OVER×OVER ~H×H原作の最新DMMO始めました~   作:砂漠谷

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狂人PCでCoCをやるな音頭

 モモンガの希望を演ずる宝匣(パンドラズ・アクター)は、喰わせる物質が持つオーラ量や保有する発の能力によって、消化時間が左右される。消化能力を上げるためには、より多くのオーラ保有物質を喰わせて熟練度を上げなければならない。ユグドラシルのエクスチェンジボックス(シュレッダー)のように、即座に、とはいかないのである。それに、当然のことではあるが消化効率が100%を超えることはない。インプット以上のアウトプットを得られることは無いのだ。

 

 モモンガは、次の休息日までの間にいくつか軽くハントをすることにした。具体的には賞金首(ブラックリスト)ハンターの真似事である。この()下町にも凶悪犯はいる。天空闘技場やビートルXなどのオーパーツはあるが、このサーバーの文明の程度は基本的に近世であり、治安が悪いのだ。遺言ハンターとしては、賞金首を殺す直前に辞世の句でも詠ませればクエストもクリアできるだろう、と思っていた。

 

 ビートルXには、クエスト受注機能がある。このクエストをクリアすれば、用途が限られたCPを手に入れることが出来る。そしてCPを振り分けることでハンタースキルを成長させることが出来るのだ。

 ただし、ハンタースキルのレベルと念の熟練度は全く別物として扱われているため、CPで念の実力を向上させることは出来ない。念に関しては反復と実践あるのみ、という訳だ。

 

 早速、町にいる凶悪犯の情報を求めに役場に行く。

 

 役場は普通の一軒家の三倍ほどの大きさと敷地面積を持っている木造の建築物だった。天空闘技場には見劣りするが、この時代では十分大きな建物である。

 

「失礼する。私はプロハンターで、賞金が掛けられているこの町の凶暴犯の情報を求めているのだが、教えてくれないか?」

 

 と、ハンター証を見せる。

 

『ハンターの方ですね。了解しました。少々お待ちください……ただいま確認が取れました。こちらが現在のこの町にいると思われるA級およびB級賞金首のリストです。C級以下は量が膨大となるので、必要でしたらお時間を頂くことになりますが』

 

「いや、これで十分だ」

 

 と、モモンガはリストを確認する。A級は三人、B級は数十人ほどいた。

 A級の三人の名前と罪状は以下の通りである。

 ()()()()強姦殺人犯の半陰陽(インターセクシャル)の女『カゴメ』。

 児童連続拉致事件の首謀者と目され、十年以上その正体すら判明せず犯行を続けている、通称『ハーメルン』

 実験と称して、致死性は低いが後遺症が残る特殊な疫病をばらまく迷惑千万な自称狂科学者『イワン』

 おそらく三人とも念能力者であるとモモンガは犯行内容から推測した。

 B級には念能力者の犯罪者は少ないようなので、非念能力者のB級を狩るか、と思うも。

 

「そもそも犯罪捜査のいろはのいも分からない……」

 

 ということで、町でぶらぶらして挙動不審な人物を探すことにする。『人間心理Ⅰ』の派生に『異常者心理』があるため、それを取ればより効率的に捜査が捗るだろうと思うも、モモンガの「精神分析」スキルツリー用CPは現在ゼロである。

 ログアウト時のマクロに沿った自動アバター行動では、簡単なクエスト以外はクリアできず、CP効率が非常に悪い。それゆえ、H³は放置ゲー的な要素も含みつつ、放置一辺倒ではキャラクターがまともに育たない仕様になっている。

 

(『人体理解Ⅰ』で犯罪者の肉体の()を。『人間心理Ⅰ』で犯罪者の精神の()を見抜く。人を殴り慣れていそうな肉体と人を殴るのに躊躇しなさそうな歩き方をするなら暴行犯。人を騙し慣れていそうな声色と人を騙すのに躊躇しなさそうな態度を持つなら詐欺師だ)

 

 『人体理解Ⅰ』と『人間心理Ⅰ』、それぞれ単体だけでは、無論大通りの人間を観察するだけで犯罪者であると確信などできるはずもない。

 それはスキル単体であれば『警邏Ⅱ』、またはその派生スキルの『職質』の領域に属す達人の所業である。

 だが。その二つのスキルを結合させ、相乗効果を生んだのが、モモンガの、つまり鈴木悟の営業職(サラリーマン)としての対人経験と技術。3種類とも6種類とも言われる人間の性質分類をおおざっぱにであるが即座に見抜き、大まかな方針を決めた上でこのスキルに意識的に解析させ、より細かい結果を叩き出させた。

 モモンガは鈴木悟であって鈴木悟ではない。スキルを持っているのはあくまで『モモンガ』であり、『鈴木悟』は『モモンガ』とそのスキルを管理操作しているに過ぎない。彼はそのことを重々承知していた。その上で、自分の技術(プレイヤースキル)とキャラクターの技能(システムスキル)を組み合わせた。

 

 その結果。夕方になるまで観察し続けたモモンガは、それなり以上の精度で判別できるまでになっていた。

 

(あれ、意外と判るもんだな……顔を隠してるアイツとアイツ、ついでにあの女もだな。尾行……は無いな。この身長じゃ目立ちすぎる。声を掛けるか?いきなり声を掛けても警戒されるし、俺の正体を明かすのも他の犯罪者に警戒される。現行犯逮捕が一番良いんだが……)

 

 だが、目を付けた三人が集まって何やら話している。そのまま観察すると、三人は宿屋付きの酒屋に入っていった。

 看板には、『海の嘶き亭』とある。

 

(!? これは……偶然じゃないな。俺も入るか)

 

 モモンガはバーに案内されると、三人とはやや遠い席に案内された。他には5、6人程客がいる。神父以外全員が若者で、未成年だと思われる者もちらほら見かけられる。

 三人は顔を見せつつ、何やら顔を近づけてぼそぼそと喋っている。

 

(まずいな、このままじゃ聞き取れない、少し席を移してもらうか。幸い彼らの席の近くには天空闘技場を望める窓がある。天空闘技場を眺めたいとでも言えばいいだろう)

 

 と立ち上がって店員に話しかけようとするも、新たな客が扉を開けたのを察して腰を下ろす。

 

 新たな客は、黒い神父服を着ている、例の彫像売りの神父だった。それだけでは偶然に済ませられる、何も不思議なことは無い出来事であった。

 

 しかし、その神父は三人の近くに座り、彼らに話しかけたのであった。それも、初対面ではないような口調で、だ。

 

 店員が扉を閉め、"Close"の札を掛ける。モモンガはここで、致命的に選択を間違えたことに気が付いたが、時すでに遅し。

 

 モモンガの視線に気づく神父。何やら興奮しているようだ。店に入る前に酒でも飲んだのだろうか。

 

『やぁ! 君はあの念貨売り君じゃないか! 君も、あの偶像の素晴らしさに目覚めてくれたのかね?』

 

「あ、ああ。確かにあの偶像は素晴らしかった。何か高貴な、神々しい雰囲気を感じたよ」

 

 話を合わせる。モモンガは偶像を良くできているとは思っているが、神聖性を感じているわけではない。

 

『ふむ、そうか。その程度か……まだ()()はしてないようだな』

 

 それを聞いて、ざわりと店内にいる全員が殺気立つ。神父が手で抑えるジェスチャーをして、それを和らげた。

 

『君の、名前を教えてくれるか? まだ名前を聞いていなかったはずだ』

 

「モモンだ。この奇遇には驚いているが、急ぎの用事がある。後にしてくれないか」

 

 モモンガは普段使っている偽名を伝えるが、三人のうちの一人の女が神父に耳打ちをする。それを聞いて、神父は顔を少ししかめた。

 

『すまない。少々語弊があったようだな。()()()名前を教えてくれるか?』

 

「……モモンガだ」

 

『おお!そうか!我が神にその真名を捧げれば、きっと我が神はお喜びになるだろう。何せ現役のプロハンターの真名なのだから』

 

 モモンガは確信した。これはカルト宗教の集会であると。自分はそれに迷い込み、生贄か何かとして選ばれてしまった、という訳だ。

 『人間心理Ⅰ』にも、先ほどまでは狂信の状態は表示されていなかった。非常に感情の隠蔽が上手いのだろう。神父だけでなく、信徒皆。

 

「名前を捧げる気はない。これは大切な……大切な名前なんだ」

 

『ほう。そうか。ちなみに儂の真の名はすでに神に捧げているから、神父と呼びたまえ。しかし、やはりオーラを吸収するという言葉は事実だったようだな。像の偉大さが殆ど浸透していない。かの像はどうした?』

 

 この一言を間違えるとヤバい。そう直観も、経験も、そして『人間心理Ⅰ』も告げている。

 しかし三人のうちの女は、嘘を見抜く能力を持っている可能性がある。嘘は言えない。

 

「オーラを吸収した後は、部屋に置いてある」

 

 嘘ではない。オーラを吸収してなれの果てとなった粉末は、部屋に保管してある。捨ててはいない。

 神父は女に目配せし、女は首を振る。それを見た神父はこう述べた。

 

『そうか。まあいい。この像をしっかりと目と脳裏に焼き付け、儂の説教を聞けば心が改まるだろう。この椅子に座りたまえ』

 

 モモンガは従わざるを得ない。このゲームにおける戦闘経験のほとんどない今の状態で、プロハンターを生きて退職した熟練の念使いと戦うという選択肢は取れない。とにかく情報を収集しなければ。

 神父は部屋の奥から人間大の巨大な石像を持ちあげて持ってきて、椅子に座っているモモンガの目の前にドスンと置いた。

 その石像は、モモンガが以前買った像と大まかなデザインは類似していたが、以前の像はややデフォルメが効いててキモ可愛さすら覚えたのに対して、この石像は人間を狂わせるイメージを集合させたかのように悍ましく、畏ろしい。写実的で、かつ非現実的という矛盾が成り立っている。

 しかしその像について、後日モモンガはこう述べている。

『確かにすっごいグロテスクで、魚介類恐怖症の人が見れば怖がるんだろうけどさぁ。ユグドラシルで見た最悪なアレコレよりは、一段劣るんだよね。畏怖させるデザインと狂わせるデザインってベクトルが違うし、あんまり両立させようとか考えない方が良いんじゃないかな。素人だけど』

 近世のこの時代を生きているNPCにとっては、正に神の具現と思えるかもしれない。だが、この男は近未来の日本で様々な芸術品(著作権切れ)に触れ、さらにユグドラシルで冒涜的だったり恐怖の塊だったりするアバターのプレイヤーたちと和気あいあいと過ごし、その傍らで過労三歩手前の過酷な労働に従事していた男だ。そもそも近未来人は時代の淘汰圧によって狂気の耐性が近世人よりも圧倒的に強く、その近未来人の上位1%に相当する狂気耐性を持つのがこのモモンガ、鈴木悟という男である。それでもNPCなら精神を蝕まれるのだろうが、プレイヤーであり直接的な精神干渉が効かないモモンガにとっては体が動かしにくくなるだけだ。

 

『まずこの像の神であるa-little-little様の来歴について……そもそも外海から来て……12使徒と聖骸布によって封印され……』

 

 説教を聞き流しながら、後ろ手で隠しつつビートルXを取り出して操作する。連絡先は、キングゥとあのフロアマスターだ。フロアマスターは来てくれるかどうかわからないが、連絡するに越したことは無い。彼も念貨の生産者がいなくなるのは惜しいだろうとモモンガは推測している。何やらクエストが開始している音もイヤホンから聞こえたが、いまは確認する余裕が無い。

 しばらく説教を聞き流し続けていると、『人間心理Ⅰ』が、自分のアバターの心理状態に対して警告してきた。

 

【像に対して畏怖と崇敬を抱き始めています!像に対する侮辱的行為がしばらくの間不可能になります!】

 

(侮辱的な行為……つまり宝匣に入れて粉砕することは出来なくなったと考えて良いな)

 

 そのまま説教を聞き流しつつ、像を眺める。

 

『さて、これで説教は終わりだ。これから神の奇跡の一端をお見せしよう』

 

 ”狂深割り人形(崇高なるピグマリオン)

 

 神父は像に向かって片膝を突き、手を組んで祈りを捧げる。

 他の信徒もどうように祈りを捧げ、モモンガだけが一人椅子に座っている。

 

 像の体表は生きているように色づき、ぬらめき、呼吸をしているように胸部が上下する。

 目が見開かれ、像の目の前にいるモモンガを凝視している。

 

 モモンガはこの現象に、さすがに若干の恐怖を覚え、椅子から立ち上がり離れる。

 しかし信徒が彼の足を掴み、像から距離を取るのを妨害する。そしてもう一人の信徒が頭を無理やり傾け、像を視界に入れ続けさせる。

 

 神父は立ち上がって、モモンガの周りをまわるようにしながら言った。

 

『どうだい?我らが神の偉大さが理解できたかね?』

 

「ああ、理解できたよ……お前らが気狂いのカルト集団だってことがな。『念貨を"凝"に5000∅消費』!」

 

 即座に自分の体を掴んでいる信徒たちを振り払い、像へ……ではなく、像に背を向けて、店の壁に向かって駆けだす。机や椅子などの障害物をやすやすと乗り越え、5000ものオーラを追加された拳を壁に叩きつける。

 壁には内部に神字が刻まれていたのか、一瞬オーラを纏って光るも、このオーラ量に耐えることは出来ずに破壊され、人が通れそうなほど大きな穴が開く。

 

『待て!……いや、追わなくても良い! "儀式"の準備をする!』

 

 モモンガは穴をくぐって外に出て、大通りへと全力疾走する。

 




偶像のカタチ(バアル・ゼブル)
オーラを込めた対象の「美しさ」や「高貴さ」「偉大さ」など、他者に与える印象を強化する能力。醜いものに付与すると、より醜くなるだけだが、美しいものに付与すると極端に美しくなる。神字によって、込めたオーラが減衰しにくくなっている。

狂深割り人形(崇高なるピグマリオン)
簡易ジョイント型。変化系・放出系・強化系能力
a-little-littleの像のみを対象に、それに心から祈った人間によって発動する。像をオーラで覆い、生きているように見せ、さらに偶像のカタチ(バアル・ゼブル)の効果を加算する。"儀式"参加者のfeelingを高揚させ、信仰を加速させ、120%のポテンシャルを発揮させるためだけの能力。ようは布石に過ぎない。
※簡易ジョイント型。 本作の捏造用語。他者のメモリを使わず、他者のオーラのみを使用する能力。大和撫子七変化(ライダーズハイ)などがそれにあたる。
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