Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#20 I'm talking about Lovin'

 

 

 

 僕、鈴鹿圭太は理解不能な状況に立たされていた。

 9月も最後の週に差し掛かったこの日、目の前に制服に身を包んだ5人の女性が緊張の面持ちで、座っている僕を囲むようにして立っている。

 

 5人の女性というと、かのん、すみれさん、千砂都、葉月さん、そしてクゥクゥさんという見知った人達。

 最近、葉月さんを新たに加え名前も新しく改めた、僕も良く知るスクールアイドル「Liella」のメンバー5人だ。

 状況が理解できずに目を上下左右に動かす事ができない僕に、お世辞にも温和とも言い難いピリついた雰囲気の5人を前に、何がどうなったのかと自分の脳みそをフル回転させていると、葉月さんが開口一番に、

 

「そろそろはっきりさせましょう圭太さん」

 

 と、腰に手を当てた。

 

「それは賛成」

 

 と、続けてすみれさんは腕を組んだ。

 何の話をしているのかさっぱり分からない僕は、

「えっと…」

 と、しどろもどろに声帯を弱く震わす事しかできずにいる。

 

「この状況、理解してない?」

 

 そう言って僕を覗き込むクゥクゥさんの言葉に、2度3度強めに頷く。

 

「私たちの中の誰を選ぶのかって話」

 

 すみれさんと同じように腕を組んだ千砂都が僕にそう説明してくれた。

 でも、何が何だか分からない。

 選ぶって一体何をなのか…私たちの中からって一体どいう意味なのだろうか。

 

「私たちをその気にさせた圭太には、その責任があるはずだよ?」

 

 それまで黙っていたかのんがしゃがみ込み僕との目線を合わせてそう言った。

 責任?一体何の責任?この前かのんがぷりぷりしていたこと?すみれさんとの買い物を放ったらかしにして久里浜まで葉月さんの跡をつけたこと?千砂都は…クゥクゥさんは…ええっと

 

「何のことか分かってないじゃないの」

 

「ちゃんと説明してあげないといけません」

 

「そうだね───」

 

 かのんと同じように千砂都が僕の目線を合わせるようにしてしゃがみ込むと、

 

 

「───私たち全員、圭太の事が好きなの。だから私たち中から、恋人となる人を圭太が選ぶんだよ?」

 

 情欲に満ちた瞳でそんな衝撃的な説明をする千砂都達を前に、『あぁこれは夢なんだ』と確信した。

 

 

 

 

 

 

 重たい瞼を開る。見慣れた天井を視界に意識が覚醒していく。そこは自分一人のいつもの朝だった。

 変な夢を見た…と、身体を起こすと、ぐらんと頭の芯から揺れるような感覚に襲われて異変に気付いた。

 

 ゴホン、と乾いた咳の音が僕の部屋を木霊した。

 鼻腔を圧迫する感覚と、頭の芯からくるズキズキとした痛みに、関節の痛み。

 確実に風邪を引いたという事が分かる症状にまず何をしなくちゃいけないのかを、弱りきった頭で考えた。

 

 まずは仕事に行っているであろう親に連絡して、下で学校の準備をしているあろう心春にも伝えて…いや、今日は生徒会はない日だからまだ隣の部屋で寝ているかもしれない。それでそれで…ええっと、あぁ今日はバイトの日だから、バイトも休まなくちゃいけない。こういう時はどうするんだっけ…あぁ、取り敢えずすみれさんに連絡しておけばどうにかなるだろう。

 

 そこまで一通り考えて、僕は恐らく発熱しているであろう重い身体で立ち上がった。

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 目を覚ますと、眠りにつく前よりかは幾分かは風邪がマシになったように感じた。

 あれほど不快だった頭痛は薬のおかげか随分と楽になったし、熱が少し下がったのだろうか、関節の痛みもほとんど無くなっていた。

 

 布団を剥いで僕は自室を出てリビングに向かった。

 リビングの時計の針は15時をさしたところだった。

 食卓には眠る前に食べたうどんのお椀と箸が置かれたままだった。

 朝、寝ていた心春を起こして風邪だから休むことを伝えると学校に行く前に、生姜が大量に入ったうどんのスープを鍋に作って置いて行ってくれていたので、お昼に冷凍のうどんをそこに入れて湯掻くだけで食べる事が出来た。薬のおかげかもしれないけれど、生姜がたっぷり入ってうどんも風邪に効いたのかもしれない。7:3くらいだろうけど。もちろん薬が7で心春が3なんだけど。ともかく、心春には素直にお礼を言っておかなければならないなと、考えながらまだ少しだるさの残る身体でお椀とお箸を流し台に持って行った。

 

 少しだけ楽になった身体でテレビをつけて見る。

 この時間のテレビというのはいつも学校に行っているから少し新鮮な感じがした。

 

 しかし今日の朝見ていた夢は何だったのだろうか。鮮明に内容を覚えているのも怖いポイントでもあるのだけれど、その内容がまた気持ち悪さを際立てている。勿論気持ち悪いのは夢に出てくる彼女たちじゃなくて、そんな自意識過剰も甚だしい笑止千万な内容の夢を見てしまう僕自身の方なんだけれど。

 

 そんなことを考えながら1時間ほどソファに寝転がりながらテレビを見ていると家のインターホンが鳴る。

 宅配便とかではなければ無視しようとモニターを覗くと意外な人が立っていたので、急いで玄関に向かいドアを開けた。

 

「こんにちは圭太さん」

 

そう言って玄関の前に立っていたのはクゥクゥさんだった。

 

「クゥクゥさん、どうして僕の家に」

 

「体調を崩されたと聞きまして」

 

「どうしてそれを」

 

「すみれから聞きました」

 

「あぁ、なるほど」

 

 朝、『今日体調を崩したのでバイトにはいけません』という内容のメッセージをすみれさんに送っていたのだ。

 そこから僕が体調を崩したという事を聞いたのかもしれない。

 

「すみれからのメッセージの返信が無かったので心配してました」

 

「え、あ…」

 

 するべき連絡をして安心してしまったのか携帯を見るという事をしていなかった。

 風邪に魘されて、そんな余裕がなかったというのが正しい。

 

「みんな心配してしまた」

 

「わざわざクゥクゥさんが来てくれたんですね。ありがとう」

 

「気にしないでください」

 

 そう言って微笑むと、クゥクゥさんは手にぶら下げた袋を僕に差し出して、「皆んなからのお見舞い品です」と言った。

 

 素直にそれを受け取ると、続けて、

 

「熱は何度なんですか」

 

「え、あぁ…」

 

「測ってないんですか…?」

 

 その言葉通りで、昼に寝て起きてから一度も測っていない。理由は面倒だというただそれだけの理由。

 身体的には少しだるさは残る程度でもう治ったと決めつけていたというのもある。

 

「今すぐ測ってください」

 

「ええ、もう元気だよ?」

 

「ダメです」

 

 測るまでここを動かんと言わんばかりにどっしりと立っているので、折れるしかなかった。

 でも、外で待たせているわけにもいかないので、少しの間でも家に上がってもらう事にした。

 

「お、お邪魔します」

 

 何故か少しキョロキョロと落ち着かなそうな様子のクゥクゥさんはそう言って家に入る。

 そんなクゥクゥさんを椅子に座らせて体温計を取り出すと、自分の脇に挟んだ。

 

「今日、練習ですよね?」

 

「はい。みんなは今学校で練習してます」

 

「すみませんそんな時に」

 

「最初は皆んなでお見舞いに来ようってなってましたけど、大勢で押しかけるのもどうと思って、それで…」

 

「それで?」

 

「じゃんけんして勝った人が行く事になりまして」

 

「はい」

 

「クゥクゥが1人勝ちしてしまいました」

 

「なるほど」

 

 そこまで話していると電子音が鳴る。

 表示されている温度見ると37.6となっていて、予想していた体温より少しまだ高かった。

 

「見せてください」

 

 そう言って僕の手から体温計を取ると、クゥクゥさんは顔を顰めた。

 

「ほら、まだ熱あります」

 

「でも、もう元気だよ」

 

「ダメです。お部屋に行きましょう」

 

 そう言って僕の腕を優しく握る。

 ジッと見つめる瞳に嫌とは言えず、僕は渋々頷くしかなかった。

 

 部屋に入るとベッドの上に座らされた。

 クゥクゥさんはさっき僕が受け取って机の上に置いた袋を取ってくるとその中からスポーツドリンクを取り出して蓋を開けて僕に差し出した。

 

 僕はそれを口に含むと、クゥクゥさんから蓋を受け取って閉めてベッドのそばに置いた。

 

「お布団掛けてあげます」

 

「大丈夫だって、寝過ぎて眠くないんだもん」

 

「うーん、なら眠くなるまでお話でもしますか?」

 

「話って何の」

 

「恋バナです」

 

 その言葉に少し身体がむず痒くなってしまう感覚になる。

 高校で同姓の友達なんかとは『あんな子がいい』だの、『こんな子がタイプ』だの、という話はしなくは無いのだけれど、異性の人となると何故か身構えてしまう。そういう事にあまり経験がないからだろうか。

 

「以前約束しました。今度恋バナしようって」

 

「あー、そうだったね」

 

 そう言われればそんなこと言っていた。

 

「好きな人はいますか?」

 

「直球だね」

 

「こういう時は直球勝負です」

 

「居ないよ…」

 

「なら、初恋は?」

 

「初恋…、まぁ人並みに」

 

「おお!気になります!」

 

 勉強机に座ったクゥクゥさんは少し前屈みになる。

 

「どんな人?」

 

 クゥクゥさんの目の輝きで、その質問に答えないという選択肢が無くなっている気がした。こんな僕の色恋沙汰を聞いて一体何になるんだとも思ったけれど。

 

「初恋の人」

 

「えー、それだけですかぁ?具体的なの聞きたいです」

 

 クゥクゥさんがどうしてこんなに興味を持って聞いてくるのかに疑問が残る。

 クゥクゥさんだけが知っている"何か"があって、それに辻褄を合わせるためにこんな質問をしてきているのか。

 少しだけ、不気味さを孕んでいる気がする。

 

 初恋、たったその一言で終わらせていいものなのかどうかも分からないそれの正体。

 自分なりに折り合いをつけたつもりだけれどまたこうして思い返す事になるとは思いもしなかった。

 

 はじまりはずっと昔。

 初めて会った時は、弱々しくて気も弱かったという印象だった。

 僕と会った時は、異性という理由もあってか怯えられていたけれど徐々に心を開いてくれたのか隣で笑ってくれるようになった。

 そんな華奢で弱々しい彼女が夢中になれるものを見つけて、直向きに努力して強くなっていった。

 何故そうなったか、それは本人にしか分からないけれど、ただひたすらに前を向いて努力をしている彼女は、どんどん強く逞しくなっていった。

 何かに夢中になって、ただひたむきに努力する。

 何かをしたいとか、夢中になれるものや誇れるものが何もなかったただ平凡な僕は、そんな目に見えて成長して変わっていく彼女を見て、憧れてしまった。

 そして、同時に強烈なほどに彼女を想ってしまった。

 そんな初めての形容し難い感情。

 ただ同時に、それに想い馳せた所で何か変わるわけでもなく、気持ちに戸惑いが残るだけだと気付いて、折り合いをつけた。

 初恋であって、それでいて憧れなんだと。

 そうすれば、苦しくなかった。諦めがついた。

 

「何かに夢中になれる人でした。それがかっこよくて羨ましかった…っていう感じですね」

 

 ジッと僕の瞳を見つめるクゥクゥさんは、否定も肯定もしなかった。

 僕の本心を探ろうとしているようにも見えた。

 クゥクゥさんは何を知りたいのか、何を知っているのか。それは分かりそうにもない。

 

「ちょっとはぐらかしましたね」

 

「全部は言えませんよ」

 

「うーん」

 

 そう言って腕を組むと、目を大きく開いて閃いたと言わんばかりに次の質問をしてきた。

 

「例えばの話をしましょう」

 

「はい」

 

「圭太さんに複数の女性が好意を抱いているとします」

 

「は、はい」

 

「その人たち皆んな、同じ日を指定してデートに誘われたら圭太さんはどうしますか?」

 

 心理テストのようなものなのだろうか。質問の意図がよく分からない。

 けれどクゥクゥさんはその質問の答えを今か今かと待っている。

 

「難しいですね…。でも、早く誘ってくれた方とか…?」

 

「うーん。早い者勝ちですか…。まぁそれもアリですね」

 

 腕を組んだまま、一つ頷いた。

 この質問の意味を教えてはくれないらしい。

 

「圭太さんに一つ解答例を───」

 

 そう言って指を立てた。

 

「───知らないふりをして、みーーんな選んじゃえばいいんです」

 

「え」

 

「圭太さんは別に、その誰とも恋人関係にあるわけじゃない。だから、皆んな選んで全員と遊ぶんです。そしたら圭太さんが苦しい思いをする必要はないでしょ?」

 

 クゥクゥさんはそう言って微笑んだ。

 いつもの笑顔の筈が、どうしてか不気味で歪な何かを孕んでいるように見えた。

 

「そういうものですか」

 

「はい!」

 

 そう言うと、クゥクゥさんの携帯が鳴る。

 メッセージだろうか、それを見ると少しの間をおいて改めて僕を見た。

 

「すみれがお見舞いがどうなったかを気にしているので一旦学校に戻ります」

 

「すみませんわざわざ、ありがとうございます」

 

「ちゃんとお布団被って眠るんです」

 

 そう言ってベッドにゆっくり押し倒されて、布団をかけられた。

 クゥクゥさんは鞄を持ち上げて、ひらひらと僕に向かって手を振った。

 

「ではまた」

 

「はい」

 

「あ!」

 

部屋から出ようとすると、勢いよく立ち止まってまた僕の方を向いた。

 

「また、恋バナしましょうね」

 

 そういつか聞いた言葉をまた言って可愛らしくウインクをすると、今度こそ部屋を出た。そして、玄関のドアが空いて閉まる音もした。

 僕は立ち上がり玄関の鍵を閉めて、言われた通りまた布団を被った。

 まだ少し熱もあるせいか、横になると睡魔がやってきて、僕は自然に瞼を閉じた。

 

 

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