Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#14 憂、燦々

 

 

 

 

 

 

 灼熱の日光がたっぷりと降り注ぐ快晴の今日。

 サニーパッションのランニングについて行くと行ってしまった皆んなに取り残された千砂都は、その日の光が遮られ出来た影の内側にあるベンチに腰掛けて目の前の男の子、鈴鹿圭太のバイトの様相を眺めていた。

 

 珍しく、というよりかなり久しい2人きりの空間に、聞きたいことが山のように湧いて出てきてしまっているのは、圭太は千砂都の幼馴染という事だけでは片付けることの出来ない他ならない感情を抱いてしまっているからである。

 

 特に気になることは、葉月恋との関係。

 すみれとの恋人(ごっこ)関係、のこと。

 

 彼自身、葉月恋ちゃんとは友達で、すみれとは、すみれに纏わりつく厄介な男からの隠れ蓑にする為の関係という説明はしてはくれているものの、本当のところはどうなの?と気になることが多いのが現状。

 このまま、どちらかにくっついてしまったら、千砂都の初恋は失恋という結末で幕を下ろしてしまう訳なのだけれど。

 でも、それは私だけの問題でも無くて、同じ立場のかのんちゃんにも言える事で。

 

 中学1年のとき、千砂都たちはお互いが圭太という存在に熱のこもった感情を向けている事を認知した。

 そこで、関係がギクシャクしてしまわない様にとある約束を交わした。

 

"不戦の約束"

 

 千砂都とかのんで交わしたその約束は、お互いが圭太との一線を超えないという事。

 そして将来、2人のどちらかを選んだ時は、片方はそれを認め祝福すること。

 

 取り合わない奪い合わない。

 

 その鉄則を2人で守ってきた。

 

 しかし一度だけ、手回しを行った事がある。

 圭太に好意を寄せてしまった女の子が、圭太の靴箱に恋文を入れているのを目撃した。

 その恋文を圭太に見つかる前に回収して、無かった事にしたのだ。

 かのんには事後報告という形になってしまったのだけれど、納得してくれた。

 その当時、クラスの違う知らない女の子だったけれど、悪いことはしたと今ではすごく後悔している。

 だけど、それ以上に圭太が誰かと愛し愛されるという関係になってしまうことが途轍もなく怖かった。

 

 しかしあれは過ちだ。もうそんな事をするつもりも毛頭ない。

 けれど、高校生になり、圭太とは別の学校に通う事になった。

 学校での圭太の様子は分からないし、もしかしたら、仲良くなった女の子も居るのかもしれない。

 

 だから、圭太が誰かに靡く前に、私の事を好きになってくれたらと、千砂都は願っていた。

 

 しかし、葉月恋との邂逅現場を目撃して、可能性が確信に近いものになってしまった。

 千砂都やかのんに及ぼす影響は大きくて、3年間続いた不戦の約束も解消せざるを得なくなってしまった。

 

 そして、すみれちゃんとの一件。

 フリとはいえ、恋人という関係に収まってしまっているのは、如何にもこうにも脳が焼き切れ破壊されてしまうそうである。

 そしてもしも、ごっこ関係に2人が本気になってしまったら…、と考えだせばキリがない。

 

 

 

「千砂都って、誰か好きな人とか居ないの?」

 

 突然彼から発せられた質問に千砂都は大きく鼓動が跳ね上がる。

 

「どうしてそんなこと聞くの?」

 

 何の意図を持って、私にそんな事を聞いてきたのか。

 今の私の心境を読み取られてしまったのかと、千砂都は嫌な汗が顳顬に滲む。

 

「こういう話ってしたことなかったなあって。ほら、僕とすみれさんがフリとは言え恋人同士ってことになったりとか、色々と考える機会とかがあってね。純粋に気になったっていうか」

 

 確かに、そういう色のついた話はしてこなかった。だってそれは、千砂都自身もかのんも意中の人が居て、それが目の前の男の子だったから。

 寧ろ、避けてきたという表現の方が正しいのかもしれない。

 けれど、不戦の約束を解消したのだから、千砂都自身もこの気持ちに向き合っていかなければならない。

 現に約束の解消後、かのんの圭太に向ける視線は、前よりもっと熱情が込められているのは事実。

 昨今の圭太との色恋沙汰で、感情を大きく取り乱す様子も垣間見えるのも事実。

 

 だけど、向き合って、それに決着を付けるのは今じゃない。

 まだ、私自身の身の回りの事にもやらなければならないことが多くあるから。

 

「いるよ」

 

 なるだけ、平静を保つように心がけて返した。

 悟られないように、気づかれないように。

 

 不戦の約束を解消した以上、かのんとはライバルになる訳で。

 かのんちゃんのライバルに相応しくなるまで。

 

 それまではまだ…と千砂都は決めたから。

 

 

 

 

 

「うまくいくと良いね」

 

 

 その言葉に、圭太は素っ気なく返した。

 チクリと、胸が鋭利な何かでなぞられるような痛みが走った。

 

 

 

 

 

 

「イチゴパフェになります」

 

「わぁ!」

 

 可愛らしいエプロンを着けた店員によって運ばれてきたそれに、葉月さんは目を輝かせている。

 目の前に座った僕の前にも、同じパフェを置かれた。

 同じと言っても、チョコレートなのだけれど。

 

「イチゴ、本当に好きなんだね」

 

「はい、私の血肉です」

 

 そう言い放って、置かれたそれにありついている。

 上に乗ったイチゴとホイップクリームを口に運ぶと、幸せそうに微笑んでいる。

 

「すみません、急に誘って」

 

「いえ、僕も暇だったので」

 

「息抜き、というか、癒しが欲しかったもので…」

 

 先程とは変わって、疲れた表情をしている。

 

「休むのも大切ですからね」

 

「はい、ですから圭太さんに甘えさせてもらおうと」

 

「はい、どんと甘えてください」

 

 僕がそう言うと、葉月さんはまた嬉しそうに笑った。

 昨日の晩、メッセージが来たかと思えば「甘えさせてください」という難解な内容だったのだけれど、それについて問うと、僕といっぱいお話がしたいとの事だった。

 

「大切な人から託されたものを、何とか大きくしようとしているのですけれど、中々簡単には上手くいくものでも無くて…」

 

 以前、同じようにデザートを食べながら話していた、大切な人から受け継いだ大事なものの話。

 それが具体的に何なのかはわからないけれど、それを大きくしていきたいと話していたのを覚えている。

 僕と同じ歳ながら、しっかりしているなと言う印象を持った。

 

「誰かのために、何か出来るってとても尊敬します」

 

「そんなこと…」

 

「僕には出来なかったから」

 

 かのんが歌えないと苦しんでいた時、僕は何もできなかった。

 側で支えてやる事も、あれこれ考えてあげる事も。

 結局、かのんが変われたのはクゥクゥさんや千砂都のおかげで、僕は遠いところから見ていることしかできなかったのだ。

 

「圭太さんは、その…お友達は多いですか?」

 

「多くはないですけど…、友達は居ますね」

 

「私はそこに含まれてますか?」

 

「え、?えぇ、勿論。」

 

 上目で僕を子犬のような目で見つめてくる。

 何これかわいい。

 

「良かったぁ」

 

 安堵の笑みを浮かべると、少しこちらに机越しに乗り出してきた。

 

「後でゲーセンなるところに行ってみたいんです」

 

「ぜ、是非…、僕で良かったら」

 

「それから…」

 

「それから?」

 

「手を繋いで下さいませんか?」

 

 ???

 意味を理解するのに数秒要した。

 手を繋ぐって言った?

 え、どうして?

 何のために?

 

「私、どうも世間に疎くて友達といえる友達が少なく、このように夏休みに会って出掛けるという行為を殆どしたことがなかったんです。ですから、一度、友達と呼べる人と手を繋いで歩いてみたかったんです」

 

 うっとりと僕を見つめる琥珀色の瞳は愛に満ちている。

 

 何か、とんでもない勘違いをしているのではなかろうか。

 

「えっと、手を繋ぐというのは…」

 

「友達なら、当たり前ですよね!」

 

「…」

 

 やっぱり何か勘違いされている。

 友達同士って手を繋ぐものなのだろうか。

 いや、男同士はまずあり得ないのだけれど。

 女の子同士ならあり得るのか?

 

 と、身近にいる千砂都とかのんを思い浮かべてみた。

 

 あ、繋いでたわ。

 

「あのー、」

 

「はい!」

 

「恐らくそれは、女の人同士特有のそれというか、というよりも、僕と葉月さんは異性なので…」

 

「そ、そうなのですか…」

 

 目に分かる落胆。

 

「別に嫌というわけでは無くてですね」

 

「すみません、圭太さんに迷惑をかけるわけにはいかないので…自重します」

 

 とても物分かりが良かった。

 

「誰も居ないところでならいいですよね?」

 

 とても物分かりが悪かった。

 

「あのですね…」

 

「すみません、わかっています。いけない事だというのは…」

 

 そんなに落ち込まないで。

 と、思わず言ってしまいそうなほど目尻が下がっている。

 鈴鹿圭太、ここは一つ男になるのだ

 

「人目の少ないところで、少しなら…」

 

「本当ですか?!ありがとうございます!」

 

 今度は分かりやすく喜んでいる。

 大人びた雰囲気にだまされてしまいそうだが、こうやって喜怒哀楽がはっきりして表情が豊かなところを見ると、やっぱり僕たちと同じ年というところも頷けた。

 

「どうされました?」

 

 そんな風に考えている僕をみて葉月さんは不思議そうに首を傾げた。

 

「いえ、そうやって笑っている顔の葉月さんが一番だなって」

 

「……」

 

「あ、変な意味では無くて、今その大切な人から受け継いだものを大きくするためにって奮闘していて、上手くいかないと言って、難しい顔を偶に見せていたので。」

 

「すみません、せっかくの休日に呼び出して暗い顔を…」

 

「そうじゃなくて、葉月さんは、笑った顔の方が良いなって思ったんです。辛い事もあるでしょうけど、何というか…僕と居る時はそうやって笑っていて欲しいなって、友達としては思うという事です」

 

 何か辛い事があった時、心の拠り所というものは必要だ。

 かのんが歌えなくて辛かった時も、千砂都の側がそうだった様に。

 

 葉月さんにそう言う人が居ないのであれば、友達として僕がそうであればと思う。

 かのんの時は、何もしてあげられなかったから。

 友達が、辛い時に寄り添える人になりたい。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「はい」

 

 葉月さんは大きく目を開けて、乗り出した体をすとんといすに預けると、口を半開きにしてぼーっと呆けている。

 

「パフェ、溶けますよ?」

 

 その声に呆けていた葉月さんは我に返った

 

「あ、はい。すぐ食べます。急いで食べます」

 

「ゆっくりで良いですよ」

 

 その後、食べ終えた僕らはゲーセンに行った。

 手を繋ぐという約束は、

「やっぱり後日、気持ちの整理をしてから」

と、言って結局手は繋がなかった。

 

 僕自身、先日の千砂都との話で、勝手に色々と考えてしまう事があったのでとても良い息抜きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 葉月さんと別れて家路に着くと、汗で濡れたシャツを洗濯機に放り込み、シャワーを浴びる。

 体を拭き、扇風機に当たっていると、かのんからメッセージが届いた。

 

 神津島というところにスクールアイドルのイベントのゲストとして行く話で、旅行も兼ねて早めに来週から行くという事。そして、僕も一緒にどうだというお誘いの内容だった。

 残念だが僕にはバイトがあるからと、お断りのメッセージを送る。

 

 そのメッセージを送ったと同時にまた新たなメッセージの受信音がした。

 表示を見て鼓動が少し強くなった気がした。

 千砂都からで、ダンスの大会があるから、見に来れそうなら予定を空けてて欲しいとの事だった。

 

「好きな人とかいるの?」

 

「いるよ」

 

 あの日のやり取りがどうしてか脳にこびりついて離れない。

 別に、そんな事普通だろうに。

 千砂都だって、年相応の女の子だ。

 好きな人くらい居てもおかしくない。

 

 僕はただの友達なのだから、あれこれ気にする必要もないのだから。

 

 分かった

 そうメッセージを返して、僕は扇風機の前のフローリングの上に力無く寝転がった。

 

 

 






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