そらをとぶパトロール 作:メタモン
良いお年を
○○○
「いやーうめェー!景色も合わさってさらにうめェ!」
「ピッカピカ」
「チャァ〜」
《美味しいロトー!》
ハッコウシティの露天で焼きおにぎりとピンチョ・モルノなる肉串を購入した俺たちは海辺に来ていた。
その場でかぶりついてもよかったが、せっかく海辺だ。海を見ながら食べたい。思い立ったが吉日で行動に移してみるものだな!めちゃくちゃ楽しいぞ!
直感というのは侮れないものである。サンドイッチを用いない変則的なピクニックだが、いい景色を見ながら食う美味い飯が楽しくないわけがなかった。
まあサンドイッチ用の材料はもついでに買ったから後でまたやろう。
何故か焼きおにぎりについてきたレモンを肉に振りかけ舌鼓。こってりパワーがさっぱりパワーになって別ベクトルで美味い。
空を見上げる…きれいな青空!
海を眺める…さざなみが心地よい!
耳を澄ませる…「おはこんハロチャオー!」
…おっと?
誰かいたな今。
「あなたの目玉をエレキネット!何者なんじゃ?ナンジャモでーす!」
声のした方を見てみると頭にピンクと青のコイルを乗っけ、明らかにサイズの合っていないダボダボな黄色いコートを着た女性がスマホロトムに向かってポーズを決めていた。
「ナンジャモさんか」
俺たちがピクニックしているのはハッコウシティ付近の海辺、その隅っこにあたる場所なのだが、最初、彼女の姿は見当たらなかった。
ということは反対側から移動してきた?
「ご飯中にわるい。Heyロトム。ナンジャモ 配信中で検索」
《検索中…ヒットしたロトー!『突発耐久配信!砂浜でファンと遭遇するまで踊ってみた!』現在1時間配信されてるロト》
「根性あるな!?」
改めてナンジャモさんを遠目ながら見てみると、確かにかなりフラフラしながら踊っているように感じる…。砂場であしを取られてるだけかもしれないが。
《コメント欄を一部抜粋するロトー!》
『ナンジャモちゃん無理しないで』
『《エレキン¥ 2000》本当にやすんでよ』
アウト!
レスキュー開始!
「みんなわるい。ちょっと食べててくれ……ナンジャモさーん!」
自分のバックからおいしい水を持ち出してナンジャモの元へと駆け寄る。
「……あっ!オウレンくん!おっ久しぶり〜!」
「おっ久しぶりです〜!…じゃなくて水分補給ですよ!おいしいお水をどうぞ!」
「おぉ…気が利くね〜ありがとー!」
おいしいみずを受け取ったナンジャモさんはキャップを外すや否やゴキュゴキュと音が聞こえそうな勢いで飲み始めた。
…いや、これ聞こえてるな!めちゃくちゃうまそう。
「ぷはー!」
あっという間に飲み干してしまった。水分を採ったことで心なしか体調を持ち直したのか震えは少なくなっている。ひとまず窮地は脱したようだな!けど早く動画閉じて休んだ方がいい。
「もー踊りすぎですよ!脱水寸前じゃあないですかー!」
「いやーごめんね。ボクもここまでかかるとは思わなかってさ?リスナーのみんなも心配かけてごめんね!」
「ちなみにハッコウシティでしたよ!」
「気になっちゃう〜?なら教えちゃおう!オウレンくんとの関係は…」
話が広がろうとしている!
ちょっと無理矢理だが止めないと。
「次の配信にしましょうナンジャモさん!今日は休みましょ?体調整えてほしいです!」
「——というわけで。本日のドンナモンジャTVはここまでー!急な配信に来てくれた皆の者!ありがとう!さらばだ〜!チャンネル登録高評価よっろしくねぇ〜!」
「ご視聴感謝!!……………あと、ナンジャモさんは疲れてるから現場に来ちゃダメですよ!」
ナンジャモさんがスマホロトムに向かって手を振っていたのでついでに俺も振っておく。
さらばだ〜。
ナンジャモさんの配信画面がエンディング画面へ移行してカメラモードがオフになった。
《配信終了したロトー》
……はぁ〜緊張した……!
大きく息を吐き出し空気を入れ替える。
「や、ほんとありがとねオウレン…」
「いえいえ!」
そんな俺に先ほどのテンションは何処かに飛ばしたナンジャモさんが声をかけてきた。ずっと笑顔だった顔も思い切り疲労の様相になっている。どんよりといったところか。
「歩くのも辛いですか?」
「ん、いや。だいじょぶ」
歯切れが悪い。
多分喋るのがきついのだろう。
それでも配信中は自分のキャラクターを維持し続けたのだから凄まじいぜ。プロだな。
「よかったらマネージャーさんに連絡して迎えに来てもらいま……あー…」
ナンジャモさんほどの知名度の人の自宅がバレれば凸してくる輩は必ず出てくる。
そういう厄介な奴らは「さいみんじゅつ」や「あくび」「ねむりごな」など眠り状態にする技を覚えさせたポケモンで誘拐を目論む事例が多数だ。ポケモンの風評被害に繋がるからマジでやめてほしい。
それを防ぐためにマネージャーさんが送り迎えするというのはよくある話らしい。
そして万が一に備えて特性が
まあそれはともかく。
このままバイバイってのも味気ない。それに久しぶりにあったのだからもう少し一緒にいたい。
それにこの状態で仕事なんてさせられない。
「ナンジャモさんが良ければピクニックしません?」
「え…でもジムに戻らなきゃ…」
「多少遅れても大丈夫ですよ!なんたって今は体調不良なんですし、少しくらい休んだってバチはあたりません!」
「あー…そうかも?」
「そうですよ!」
「…なら、お邪魔しようかな」
ひゃっほー!こいつはラッキーだ!
ナンジャモさんにピカチュウを見てもらえる!
…でも流石に肉串は重たいかな。たまにはヘルシーにサンドウィッチでも作ってみようか!いや甘いのがいいのかな。そもそも喉乾くしパン自体やめたほうがいいか?…まあその辺はリクエストにお応えするとして。
「それじゃあ行きましょう…まあ目と鼻の先ですけどね!」
○○○○○
電気ジムリーダー兼人気ポケtuberナンジャモは安堵していた。
一つは軽い気持ちで始め、地獄と化した企画が無事終わった事に。もう一つは企画を終わらせてくれた人物が自分の素を出せる
「ナンジャモさん食欲はありますー?何か食べたいものとか」
「…あー。あまいものがいいな」
「パンはいけます?」
「だいじょぶ」
「よォーし了解!まかせてください!」
「まっ…かせた」
彼女の友人…ピカチュウを2匹連れた少年、オウレンはピクニックテーブルに向き合いバックからサンドイッチ用のパンと具材、ペットボトルを取り出している。
ナンジャモはそれを寝転がりながらぼんやりと眺めていた。
(あ"〜…気を張らないでいいのさいこー…)
配信業が苦というわけではない。ジムリーダーが嫌というわけでもない。
ただ、人としてオンとオフがあるというだけ。
しかし彼女は有名になりすぎた。
周囲に人がいないことは無く。あらゆる場面で視線に晒され、自分を求められる。それは常に仕事をしていろと言われているのと同義であった。趣味を仕事にしているとは言っても限度はある。
そのため今のような友人と2人きり(ポケモンはいるが)の状況は奇跡に等しかった。
(ボクのファン、我が強い割にダメって言われたら素直に従うんだよねー)
弱みを見せられない自分《ナンジャモ》では言いにくいことをハッキリ言ってくれたことに感謝の念が募る。
(ありがたいなぁ)
「あっこらっ。まだだチュウチュウ!全員分ちゃんと作るからまってろって!つまみ食い禁止!スイチュウも!」
「「ピー…」」
(名付けのセンスは正直微妙だけど)
クスリと笑みが溢れる。
年齢は聞いたことがないためわからないが、年相応の賑やかさにナンジャモは安心感を覚えた。
「ナンジャモさんお待たせしましたー!オウレンのオリジナルサンドでーす!」
「おお…あきらかにあまそう…」
「ホイップクリームとベリージャムを両面に満遍なくたっぷりと塗った上でいちご・パイン・りんご・キウイを挟みましたからね。おいしいみずもまだあるんでよかったらどうぞ」
「ありがとう。……いただきます」
「めしあがれ」
「ピィッ!」
「ピャァ!」
《ケテー!》
「おァー!?三人揃ってたいあたりはやめろォー!?」
「うはははっ」
お腹を空かせたピカチュウたちに転がされるオウレンを眺めながらサンドイッチをパクリ。
いちごとりんごが口の中で酸味と甘みを弾けさせ、ホイップクリームとベリージャムが甘く包み込んでくれる。ナンジャモの要望通りかなり甘い。
2口目。今度はパインとキウイだ。今度は酸味が強く、クリームでも包みきれないが、それが逆にアクセントとなり、
「うんま」
「あざーす!」
「わあ!?」
「え?」
「もー」
「あぁ…すみません」
ナンジャモの隣にはいつのまにかサンドイッチを片手に持つオウレンが座っていた。視線をずらせば少年のポケモンたちが仲良くパンを齧っている。
(今更だけど感嘆の一言聞かれるのはちょっとはずいぃ……)
気がつかなかったのはオウレンが気配を消すのが得意なのか、ナンジャモがサンドイッチに夢中になっていたからなのか。
「………」
「…………」
ザザーン、と波の音が沈黙を優しく撫でる。
ここまで静かなお昼を過ごしたのはいつぶりだろうかと彼女は思案する。
生配信だけでなく動画編集をする彼女はとても多忙だった。自分の撮影した動画に効果音や字幕をつけ、ポケッター*1でツイートを流し、ジムリーダーとしてハッコウシティのイベントに駆けつける。
(……やば。ボクってばはたらきすぎ…?)
時間を詰めに詰め仕事をしていたため考える暇もなかったが、こうしてしっかり休むと気づく。
家に帰ってもやることといえば風呂に浸かって晩酌して寝る…最近はここにも配信が入り込んでいる。
(いやでも…ボクの思い込みかもしれないし…あ。オウレンに聞けばいいんだ)
「ね、ねえ。オウレン」
「なんでしょう!」
「もしかして。もしかしてだよ…ボクって休んだ方がいいのかな」
「え、その辺はマネージャーさんが管理してるんじゃ」
「いないんだ。ボク」
「え!?」
「なんでも一人でできちゃったから、雇ってない」
「………!?」
(………?そんなおかしなことなのかな)
絶句するオウレン。首を傾げるナンジャモ。
彼女は天才かつ努力家であり、自らの魅力でファンを作ってきた人物。ワンマンでなんとかなっていたため必要であると感じたことがなかった。
「やっ…といましょう!雇いましょうよマネージャー!」
「わあ!?」
冷や汗を額に浮かべ詰め寄るオウレン。
身長差からナンジャモを見上げる形で訴える。
「いくら人材不足と言ってもポケモンリーグに頼めば派遣してくれますよ!」
「でっ、でも今のままでもボクやってこれたよ」
「さっきみたいな無茶しておいて!?」
「うっ…」
「ピカピカ」
「チャア〜」
「ピカチュウたちも雇えと言っています」
「いつのまに…」
口周りをクリームとパンのカスで汚したピカチュウ達がオウレンの両隣で頷く。オウレンはピカチュウ達の口元を拭いながら言葉を紡いだ。
「働きすぎかも?って疑問が自分の中で出た時って大抵その通りだと思うんですよ。
でも一人だとナンジャモさんみたいに気付けないかスルーしてそのまま働き続けて、最悪過労死なんて最悪なことになるんです。
チビが偉そうなこと言うようですけど、俺はナンジャモさんには死んでほしくないから。
だから雇いましょう!ダメなら1ヶ月で絶対に休む日を設定しましょう!」
「わ、わかった。わかったから落ち着いて…!?」
「あっ、すみません…」
ナンジャモは驚愕した。
自分より10以上も年下の少年がここまでしっかりとした意見を持っていたことに。
友人としてそれなりに付き合いがあったがここまで熱くなった姿は初めて目にした。
だからこそ響いたのだろう。
「うん…決めた。雇うよ、マネージャー」
「本当!?よかったァ〜!」
ナンジャモはスクッと立ち上がりオウレンを見つめニッコリと笑った。
「じゃあ早速指名させてもらおうかなあ」
「え、随分早いですね。もしかして前から決めてたとか…?」
だとしたら俺啖呵切った意味あんまなかったなーと頭をかくオウレン。
「いやあ。ボクは全く考えたことなかったよ!新しい視点をくれて感謝してる!だからこそ!」
「だからこそ?」
少年は首を傾げ、ピカチュウ達は察し肩をすくめ、少年のスマホロトムは無断でムービーを撮り出し、それを見たナンジャモは袖を捲り、オウレンを指差し、高らかに宣言した。
「オウレン!君をこのボク、エレキトリカル★ストリーマーナンジャモのマネージャーに任命する!!」
「………はァ!?」
……ちょっと響きすぎたかもしれない。