OVER×OVER ~H×H原作の最新DMMO始めました~ 作:砂漠谷
30分ほどで着いたのは塔。100メートルほどの三角錐を思わせる伝統的な様式の建造物で、ハンター協会のマークが付いている。
地面に降り立ち、塔の中に入ろうとするが、その中から二人の人物が出てくる。
恰幅の良く、澄んだ瞳を持つ壮年の男性。それに付き従うGパンとGジャンを着た青年。
『俺がハンター協会創設者、ドン=フリークスだ。これより、第7期ハンター試験最終試験を開始する! 最終試験会場はこの塔の中。試験形式は総当たり戦だ。細かいルールは、ジーンズ、頼む』
Gパン青年、ジーンズが続ける。
『はい。一対一の試合形式で総当たり戦を行い、白星を3つ以上獲得した者が合格となります。武器は木剣木刀類をこちらで用意しています。凶器や暗器は使用禁止です。相手を殺害した場合は即失格となり、気絶か降参を相手がした場合のみ勝利となります。では、塔の内部で準備をしてください』
塔に入り、用意された部屋で作戦を練る。
(まず、キングゥ相手は捨てる。超能力である"念"を使ってくるためだ。消耗しないように即座に降参した方が良いだろう。次にイヴだが、嘘が無ければ戦闘系スキルを持っていないようだし、おそらく勝てるだろう。他の三人は、他の相手の試合を見て確かめれば良いか)
作戦の次に、武器を選ぶ。しかし、モモンガにとってはどれもいまいちしっくりこない。『人体理解Ⅰ』と『格闘Ⅰ』のスキル効果が乗らないのだ。トンファーと木のナイフだけは『格闘Ⅰ』が若干反応したが、それも素手で防御して素手で殴った方がマシなほどだ。
『人体理解Ⅰ』は、体の仕組みと動き方を理解するというスキル効果だ。だから『ものを投げる』という行為にはスキル補正があったし、関節技などは相手の体をどう動かせばどう壊れるのかがわかるためやりやすかった。逆に直接殴るのは『人体理解Ⅰ』よりも『格闘Ⅰ』が占める割合が大きかった。『格闘Ⅰ』は理解よりも実践をサポートするスキルであり、近接格闘での思い描いた動きをする時の精度を高める効果がある。つまり適切な動きを思い描けなければその補正は十全には機能しない。たっち・みーが披露してくれた警察格闘術の術理に基づく超人的な動きをモモンガは脳裏に焼き付けていたため、それを想像することができたのだ。
結局、モモンガは手甲と足甲だけ付けて初戦に挑むことにしたのだ。
初戦、モモンガの相手はキングゥとなった。
「参った!」
「モモンーーちゃん、良い判断ネ。さすがは我が愛弟子ダ」
「いつの間に弟子になったんですか……まあいいか。私は他の試合を見てきますね」
他の2試合を見る。二人のプレイヤー同士の戦いと、イヴとモモンガの受験票を取った女NPCの試合だ。
イヴとNPCとの闘いは大した見どころは無い。スキル補正込みのモモンガと比べるまでもない実力同士の戦いだ。どちらも木の棒を持っており、子供のチャンバラを多少高度にした程度のものだ。
一方、プレイヤー二人の戦いはかなりの高レベルな接戦だった。掌底を用いたボクシングのような格闘(骨法?)と、中距離からの体重移動を用いた重い蹴りの一撃を狙うアクロバティックな武術(躰道)だった。
結果は躰道使いの勝利。骨法は一撃一撃の打撃自体は致命的なものではなく、痛みによる怯み効果は相手に与えられるがそれだけだ。やはり骨法は連撃が華なのだが、躰道特有の足さばきで連撃を喰らうことは無かった。
(これ、DMMORPGだよな……なんでリアルスキルヤバそうな人たちの異種格闘技戦を観戦してるんだろう。スキル補正で勝てるかどうか)
次の相手は躰道使いであることに決定した。躰道使いは、中肉中背で白髪黒目、空手着に袴を履いたぎらついた眼光の女である。10分ほど待機室での猶予時間を与えられ、その間あの蹴りをどうやって受けるか、躱すかのイメージトレーニングをモモンガはひたすら行った。
『始めぇ!』
躰道使いは距離を取って、モモンガの隙を狙ってくる。あちらは足甲のみを付けており、その蹴りのダメージは一撃受ければ内臓破裂とまではいかなくても、しばらくは動けなくなる程度にはあるだろう。
一方モモンガは動きやすさのために手甲足甲を脱ぎ、ぬののふくだけを装備している。その代わりスキルは全開であり、相手の動きは5分の1ほどの速度になっている。それでも変幻自在な動きでありモモンガを焦らせる。
「このゲームは、武術を磨く場としても素晴らしいと思わんか、中将殿」
「中将殿?まあ、確かにそうだな……彼が選んだ理由も分かるよ」
「ふむ、その"彼"の話も聞きたいところだ……勝者として、な!」
来る。躰道使いの筋肉の動きが、見えなくてもモモンガには分かる。透視ではなく、推測に過ぎないが、しかし精度の高い予測だ。さらにモモンガに対する敵意が一瞬で増大したことも見て取れる。『人体理解Ⅰ』と『人間心理Ⅰ』の効果だ。
相手が懐に倒れ込む、そこから先は
足甲を付けていたとしても、急所は光っているかのように明白だ。『人体急所』によって、膝の皿やそのやや上にある急所がモモンガには分かる。体を引いて卍蹴りのインパクトを逸らし、足甲の上から、躰道使いの右足脛の内側部分にある急所を掌底で打つ。当然、掌底一つでは蹴りを躱せず、みぞおちに食らうハズだった蹴りは弱まって、やや上に持ちあがり胸骨に叩きつけられる。
(っ、威力に比べれば痛くはない。痛覚制限というのはこういうものか。ただ体が一瞬硬直した、痛みによる『怯み』は再現されているのか)
躰道使いがいったん距離を取る。モモンガは胸骨に違和感を覚えたが、戦闘を続行する。
「尋常な受けじゃない。普通もっと怯えるし退くぞ? ある種の邪道だな」
「これはゲームだよ。怯える必要はない。仲間たちに会うまで、怯えている暇はないんだ」
躰道使いの感情に怯えが混じったことを『人間心理Ⅰ』が知らせる。モモンガには理解できない理由で怯え、動きが鈍くなった相手をモモンガから攻める。
モモンガの蹴りや突き、急所を狙ったものは避けられ、他の攻撃も受けられる。
「身体能力は並み、定石を外れているが技巧は下手な黒帯を優に越えている。特殊スキル頼りか。その程度で私を、倒せると思うな!」
躰道使いは跳び、身長2mほどあるモモンガの顔面に左足で蹴りを入れようとする。しかし、思考速度はおよそ5倍。『人間心理Ⅰ』によって殺気の起こりを理解し、足を曲げて頭の高度を下げ、紙一重で回避する。そのまま足を掴み、股関節ごとねじり上げる。倒れた躰道使いにモモンガの巨体でそのまま
それは常人の筋力と柔軟性だった場合である。モモンガは知る由もないが、躰道使いは〈筋力〉〈持久力〉〈敏捷性〉〈柔軟性〉〈耐久性〉が全て20、現実世界の人間の理論限界値でもある。基本ステータスと実際の力は一対一で対応しておらず、筋力数値が2倍であるならば実際の数値は8倍であることもある。敏捷性などその他の数値はそこまで極端ではないが、それでも2倍よりは大きい。
右足の関節を極めて骨から嫌な音がした瞬間、モモンガ側の気が少し緩み、そこで何とか逃れて躰道使いは距離を取った。
(クソ、しくったなぁ。もう少し慎重にやらなくては)
「参った!」
と口にしたのは躰道使いの側だった。モモンガは続ける気満々だったので気が抜けた。
「常識外れの死兵とこれ以上やりあう気はない。負傷もこちらの方が重いし、今後3回の試合に支障が出る前に辞めるが吉だ」
(常識外れの死兵って。失礼かよ。確かにキャラデリはキツいけどやり直せるんだし、おかしいのはどっちだ)
その後、試合終了の握手をしてから次の相手の観戦に入ろうと思ったが、次の相手である骨法のプレイヤーは、すでに試合を終えているようだ。休憩室で、前回と同様に脳内でシミュレーションをしていく。
「来ぐぁっ」
骨法使いは籠手と衣服だけ身に着けている銀髪ツインテールという男にしては奇妙ないでたちであり、モモンガはトンファーだ。とりあえず開始直後にトンファーを投げつけ、骨法使いが怯んだ隙にモモンガは躰道使いの猿真似である飛び蹴りをみぞおちに入れる。『格闘Ⅰ』が仕事をして、猿真似にしてはかなりうまくいったようだ。
骨法使いがみぞおちに蹴りを入れられてせき込む。痛みは遮断されても苦しみは遮断されないようで、そのままモモンガはトンファーを回収してそれで後頭部を殴る。何度か殴ったら気絶した。
(これ死んでないよな……?まあいいか)
モモンガは骨法使いにあっけなく勝利した。モモンガの前回の試合による成長を『人体理解Ⅰ』と『格闘Ⅰ』が後押しした結果である。
次はNPC相手だが、すでに3敗しており、モモンガは不戦勝になった。そのため、モモンガは3勝して晴れてハンター試験合格ということになった。
合格したのは、キングゥと躰道使い、そしてモモンガ。イヴと骨法使いは課金して裏試験を受けると言い、一足先にログアウトしていった。