Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#11 これからのこと、それからのこと

 

 

 

 

 

 あの出来事があった翌日の火曜日。

 僕は茹だる様な暑さにうんざりしながら登校するなり、生徒指導室にお呼び出しをかけられた。

 勿論、理由は昨日の騒ぎの事。

 結ヶ丘高校の校門前の防犯カメラで僕と新井先輩の制服から高校を割り出されて、昨日の内に結ヶ丘高校から僕の高校に連絡が入ったらしく、事実確認に呼び出されたと言う事だ。

 

 しかし、呼び出されてお叱りを受けるのかと思えば、先生の様相は憤っているということもなく、事実確認と怪我の具合を聞かれた程度で後は、程々にする様にと注意を受けた程度のものだった。

 

 恐らくだけれど、結ヶ丘の生徒でできた少なくない野次馬の誰かの証言だったり、校門前の防犯カメラの映像だったりというものから、先に手を出したのは新井先輩だったと言う証拠事実がそうさせたのだろう。

 

 ただ、昨日の右フックをまともにもらった箇所が予想通り腫れてきて大きな青タンになっていた所、病院に行ったかどうかを問われてNOの返事をすると、親御さんにも連絡するからと言って、お昼まで授業を受けて帰宅して、そのまま病院に行く様に命じられた。

 

 しかし、そうなってしまうと昨日帰った時にすでに腫れていた目の付近のことをお母さん聞かれて、

「すっ転んだ」

と、適当な嘘をついた事がバレてしまう事になる。

 

 まぁ別に悪いことをしたわけでは無いと思うので、お母さんからもそこまで何か言われると言うことはないかもしれないけど、やっぱり面倒なものは面倒だと、心中でため息をついた。

 

 そして昨日、新井先輩の動向を教えてくれたバレー部に所属している友達から聞かされたのは、新井先輩は欠席しているらしいと言うことと、バレー部が活動休止になるかもしれないということ。

そして極め付けに、高校3年生の新井先輩の進路に影響しそうだということ。

 バレー部で主将を務めている彼は、その経歴を活かして推薦入学を狙っていたらしく、夏までにはほぼ確定という事だったらしいのだが、どうもそれがこの騒ぎのせいで風向きが変わりそうだという事らしい。

 

 また、そこから変わったことは、昨日の騒動の事が何処からか噂になっているらしいのだ。

 僕に彼女が居るという事、そしてその彼女に嫌がらせをする新井先輩から僕が彼女を身を挺して守ったという、何ともまぁ尾鰭に翼まで生えた様な噂が流れているらしく、教室に着くなり僕の顔の腫れを見てクラスメートに噂の真偽やあれやこれや聞かれたりした。

 しかし、その程度で事が済んでよかったと振り返って思った。

 すみれさんに何も無かったと言うのが一番だ。

 人の噂なんて75日で消えると言うし。

 

 僕はそんないつもとは違う午前の学校を過ごして、他のクラスメートよりも早く帰宅して、病院へ向かった。

 

 

 

 

 夕方、処方された日にち薬をぶら下げて家のマンションの前に着くと、すみれさんが壁にもたれかかるようにして立っていた。

 

「あ、おかえり」

 

「ただいまって、何してるのこんなとこで」

 

 そう言うとすみれさんは困ったように眉を下げた。

 

「電話、何回もしたのよ?」

 

「あー、携帯家に忘れてた」

 

 もう、と力無く笑うと、すみれさんは僕の手に持った薬の袋を見て、

 

「その様子じゃ、ちゃんと病院には行ったみたいね」

 

 そう言って僕の顔を覗き込んでくる。

 恐らく、腫れた左目の方を気にしているのだろう。

 

「骨にも目にも異常なかったし、腫れが引くまで痛み止め飲んで安静にしてなさいってさ」

 

「そう、良かった…」

 

 すみれさんは安心したのか、今までぎこちなかった笑顔がようやくいつもの笑顔に戻っていた。

 

「それよりも、何でここに?用があったんじゃ無いの?」

 

「病院、行ったかどうか不安だったのよ。昨日の今日だから私も付いて行こうと思ってたんだけどね」

 

 なるほど、僕が病院に行ったのを確認して、もうその必要はなく無くなったというわけだ。

 

「よく僕の家分かったね」

 

 そう言うと、虚を疲れたと言う表情をして、

 

「アルバイトの履歴書に書いてた住所、見てきたのよ…」

 

と、申し訳なさそうに返した。

 

「心配してくれたんだね。ありがとう」

 

 すみれさんは何も悪いことはしていない。

 あんな事があった後だ、すみれさんも怖かったに違いないだろうに。

 こうやって人の心配をして家まで来てくれているんだ。こっちとしては寧ろ感謝をしなければならない。

 

「それは、こっちのセリフだって…」

 

「いいよ。フリしてるとは言え恋人だしね」

 

 少し下に俯くすみれさんは、どうしてかいたたまれないと言う様な表情をしている。

 こうなってしまった事をまだ気にしているのだろうか。怖い思いをしたのはすみれさんの方なのに。

 あまり、昨日の件を引き摺っていても良くなさそうな気がする。

 

「そう言えば今日、スクールアイドルの練習はどうしたの?」

 

「それは……、」

 

 

 と、顔を上げたかと思えば、すみれさんが僕の後ろの方をジッと見つめて固まってしまった。

 反射的に後ろを向くと、

 

「何してるのこんな所で。その人は誰?」

 

 心春が僕の背中からすみれさんを覗き込む様にして立っていた。

 

「あ、えーっと」

 

「平安名すみれと言います」

 

「あぁ、どうもご丁寧に」

 

 丁寧に名乗るすみれさんへの警戒心が解けたのか、僕の背中の後ろから出てきて、隣にピッタリとついた。

 手にはここの近くのスーパーの買い物袋がぶら下げられている。

と言うことは今日は…と状況を理解した。

 

「圭太の姉の鈴鹿心春と言います…。ええっと…」

 

「同い年だよ。僕たちと」

 

「なーんだそうだったの」

 

 心春の堅苦しい話し方が砕けて、姿勢も言葉遣いもフランクに変わる。

 

「で、どう言う関係?」

 

 そう僕に事情を話せと目で訴えかけてくるのを見て、昨日の一件での顔の腫れの事を正直に話したほうが良さそうだと感じた。学校から連絡が行っているであろう親も含めて。

 

「とりあえず、たって話すのもなんだし、上がってもらおう」

 

 僕はポケットから鍵を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言うことは早く言え」

 

 僕の横から鋭い目線を突き刺してくる心春は、大きなため息を吐いた。

 すみれさんは、申し訳なさそうにグラスに入った烏龍茶を口にしていた。

 

 昨日の一件のことを僕たちは心春に包み隠さず話した。

 

「学校での噂、あながち間違いじゃなかったってことね」

 

「やっぱり心春のクラスにも噂が回ってるのか」

 

「聞くところによると、結ヶ丘に噂の一部始終を見ていた友達がいる女の子が居て、その子が噂の元みたいだよ」

 

 どうしてこんなにも早く僕のクラスメート達に知られていたのか納得がいった。

 女の人となると、噂が広まるのも早そうだし。

 

「平安奈さんは、今日学校大丈夫だったの?」

 

 心春が僕からすみれさんに興味を移した。

 

「私は何もされてないから。けど…」

 

「「けど?」」

 

 意図せず心春とシンクロしてしまった。

 不覚。

 

「結ヶ丘でも、それなりに昨日のことが広まってて…。なんて言うかその…、」

 

 歯切れの悪いすみれさんは、中の液体が半分になったグラスに視線を逸らす。

 

「あーー、なるほど…」

 

 何かを察した心春がそう言う。

 え、なに?僕分からないんだけれど。

 

「まさか、そっち方でもそんな噂が流れてるって事になってるなんて…」

 

 変わらず噛み砕きにくそうな物言いで、目を伏せる。

 

「えっと、なに?なんか不味かった?」

 

「あんたねぇ」

 

 心春が僕を見て呆れた様に放つ。

 

「そういう類の噂って消えにくいってこと…覚えとき」

 

「なに、どう言うこと?」

 

「私とあなたが恋仲だって事が、公然の事実ということになっちゃったって事」

 

 心春の回りくどい言い方で理解出来ていなかったのを感じたのか、最後にすみれさんが分かりやすく今の現状を教えてくれる。

 

 

 そこまで聞いて、あっ、と僕は思わず声を出してしまった。

 つまり、学校で僕はすみれさんと言う恋人がいて、それをクラスメート達に把握されてしまっていて、その状態がこの先誤解を解かない限り永劫に続いてしまうと言う事。

 

「しかも、片方だけの高校でならまだしも、お互いの高校でそうなってしまったってことは、その分誤解を解くのに手間と時間が掛かるってこと」

 

 心春の言葉に思わず頭を抱える。

 今日みたいに根掘り葉掘り聞かれるのがこの先も続いて行くと言う事。

 

「で、誤解を解いてしまったら、その何とか先輩ってのにも行き渡ってバレて、また面倒な事になるかもしれないんだよ?」

 

 心春が更なる厄介な現実を付け足してきた。

 

「あーーーーーー聞きたくないぃぃ」

 

 新井先輩の件が落ち着けば、恋人のフリ作戦も無事完遂されるものだと思い込んでしまっていた。

 確かに、実は付き合っていなくて、仲のいい友達だったんだと誤解を解くことはできるけれど、そうなって仕舞えば必ず、僕と同じ高校の新井先輩の耳にも入ってしまう。

 

 聞くところによると今回の件で、新井先輩は経験したことのない注目のされ方をした上に、他校の女の人に恥ずかしい醜態を晒した挙句笑われて、瞬く間にその醜態が自分の高校にも知れ渡り、トドメに自分の進路にも影響しそうと言う事になってしまっているらしいから、僕たちの嘘がバレてしまったら、恨まれて何をされるか分かったもんじゃない。

 

 実際、すみれさんを取り巻きをつけて大勢で他校にまで揶揄いに行った様な人なのだから、全然にあり得る話なのだ。

 

 

「ごめん、圭太と平安奈さんって、どう言う知り合い方をしたの?」

 

 頭を抱える僕を横目に、心春が前に座るすみれさんに質問する。

 

「彼のバイト先の穏田神社ってところ…私の家で」

 

「あー、なるほどね」

 

 この先、どうすれば良いのだろうか。

嘘をつき続ける、と言うのも一つの手ではあるけれど、そうなってしまっては一体いつまでそうしなければならないのか。

 すみれさんだって、事が落ち着いたのならこんな恋人ごっこなんて終わりにしたい筈だし。

 

 

「一つ手は考えてたんだけど」

 

 

 思考中の沈黙を破ったのはすみれさんだった。

 ポツリと話し始める。

 

「取り敢えず、夏休みの辺りまでこのフリを続ける」

 

「というと?」

 

 思わず僕は聞き返す。

 

「学校がひと段落する夏休みで、私たちの関係が有耶無耶になりましたってことにする」

 

「なるほど」

 

 心春が感心する。

 

「夏休みが明ければ、私たちの注目も少しは落ち着いていると思うし、関係が有耶無耶になったって理由もすんなりと受け入れてくれるはず」

 

「でも話を聞くに、圭太がそこまで身を張っちゃってるからなぁ。そんなすんなり別れたって事にできるかなぁ」

 

「それは何とでも言えるわ。やっぱり友達の方が2人にとってしっくり来たからとか、円満に別れて今も関係は続いているとか」

 

「夏休み明けからは、友達以上恋人未満って関係にしようってことね」

 

「なら、もしその人の耳に入っても、その時に付き合っていたと言う事実は変わらないから、私にこっ酷く振られた事を自分の都合のいいようにしようとしだけど、その企みがバレた挙句その彼氏に金的されて女子校の前で悶絶した救いようのないバカって醜態は消えないから」

 

 ツラツラと嘲笑う様に昨日の新井先輩の醜態を口にする。

 しかもそれだけじゃなく、進路にまで影響すると言うおまけ付き。

 

「確かにそれなら、かなり早い段階で2人の関係のことは忘れ去られるわね」

 

 心春は手をポンと軽く叩いた。

 

「良い案じゃない?」

 

 そう言って心春は僕を見る。

 

 それが今考える限りでの一番有効な案。

 それしか、方法も無さそうだ。

 

「そうだね、ならそうしよう」

 

 

 この事から、僕ら2人の恋人のフリが、まだ続くという事になった。

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

「お邪魔しました」

 

 すみれさんは玄関で帰り支度をしている。

「送るよ?」

 

「平気。それより、バイト明日のシフト無しにしとくよう言っておこうか?」

 

 すみれさんは僕の目の腫れの方を見ながらそう言ってくれた。

 

「大丈夫。明日バイトいくから」

 

 そう言ってジッと僕と見つめあった後、こくりと頷いた。

 

「そう、分かった」

 

「気をつけてね」

 

「うん、それから…」

 

 すみれさんは、靴を履くと、再び僕の目を見つめて、

 

「これからもよろしく」

 

 そう優しく微笑んで言って玄関を出て行った。

 恐らく、これからも恋人のフリよろしくと言う事だろう。

 

 リビングに戻ろうと振り返ると、心春もリビングの入り口からすみれさんが帰っていくのを見ていた。

 それも、何故か心配そうに眉を下げて。

 

「どうした?」

 

「本気になっちゃわなきゃ良いんだけど…」

 

「なにが?」

 

 分からないという僕をジッと心春は見ると、

 

「分からないならいい」

 

「なんだそれ」

 

 そう言いながらもたれかかる心春の横を通ってリビングに戻ろうとすると、片手で通せんぼされた。

 

「なに?」

 

「この事、あの2人は知ってるの?」

 

「あの2人?」

 

「かのんちゃんと千砂都ちゃん」

 

 あ、と声が出てしまう。

 千砂都にはまた日を改めてちゃんと説明するからと約束していたのだった。

 

「高校、結ヶ丘って言ってたよね?ってことは2人と同じ高校なんじゃないの?」

 

「そうだよ?」

 

「じゃあ、結ヶ丘でも流れてるっていう圭太と平安奈さんの噂を、2人が聞いててもおかしくないんじゃ無い?」

 

 呆れた様に心春が僕に向かっていう。

 

「周りに恋人のフリをすると言っても、2人には本当のこと言っといても良いと思うけど?」

 

 心春はそこまで言うと、リビングのキッチンの方へ歩いて行った。

 お父さんもお母さんも今日は帰りが遅いから、今から2人で晩御飯を作る事になっている。

 すみれさんを家にあげる前、心春がスーパーに買い物に行っていたのはその理由だ。

 

「確かにな」

 

 

 かのんと千砂都、2人の可愛い顔を思い浮かべながら、後で今の僕たちが置かれている状況とこれからどうして行くかということを、ちゃんと説明をしなければなと考えながら、僕も心春がいるキッチンへと足を向けた。

 

 

 

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