OVER×OVER ~H×H原作の最新DMMO始めました~   作:砂漠谷

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暗黒大陸脱出日記

 祠の向こうは、暗黒大陸だった。

 暗黒大陸の巨大な木の上。そこに、神隠しの祠と対になる、神暴きの扉は設置されていた。

 たっち・みーはサヘルタ合衆国のヨークシンシティにいると、モモンガにメールが届いた。古くから市場として発展してきた(という設定の)都市である。当然、暗黒大陸からは非常に遠い。

 一旦第87サーバーに戻って、モモンガは準備を整える。

 

 モモンガは、暗黒大陸を見ても絶望していなかった。ヨトゥンヘイム最深部より多少大規模だが、DMMORPGでは稀にあるサイズの敵だったからだ。それが通常モンスターとして跋扈しているのは初めて見たが、対処できないことは無い、と推測する。

 とりあえず、メビウス湖沿岸にたどり着くことを最優先で目指す。幸い地平線の果てには水平線が見える。そこを目指すことにした。

 一人では無理である。そこで、NPCのパーティメンバーを募ることにした。

 

 ハンタースキル『人間心理Ⅱ』『会話Ⅱ』『交渉』『説得』を新しく取得し、地道に一人ずつ強者のNPCを募集する。

 

 モモンガのリアルである鈴木悟は労働者のため、ログアウトを挟みつつ、リアル時間で一か月、ゲーム内時間で一年掛けて10人の幻影旅団メンバー級の念能力者を募集する。

 プレイヤーも仲間に入ってくれた。同期であるヨシ=イグゾとイヴ=ステンレスである。彼らも幻影旅団級の仲間に負けず劣らずの念能力者に成長していた。

 彼らに一人50万∅の念貨を渡す。

 創業記念日と有給、日曜を合わせて、一か月前に5連休を取ったにも関わらず、3日間の連休を取ることに鈴木悟は成功した。自動栄養補給・自動排泄・自動肉体洗浄機能付きカプセルホテルに宿泊し、モモンガとしてゲーム内時間で36日間の間ログアウト無し、NPCとプレイヤー合わせて13人で、暗黒大陸脱出を目指す。

 

暗黒大陸踏破日記、1日目。(モモンガ視点)

{

}で囲われた文章は後日追記。

 

 まずは巨樹から降りなければならない。空飛ぶ巨蟲共はそこまで多くはないが、一度遭遇すると非常に厄介だ。

 故に、NPCの一人の念能力を使用した。

{

 "私が天に立つ(フィジカルギフト)"

 対象に触れ、強制『絶』状態にする代わりに、素の身体能力と五感の精度を底上げする強化系と操作系と放出系の混合能力。解除には再度触れる必要がある。最初は五感の精度向上にかなり酔ったが、慣れればこれほど便利なものもない。絶であるため気配も消せる。

}

 これによって、木から降りるという目立つ行為にも関わらず、殆ど巨蟲には気づかれなかった。

 

2日目。

 地面に降りた直後の油断を突かれ、NPC念能力者の一人の胴体が噛み千切られ、死んだ。体表を完全に透明に変えられるだけの、鰐のような顎をした蛇にだ。報復で蛇は殺したが、チームに悲愴な雰囲気が漂っている。

 これからもどんどん死ぬだろう。プレイヤーの三人が死ぬことは避けたいが、プレイヤーを贔屓するような雰囲気を作ったらチームが崩壊する。それも避けたい。

{

 『私が天に立つ』の使用は、隠密手段が他にある状況では悪手だ。念による咄嗟の防御が出来ない。素の身体強度は底上げされるが、暗黒大陸では微々たるものだ。

}

 幸い、死んだNPC念能力者は、私たちのための死後の念を遺してくれた。

{

"蜜蜂の阿頼耶識(ビーハイブ・リヴァイヴ)"

 周囲の『昆虫などの小動物の群れの集合意志』に自分の人格を転写し、群れを複製自我の手足にして乗っ取る、操作系の念能力だ。特質系の要素入ってない?と思ったが入っていないようだ。それが死後強まる念により強化されている。今回は、鼠ほどの大きさの肉食蜂の群れに憑依した。一刺しで象をも麻痺させる、非常に強力な麻痺毒を持っているようだ。象程度はこの大陸では虫けらの如き扱いなのだが

}

 あくまでコピーであるため、本体は死んだことには変わりない。だが、それでも暗黒大陸で生き残った強力な昆虫の群れを支配出来たのは大きい。この蜂たちは自分たちを刺したり食べたりすることはないので、巣ごと背負って運搬する。

 

 3日目。

 蜂による斥候で、比較的進む速度が速くなった。この蜂は非常に視野や光感度が広く、赤外線でしか見れない敵も見て、狩るようだ。地中だけは『円』で警戒している。形を変えられる『円』の使い手がこちらにもいるので、地中に限定すれば地下100mから来る相手も知覚出来る。

 

 4日目。

 巨大な壁が立ちふさがった。壁は粘液で濡れていて登れない。木の上にいた時はそんなものは無かったのだが……。

 

 5日目。

 巨大な壁の正体が判明した。これはミミズだ。それも超巨大で、四角柱の形をしたものだ。

 我々の周りを囲って、徐々に狭めている。知性が高いようで、我々が怯えるとくつくつという音が鳴る。

 空を飛ぶ念能力者はこちらにはいない。蜂は全員を運ぶにはやや力不足だ。

 

 6日目。

 仕方ないので、食べられることにした。

 だが死ぬつもりはない。なので、閉じ込もる。

{

"開かず空かずの玉手箱(あかねぇよゴマ)"

 強化系と放出系の複合能力である。神字が大量に刻まれた金庫の中では空間が拡張されており、体育館程度の金庫になっている。さらに時間が圧縮されており、ゲーム内の12日がゲーム内の1日になる。別空間に転送されている訳ではなく、空間そのものが拡張されているため、金庫を砕けば空間の拡張が無効化され、ぐちゃぐちゃに圧縮される(という制約)。それを防ぐために、宝箱の外殻の強度は異常なまでに強化されている。空間はともかくなぜ時間の加速が放出系なのか尋ねたら、時間の流れすなわち4つ目の座標軸に平行にオーラを噴射しているから、空間を飛んでいるのと変わらない、不可逆的時間旅行だという意味不明な解答が返ってきた。小卒にはわからない

}

 

 8日目。(金庫内で4時間経過)

 どうやら、胃袋で金庫の外殻が少しずつ溶け始めているようだ。このままではクソとなって出るのではなく完全に栄養としてミミズに吸収されてしまう。

 それは出来ないので、内側からブチ破ることにした。

 

 9日目。(金庫内で6時間経過)

{

"命短し行為せよ乙女(シャクティ、ナウ!)"

 自分の卵巣を片方消費し、寄生型の念獣『仮想水子』を生む簡易ジョイント型具現化系念能力。『仮想水子』はまず能力者本人に寄生して能力者を失神させるが、他者がオーラを注ぎつつ熱心に語り掛けて、『お前の父親は○○だ』と言い聞かせると、父親を誤認して対象の方に寄生する。父親と誤認された相手は『仮想水子』を妊娠し、しばらくすると胎児が腹をブチ破って生まれ、相手は死亡する。胎児は必ず死産する。対象は生物学的に雄の能力がなければならない。

}

 かつてとある理由で妊娠させられた相手に逃げられた女の念能力者NPCの能力で、ミミズを妊娠させて腹をブチ破らせて殺す。ミミズは卵生だが、卵生の生物にも効果があるようだ。(仮想水子は本物の胎児ではなく腫瘍のようなものであるため)。

 

 15日後。(金庫内で18時間経過)

 仮想水子がようやくミミズの腹をブチ破り、ミミズは死んだ。

 ミミズの死体はどうやら海岸にいるらしい。行幸である。

 海から、鮫や烏賊が這い出てくることがたまにあるが、その時は退避すればよい。相手が小さいなら、鮫や烏賊を狩ることも出来ないことはない。あくまで地上であれば、の話だが。

 鮫や烏賊の骨格を活かしてボートの骨組みを作る。

{

"ガ・シャ・ド・ク・ロ(hold on yourself)"

 一つの身体の別の部位、もしくは一つの身体から取り出された部位同士を変形・変質させて、有機的に結合させる操作系能力だ。これを用いた骨組みである。臆病プレイヤー、イヴ・ステンレスの念能力である。

}

 

 骨組みに一日、外装に一日掛かった。

 

 17日目。

 いよいよ船出である。狭義の暗黒大陸からはお別れだ。死亡者が一人で済んだことは行幸だろうか。

 

 18日目。

 舟にピラニアが齧りついており、水と肉食の魚が内部に入ってくる。NPC念能力者の一人が激しい出血で戦闘不能になった。

 なんとか念能力で対処出来た。

{

"流動豚餌(オーラ・フォー・ジロリアン)"

 一滴で10万キロカロリー(成人女性の基礎代謝約50日分)、非常に吸収の良く、オーラで防御しなければ皮膚からもすぐに吸収して脂肪に変換される、もはや毒のレベルの超圧縮栄養。これを水に混ぜると、ピラニアは一瞬でぶくぶくと太り、脂肪によって泳いだり顎を閉じたりすることが出来なくなった。脳梗塞で死ぬピラニアも何割かいた。

 

}

 舟は普通に塞いだが、栄養豊富な水が希釈されて付近に散らばった。流動豚餌に匂いは無いが、何かの方法で感知して襲ってくる危険生物もいるかもしれない。全速力でこの場所から離れる。

 

 19日。

 案の定、鮫を超えた鮫(通称ギガロドン)が出てきた。これも『流動豚餌』で対処しようと思ったが、そもそもギガロドンの基礎代謝が大きすぎ、すぐさま消費されて単なる栄養補給にしかなっていない。

 だが、ギガロドンの背中に住む亜人種がいた。彼らはコバンザメのような見た目をしており、ギガロドンの背中でフジツボのような建材で建築物を建てて、そこに住んでいた。ギガロドンは彼らの神であり、ギガロドンは彼らを殺さない代わり様々なことを手伝わせているようだ、と身振り手振りでの説明を理解した。彼らは我々を、捕食目的で助けた。

 最初は我々を食べようとしたが、『流動豚餌』のことを伝えると、彼を奴隷として明け渡せば、暗黒大陸からの脱出を手伝ってやるとのこと。

 了承は出来ない。そんなことをすれば信頼関係に亀裂が走ってしまう。

 だから、コバンザメ亜人を騙すことにした。

 

 追記、先ほど出血して戦闘不能になったNPCが死んだ。

 

 20日目。

 

"悪の教典(アル・アジフ)"

 動物の脳に寄生し、その死体を動かす特殊な寄生虫を媒介に、その死体と寄生虫を操作する操作系念能力。

 

 これにより、昨日失血死した死体を動かしてもらう。

 無論、それだけでは騙せない。故に、指輪を使う。

(元狂信者神父、アリーカ・パリーカの念能力を像に使用し、その像を粉砕した結果出てきたもの。『狂深割り人形(崇高なるピグマリオン)』(11話参照あとがき参照)。この念能力は、元はa-little-little(狂信者の信仰対象)の像に対象を限定したものだったが、それが人型ならなんでも良いということに制約を緩めた。その分他者から吸収するオーラ消費が多くなったが、12人も一流の念能力者がいれば十分オーラ量は足りる)

 指輪で死体を、生きている『流動豚餌』の念能力者のように見せかけ、本人は『開かず空かずの玉手箱』にしまう。これを彼らと分かれる直前に行う。

 これで何とか騙せそうだ。

 

 21日目。

 コバンザメ亜人たちは、『流動豚餌』を魚に喰わせ、太らせた上で食べているらしい。脂肪が過剰過ぎないかと思うが、むしろちょうどいいようだ。流石は暗黒大陸の怪物である。真っすぐメビウス湖に向かっているらしいが、門番への到達にはあと6日ほど掛かるようだ。

 

 22日目。

 コバンザメ亜人たちの大量の餓死体を発見した。彼らの神であるギガロドンは彼らを救わないようだ。彼らにとってのギガロドンの背の上が、人類にとってのメビウス湖であると、彼らは言った。

 

 23日目。

 コバンザメ亜人らの肉体能力は、一般的強化系念能力者の『纏』の状態と変わらないようだ。走る速度やジャンプ力を見て概算した。

 

 24日目。

 一応ボートの修理は完了した。これから計画が途中でバレた時のために、脱走用の改造に取り掛かる。

{

部品は指輪と能力者、燃料は念貨。航続時間たった半日、全速力を出せばたった2時間、ただし最高速度はギガロドンを超える。

 

"黄金律(ジャイロゥ)"

 自他の回転速度を加速させる強化系念能力。ヨシ・イグゾの念能力。

 

"テセウスの船(nauticalphilia)"

 船と能力者が合体し不完全なボートを補完・強化するNPCの具現化系能力。

 

"骨は語る(ヒューマンヒストリー)"

 自分の骨格の強度を高める強化系の念能力。死後強まる念の指輪。

 

 この三つでボートを改造した。

}

 

 

 25日目。

 『悪の教典』で操った死体を『狂深割り人形』でコーティングするためには定期的なオーラ補給が必要である。

 補給の場面を直接見られたわけではないが、かなり怪しまれている。監視を増やされ、一人につき一匹コバンザメ亜人が付く。

 

 26日目。

 バレる前に脱出する。丁度、メビウス湖と暗黒大陸を区切る『門』は既に水平線の向こうに見えている。『狂深割り人形』がオーラ切れになる一時間前に、感謝の言葉を添えて舟でギガロドンから飛び出す。ギガロドンに狙われにくくなるようなフジツボの偽装も施してあるため、ギガロドンからは襲われない。

 

 だが、一時間後、猛烈な勢いでコバンザメ亜人たちがギガロドンから飛び出し、イルカのような生物に騎乗して追いかけてきた。かなり速い。フジツボの大砲を用い、謎原理で使役した肉食の魚を射出してくる。

 

 なんとか『門』がある島にたどり着く。『門番』の部下である『案内人』に事情を伝えると、「お前たちは通すが、船は暗黒大陸から作られたものだから、契約が無い限り通せない」と言われる。

 流石にメビウス湖の内側からとは言っても泳いで渡る訳にはいかない。すると、『内部に友人がいるなら迎えに来てもらえればいいのでは』『そこのコバンザメは『門』の土地にある島に籠城して貴様らが迎撃すればよい』と言われる。

 たっちさんらに迷惑をかけることになるが、一瞬だけログアウトし、5分(ゲーム内時間では一時間)でメールを書き上げ、たっち・みー宛ての救援要請メールを送る。

 その後、ボートを城として、籠城戦を開始した。

 

 27日目。

{

"団子の射手(オール・イン・バレット)"

物質をなんでも弾丸・砲弾に形成し、硬度を強化し、射出する強化・放出系のNPCの念能力。

 

これを主力としてコバンザメ亜人たちに対抗する

}

 

 島には既に上陸されており、小高い丘に陣取る我々が、陸に上がったコバンザメ亜人たちに砲撃を加えている形だ。

 

 28日。

 ようやく、救援が来た。

 オーラを噴射し、高速で宙を駆ける人造の翼を背負った鳥人間。そして、それに運ばれている、片側だけの奇妙な仮面をした人間。

 人間の風貌をしているが、格好の趣味で分かる。ペロロンチーノさんと、ウルベルト・アレイン・オードルさんだ。

 

 ウルベルトさんが生成した具現化物(謎の小型機械?)をペロロンチーノさんが手に持ち、背中の大弓を取り出してオーラの巨大な矢を形作る。鏃の部分にあるのが小型機械だ。

 弓を放つと、門がある島から少し離れた場所で、大爆発が起こる。薔薇のようなキノコのような爆発雲は酷く目立った。あれは確か、メガロドンが居たところだ。

 

「よう、迎えに来たぜ、モモンガさん!」

 

 彼ら二人は、そう俺に言ってくれた。

 

 27日目~32日目

 その後、コバンザメ亜人らがメガロドンの怪我を治している間に、簡易な船の骨組みだけ『門』の島の木材で作り、それを『テセウスの船』で外装を誤魔化すことでなんとかメビウス内の人間在住地域に到着出来た。

 

 

 このゲームを始めて数か月。ようやく、俺、モモンガは仲間たちと再会することが出来た。

 

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