巫女レスラー   作:陸 理明

302 / 385
リ・ライブ

 

 

 イントロが流れ、そのリズムに合わせて、御子内さんがボックスを踏んだ。

 1、2、3、4……の単純なリズムだが、その踏み方はとても素人とは思えない。

 先ほど、ライブ中に波佐琥珀さんがやったのと同じ動きである。

 そばにいたメンバーたちが唸った。

 

「あれ、もしかして……コピられてる?」

 

 彼女たちが驚くのも無理はない。

 御子内さんはライブで一回、動画で数回見ただけの振り付けを完璧に再現できているのだ。

 僕のように素養がないのは論外だが、ダンスの動きや振り付けというものは規則性があり、きちんと習っているものにとっては初見の振りであったとしても十分にまねができるものなのだそうだ。

 しかも、御子内さんレベルで自分の身体を自在に動かせるものであるのなら尚更である。

「夢のポジション」自体はスローテンポの曲であることから、しっとりとした動きが必要ではあるが、退魔巫女は十分にメロディに乗りきれていた。

 何度かカラオケで観たことがあったけど、御子内さんは歌だけでなくてダンスもわりと上手いのだ。

 

 靴の踵を三回鳴らして あの世界に戻りたい

 あなたと並んだ あの場所に

 道路沿いの街路樹が よりそった二人に見えてくる

 小さな希望を詰め込んで 彷徨い始めたあの時代

 口ずさむ曲は幸せだった日のイリュージョン ♪

 

 御子内さんの声は、女の子らしいものよりはややハスキーよりだ。

 だからだろうか、波佐琥珀バージョンのものに比べると歌詞が強く響いてくる。

 歌詞の意味を考えさせられるというべきか。

 そして、僕はこの曲がラブソングの体裁をとっているが、実のところ、別のテーマを内包していることがわかった。

 御子内さんの歌い方一つの問題なのだろうけど、僕にもようやく朧げながら浮かんできたので見えてきたというところか。

 

「……並んだ街路樹ってのは、ステージにたったときの仲間たちのことなのか」

 

 歌の主観的な立場の人物は、過去を思い出している。

 その人物の過去には共に並んで立った人たちがいて、その人たちとは疎遠になってしまいもう会うこともない。

 だが、記憶の中の彼女たちはまだ生きていて、自分の足元だけが幻のようにかすんでいる。

 ……そんな歌だ。

 靴の踵を三回鳴らして故郷に帰るのは、オズの魔法使いのドロシーのフレーズだが、故郷に帰りたがったカンザスの女の子のための魔法の呪文でもある。

 つまり、この曲は過去に戻りたかった女の子のためのものなのだ。

 そして、帰りたがったのはおそらくただ一人。

 白本菜月。

 彼女しかいない。

 

(作詞も作曲も彼女だというのならば、制作テーマから読み取れる真意はもう言うまでもないだろう)

 

 白本菜月は過去に帰りたかったのだ。

 正確にいうのならば、所属していたアイドルグループのメンバーのもとに。

 自分のせいですべてを捨ててしまった彼女が望むのは当然とも思える想いだ。

 その心を一つに集約したのがこの曲。

 未練の塊が収束したという意味でならば、呪詛にも等しい。

 聴いたものが自殺したとしても来歴を考えればわからなくもない。

 ただ、それだけで、何にも死ぬとは思えない。

 死んだら聴いてしまうデッドエンド・シンフォニーやストリンガー・レクイエムではないのだ。

 

 踵を三回鳴らして あの頃に戻りたい ♪

 

 間奏に入った。

 だが、僕たちに特に変化は感じ取れない。

 さっきの波佐琥珀のものと比べたら、まったくといっていいほど……

 

「―――異常は……ないね」

「はい。あの巫女の人、マジで上手ですけど変な感じはないです」

「やっぱり、別に「夢ポジ」がおかしい訳ではないんじゃないスか」

「そうですよ! なっちゃんが変なものを仕組んだとか噂されるのは我慢ならないんですけど!」

 

 メンバーたちが騒がしくなる。

 普段から練習している彼女たちにとってはただのいい曲でしかないのだから、当然である。

 むしろ、噂の方がおかしいということだろう。

 

「でも、さっきサチが首つろうとしたんだよ! おかしいのはホントじゃん! あのサチがどうしてライブ中に死ななきゃならないのさ!」

 

 そうなのだ。

 曲を聴いて外部で死んだものたちはともかく、現実にさっきステージ上で自殺しようとしたものはいたのである。

 事実無根というわけではない。

 ついさっきまで元気よく歌って踊っていたものが首を吊ろうとするはずがない。

 だからこそ、御子内さんは実地で歌って試してみるつもりなのだろうが……

 

 パチン

 

 突然、御子内さんのヘッドホンマイクが火を噴いた。

 顔を一瞬しかめただけで、彼女はゆっくりと頭から外す。

 そして、床に静かに置いた。

 

「―――来たみたいだね」

 

 中空を睨みつけながら言う。

 そこに何かがいるのか、僕には視えないし、他の人も同じはずだ。

 だのに、琥珀さんがぽつりと呟いた。

 

「なっちゃん……」

 

 と。

 他のメンバーも、

 

「嘘! なっちゃんが見える!」

「どうして浮いているの!」

「幽霊みたい! でも、なっちゃんだ! なっちゃんだよ!」

 

 と叫び出した。

 でも、僕にはわからない。

 中空に、初代マネージャーの霊でもいるのか。

 昔と違って霊感が発達している僕に視えないはずがないのに。

 

 ()()()()()()()()()()()()!?

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。