サイトウちゃんやディアンシー(ディアと名付けた)との約束の為に、俺はポケモンバトルとガラる空手の修行に力を入れることにした。幸い、強くなる環境は整っている。
ラテラルジム、ルミナスメイズの森、サイトウちゃんの家の道場、その全てが俺の修行の場だ。
特にラテラルジムとルミナスメイズの森では、ジムリーダーのヤシさんに森のヌシのオーロットという頼もしい先達から教えを受けることが出来る。だが、それだけではダメだ。
サイトウちゃんは若くしてジムリーダーになれる天才だし、ディアを狙う人間は世界中に居る。
世界最強・・・とまではいかとも、世界で戦えるだけの唯一無二の強みが必要だ。
そういう訳で、最近研究しているのがポケモンたちを内側か強くする特別な料理だ
特別な料理とはいっても、やることは単純。栄養計算とトレーニングデータを比べて改良案を模索し、改良・試作・実食からのトレーニング、データを取ってまた比較と考察の繰り返しだ。
まだまだ理想のレシピにはほど遠い、もっともっとデータを取って研究を重ねなければならない。
特別な料理の研究には、修行相手となるジムや森や道場のポケモンたちも協力してくれている。
色んなタイプで様々な種族のポケモンの膨大なデータを取れるので非常に助かるのだが、中には俺をコックだと思っているのか、味に色々と注文を付ける子も居る。森に住む一匹のテブリムだ。
メインが身体作りとはいえ、料理なので味には拘れるだけ拘るつもりであるが、気に入った味じゃ無いからと“ぶんまわす”のは止めて欲しい。上手くガード出来ても手が痺れるのだ。
一方、ラテラルジムや道場に所属している人里のポケモンは好き嫌いをしない
より正確には、好き嫌いがあったとしても選手としての矜持で食べてくれるといった方が正しい。
ポケモンバトルという戦いに挑む一匹の戦士として、鍛錬の一環として食べてくれている。
そしてそれは裏を返せば、俺がポケモンたちに信頼に足るスタッフと認められたということだ。
もう、昔のように俺を下に見て舐めて態度をとる子は居ない。ポケモンたちだけでは無く、ジムリーダー・ヤシさんやサイトウちゃんの親父さんを初めとした人間のトレーナーやスタッフたちも、多少は俺のことを認めてくれているらしい。でなければ、特別な料理の研究に大切なポケモンたちを貸してくれないだろう。ブリーダー資格はまだ取れていないのだがな。
サイトウちゃんたちの親父さんが妙なこと頼んできたのも、信頼してくれているからだろう。
良くも悪くも、サイトウちゃんはガラル空手とポケモンバトルに夢中な子だ。
「ヘレくん、サイトウをデートに誘ってくれないか?」
だからだろか?サイトウちゃんの親父さんが俺に奇妙な頼みをしたのは。
「サイトウちゃんは、ちゃんと女の子をしていますよ。隠れスイーツファンですし。」
「・・・分かるか?」
「でなければ、父親が・・・貴方が娘に男を宛がおうなどと思わないでだろう。」
「そうだな。・・・サイトウのことは目に入れても痛くない。だが、それ故に心配なのだ。」
「家のことで随分と苦労をかけた。だから余計に、サイトウには自分らしく生きて欲しい。」
「それは俺ではなくサイトウ自身に言うべきだろう?」
「・・・サイトウのことは嫌いか?不満があるというのか?」
サイトウに不満があるのは気に入らないらしく、親父さんは目を見開いて詰め寄ってきた。近い。
「それとこれとは話が別。サイトウは可憐な女性だが、今は逢引きをするような間柄では無い。」
「今は?それはこれからサイトウとそういう関係になるということかっ?!」
「人間関係は絶えず移り変わるモノだろう?俺もサイトウちゃんも幼い。まだまだこれからだ。」
気持ちは察するが落ち着いて欲しい。俺を宛がいたいのか引き離したいのか一体どっちなのだ?
サイトウちゃんたちの親父さんがしていた話を本人に話すと、サイトウちゃん顔を真っ赤に染めてアワアワ混乱するという中々可愛らしい反応を見せてくれた。やっぱり女の子だ。
「ち、父が申し訳ありません!あの、その・・・」
「無理をするな。こういうのは命の危険でも迫ってない限り、急いでする話では無い。」
羞恥に頬を染めるサイトウちゃんが勢いで妙なことを口走らない内に制止する。
すると、サイトウちゃんは何が気に入らないのか「むぅ・・・」と頬を膨らませて無言の抗議に出た。
「・・・チーズケーキ作って下さい。」
「分かった。少し待っていてくれ、お姫様。」
多少成長したとはいえ、10歳にも満たない子ども。俺たちの人生はまだまだこれからである。
・・・・・・・・・つづく。
「サイトウちゃんは可愛い」、私の好きな言葉です。
ディア・・・ディアンシーのディア+「親愛なる」を意味する言葉から。