは一言つぶやくと、すくっと立ち上がりデスクへと戻り、引き出しを開けた。

 

そこには焼きおにぎりが二つ。

出勤前に購入したものである。

 

すっかり冷めてしまったが、それでも変わらぬ美味さを噛み締めつつ『ポケtube』をパソコンで開いた。

 

面接では最近話題になったことを聞くこともあるため情報収集は欠かせない。特にポケtubeは発信の最先端。隙間時間があれば覗く価値がある。

 

「お、ナンジャモが配信しとる」

 

無言で画面をスクロールしているとジムリーダー兼配信者であるナンジャモの動画が表示された。

ポケtubeの中でも上位に入る配信者である彼女の動画はチリにとっても学ぶことは多い。

 

チリは意気揚々と動画をタップし——おにぎりを取り落とした。

 

「なんで…?なんでや!?どういう関係!?」

 

狼狽するチリの視線の先には…

 

『——というわけで。本日のドンナモンジャTVはここまでー!急な配信に来てくれた皆の者!ありがとう!さらばだ〜!チャンネル登録高評価よっろしくねぇ〜!』

 

『ご視聴感謝!!』

 

ナンジャモの配信に参加するオウレンの姿があった。

 

 

*1
ニックネームは「スイチュウ」にした。かわいいだろ?

*2
ニックネームは「チュウチュウ」にした。いい感じだろ?

*3
そらをとぶをおぼえた♂のピカチュウ

*4
なみのりを覚えた♀のピカチュウ

*5
▼チリちゃんは 監視カメラの存在を すっかりわすれた!

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