OVER×OVER ~H×H原作の最新DMMO始めました~ 作:砂漠谷
睡眠時間は6時間、つまりリアル時間は12分の1、30分である。30分だけリアルで心身を休めて軽い食事をし、再度ログインしたら次の日の朝になっていた。
「うン、今日も一日ガンバロー!」
「ガンバロー」
「なんダ、元気ないナァ。今日から一週間、天空闘技場見学の合間に修行をしまス! "凝"はすでに出来てるかラ、今日は"絶"の熟練度を上げて"隠"を最低限度習得。明日は"纏"の熟練度を上げて"周"、明後日は"練"の熟練度を上げて"堅"を最低限習得、残り4日で"流"と"円"と"硬"をやるわヨ。応用技は実戦レベルまで鍛える必要はないワ、"発"を作るための要素の一つに過ぎないかラ。ア、スキマ時間には水見式を繰り返しやるこト」
「それが別サーバーに行くのに最速の選択なんですね? なら異議はありません。全力で取り組みます」
言葉では、そして本心では全力で取り組みたいという気持ちはあるものの、気概が、精神的なエネルギーが不足していた。
一年半もの長い間、ナザリック大墳墓を維持するモブ狩り作業に余暇時間を費やしてきたモモンガ。孤独なその時間は徐々に彼を蝕んでいた。
かつての仲間に会えるかもという希望は一時的に彼を高揚させたが、しかしそのかつての仲間と会うためには多くの時間と労力が必要であるという事実が発覚し、慢性的な疲労がぶり返してきたのだ。
「……天空競技場の見学は今日はお休みネ。ちょっと高い宿を取って部屋で瞑想をしながら"絶"の熟練度を上げていきまショ。圧縮時間とはいエ、丸一日瞑想に費やせば心の疲労も少しは取れるはずヨ」
「別に疲れてなんか……」
「私も"発"を作るからネ。アンタを世話する余裕が無いだけヨ」
「そうですか。師匠の発の披露、楽しみにしておきます」
その日は丸一日、ヨガや禅の教本と向き合って試行錯誤しながら瞑想に取り組む日だった。"隠"は習得できなかったが、絶の熟練度も4ほどになり、何よりモモンガは精神的な満足感を得られた。
そのまま仮想空間のベッドに寝ころびモモンガは夢の中に落ちていく……ことは出来ず、強制ログアウトさせられた。仮想空間内で睡眠状態になることは出来ない。圧縮時間での脳疲労は新型ナノマシンの栄養補給と疲労物質除去によりほぼ無いが、それでも鈴木悟はなんだか眠りたかった気分だったため、1時間ほど仮眠を取って再度ログインした。
キングゥがログインしてくるまで"絶"と"纏"と"練"を素早く切り替える訓練をしていると、ゲーム内部時間で1時間ほどでキングゥが現れた。
「うン……良シ!今日は元気そうネ! ちゃっちゃと"隠"と"周"を習得していくわヨ! まず"隠"というのは……」
キングゥの解説が終わった後に、四大行の修行を行い、それが一定の熟練度に達したら応用技。たまに天空闘技場で念能力者同士の試合を見る。
そんなルーチンで7日間が経過した。モモンガは覚えが良く、四大行の熟練度は全て6、応用技は全て熟練度2にまで到達できた。
その日の夜。暖炉の前でキングゥは自身の念能力を披露することにした。
「モモン、自分の念能力をどうするカ、おおよその目安はついタ?」
「……ええ。はい。やはり最初の、自分に最も親しみがある物事と言えばコレでしょう、というものは」
「じゃア、数日前に作った私の能力から紹介するネ。私の念能力は
キングゥはモモンガの顔を両手で挟み、目を合わせる。モモンガは一瞬頬を紅くするが、すぐにそういうことではないと気づき、キングゥの瞳を見つめ返す。
「そこまで真剣に見つめられるとこっちも困るんだけド……”
キングゥの目がコンマ数秒発光し、そこから放たれた念の光線がモモンガの瞳に入る。
モモンガは脳に直接タバコの火を押し当てられたような熱を一瞬感じるが、すぐにその熱は収まり、自分の後頭部から何かが這い出して来る感覚を覚える。
背後を振り向くと、そこにはモモンガが直立不動で立っていた。
語弊があるので正確に表記すると、
「ア~、やっぱリ?」
「お、俺だ……」
慄くモモンガ(本体)と、予想通りだという顔のキングゥ。そしてモモンガの後ろで棒立ちになっているモモンガ(ユグドラシル)。
「ゲーム的な判定でハ、プレイヤーに能力を使うと最もプレイヤーが慣れ親しんだアバターが出力されるみたイ。ちなみに私はこれネ」
と市場で買った手鏡を使って自分と目を合わせて発動する。
すると、銀髪でオッドアイ、引き締まった身体の美女がキングゥの頭から出てきた。同様に直立不動である。
キングゥは自慢げにモモンガに視線を向けるが、モモンガは場違いどころかゲーム違いの自身のアバターを感慨深く見つめていた。
「ふン、どんなもんだイ! これが私の"発"! 褒め称えたまえヨ!」
「そうか、俺はこんなに恐ろしい姿だったんだな……時間をかけてキャラメイクしたアバターを、こうやって三人称で見ることができるなんて……」
とモモンガ(本体)はモモンガ(ユグドラシル)に近づき、触れようとするが、すり抜けて触れられない。そこでモモンガは我に返った。
「おっ……と。これは触れられない、実体のない幻影ということですか」
「ソ、それモ、私と同じ"幻影保有者"以外には見えないのネ。十分くらいすれば薄れて消えるけド、消える前にオーラを注ぎ込めばアンタのAOPをチョビっと使って自在に動かせるイマジナリーお人形になるわヨ。ア、人格は宿らないけどネ? それで、こうすれば、っと!」
キングゥは自身の幻影である銀髪オッドアイ美女(幻影)を動かし、モモンガ(幻影)を殴ろうとする。モモンガ(本体)が咄嗟にインターセプトして止めようとするが、それをすり抜けてモモンガ(幻影)の骨の体に拳が衝突する。
しかし砕けたのはオッドアイ美女(幻影)の拳の方だった。キングゥは何らかのフィードバックを喰らったのだろうか、手を抱えている。
「マ、まあこんな感じで幻影同士は干渉し合える訳ネ! そして幻影が傷ついた場合、対応する部位が一時的に麻痺するノ」
「いきなり殴りかからないで下さいよ……で、幻影の"強度"はその幻影にどれくらい強い親しみを抱いているか、ということですか」
「ン……それと、たぶんイマジネーション力、つまり〈創造性〉の数値も関わってくると思うわヨ」
「なるほど。相手に幻影バトルを強制する能力、ってことですか。本来なら格上の、幻影の操作に慣れていない相手をタコ殴りにするのは楽しいといえば楽しいでしょうね」
頬を膨らましてモモンガを睨むキングゥ。モモンガはため息をつく。
「何ですかその表情は。師匠ともあろう者が。いや美少女ロールプレイが上手いと褒めるべきなんでしょうか」
「フン! 私はモモンみたいに嫌な奴じゃないもんネ! タコ殴り目的でこの念能力を開発した訳じゃないやイ!」
「嫌な奴って……まあそれはそれとして。私の念能力の構想についても聞いてもらえますか?アドバイスを貰いたいんですが」
「いいわヨ。たダ、アンタの主体性を崩さない程度にしかアドバイスできないワ」
「はい。まず……」
二人は語り合い、夜が更けていく。
モモンガは出社直前までの十数時間、自身の初めての"発"の構想を改良し続け、正式に"発"が念能力管理AIに認可されて"発"の作成を認可され、その後"発"の修行と日常生活のマクロを組んでログアウトした。
リアル時間で5日後、ゲーム内時間で2か月後。鈴木悟は有給を取った代償として、会社に寝泊まりして仕事に励む羽目になったため、ログインが出来なかった。労基法など存在しない世界の話である。
「ったく、労働者使いが荒すぎるだろ……」
(まあ5日で帰らせてくれるだけありがたいか。ヘロヘロさんなんか一か月家に帰ってないとか平気であるらしいからな。しかし、体感時間圧縮技術、今のところDMMO、というかH³でしか聞かないな。時給そのままで時間だけ圧縮とかされたら地獄なんだが。労働は圧縮時間じゃなくて良かった)
色々な思いを抱えつつH³にログインし、モモンガとなる。
まぶたを開くと、キングゥの横顔がどアップで目に入った。
「うわっ」
咄嗟にモモンガはベッドから飛びのく。
(そうか……金銭節約のためにログアウト中は一部屋にするって話だったな)
キングゥのアバターはまだ寝ていることを考慮し、モモンガはキングゥがログインするまで作成した"発"の熟練度向上を試みることにした。
市場に出て、"凝"を用いてオーラの宿っている隠れた名品を探して買いあさる。転売はしない。
オーラが微量宿った物品を大量に買いあさって部屋に戻り、ベッドを移動させてスペースを作る。キングゥのアバターはベッドの上でマクロに沿って四大行をしている。
「さて。やるか。”
唱えるは、かつて友が命名した我が子の名。現れるは、1立方メートルほどの黒い立方体。表面には様々な紋章が刻印されている。
「つい最近までは、お前を音改さんに変身させて、ひたすらモブ狩りで手に入れたアイテムをシュレッダーに投げ込ませて、出てきた金貨をナザリックの維持費にぶち込んでたもんな。俺の最初の念能力にはコレが相応しいし、コレにはお前の名前が相応しい」
モモンガは匣の側面を上に開き、そこに物品を投入して閉じる。がたごと、がたごと。洗濯機が回るような音がしばらく宿の個室の中に響く。
10分ほどして、音が止み、紋章のうちの一つがあった部分に穴が開いた。そこから、紫水晶のような色合いの硬貨がじゃらじゃらと落ちていく。
モモンガはそれを拾い、自身の"発"の成功を喜んだ。
「良し、成功だ。次の実験は、この硬貨の効果だな」
意図せず誰もいない場所でつまらないダジャレを披露してしまったモモンガは、その事実に気づくことなく、落ちた硬貨を数枚枚つまんで念ずる。
(念貨を"練"に50∅消費)
モモンガは自分自身の潜在オーラを消費せずに"練"を7秒ほど行った。正確に言うと、
さらに数枚の硬貨を胸ポケットに入れ、呟く。
「『念貨を"円"に50∅消費』」
すると、モモンガは自身の潜在オーラを消費せずに"円"を行えた。これはオートではなく自身の意志と技術で行った。
他にもさまざまな実験を行い、大方の仕様を把握する。
「うん……"纏"と"練"はフルオートで、消費量にオーラ効率を掛けたものが使用時間になる。応用技は自動ではないけどコストの代替になって、どちらの場合も俺自身が"絶"状態でも使える」
(念貨は具現化物ではなく、もともと無生物に宿っているオーラ、他者から独立しているオーラをそのまま固形化・鋳造して圧縮したものだから、俺が"絶"状態になっても、どんなに離れても消滅しない。大体想定通りの仕様だ。念貨と仮で名付けたけど、オーラコインの方が良いかな。キングゥさんに決めてもらった方が良いか。……おっと、廃棄物を確認しなきゃ)
モモンガは黒い立方体を開き、オーラを吸い取った名品を確認しようとした、が。そこには原型を留めず粉々に砕かれた粉状の物質しかなかった。
「これも事前に設定した制約通りだな。『この匣によってオーラを吸い取られた物質は一切の形状と特異な特性を失う』。制約ではあるが、危険物処理にも応用できる可能性がある」
(そして、
メモリをビートルXで確認すると、現在のメモリの値が50で、使用メモリが40という数値になっている。それを確認したモモンガは、キングゥの言葉を思い出した。
(確か『メモリ増設アイテムで100まで増やせるかラ、50という数値に囚われるナ』だったか。だが、かなり入手難度の高いアイテムらしい。皆に会うまではこれ一本で行くしかないな)
「しかし赤字だな……それに効率も悪い」
モモンガは、何かヒントが無いかとビートルXのtipsを確認することにした。
【物体にオーラを籠める補助として、神字が有効だ】
(神字、か。ユグドラシルで言うデータクリスタルに類する概念。このゲームの中で非常に重要な技術に違いない。俺は純生産ビルドにするつもりは無いが、神字関係のスキルをいずれ取ってもいいかもしれない……だがこれはMMOだ。他のプレイヤーの協力を得た方が良いな)
「兵は拙速を尊ぶ、だったか。早速神字使いのプレイヤーを探すか。とは言っても、今連絡付くのは三次試験で出会ったイヴさんくらいしかいないんだが」
返信が来るまではオーラの籠った物品を買いあさって念貨に変換、金が足りなくなったら転売業を行うというルーチンワークに従事することにした。
「金集め……これじゃ以前とやってること変わらないな。ハハ」
「
キングゥの念能力 変化系と放出系の複合能力であり、「心の本性をオーラに写し取り」「オーラを幻像し」「それを対象の体外に放出する」能力
幻像がダメージを負えば対応する部位が麻痺するが、完全に破壊すると―――?
「心の本性を写し取って幻像する性質をオーラに付与する」ため、変化系の方が要素としては大きい。
なんでそんな非現実的な性質を付与するイメージ修行がすぐ終わったのかというと、前垢で似たような能力を作っていたから。
アイデア元としては「
名前のネタ元はペルソナ5ザロイヤルと銀河鉄道の夜