OVER×OVER ~H×H原作の最新DMMO始めました~   作:砂漠谷

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ステータスとスキル/母の味あるいは電脳上の幻想

 馬車は窓が一切なく、閉じられた空間だった。詰めれば十人ほど座れる大きさで、そこにモモンガは入れられた。男女別のようでキングゥとは別れた。

 

(しかしキングゥさんがいないと不安……いや待て。大の大人が少女のアバターの女性を頼りにしていないと不安ってそれはどうなんだ?……よし、一人で頑張ろう。一人は慣れている)

 

 時間が空いたのでビートルXを開く。そこにはこう書かれていた。

 

【中期キャラクターメイクが行えます】

 

(お、これが最初に言われた中期キャラクターメイクか。時間もありそうだし、やるか)

 

【中期キャラクターメイクでは、ハンタースキルの初期値を決定します。ハンタースキルは『基本ハンタースキル』と『特殊ハンタースキル』の二つに分類されます。基本ハンタースキルは、基礎体力や反射神経・筋力、戦闘や生活に必要な基本的動作の熟練度を表します。これらはすべてすでに能力値6で取得している状態です。後者は専門的な技能が多く内包され、いくつかの技能は前提技能の取得が必要なスキルツリー方式となっています】

【あなたの専門は『遺言ハンター』です。基本ハンタースキルのパラメータと遺言ハンタースキルのスキルツリーを表示します】

 

 基本ハンタースキルは、ビートルXの画面の中でさらに身体能力値と精神能力値の二つに分類されていた。身体能力値には、〈筋力〉〈持久力〉〈敏捷性〉〈柔軟性〉〈耐久性〉〈五感能力〉〈器用度〉の7つの項目があり、精神能力値は、〈精神耐性〉〈思考速度〉〈ひらめき〉〈創造力〉の4つがある。〈精神耐性〉はダメージを受けた時の硬直や恐怖状態での逃走を阻止する能力。〈思考速度〉は思考加速能力であり、〈ひらめき〉は脳内にシステムからのヒントが提示される能力。〈創造力〉は器用度と共にアイテムを作成する時の判定の基準となる。一つの項目の()()()上限値は50である。0次試験をクリアしたことから〈ひらめき〉〈思考速度〉にそれぞれ+2、1次試験をクリアしたことにより〈精神耐性〉〈持久力〉にそれぞれ+2、2次試験をトップでクリアしたことにより〈器用度〉と〈五感能力〉にそれぞれ+4されている。

 遺言ハンタースキルは、主に三つのスキルツリーからなる。一つは「話術師」スキルツリー。一つは「精神科医」スキルツリー。そしてもう一つは「処刑人」スキルツリー。三つの木は枝を絡ませ鳥の巣をつくるように関係しながらも、根幹となる技能はそれぞれ初期のスキルである『会話Ⅰ』『人間心理Ⅰ』『人体理解Ⅰ』である。

 

(これは、遺言ハンタースキルを先にとっておいた方が良いな。キングゥさん曰く、ハンタースキルを向上させるCP(キャラクターポイント)は用途別に分けられており、クエストクリアで入手できる。基本ハンタースキルの、特に身体能力値用のCPは最初のうちは常時受注中のクエストで簡単に上昇させることができる。だが、特殊ハンタースキル用のCPは師匠やそれ相応の環境を見つけないと話にならないと言う。だからこそ数値を振り分けるだけで簡単に向上させることができる今が大切なんだ)

 

 中期キャラクターメイクは、万能CPが100ポイント配布され、その中から自由に振り分けられる。基本ハンタースキルは、最初のうちは1項目の能力値1に対して1ポイント。専門ハンタースキルは1項目に対して10~100ポイントほど消費する。

 

 モモンガは数時間ほど悩み(その間馬車に揺られていた)スキルの振り分けを決定した。

 

 処刑スキルツリーから『人体理解Ⅰ』『人体急所』『格闘Ⅰ』『応急手当』を取得。精神分析ツリーから『人間心理Ⅰ』を取得した。全部10ポイントのスキルだったため、残り50ポイントだ。モモンガはさすがに最低限の能力は必要だろうと、すべての基本ステータスを10にする。これでポイントは残り22。残りすべてを〈思考速度〉に入れて26となった。32ではなく26なのは、21以降はポイントが2倍かかるためだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

(戦闘で思考の加速が出来るというのはだいぶ有利だ。体が素早くても思考が追い付かなければ意味はないが、思考速度に体が追い付かなくても意味はある)

 

 と、ハンタースキルを決定する。特に体感ではあまり変化はない。しかしモモンガが周りを『人体理解Ⅰ』『人体急所』を意識して見渡すと、骨格や筋肉の付き方、そして急所が服の上からでも分かりやすく見える。

 そして『人間心理Ⅰ』を意識して見渡すと、貧乏ゆすり等の何らかの挙動している人を注視すれば、相手の大まかな感情の種別とその強度が表示される。プレイヤーらしき人に対しては"※あくまで推定です"と但し書きが付いていた。

 そして、〈思考速度〉を意識すると、周りの速度がかなりゆっくりとなった。およそ5分の1、と言ったところか。

 

(なるほど、こんな形でスキル補正が付くのか。ユグドラシル、というか旧電脳法下でのDMMOとはかなり違いがあるな)

 

 モモンガがハンタースキルを決定してから10分ほどで、次の試験会場に到着した。

 

 バルカンではない、試験官らしきNPCは外部から馬車の扉を開き、外に受験者を案内する。モモンガも神字が入ったマスケット銃を持って外に出る。

 

『ハンターたるものね、たとえ深い地下に閉じ込められようと、脱出できなければなりません!ということで、3次試験は地下坑道からの脱出です!3日以内に脱出できれば試験通過!試験官は外で待っているので、その人に会えれば3次試験通過です!出口は一つなので安心してねぇ!あ、棄権の人は『キケーン!』って大声で叫んだら助けに来ますよ!ではスタートォ!』

 

 試験官はそう言うと地面を液化させ、潜るようにして沈んで消えた。

 

「なんか一気にまくし立てて消えたな……」

 

 周囲を見渡すと、完全に洞窟だ。自然に作られた洞窟ではなく、ところどころ整備された跡がある(が放棄されている)坑道である。馬車の横に何やら銃に書かれていたのと同じ奇妙な模様があるヘッドライト付きヘルメットがあった。

 

 それを一つ取り、ビートルXのイヤホンとマイクを邪魔しないように頭にかぶる。ヘッドライトの電気(?)を付けてよし行こうと思っていると、後ろから声を掛けられた。

 

「あ、あの!良ければですけど、脱出に協力してくれませんか?」

 

 背後から、やや甲高いが男のものだとわかる声がした。振り返ると、自分のアバターほどではないが背の高い、金髪で長髪、温厚そうな美青年が立っていた。

 

「ええ、私は構いませんけど……」

 

「やった!じゃあ、よ、よろしくお願いします」

 

「プレイヤーの方ですよね。キャラネームを教えてもらっても?」

 

 青年は胸に手を当てて言う。

 

「はい!僕の名前はイヴ=ステンレスです。あなたのお名前は?」

 

「私の名前はモ……」

 

 とそこまで言って、キングゥから自分がユグドラシル出身だとバレる言動を窘められたのを思い出す。

 

「モモンです。宜しく。しかし、どうやって出ましょうか……歩いたら出られるなんて簡単な試験ではないでしょうし……」

 

「あの!僕はか、化石ハンター志望で。『地層判断』でどれくらい深いかちょっと調べてみます!」

 

 と言って、いきなり地面の土を摘まみ、少量口の中に入れる。

 

「うん、うん、うん……多分、地下300mくらいだと思います。それと、この鉱脈は銅鉱脈です。では……行きます!」

 

 先頭を行くイヴについていくモモンガ。『人間心理Ⅰ』を用いると、自分に若干の好意を寄せていることが推測される。初対面なのに、とモモンガは意外に思う。だいぶ人懐っこい性格なのだろうか。

 

「私は対人戦闘は最低限出来るスキル構成ですけど、それ以外はからきしです。あと応急処置もそれなりにやれます」

 

 『人間心理Ⅰ』に関しては伏せた。

 

「ぼ、僕は逆に戦闘スキルは殆ど振ってなくて、お任せすると思います! お願いします」

 

(つまり、二人合わせても対怪物スキルは無いってことだよなぁ……どうにかしてモンスターからは逃げないと……)

 

 未だに馬車付近をうろうろしている他の受験者とは離れたいのもあってか、どんどん進むイヴ。モモンガは後ろを警戒しながらそれについていく。

 岐路があれば、上に行けそうな方に。どちらも上に行けそうであれば適当に選んでいるように見える。こんなんで大丈夫なのだろうかと心配になる。

 そのまま5時間以上ぶっ通しで歩き続ける。途中で岐路選択があるため、マクロを組んで離脱することもできない。黙ってイヴについていくのが限界になったモモンガは、イヴに問いかける。

 

「イヴさん、これ本当に正しい道なんですか?」

 

「ええ、そうだと思いますよ? だって銅鉱山なのに鉄の匂いがする方向ですし。そういうタレント持ちなんでわかるんですよ。もうすぐです!」

 

 匂いを辿るタレント持ちだと暴露し、そのままイヴは小走りになる。モモンガも早歩きで追いかける。

 

 小走りになって十分ほど。モモンガとイヴは比較的大きな坑道に出た。トロッコの線路が敷かれている。シャベルやツルハシも置かれている。

 

「これが鉄の匂い、ってことですか……」

 

 トロッコに沿ってさらに30分ほど進むと。その先に通じる道を遮る鉄格子と、その前に立つ半裸の筋肉男がいた。

 

『我々はァ!試練官である!受験者はここを通るには私を倒してこの鉄格子を開けさせなければいけない!』

 

(我々って一人しかいないけど……)「我々って一人しかいないけど……」

 

 モモンガは心の中で、イヴは実際に口に出して突っ込んだ。坑道なので声が響く。

 

『いざ!尋常に勝負!』

 

 口に出したイヴに反応したのか、試練官は低空タックルの姿勢で突進してくる。

 

「えっちょ!待ってください!」

『待たなぁい!』

 

 突進してくる試練官に対して投石を試みるモモンガ。もちろん『人体理解Ⅰ』『人体急所』『格闘Ⅰ』を意識した上でだ。

 

 投石は顔面にジャストミートして、相手は倒れた。球技の経験はモモンガにはない。しかし、『人体理解Ⅰ』が正しい体の動かし方を教え、『格闘Ⅰ』がそれを実際にサポートすることで、『投擲Ⅰ』『投石』『印字打ち』のような専用スキルには及ばずとも、十分な威力を発揮した。

 

(実際に石を投げたことがあるような記憶(デジャヴ)が脳内に流れ込んで、見えない力が体の内から俺の動きを補正してくれた! すげぇ……すげぇ! これがH³!)

 

 H³のスキルシステムに感動していると、試練官は起き上がってくる。

 

『卑怯者ォ!そのまま遠距離から攻撃して私を倒しても鉄格子は開けんぞぉ!』

 

「そ、それは困ります!モモンさんお願いします!」

 

(確かに対人戦は出来るかもって言ったけど、そこまで躊躇なく自分はやらないって言っちゃう?)

 

 と心の中でモモンガは突っ込むが、何も口に出さずに拳を構え、〈思考速度〉『人体急所』をさらに追加で発動した上で戦闘に臨む。

 

(〈筋力〉や〈敏捷性〉じゃ明らかにあちらの方が上……15、いや18はあるかも……近接戦は不慣れだ、いや、たっちさんが見せてくれた動きを思い出せ!)

 

 主観的にはややゆっくりと、しかし実際は素早く右拳を繰り出す試練官。

 それを最小限の動きを使って背中に回り、右の手首を掴む。そのまま、伸びきった関節を曲がってはいけない方向に曲げる。

 べきリ、と。

 

『ぐぁあああ!!!』

 

 試練官はあまりの苦痛に地に伏せる。

 『格闘Ⅰ』だけではダメだっただろう。『人体理解Ⅰ』だけでもダメだっただろう。たっち・みーの動きが脳裏に焼き付いていたからこそ、それを真似したからこそ二つのスキルがその精度を上昇させることができた。

 

「まだやるか?」

『参った! 分かった、鉄格子を開ける!『はいぼーく!』』

 

 試練官が大声で叫ぶと、その声に反応して鉄格子が上に引っ込んだ。

 それを見て、一つ疑問に思ったモモンガは試練官に問う。

 

「この鉄格子は私と金髪の彼が通った後も開けっ放しなのか?」

 

『ああ、そうだ……他の受験者は素通しだ』

(……これは)

 

 何かを察したモモンガ。

 

「先を急ぎましょう、イヴさん」

 

「あ、あの! この人、応急処置はしないんですか? 出来るって言ってましたよね?」

 

「いや、これはNP……そうですね、しましょうか」

 

 たとえNPCだったとしても、誰かが作った思い入れのあるNPCかもしれないとモモンガは思う。もちろんランダム生成である可能性の方が高いだろうが、そうであったとしても低い可能性をないがしろにするつもりはない。

 というのは建前である。『応急手当』スキルの実験をしたい、『応急手当』の経験値(見えないが内部データとしてはあるのではないかとモモンガは疑っている)を積みたいという思いが8割だ。

 

 モモンガは『応急手当』スキルの導きに従って冷静に動く。関節を元の角度に戻し、試練官の悲鳴を無視する。シャベルを折って添え木にし、試練官のズボンを千切って結ぶ。あとは試練官自身に任せて先に進んだ。

 

 この後、8回ほど試練官に遭遇したが、そのうち5回はすでに誰かが鉄格子を開けた後だった。試練官は死んでいる者もほとんど無傷の者もおり、怪我が酷い人だけに絞って応急処置をした。

 残りの3回の試練官は数回の投石で消耗させてから近づいて急所を掴んだ石で殴って気絶させた。やはり〈思考速度〉『格闘Ⅰ』『人体理解Ⅰ』『人体急所』のコンボは強いとモモンガは確信する。

 

 その結果である。およそ12時間で脱出することができた。

 

『はい! 20人中6人目と7人目のゴーカック者ァ! おめでとう! そんじゃあこのログハウスで待っててねぇ!』

 

「20人中……?」

 

「やっぱり。人数制限があったんですよ、この3次試験には。戦闘のみではどうも簡単すぎるというのが一つ、後から来た人は素通り出来るというのがもう一つの予想の理由です」

 

「へぇ、すごいですねモモンさん!まるで策士だぁ!」

 

「いえ、そんなことはありませんよ」

 

(そう、そんなことは無い。あの植物の策士(ぷにっと萌え)に比べれば、私は素人も素人)

 

 かつての仲間に思いを馳せながらログハウスのドアを開けると、そこには5人の受験者がいた。ログハウス内部は休憩室や仮眠室も完備されているようだ。

 そこにはキングゥもいた。

 

「キングゥさん! モモンです!」

 

「ん?モモンg……モモンじゃなイ! 12時間ぶりネ!」

 

 キングゥはモモンガの意図を察して呼び方を変える。

 

「もうそんな時間ですか……あと60時間、リアル時間だと5時間ほど待たなきゃいけないのはキツいので、ログアウトして寝ておきますね」

 

「あ、それはいいんだけド……食事のマクロは登録しておいた方がいいわヨ、なんか食べなイ?」

 

「そうですね、頂きます。リアルだとサプリとカロリーバーだけなんで、実は楽しみにしてたんですよ、H³の食事」

 

「私は自炊歴10年の女ヨ、期待しててネ!」

 

 キングゥがログハウスにあった材料を使って竈で料理をしている間、イヴとこのゲームについての感想を語り合っていると、1時間ほどが経っており、料理が完成した。

 

「ほレ、完成! 伝統の、米とみそ汁と焼き魚!」

 

 食卓に出された料理を、手を合わせてから口にする。久々に使う箸を落とさないように慎重に米を取り、口に運ぶ。

 

「リアル白米、懐かしいなぁ。昔は母さんが偶にみそ汁と一緒に作って、あれ、目の前がぼやけて」

 

 モモンガの涙腺が緩んでいる。ユグドラシルでは味覚が許されていない。だが、電脳法改正後にリリースされたこのH³では、極度の激痛を除いて五感すべてが再現されており、現実とほとんど遜色ない生活が可能だ。

 

 他者の手料理。人としての幸せを、十数年ぶりに味わったモモンガ、いや鈴木悟は気が緩み、涙がこぼれた。

 

「待たせてごめんね。もう大丈夫だよ。心配しないで。リアルではもう数年くらい待ってもらうかもしれないけど、ここでなら大丈夫だから」

 

 涙を流したモモンガを、キングゥは強く横から抱きしめた。

 




念の秘匿はまだ中途半端だという設定です。情報の伝達が遅い近世文明なのでなんとでもなるとハンター協会側もたかを括っている、というゲーム内設定。
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