少年の見たもの
白いマットのジャングルならぬ、神社の境内に敷き詰められたキャンバスの上では、見た事もない奇っ怪な死闘が始まっていた。
何が奇っ怪と言ったら、まず場所がそもそも異常だ。
ここは僕の家のすぐそばにある神社。
僕や妹が七五三や初詣に利用する、由緒正しい神社だった。
そこの境内(普段なら神主さんが掃除をしたりしている)に敷き詰めた6メートル四方の白い板、四つの角に建てられた鉄製の柱、その間に張り巡らされた三本のワイヤーロープ。
まるで、プロレスのリングのような舞台で行われているからだ。
次におかしいのは、そのリングの中で戦っている二人だ。
一方は、身長が二メートル四十センチはあろうという、人としてありえない高さの白い服を着た女。
眼には瞳というものがなく、ぽっくりと空いた空洞で、口元が欠けた月のように割れている。笑いのつもりなのだろう。
薄汚れた麦わら帽子をかぶり、逆に服装はまるでおろしたてのワンピースのように眩しいほどに白い。
正直な話、どうみても普通の人間ではない。
巨人症という言葉を聞いたこともあるが、そういった奇形的なものではなく、存在自体が歪なのに確固とした姿を保っているというべきか。
つまりはこの世のものではないのだろう。
だが、僕にとって問題なのは、それよりもその巨人みたいな女と戦っている方だった。
上半身にまとっているのは白い衣、首元に赤い襟があり、キリッとして美しい。
そして、下半身には緋色の袴を履いて、同じ色の紐でとめていた。
はっきり言えば巫女装束だ。
だが、ただの巫女装束でないのは、両手首に巻いた革のリストバンドと、地下足袋で草鞋という履物が本来のはずなのにもかかわらず代わりに革のリングシューズを履いているところだった。
どうみても巫女じゃないような。
そんな僕の感想を気にも留めず、巫女装束をまとった人物は巨人女と死闘を繰り広げていた。
その人物は―――ぶっちゃけ可愛い。
わりと長めの髪を結い上げてアップにしているせいで、健康的な印象が強いけれど、顔の造作そのものは小さめで儚い感じの可愛らしい女の子だった。
眉が幾分濃くてちょっとだけ男らしいが、そんなところも全体とのギャップがあって、むしろ素敵だ。
惜しむらくは小さな口から発せられる台詞が、「どっしゃあああ!」とか「おりゃああああ!」ばかりだというところだろう。
ただそれは彼女が真剣に命賭けで戦っていてくれるからなのだから、僕が文句を言っていいことではない。
彼女がこのわけのわからない状況で戦っているのは、僕の妹のためであり、彼女に助けを求めたのは僕なのだから。
……じゃあ、どうしてこういう状況になったのかをちょっとだけ説明しよう。
すべては昨日に遡る。